決着をつけなくてはならない。自分の心に。

行く先はわからずとも、行かなくてはいけない。


過去と現在(いま)に決別を。




















過去と未来、

そして裏切りと忠誠

―決断―




















カインら騎士団のことも判明し、もその後順調に回復を取り戻した。

部屋からこそあまり動かなかったが、だいぶ塔(トゥルム)にも慣れ、

カインらと会話をするのも当たり前のようになっていた。


そうして落ち着いた時が流れる中、だが、

は一人思い続けていたことがあった。

















―――――窓から吹く風。

それは自身の髪を心地よく揺らし、すり抜けていく。

目は自然とそのほうを向き、少し目を細めて思いを巡らせる。



”自分はこれからどうするべきか”と。



今はこうして平和な時が流れているものの、いつまでもこうしているわけにもいかない。



だが、自分があれほどいとおしく思っていた生活は消えてしまった。

血にまみれた光景を頭の中に残して。

悲しみを残して。



もう、自分以外に月の一族のものはいない。一人になってしまった。

どうして自分だけが生き延びてしまったのだろうと、何も考えられない時がある。


行くあてもなく、永遠に自分はさまよい続けるのだろうか。

死のうという気があるわけではないが、生きる目的も……


今は見えてこない。





「私は……どうすればいいんだろう…」


わからない、けれどここにいるわけにもいかない。

癒しの時はもう十分すぎるほどもらった。

だから進まなくてはいけない。自分のこれからに向かって。


どんなに行く先がわからずとも、動き出さねばならないのはわかっている。




ならば自分は。



「行かなくちゃ……」




過去に決別をしに、自分は行かなくてはならないところがある。






一つの決断が、今動こうとしている。


















―――――「お礼?」


「はい、何か私に出来ないでしょうか。」


少し前のことだった。

例のごとく、いつものようにやってきたカインとイザーク、ディートリッヒを目の前にして、

はそう告げた。


自分は十分お世話になった。いや、むしろなり過ぎたぐらいだ。



今の自分は何も持っていない。この身以外は何も。

だからたいしたことも出来ない。


だが、そんな自分にも何か出来ることはあるはずだと。

そう考えがあってのことだった。



のそんな言葉に、目をぱちくりさせてカインは「うーんそうだなー」と呟きつつ、

考えを巡らすように視線を天井へ向ける。

そして助言を求めるため、そばに控えるイザークに向かって声をかけた。


「イザークは何かある?」

「私ですか…いえ、私は何も。

我が君がお決めになるべきでは?」

「僕は特にないんだよねー。

がここにいてくれたことが何よりも楽しかったし!」

「確かに、我が君にはそれが一番の感謝の印でしょうね。」


3人の答えは同じもの。


「そうだね。僕らはないかな。うん。」

様がいてくださったおかげで、我が君もお話をする相手が出来ましたし、

我々も楽しませて頂きましたから。」

「ですが……」


「いいのですよ。もともと我が君があなた様を拾ってこられたのでしたし。

こちらの勝手な決断ですから。もてなしを喜んで頂けたのなら何よりです。」


「まぁ僕としては、僕のお人形さんにしちゃいたいぐらいだけどね……でも。


をそうしちゃうのはいささか勿体無いかな。」


「……人形遣い」


「おっと、これは失礼。冗談だよ。冗談。

全く…魔術師は冗談もわからないの?」


「君が言っていることはいつも冗談に聞こえないのだがね?」


静止をかけるようなイザークの低い声と視線に、ディートリッヒは軽く流すようにはいはい、と

手をひらひらさせて言う。



「そういうことだから、は気にしなくていいんだよ。」


多少の申し訳なさを思い、迷うような瞳でカインを見据えるが、

ね?と促すカインの柔らかな断りにも承諾せざるを得なかった。―――――


















―――――スッと立つ。

ここへ来た時の服はすでに綺麗に洗われていて、机の上に置いてあった。

今まで貸してもらっていた服は丁寧にたたみ、ベッドの上へと置く。


ここへ初めて来た時のことを思い出し、は目を瞑る。


身元も何もわからない自分を、たとえどんな理由であろうと拾ってくれた人たち。

輝くような眩しさを持ったカイン、常に丁寧に、恭しく対応をするイザーク、自分を愚かだと言ってくれたディートリッヒ。




大きな感謝を込め、そして再び目を開けると、はまっすぐにドアへと向かっていった。




自分の行くべき場所へ向かって。



















―――――「がいない?」


「えぇ…私の本をお貸ししようと部屋を訪れたのですが…いらっしゃらないのです。

この塔をご案内したことはないですし、勝手に歩き回るような方でもないゆえ……

実際姿が見当たらないとの周りからの報告ですので。

一応我が君にご報告申し上げたのですが……」


「それもそうだよねぇ。

……もしかして、ここの生活が飽きちゃって出て行っちゃったのかなぁ?」


