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Side Story






High Level AFRO
- ハイレベルアフロ -




Scene-0
「Cogito ergo sum」






  我思う。ゆえに我あり。



 ―――最初に、身体に感じる風を思い出した。

 次には空気の匂いを。
 草の匂い。
 漆喰の匂い。
 雨上がりの泥を陽射しが灼いた時に立ち昇る、むせ返るような土の匂い。
 腐れ掛けた肉や人参の匂い。
 鼻の奥に突き刺さるような、鉄と鋼の匂い。
 そして、ジェムと香草の爛れたような甘い匂い………

 次にはザワメキが。
 チューニングのずれたラジオのノイズが、ふ、とピントを合わせたように。
 露店の呼子の声。
 子犬の鳴き声。
 槌の響き。
 ペコペコの足音。

 ゆっくりと目を開く。
 滑らかに踏み均された石畳。
 セピア色に風化したレンガの城壁。
 蜃気楼の影絵が揺らめきながら質量を得て、煙る首都の雑踏を作り出した。
 街灯の柱に寄り掛かったまま空を見上げて呟いた。
「プロ落ちか」





 ミッドガルド大陸にある、ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラ。
 政治の中心になっているのは勿論の事、プロンテラ騎士団や大聖堂があり、軍事力、信仰の拠点ともなっている。
 そして、何より。
 首都に初めて訪れた人が実感する例えとしての言葉が在る。
 看板の街プロンテラ。
 南正面大門から王城へ続くメインストリートには、真っ直ぐ歩くことすら困難なほどに、露店商人たちが軒を連ねている。
 この人込みの中から、カプラサービス派遣社員の姿を見つける事ができれば、冒険者として一人前だろう。
 そんな中を、煙草をくわえたままポケットに手を突っ込んで歩く。
 すれ違うだけで肩をぶつけそうな人込みを、ひょこひょこと。
 南門から王城へのメインストリートを通り、通称『ブルジョア十字路』を左に曲がる。
 ともすれば迷い込んでしまいそうな広さの城下町とはいえ、人が居ない場所はない。
 果物や牛乳を露店売りしている露店を尻目に、裏路地へと足を踏みいれた。
「や」
 片手を上げて、挨拶とも言えないような合図をかます。
「よ」
 返ってくる挨拶も、似たようなものだった。
 腕を組んで座りこみ、暇そうに空を見上げていたのは、物騒な鎧に身を包んだ戦士の男だった。
 街で平和な日常生活を送っている人種ではない、見るからに。
 このまま戦場に放り出されても、殺戮の宴に雄叫びを上げるようなバーサーカーだ。
「………人を殺人鬼みたいな目で見るのは良くない」
「気の所為だよ」
 適当な木箱を壁際に転がして腰掛ける。
「狂的信仰と夷狄撲滅に人生の全てをかける、聖騎士様にむかってそんな」
「クルセイダーの定義が、間違ってるような気がする」
 少なくとも、目の前に居るウォーモンガーなクルセイダーには間違ってない定義だと思われるが、どうか。
 僧衣の懐から追加の煙草を取り出して、火を点ける。
「いやさ、仮にも廃Levelクルセが、こんな裏路地を溜まり場にしてダベってるのはどうか、と」
「いや、俺から見れば、仮にも廃な聖職者が、こんな裏路地でストリートキッド宜しく、咥え煙草でヤンキー座りしてるのはどうかと思うよ?」
「堅苦しい教会の聖堂で、迷える小羊に説法でも聞かせろと言うのか? この俺が?」
 古参のギルドメンバーかつ、古くからの相方であるクルセは、胸元の十字架を弄りながら視線を逸らした。
「さあ、グラストヘイムにでも狩りに行こうか?」
「待て」
「いや、御免。無理な事を言った俺が悪かったよ」
「ですが、まあ………ギルドの溜まり場として、もっとマシなアジトが欲しいのは事実ですね」
 お伽噺の悪い魔女が冠っているような、とんがり帽子を頭に乗せた男が、影から生まれたように姿を見せた。
