ぱすてるチャイム
Pastel Chime
アナザーエイジズ
Another-AGE's
〜天空の戦使〜
第V章 Mind Possession
「痛い…」
カイトは苦笑いを浮かべたまま、天井を向いて呟いた。
両頬の紅葉が痛々しい。
「…お、終わった?」
「別に隠れ無くても」
おずおずと、工具カーゴの影からクレアが姿を現した。
「う、御免ね………私、こういう場面って苦手で」
「俺だって得意じゃない…」
しょうが無いんだ…そう呟いた憂い顔に、クレアは胸を締め付けられる。
ただ単に『寂びそうな横顔』というのがツボに填まっただけだ…と思う。
クレアは眩暈がするぐらい頭を振った。
「御免な………クレア。残業させちまって」
「そ、そんな切ない声で…」
何かダメージを受けたようによろけるクレアに、カイトは怪訝そうに小首を傾げた。
雷電に大した損傷は無かったものの、カイトの操縦は機体に過負荷を与える。
その為クレアは、出撃ごとに点検整備を行う羽目になった。
今も雷電の整備の為に、就業時間外まで機械オイルに塗れていたのだ。
もっとも、大破したクーガーのハルバードは無様な姿で吊るされたままだったが。
「コホン………でもね、相羽君。私もミュウ言いたい事は解るよ」
「うん…」
叱られた子供のように、肩を落とす。
「だ、だからね…無茶は駄目なんだからね」
何故か、カイトから目を逸らすクレア。
しょうが無いんだ…と、カイトは同じ台詞を繰り返す。
「………戦うしか、ないじゃないか」
「えっ…?」
「俺にはそれしか出来ないんだから」
違う!、とクレアは言い掛けて口を噤んだ。
カイトが自殺志願者のように、真っ先に戦場へ飛び出す理由を、クレアは聞かされていた。
だが、思い直して口を開こうとしたクレアの背後から、氷のように冷たい声がした。
「―――自分の分はわきまえてるようね?」
「だ、誰…?」
通路の闇に人影が居た。
足音もさせず、最初からそこに佇んでいたように。
「でも、余りにも無様ね。失望したわ」
「なっ、なっ…」
床を踏みつけるブーツの音が、コツコツと響く。
「違うか―――それでこそ、アンタらしいってトコかな」
「なっ、ななな…」
クレアは目の前に立ち塞がった人物を"見下"した。
傲慢に反らした胸の前で腕を組み、冷たいアイスブルーの瞳でカイトを睨んでいる。
「………迷ったの?」
「ふ、ふんっ…どうやら、アタシの登場に言葉も失うほど驚いているようね!」
「………撫でても良い?」
「無視してんのが解んないの!? アンタはっ」
胸の前で掌を組み合わせたクレアは、目をキラキラさせてコレットを見下ろした。
吼えるコレットの身長は、クレアの肩ほども無い。
ハニーブロンドから覗く長い耳から、不老種族のエルフの血を引く者である事が解る。
だが、幾ら口が悪かろうが態度が傲慢だろうが、その整った容姿に幼い体躯は、ビスクドールの人形のように愛らしい。
「抱っこしたい………あ、あれ?」
「もうイイ。アンタは暫らく『固まって』なさいよ」
両腕を広げた恰好で硬直するクレアを尻目に、コレットは目を見開いたままのカイトに向き合う。
「ふん………久し振りね? カイト」
「あ」
「何を間抜け面さらしてんのよ」
「あ、あのー…動けないんですけど」
コメカミを引きつらせたコレットが右手を一振りすると、何やら泣き言を漏らしていたクレアが静かになる。
無声のまま口をパクパクと動かし、目尻からるるるーと滝のような涙を零していた。
「な、泣かなくても五分もすれば、元に戻るわよ」
「…」
「で! アンタは何時までフリーズしてんのよ」
「あ、イヤ…」
再起動したカイトは、苦笑して頭を掻いた。
「あのさ」
「何よ? アタシがここに来たのがそんなに意外なの?」
