――ザリッ…



歩み寄る足音。


一人の男が倒れて意識を失った少女の元へと歩み寄る。

男は目を瞑って動かない少女を見ると、なにやらニヤリと笑みを浮かべた。


「へえ…さっきのって、この子がやったものなのかな?」



その周りには幾人もの人々が倒れて意識を失っていたものの。

男はそれに全く気にもかけず、しゃがんだ状態でただただ少女をマジマジと見続けていた。


「恐らくそうでしょう。周りのものはすでに死んでいますが、

この方だけは意識を失っているだけのようです。


この方が起こしたものと見て、間違いないようです。」



「この子がねぇ……あんまりそういう風には見えないけど?」

「人とは見かけによらないものだよ、人形遣い。」


男の同行者であろう。

質問に答えるように敬語で述べた別の男に対して、

それに反論するように言葉を発したのはもう一人の若い男…少年と言っても良いかもしれない。

3人は未だ目覚めぬ少女を見つめて、議論を繰り広げていた。


だが、一人はよほど少女が気に入ったのか、

微笑みを絶やすことなく見つめ続けている。


そしてそんなやり取りが何分か続いた後、

微笑みを絶やさずにいた男はある決断を下した。


子供のように、面白そうな表情をして。











「うん、決めた。」






















過去と未来、

そして裏切りと忠誠

―光―



















「う…ん………」


体のだるさを感じる中、それでも目を開けようと必死にまぶたを動かそうとする。

少しずつ頭がはっきりしてきた頃、一番最初に目に映ったのは何故か天井だった。

見えるのは間違いなく、空ではなくて天井。


「あ…れ…?」


不思議に思って重い身を起こすと、自分の周りにあるのは少しの家具。

しかも起き上がってから気づいたが、自分が寝ていたのはベットであった。


右側には窓が見える。



「…ここ…どこ……?」


自分の今ある状態がよくわからず、呆然としてしまう。

確かに、自分は村の広場で意識を失ったはずなのに、

何故かどこかの部屋の一室に、今はいる。


そうした状態のでいるとき、一つの声が聞こえた。




「あ、起きたね。」


「!」


急に聞こえてきた声に驚き、思わず振り返る。


振り返った先にいたのは、金の髪を持ち、端正な顔に薄い唇を浮かべる男だった。


その姿を目に入れた時、は不思議と何かにとりつかれた感覚になった。

豪奢な金髪に携えられた微笑み。

輝かしい姿。






「天使…様………?」





思わずぽつりと、そんな言葉が出た。





「え?」


そう言われた本人も一瞬の小さな言葉とは言え、さすがに驚きの表情を見せる。

「……!」

は不思議と自分から発せられた言葉にハッとし、口を手で押さえた。

男は驚いた表情をしていたものの、すぐに興味を持ったような笑みへと切り替わった。


男は更にの元へと歩み寄り、ベッドの近くにあった椅子へと腰掛けた。


「調子はどう?大丈夫?」


「あ……はい、大丈夫です。少し体は重いですが…」


「そう、なら良かったね。」







―――…綺麗な方………―――





最初に見た時、そう思わずにはいられなかった。

ついつい天使だと言ってはしまったものの、本当にそういえるにふさわしい姿だったのだ。


近くで見ると、さらにその輝きは増すように見える。



「ここは僕たちの住処みたいなところだよ。

僕はカイン。


ね、君の名前も教えてくれないかな?」


「あ、はい。

です、です。


あの…どうやら助けて頂いたようで…ありがとうございました。」


そう言って深く礼をすると、カインは”いいえ”と答えた。


その時、キィ…と扉が開き、二人の男性が中へと入ってきた。

片方は”失礼します”と一声かけ、礼儀正しく礼をする。



「どうやらお目覚めになられたようですね、我が君。」


「うん、少し体がだるいけど大丈夫だって!!」


「それは良かった。

暖かいものをお持ちしたので、どうぞお飲みください。」


「あ、ありがとうございます……」


そう言って腰までのびる黒髪を持った男は、笑みをたずさえながら丁寧にカップを差し出し、

は”またもや綺麗な人たちが入ってきた”と思いつつも、それを受け取った。