「廃ウィザードきた〜」
「廃人その弐きた〜」
「誰が廃人ですか、というか、その壱は誰なんですか?」
「俺じゃない事は確かだ」
 指先で煙草を摘み、紫煙をドーナッツ状に吐き出す。
「―――こないだ完成した、+7トリプルブラッディサーベルの切れ味を試したいんだけど」
「ギルドマスター且つ、聖職者な俺としては、目の前で宣言されたメンバーの殺人衝動の発露を生暖かい目で見守りたいと思うんだが、どうか」
「どうか、じゃないでしょう………貴方は、まったく」
 やれやれ、と頭を振り、マントを座布団のようにして胡座をかく。
「我々も、『仮にも』ルーンミッドガッツ王国から正式に承認を受けているギルドなのですから、それなりの拠点があって然るべきかと思いますが?」
「あるじゃないか? 王国が用意したギルド砦が」
 主要都市に隣接された、ギルドの砦が存在してる。
 首都プロンテラのヴァルキリーレルム。
 魔法都市ゲフェンのブリトニア。
 国境都市アルデバランのルイーナ。
 山岳都市フェイヨンのチュンリム。
 そこには、小城のような施設。
 貴族のような生活と、王国から支給されるレアな宝物。
 カプラの派遣社員まで配属されるという。
「ありゃあ、大手の真性廃ギルドの玩具だ」
「………負け犬の遠吠えにしか聞こえませんが」
「欲しければ奪え、だからなー………ギルド砦は」
 犯罪者予備軍である冒険者を、ギルドという枠で鎖をつけ、抑え切れない闘争本能を適度に消化させるために、犯罪者同士で戦わせる。
 王国側としては正規軍以外の戦力を確保でき、猶且つ潜在的犯罪者の抑制にもなっている。
 首都に溢れるロクデナシ達を、せめて目の届くところで監視したい。
「要するに、王国の思惑としては、こんなトコだと思う訳ですよ」
「負け犬の遠吠えにしか聞こえませんが」
「聞こえないねぇ」
「―――戦力が足らんでしょうが。ウチのギルドは四人しかおらんのだぞ」
 ちなみに、もう一人のメンバーは旅に出ている。
 というか、放浪癖がある。
 現在は、一週間に一度、顔を見れればラッキーである。
「………時間沸きのレアキャラかい」
 大手のギルドになると数十人、同盟を含めると数倍に膨れ上がるのだから、マトモな喧嘩にもならない状態である。
「華麗にスルーしたね」
「前々から気になっていたのですが、新しいギルドメンバーは増やさないのですかな?」
「募集するにしても、ウチらがもっと強くならないと、話にならないでしょう」
「ふむ。新メンバは女の子がいいねぇ…」
 心からの素直な発言だったが、ふたりの眼差しが冷たい。
「来たよ、下半身直結思考」
「始まりましたね、病気が」
「君たちは俺を誤解していると思うが、どうか」
 こう、何と言うか、ギルドの名簿がむさ苦しい野郎ばかりというのも、そこはかとなく虚しいと思うのだが。
「ハンタ娘さんとか良いよねぇ。アサ子さんとかも趣味なのだが、BSの姐御も中々………」
「さて、狩りに行こうか」
「私も時計塔に戻ります」
「どうする? 一緒に監獄でも行くかい? ギルドマスタ?」
 別にスルーされたからという訳でもないのだが。
「いや、今日は止めておくよ」
「支援しない支援プリって、どうかと思うよ?」
「牛相手なら、支援もクソもないしょ」
「では、ノーグロードでも如何?」
 新しい煙草に火を点けて、頭を振った。
「プロでナンパしてる」
「………また装備クホったか」
「………懲りませんね、全く」
 溜息を吐きつつ首を振る様子は、鏡合わせのように同じタイミングであった。
 中々のコンビネーションだと感心する。
 掻き消すように姿を消したふたりを見送り、壁に寄り掛かって空を見上げた。
 一本きっかりと灰に替えた後、新しい煙草を咥え………ライターをポケットに戻した。
 変わりにペンを取り出し、落書だらけの壁に、新しく文字を書き加えた。






 
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