「そのようなことはないかと……」


そこに人の姿こそないものの、暗闇の中へ話しかけるイザークに対して返答はあった。

イザークが向いている先には、まるで底のない沼のような黒い液体が揺れており、

少々の泡立ちさえも見せている―――



あれほど毎日嬉しそうに笑みを見せていたが、

ここでの生活が飽きて出て行くなど…考え難いこと。


イザークには確信があった。



「ともかく、どうなさいましょうか我が君?」

しかし優先させるべきは主君の言葉。

最終的には自分が決めることではない。


「うーん。でも自分の意思で出て行ったのなら僕には止める理由はないし。

あの分だと、僕らのことを周りに話すようなマネはしないと思うよ。」


「はっ…左様でございますか。ならば私は我が君の命のままに……」


主君がそういうのならそれで良い。それが絶対なのだから。


そう決めて引き下がろうとした…その時だった。





なら、月の一族が以前住んでいた城へ向かったみたいだよ。」


イザークの背後からまた別の声が響く。

その正体こそ当たり前のごとく知ってはいるが、イザークは振り返った。



「………どういうことかね、人形遣い。」


「だから、言ったまでのことだよ。

さっき誰かがこの塔を出て行く気配がしてね…よくよく見たらだったから、ちょっと跡をつけてみたんだ。

そしたら例の城の方へ向かうのがわかってね……」


「どうして出て行く前に止めなかったのだね?」


「止める理由がなかったから。それじゃ不満?

彼女もなんだか必死みたいだったしね…。


それよりむしろ僕が驚いたのは、この塔を彼女が自力で下りていったことだよ。

まさかとは思ったけどね………でも、

君だってそのことを思っていたんだろう?魔術師。」

そう言い、ディートリッヒ笑みを浮かべつつ、イザークへと目を向ける。



―――そう、の行動には一つ驚くべき点があった。

それは彼女がこの塔を自力で下りていったこと。


常任の人間が簡単に下りれるはずはないのだ。

我が君の一番側に仕えるイザークが気づかないはずはない。



「確かに、驚きはしたがね……何せこの塔については一度も教えたことはない。

やはりそれだけの力が、彼女にはあるということか……」

考えを巡らせ、イザークは目線をディートリッヒとは別の方へ向ける。



だが、ディートリッヒとイザークが話をしていたそこへ、

主君であるカインの言葉がかかる。


「うーん。それはちょっとまずいかもねぇ。」


「何がです?」

主君の思いがけないような言葉に、ディートリッヒは少々顔をしかめる。

そこを、手際よくイザークがフォローする。


様の向かっているところが、”月の一族の城”だということだよ。

以前話を聞いたときに、月の一族を襲ってきた長生種(メトセラ)が指揮をとっていたとのことだったが……

私達があの場に行ったときは、そのような死体は見当たらなかった。

私が確認した限りでも周りは村の住人だけだったからね。


……ということは、そのメトセラは今もなお存在している可能性が高いということ。


もともと彼らの目的は月の一族を抹殺し、消え去ること。

ならば、未だその一員である様が生き残っているを知っていたとしたら……



当たり前のごとく、彼らは彼女を消し去りにやってくるだろう。」



「だからといって、それが僕らに危害が及ぶわけでもないんじゃない?」


「確かに……直接的な関係はないが……いずれ勢力を広げて我らの障害になるだろう。

ならば、早いうちに芽は摘んでおいたほうが良いというものが…


得策というものであろう?」

その笑みはに向けていたものはいささか違うもの。

一応笑ってはいるものの、その表情は何か意味を含んでいて艶めいていた。


いつもの礼儀正しい態度とは裏腹の……何か策略を思わせるもの。


「……なるほど、ね。」


彼とは嫌というほど付き合いがあるせいか、

その真の意味がわかったとき、ディートリッヒの笑みも深まり、

辺りは妖しき雰囲気に包まれる。


そしてイザークは再び主君の方に向き直った。

再び支持を聞くため。


「さて、我が君。もともとお話していたことですし…いささか状況も変わりました。

しかしある意味では好都合……どういたしましょう?」


そう言って恭しく主君に礼をし、言葉を待つ。


暗闇の中で液体はさらに揺れる。

それは再び大きく泡立ちを見せ……そして、


形あるものが、そこから浮かび上がった。


イザークとディートリッヒは口の端を吊り上げ、そして姿勢を正したのであった―――

























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かなり長くなってしまいそうなので、ここで一旦中断致しました;
どうやらあと2話は続きそうな予感です(笑)

なんだかわけがわからないやもしれませんが……
てか、我が君含め3人がすっごい良い人に見えるんですけどー……
自分で書いておいてそれかよっ!って話なのですが(笑)
まぁ私にとってみれば、自分達の利益のために動いてるって感じなのですがね。

ヒロインが危機!!さて騎士団はどう動くのか…?

H19.4.9