「その、サ」
「でも、勘違いしないでよね。別に、アンタが心配で様子を見に来たわけじゃ………」
腕を組んだコレットは顔を逸らした。
「そうよ…命令よ、命令。でなきゃ、誰がアンタみたいな」
「悪い。キミ…誰だっけ?」
「―――へ?」
妙な声が響く。
コレットの動きがフリーズした。
天井を見上げて頬を掻いていたカイトは、開き直った笑顔を浮かべる。
「ゴメン、覚えてないんだ」
「あ、あんた…なに…冗談…」
呆然としていたコレットが、かすれた声を漏らす。
困ったように愛想笑いを浮かべるカイトの表情に、雪のように白かった顔色に鮮やかな色彩が宿っていく。
顔が紅潮するのに伴って、ツインのポニーテールが逆立っていく。
「このっ…アタシに向かって、よくもっ…そんな台詞…!」
「あ、あのさっ! 俺、冗談とか、からかってる訳じゃなくて………」
肌を刺すような怒気に、無意識に後退った。
緋色のオーラが小さな身体から立ち昇る。
「アンタなんか………」
右手が掲げられ、左手が重ねられる。
掌の狭間に渦巻く火炎が球となる。
「だ、だからっ…!」
「―――死んじゃえ」
ぼそり、と呟き。
―――同時に。
背骨が冷たく軋んだ。
冷えた旋律の中で、耳の奥で遠鳴りのように響くサイレンに押され、四肢に鼓動が加速する。
霧となり粘りつく空気に、火傷しそうな熱波が弾け飛んだ。
ケージの床に、足跡のような融解痕が五つ。
「………かわしたわね?」
足跡の先に蹲るカイトを、コレットは唇を歪ませて嘲笑った。
「何を忘れてるって言うのよ―――そんな速度領域に居るクセに?」
弾丸に等しい速度で撃ち込まれた火弾を凌駕する神経速度。
「―――そんなの人間じゃないでしょ?」
「………違う」
「いい加減にしなさいよ、カイト」
「……違う、これは間違いだから」
カイトは縋るような眼差しで頭を振った。
「…違うんだ。俺は普通の人だって…だって、ミュウがそう言って」
「うるさい!!」
拳で、コレットはカイトを殴り倒した。
「………アンタが普通の人間?」
子供のように怯えるカイトは、無抵抗に身体を震わせたまま。
その瞳を見据えたコレットは、唇を忌々しげに噛み締めた。
「アンタ、ホントに忘れたの……… 違う、か。逃げ出したんだ」
「ぃ…ヤダ、止めて」
「気持ち悪い」
吐き捨てたコレットは、腰からフリントナイフを抜き出した。
「戻してあげる。思い出させてあげる。………本当のアンタを」
「…や、止めなさい!」
「邪魔すればアンタも………って、声だけ?」
暗い目で振り返ったコレットだったが、クレアは妙な恰好で硬直したまま騒いでいた。
表情も固定され、腹話術みたいに声を張り上げる姿は、面白くて怖い。
「相羽君は嘘なんか吐いてないんだから! 相場君は昔、ステーションで事故に巻き込まれて宇宙空間に投げ出されてっ、死にかけてそれ以前の記憶を…!」
「だから?」
怒鳴るように、一息に吐き出した台詞を、コレットは醒めた一言で受けた。
「死にかけた? 『これ』が? ハッ………笑っちゃうわね」
「なに、何を言ってるの…」
「黙って、待ってなさい」
コレットはカイトの胸倉を左手で掴みあげたまま、その顔を見下ろした。
怯えに染まった目の色。
その瞳に映った蜂蜜色をした自分の髪。
『蜘蛛の巣みてーだな?』
「………その目が気に入らない」
自分を見て、怯えるだけの瞳が。
右手のナイフを振りかぶって、腹の真ん中に突き挿れた。
「うァ…っ!!」
「き…きっ…ああ・あ」
「黙らないなら、呼吸を止めてあげる」
悲鳴を吐き出す為に大きく吸い込んだ息が、止まった。
魔法ではなく、蹲ったままのカイトを見て。
足元に広がっていく血溜まり。
その肩が小刻みに震えている。