がそれを一口飲み終えると、黒髪の男はそれを見計らって、立った状態のまま言葉を述べた。


「私はイザーク・フェルナンド・フォン・ケンプファー。

こちらにおられるカイン様……我が君にお使えする忠実なものにございます。


こちらにいるのは……」


「自分の紹介くらい自分でするよ、魔術師。


僕はディートリッヒ・フォン・ローエングリューン。

僕も我が君に仕える一人だよ。」


そう言った男も天使のような美貌の微笑みをたずさえ、軽く言い放った。


「えっと…です。

助けていただいてありがとうございます。

ですが、あの…私はどうしてこちらにいるのでしょうか……。」


起きてから不思議に思ったことを述べると、カインの代わりにイザークがその質問に答えた。



「あなた様は、村で倒れていたところを私たちが見つけ、我が君の要望でこちらまでお連れしました。

しばらく意識を失っていて、目を覚まさなかったのですよ。」


「そうだったんですか……本当にありがとうございます。」


運が良かった、というべきだったのかもしれない。

もし自分が発見されていなければ、今頃自分は寒空の中凍え死んでいたかもしれないのだ。

しかもこんなに丁重に扱われていて…逆に申し訳ないくらいだ。


そうぼうっと考えていると、そんなを見ていたイザークが声をかけた。


「早速で申し訳ないのですが、先ほどのあの光……あれはあなた様のものですね?」


「光………?




…………!!」


一瞬何のことだろうと考え込むと、はすぐにそれを思い出し、敏感に反応した。

2人はそれを見逃さず、やはり先ほどの光がのものであったと確信した。

もっとも、ディートリッヒは未だ少し疑っているようだが。




――思い出されるつい先ほどまでの記憶。


突然の襲撃、血の海、次々と倒れていった一族の皆、祖父の死。

なおも追いかけてきた本心を失くした村人たち、その糸を引いていたヴァンパイア、

その嫌な笑みと高らかな笑い声、抑えきれない思い、湧き上る何か。


そしてそれは具現化して自分の内から光があふれ出し、光はすべてを包み込んだ。




―――そうだ……私は…………―――


ようやく、自分のしたことがきちんと理解できた。

望みは無くとも、は一つ気になったことをイザークに向かって問いかけた。


「すみません…一つお聞きしたいんですけれども……

私の周りにいた人たちは…その……どうなりましたか…?」


少しの恐れがありつつも、問いかける。

知る必要が自分にはあったから。


「……皆意識を失って倒れていました。

まったく動かなかったところを見て、恐らく死んだかと…。」

「そう…ですか……やっぱり…」


イザークに向けていた顔をおろし、目線をさげて布団へと下げる。

こぶしをギュッと布団ともに握り締め、眉根を下げた。


更にこぶしを力強く握り締め、目を瞑ると、

スッと、今度は3人の方へ向き直った。


3人の目はなおも自分へと向かっている。

をじっと見て。


「…その光はわたしのものと見て間違いありません。

自分でも、よく覚えていますから…………」



「そうですか…やはり。


では、失礼を承知でお伺いいたしますが…あれほどの大きな力を見るに、


あなたは常任の人間ではありませんね?」


イザークのその言葉に驚くこともなく、今度は真っ直ぐに自身の視線を向ける。

真剣な眼差しで。



「おっしゃる通りです。

ですが、私は短生種でもなければ、長生種でもございません。」


の口から出た少々意外な言葉に、皆のに対する興味が増す。

「ほう…。」


「じゃあさ、君は一体何なのさ?」


ディートリッヒもここに来て興味が湧いたらしく、口出し始める。

一つ一つの質問にきちんと答えるべく、もそれにきちんと答える。



「私は、古来から続く月の一族のものです。

我々月の一族は昔からひっそりと暮らしてきておりました。

それ故その存在を知るものも少なく、今に続いてきていました。」


「月の一族……?」


「ああ、聞いたことがある。

確か、争いを好まない一族であり、皆がそれぞれ能力を持つという……

…これはこれは…貴重な方にお会いできたものです。


そうですね?」


「はい。」


「ならさ、何でその温厚な一族の一人がここにいるわけ?