「『痛い』の? 随分と人間臭い仕草を身につけたのね………習ったの? 誰かに」
「あ、あなたっ…何を」
クレアは視界が暗くなるほどの怒りを覚えた。
可愛らしい人形のような少女の手に握られた真っ赤なナイフは、醜悪なジョークのようだった。
「い、痛いに決まってるでしょ! 早く医務室に!」
「そう…痛いの? 痛そうね。でも―――気持ち良くなってきたでしょ?」
「えっ…!?」
「違う!」
カイトは蹲ったままコレットを睨みつけた。
焼き尽くすような怒りに染まった目。
そこに映された自分。
「いい………そっちの方が」
「貴様、っ…コロス」
背筋が震えるような―――恐怖。
自分以外の全てを否定するような、意志。
本能のコワレタ獣。
感じる畏れすらも懐かしくて。
「………久し振りね。カイト」
「相場君! 動いちゃ駄目っ」
「コロス」
「随分、シンプルになってきたわね」
「グ、うァ」
「お腹…熱い? 熱くて…気持ち良くなってきた? お腹すいた? 欲しい? ねぇ、欲しくて堪らない?」
「………ヨコセ」
「貪りたい? ―――『ソル』を」
真っ赤に染まった瞳。
歪んだ口元。
ただ、同じ言葉を繰り返す。
「コロス…ヨコセ、ヨコセ、ヨコセ!」
「あ、相場君?」
「そ。そっちの娘の方が好き? じゃ………アンタにあげる」
「ぃ…イヤ」
「いっぱい食べて、早く元通りになりなさい」
「やっ、イヤああぁぁー!」
―――そして、早くアタシを思い出して。
施錠した扉の向こうで、コレットは跪くようにして頭を垂れた。
ドクン、ドクン、ドクン―――と。
脈打つ音が聞こえる。
「………ぃ」
単調な音が神経に響いている。
リズムに乗せて指揮を執るように。
真空を漂うナンセンスな電波のように。
「…ィ…いや……ぁ…」
ギシッ、ギシッ、ギシッ―――と。
寂びた金属の悲鳴が聞こえる。
背骨を舐めるように這い上がる、軋む響き。
「許し………て、も…ぅ」
ヌチャ、ヌチャ、ヌチャ―――と。
生ぬるく曖昧に滑った不確実な心地好さ。
脈動に合わせて蠢く腸、痙攣する四肢。
「…ふぁ…いぁ…ィ………イヤ…ぁ」
ビクン、ビクン、ビクン―――と。
磔にされた蟲よりも憐れな足掻を抑え付ける。
奥深くに埋めたまま真上から咀嚼する。
「あ、あ!」
「ャ…堪忍…して………相羽…く」
行為に感極まった嬌声が漏れた。
流れ込む悦楽。
悦楽と共に貪っている『何か』が、自分を満たしていく。
それは捕食の行為。
餓えを忘れるほどに、餓えていた。
だから、ゆっくりと貪欲に、総てを奪い尽くすように咀嚼を続ける。
「………は、ぁ」
ベンチに座り込んだ小さな影が、天井を見上げたまま溜息を吐いた。
肩を落とした姿は影に雑じり込んでしまいそうだったけれども、周囲からは浮き上がった存在感がある。
コミューンに存在するオブジェとして馴染んでいない。
気配としての違和感がある。
テリトリーの空気が、異邦人である自分を拒絶している。
少なくともコレットはそう感じていた。
「………馴染むわけは無い。それは当たり前よ」
小さな身体を自ら抱きしめるように蹲る。
馴れ合うつもりも無い。
何故ならば、自分は『違う』のだ。
カイトと同じように。
だから。
怨まれていると解っていても。
憎まれると知っていたけれど。
「思い出して、なんて………馬鹿みたい」
「あ、見つけた」
ビクッと跳ねるように顔を上げる。
目の前には、私服姿の女子生徒が立っていた。
「誰…アンタ?」
「御免なさい。コレットさん…でしょう?」
手を握り締めたまま頷く。
桜色の髪をした少女は、にっこりと微笑んで会釈した。
「初めまして、ミューゼル・クラスマインです。ベネット教官から、あなたの案内を頼まれていたの」
「そ…そう」
あまりにも邪気の無い笑顔に、コレットは毒気を抜かれた。
「アタシはコレット・ブラウゼよ。宜しくね」
「うふふ…良かった、会えて。教官に頼まれて直ぐに指導室に向かったんだけど、その時にはコレットさんの姿は無くなってて」
「わ、悪かったわね。ちょっと、散策してたら道に迷っちゃって」
それは嘘だった。
潜入の辞令を受け取って直ぐに、戦艦舞弦の見取り図は脳に転写してある。
「うん、解るよ。私でも、たまにちょっと迷っちゃうもの。改修に改造を繰り返して、迷路みたいになっちゃってるからね。見取り図面なんか、ほとんど役に立たないし………」
「えっ…そうなの?」
「エレベーターも三分の一くらい停止してるし、閉鎖された区画もあるから、慣れない内はひとりで出歩かない方が良いと思うよ。新入生で年に何人か、遭難しちゃって救助隊とか出動する事もあるし」
「………大丈夫なんでしょうね? この艦」
こめかみを押さえて唸るコレットに、ミュウは多少引きつった苦笑いを返した。
「あはは…大丈夫だよ、多分。これから、仲良くしてね。コレットさん」
「あ、うん………アタシの事、コレットで良いよ」
「うん。それじゃ、コレット。私の事はミュウで良いから」
「解った…ミュウ。これから宜しく」
聞き覚えのある愛称に小首を傾げたコレットの前に、少し冷めた缶紅茶が差し出された。
「歓迎の印に………舞弦へ、ようこそ」
「ありがと…っと」
椅子から腰を上げたコレットが、缶を一瞬お手玉して笑った。
「それじゃ、最低限必要な施設から案内するね? 食堂とか、お風呂とか。今日は時間も遅いから、詳しくは明日にでも」
「うん」
舞弦は母星と同じタイムスケジュールで動いている。
昼夜の無い宇宙空間だからこそ、体調を保つために厳密なスケジュールが課せられていた。
コレットは慌ててミュウの後に追いつくと、缶紅茶をポケットに押し込めた。
知らず掌にべっとりとかいていた汗を一緒に拭いながら。
何故かは、コレットにも解らなかった。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
何度も繰り返し、クレアの身体が揺すられる。
「………ぁ…はぁ」
抵抗も、拒絶も放棄した吐息だった。
目の前にアーミーグリーンの布切れが蟠っている。
千切るように剥かれ、投げ捨てられた作業着だ。
簡易宇宙服にもなる丈夫な生地を破くのだから、大したものだなー…と何処か人事のようにクレアが感心した。
「ぁ…」
背中に冷たい雫が落ちた。
ポタ…ポタ…と降る雫。
床に舞い散るのはみっつの雫。
赤い雫。
透明の雫。
そして、白く濁った雫。
「………相羽…くん」
名を、口にしてみた。
カーゴの片隅で小さく響く雑音にかき消される程に小さな声で。
肉が打ち合わされる音。
自分とカイトの身体がぶつかる音の響き。
腰を抜かした犬のような姿勢でフロアに蹲ったクレアの背後で、カイトが同じ姿勢で蠢いていた。
「あっ………う」
カイトが獣のような低いうめき声を漏らし、天井に反り返った。
「…相羽くん…」
胎の中で脈動する異物を感じながらも、クレアは麻痺しかけていた身体を捩って振り返る。
射精に四肢を硬直させたカイトに寄りかかるように、その胸に触れた。
真っ赤に染まった腹部は、すでに乾いて血が粉となっている。
だが、その元となる傷穴は。
「―――やっぱり…無くなってる…ん」
「ク…レアぁ」
「も………止めよ? …あっ」
その濁った虹彩に、戸惑ったようなクレアの顔が映っていた。
抵抗は出来たのかもしれない。
既に繰り返しクレアの中に果てたカイトの動きは、ひどく緩慢だった。
だが、両掌を重ね合わせるように握られたクレアは、カイトに導かれるままに雷電の機体に手を押し付けた。