しかもあんな村の中に一人で。」


ディートリッヒがそう言うと、少しの沈黙がその場を流れる。

を連れて来るよう命じた当のカインは何もしゃべらずじっとしたまま、

笑みを浮かべてを見つめている。


は再び視線を真下へと戻す。

思い出される光景。

深い悲しみで目頭が熱くなり、目から雫が落ちていく。

人前であるにもかかわらず、込み上げてくる思い。


「殺されました……長生種に操られた人間たちによって……皆。

私は唯一生き残った一人です……。」



そう、あれほど古来から続いてた一族は、皆死んだ。

自分の目の前で、赤く染まって。


「っ……うっ………」

止め処なく溢れる涙。

抑えきれないほどの深い深い悲しみ。

あの時の記憶がこびりついて離れない。












その時、スッとの頭に何かがのった感覚がした。

顔を上げると、そこにはの頭に手を置いて撫でるカインの姿だった。

カインのその行為に、は少なからず驚き、じっと見つめる。


カインはをなおも撫で続け、優しく微笑む。


「…………」


その時のにとって、カインはまるで本当に天使であるように思えた。

神々しいほどに眩しく、そして暖かい……

包み込んでくれるような優しさが、とても嬉しかった。



「………っ!!」

瞬間、はカインにしがみつくようにして泣き出した。

抑えきれない思いが、すべて溢れ出してしまったかのように。

周りを気にすることもなく、ただ身をまかせるがままに。


カインはのその行為に驚くこともなく、微笑んだままを自分の方へと引き寄せ、

頭を撫で続けた。

















そしてその後数分間、はカインの腕の中で泣き続けていた――――




















―――「じゃあ、ゆっくり休んでね!」

「はい、本当にありがとうございました。」


泣き終わり、もようやく落ち着きを取り戻すと、

をまた休ませるため3人は退出することにした。


ドアを閉めかけながら笑顔で手を振るカインに、も軽く笑みを浮かべて頭を下げる。

それを確認すると、 カインの代わりにイザークがドアを閉めた。


カインを真ん中に挟むようにして廊下を歩きだした三人は、のことを話し始める。



「こんなところで月の一族に会えるとは…偶然でしたね、我が君。」

「だよねー、まあ人間じゃないとは思ったけど…ヴァンパイアっていう感じもしなかったもんね。」

「って言っても、たかだか一人の少女でしょ。」

「おや、君は知らないのかね、人形使い。」


どうやら何かあるらしく、いつものように意地の悪い笑みを浮かべてディートリッヒの方を向くイザーク。



「知らないって、何が?」


それに対し、目を別の方向へとそらしながら反抗するかのようにディートリッヒは答える。




実はイザークには以前、たまたま耳に入れた噂があった。

それは、イザークがに対してますます興味を持った理由の一つでもあるのである。




「まぁこれは風に聞いた噂なのだがね。

月の一族は古来より続いてきた一族なのだが、

現在その末端にいる者は特に力が強いと言われているのだよ。

何でもその者は月の女神、”セレネ神”の力を濃く受け継ぎ、一族の中でも特に強い力を持っていたと言う。

その力は長をも超えるとかで、次の後継者にはその者を継がせることに、ほぼ決まっていたらしい……


そして、その者はその容姿や性格故に、


一族の皆から愛され、誰をも魅了すると……そうとも言われていたがね。」


「末端?ってまさか…彼女が?

って、何でイザークはそんなこと知ってるわけさ。」


「たまたまだよ。たまたま。

古来からの月の一族がいることは知っていたが…まああまり気にはかけていなかったものでね。


まだ確証はないが、彼女がその者ではないかと私は見込んでいるよ。」



「ふーん。ま、別にどーでもいいけど。

でもあのって子、純粋そうでなかなか面白そうだよね。」


「……何を考えてるかはわからないが、我が君の命なしに

余計なことをするものではないよ、人形遣い。」


「わかってるよ。僕は楽しませてもらうだけさ。」


クスクスと、天使のように微笑みつつも、何か考えているらしく。

その表情からは妖しげな笑みが見て取れた。


イザークはそれに呆れたような言葉を出す。

「まぁいい……。


ところで我が君、随分と彼女を気に入られたようですが……何か理由がおありでも?

例えば……彼女の髪色。

あの銀の髪はまるで…アベル様の髪と同じようなものでしたが……」


イザークが何かを含めたように言うと、

カインはうーん、と少し考えたような仕草をし。

こう言った。


「まあそれも確かにそうかなー、でもちょっとの銀髪は違う感じだったね。

ただね……なんとなく気に入っちゃったって感じかな。

ディートリッヒみたいに純粋っぽいところが良いってのもちょっと入るけど。


まあ何となくだよ!何となく!」


「作用にございますか。」


「クスクス…我が君も面白いことをなさりますね。」


人差し指を立て、自信満々にキッパリ笑みを浮かべて言い放つカイン。


結局のところ、具体的にどういう意図でを連れてきたのかはわからないものの、


カインのその対応にイザークとディートリッヒも笑みを浮かべた。



「まあ何にせよ、しばらく彼女はこちらで保護致しましょう。」


「うん、そうしといてね!」
















―――まぁただなんとなく……本当にそれだけなんだけどね―――


廊下の続く中、カインは面白そうに笑みを浮かべながらのことを考えていた。
































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第3だーん!!
ここでようやく更新をすることが出来ました…、
3人を登場させるまでは更新はしないと決めていたので…。
(オリジ話だけではつまらないかと思いまして;)

ようやくヒロインと騎士団3人をあわせることが出来ました!!
出会いは終了して、ここから先はヒロインが騎士団に入るまでの話になりますね。

どうやら我が君はヒロインのことを気に入ってるようですが果たして…?
なるべく早く次の話を更新したいと思います!!
ではでは。

H.18.6.7