「ぁ、あ………相羽くん…あい…」
「…はぁ…はぁ…はぁ」
膝立ちのまま雷電に寄りかかるように上体を支えたクレアは、尻を背後から撃ち抜かれる度にカイトの名を呼んだ。
最初からカイトは、他に求めるものを知らない獣のようにセックスだけを求めた。
クレアの女性器からカイトの放った精液が、くちゃ…ぴちゅ…と卑猥な音を漏らしながら流れ落ちる。
それは抜かずに六回も射精されれば、膣内に収まる訳も無い。
クレアは再び痺れるように鬱血してきた自分の股間に目を向ける。
昨日までの自分なら、羞恥心に失神してしまいそうな淫猥な状態を眺める。
太ももの内側を幾筋も糸を引く、カイトと自分の精液。
「…あっ」
『やだっ!』
クレアは無意識に漏らした甘い嬌声にギュッと目を瞑った。
機械のように技巧も無く。
ただ腰を押し付けるカイトだったが、痛みさえなくなれば込み上げてくる肉の快感は隠しようも無い。
『やだ…こんな無理やりで訳わかんないのに…気持ち良くなってる』
「は、ぁ…はう…はぁう…」
『だめ…頭…ぼぉっとして…きちゃった』
「ぁ………あん…ぃ…あんっ」
脱力したクレアの腹を後ろから抱きしめたカイトが、抱えあげるような姿勢で腰を前後に揺する。
「………ゃ、あ…凄ぃ、ティオ教官と全然…違うの」
クレアは臀部に力を込めて、カイトの腕を抱き締めた。
弛緩し始めていた肉圧が窄まる感触に、カイトの腰が叩きつけるように激しく捩じ込まれる。
「クレア…っ」
「相羽…くんっ」
クレアが昂ぶりに上り詰めかけた時。
格納庫の扉が打ちつけられる音が響いた。
硬直して動きの止まったカイトにクレアが振り返る。
「やだっ…相羽くん、まだ…」
『お〜い、誰か居る? ていうか、クレア。居ないの?』
「………いいんちょ?」
扉の上のスピーカーから、苛立った声が響いた。
聞きなれた声に、カイトの意識が揺す振られた。
陽子はクラスの委員長であると同時に、女子寮の寮長も兼任している。
進んで上に立ちたがる性格ではないのだが、皆の信用があって責任感も強いので自然と推薦されてしまうのだ。
「やば…っ!?」
カイトはクレアを抱きかかえたまま、周囲を見回して現状を確認した。
言い訳はできそうに無い。
というか、自分でも何がなんだか記憶が混乱していた。
「………うえ」
「えっ?」
抱きかかえたままのクレアが、潤んだ瞳でカイトを睨んだ。
「二人とも退学になっちゃう…だから、雷電のコックピット」
「わ、解った」
『毎度の残業も良いけど、寮母のおばさんに叱られるアタシの身にもなってよ。馬鹿男に尽くしてもいーコト無いんだし、帰ろ―――って、何でロック掛けてんの?」
五桁の暗証番号を入力して扉を開けた陽子は、明かりの点いたままの格納庫を見回す。
「あれ? ………ホントに居ないの?」
暫くカーゴの中を見回した陽子は、大きく溜息を吐いて後ろ髪に触れた。
もう一度、溜息を吐くと工具のコンテナに寄りかかって天井を仰ぐ。
「………誰も居ないなら、電気消すよ」
投げやりに呟いて、もう暫くだけ待つ。
返事が無いのを確認した陽子は、踵を返して格納庫を後にした。
多少、呆れたような顔のままに。
「―――行ったみてーだ」
「…」
シートに蹲ったクレアに跨るようなカイトが、キャノピー越しに扉を見送る。
もともと、雷電のコックピットはひとり乗りだ。
互いの心臓が聞こえるほどに密着しなければ姿を隠せない。
次の瞬間。
格納庫の照明が、非常灯を除いてダウンする。
「うわ、消すか。普通」
実は感謝しているカイトである。
シートに丸まるように収まったクレアは、顔を逸らしたままカイトを見ようとしない。
横向きに並んで捩られた太もものつけ根から、白濁した粘液が滴り流れていた。
クレアの胎中で掻き回されたソレは、呼吸に合わせて膣口から塊のような精液を吐き出している。
カイトは殴られたような罪悪感に襲われた。
覚えていない、等ということは決して無い。
自分の意志でクレアに襲い掛かり、犯したのだ。
脳髄が灼熱するような欲望が意識を真っ赤に染め、自分の意志でクレアに手をかけた。
欲望が我慢できなかった。
自分に制御できるレベルの本能ではなかった。
だが―――原因が何であろうと、それは自分の罪だ。
「………クレア」
「…」
震えるクレアの指先が、裸のカイトの腹部をなぞる。
「お腹…平気?」
「う、うん。………クレアのおかげ、だと思う」
原因も理由も解らない。
ただ、それは自分にとって酷く自然だと感じていて、それが物凄く気持ち悪い。
「それじゃ………………続き、シテ」
「え」
「なじったり引っ叩くのは…明日にするから。お願い………このままじゃ」
クレアは顔を羞恥に背けたまま、自分で自分の秘所を弄る。
見られているのを承知で、恐る恐る淫芽に触れているクレアの指が白濁液に塗れる。
カイトは獣の衝動がこみ上げてくるのを感じた。
消えた訳ではなかった。
ただ沈静化しただけで。
ただ今までは気づかなかっただけで、眠るように自分の中に棲んでいた。
覚えてしまったからには、二度とこの衝動が眠ることが無いのだと。
そして、思い出された黒い火種が、二度と自分の中から消失しないのだと―――訳も無いのに理解していた。
「………このまま?」
「ぅ…ん。優しく…ね」
カイトはシートを掴み、肉棒の先端をクレアの尻に押し当てた。
充血した淫唇をほぐすように弄っていたクレアの指を押し分けるように、ふたりの性液があふれ返る肉孔に亀頭を埋め込む。
「ぁ…はあ、あ…っ!」
クレアの丸まった背中がビクンと震え、甘い喘ぎを漏らす。
密閉されたコックピットに居ることで、嬌声を我慢する必要が無くなったのだろう。
それでもカイトに聞かせた事が恥ずかしいのか、両手で口元を覆い隠した。
「もっと…鳴いて」
「…でもっ…ぅああ、あ!いっ…」
ぐっと腰を落とし、左右に揺すりたてる。
硬く調整されたパイロットシートだが、Gを抑えるために受動的な調節機能がある。
沈み込むように固定されたクレアの尻を押し開き、擦り付けるように逸物を動かした。
「クレア…痛くない?」
「相羽…くんは平気…?」
勃起が萎える様子は、不思議と無かった。
逆にクレアから『何か』を奪い取っている感触さえ覚えていた。
だが、生身の肉体である以上、酷使すれば負担はある。
そんなカイトの、少し困惑した顔に気づいたクレアは、赤面したまま自分たちの接合部分に掌を翳した。
「…天使の触れる…『癒しの指』…」
「う゛…」
「癒しの神術…私はTレベルまでしか習得できなかったケド」
柔らかな癒しの光は心地良く、というより気持ち良かった。
「や…だ。相場くん…の」
「ゴメン。罰当たりだ、俺」
「や…またっ………後ろからなんて」
クレアは背もたれに縋りつくようにして背筋を震わせた。
腹の中を出入りする肉棒が、更に熱く反り返ってきた。
「う、上着を脱がしちゃ駄目………ここじゃ、ダメ」
「部屋なら………良いの?」
「…」
まだ満足しないのだろうか、と少しだけ呆れ、それ以上に自分も熱くなって喉が詰まる。
クレアにも自分が「貪られて」いる、という感触を覚えていた。
要は空っぽなのだ、カイトは。
だから奪っている、自分の中から、セックスという手段を用いて。
だけど、略奪される最中に感じるのは、焦がすほどに熱い悦楽。
それは破滅への誘いなのかもしれなかった。
「………相場君の…トコ?」
「俺、ひとり部屋だから」
「今夜………だけだからね」
クレアは言い訳のように呟いていた。