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ラグナロクオンライン
Side Story






High Level AFRO
- ハイレベルアフロ -




Scene-3
「Speak of the Devil and he will appear」






 砂を灼く太陽。
 灼けた砂に全てを吸い取られた風が、街の中を隅々まで弄っていく。
 乾いた風と熱砂の街。
 モロク。
 オアシスをベースに作られたこの都市は、四方が砂漠に囲まれていた。
 それでも、街に冒険者の姿が絶えないのには訳がある。
 都市に隣接するようにして、モンスターがひしめく遺跡が、ふたつも存在しているからだ。
 偉大なる王家の墓所、ピラミッドダンジョン。
 勇猛な守護者の墓標、スフィンクスダンジョン。
 街の北西にはサンダルマン要塞と、冒険の舞台には事欠かない。
 そして、首都プロンテラとは余りにも違う気候のせいだろうか。
 実際の距離以上に、風土や文化が違っているように感じた。
 風と砂と、そして………暗殺者の街。





 冷たい、ともすれば凍えてしまいそうなほどに冷えた風が吹き込んできた。
 乾いた砂は急速に熱を失い、砂漠の夜を凍えさせる。
 だがそれでも、照りつく真昼の太陽に晒された身体には心地よい。
 天井から吊るされた、寝所を囲う蚊帳が薄絹のようにサラサラと揺れる。
 油を満たした真鍮のランプ。
 口先から覗いた芯に灯る火。
 淡く小さい炎は、夜の風に弄られ、ゆらゆらと舞い踊る。
 ゆらゆら、ゆらゆらと―――
 それに合わせるように、天蓋布も踊る。
 ランプの灯かりの中、壁に映し出された衣笠の影は、無数に重なり合ったさざ波を作り出す。
 そして、そのさざ波の中で、溺れるように睦み合う、一組の影。
「…はっ…くぅ…はっ…くぅ…」
 苦痛に耐えるように押し殺した音が、断続的に漏れ出している。
 言葉にならないリズムの吐息は、その腰の動きと同期していた。
 寝そべった男の股間の上で、擦りつけるように尻が蠢く。
「あ、あァあっっ!!………はァ、はァ…はァ…あう!」
 何かを叩く音が、勢い良く響いた。
 尻に不自然に深く食い込んだアサシン衣装からはみ出た肌に、平手の痕がうっすらと赤く浮かび上がる。
「ち…畜生」
「休まずにちゃんと動け」
「ちっくしょ〜…絶対、コロス…ああァ!」
 接合部に伸ばした指先で、捲れ反っている粘膜のつけ根にある突起を抓りあげる。
 既に何度目かになるオルガズムで弛緩していた膣筋が、絞るようにビクビクと蠕動した。
 鍛えられた女アサシンの腹筋が痙攣し、膣圧に深く接合した部分から幾度も体液が射出された。
 そして、子宮を突き上げる肉根の先端から、補充するかのように大量の精液が流し込まれる。
 胎内の奥底で感じる射精感に、女アサは天井を見上げるように仰け反って震える。
 両手を後ろに縛られた女アサが崩れるのを、その見事に括れた腰を押さえて固定する。
「―――続けろ」
「…畜生…ぅ」
 倒れるコトも許されず、いつ尽きるかも知れない男のモノを刺激し始めた。





『ZENY〜銭ゼニ〜ぜに〜♪』
「…」
 ピラミッドダンジョン地下。
 地上に比べ、涼しく過ごしやすい温度であったが、それはモンスターにとっても同じなのかもしれない。
 棲み付いた牛の化け物、ミノタウロスと呼ばれる強力な魔獣が闊歩している。
 盾を構え、引き抜いた剣を真正面から叩きつける。
『昨日も貧乏〜今日も貧乏〜明日も、多分貧乏〜♪』
『ふむ。本日も怪調に電波を飛ばしていますね、ウチのギルドマスターは』
「―――あ〜、うざったいなぁ!」
 ミノタウロスの首をあっさりと跳ね飛ばしたクルセイダーは、強制的に流し込まれるギルドチャット会話に、素で怒鳴りつけた。
『大体、銭がないんだったら、狩りに行って稼いでくればいいでしょうが』
 切り倒したミノタウロスの屍骸が、塵のように霧散して消えていく。
 そこに、どんな仕組みや法則があるのかは解らない。
 だが、消えずに残るものもある。
 鼻輪と芋であった。
 こういった収集品を街に持ち帰り、商人たちへ売り捌くのが冒険者の一般的な収入だった。
『それは至極もっともな意見ですね』
『う〜ん、正しいね。とても建設的かつ堅実な方法だと思うよ』
『だったら………』
 迷路のように入り組んだダンジョンの角を曲がり、リアルで舌打ちをつけ加える。
 重なり合うように溜っているミノタウロスが、こちらに気づく。
『面倒臭い』
『…』
「…」
『かったるいじゃないですか、地味に稼ぐなんてのは』
『………しかし、じっとしていても銭は入ってこないのではないですかな?』
 血飛沫が舞う。
 四方を囲んで巨大なハンマーを振り回すモンスターに、連続でバッシュを叩き込む。
『俺に秘策がある』
『ふむ?』
 二体のミノタウロスが、不気味な唸り声のような詠唱と共に、大きく振りかぶったハンマーを地面に叩きつけた。
 地面を伝播した激しい衝撃が四肢を突き抜け、一時的な麻痺状態に陥る。
『まず、古く青い箱を買う』
『…』
『紫色の奴でもいいが、素人にはお薦めできない』
『………へぇ? それで、どうするんですか』
 無防備状態のまま、全身にハンマーの連打を浴びる。
 激しく、痛い。
『開ける→レアを出す→うま〜』
『非常にエキセントリックかつ、ファンタスティックな銭の稼ぎ方ですね』
 スタン状態から回復すると立て続けに白ポーションを呷り、剣を地面に突き立てて天に吠える。
「―――ハラワタをぶち撒けろ!」
 足元でちょろちょろとルートに勤しんでいた腐れ犬ごと、モンスターの群が巨大な光の十字架に押し潰される。
『しかし、余りにも堅実さに欠けるような気がするのは、気のせいですかな…』
『ならば、古いカード帖を買ってゴスリンか天使カードを引く→うま〜』
『少し黙っていてくれ!』
 グランドクロスの反動で再び瀕死状態な身からすれば、天使ポリンカードなど、喉から手が出るほど欲しい品だ。
 迷宮の奥に座り込んで回復を待つ。
 迷宮に棲みつく腐った犬が、無数の収集品を嬉々として取り込んでいる。
『ふむ、気に入らんか………では、次善策としてエルを…イテ』
『? まあ、良いのですがね。処でギルドマスター?』
『歯ぁ立てるな………で、何かね?』
『先ほどから気になってたのですが、新しいギルドメンバーが増えているように見えるのは、私のギルド機能が逝かれている所為ですかな?』
 虚空に手を翳して、ギルド機能を呼び出す。
 確かにひとり増えていた。
『ああ、商人をひとり勧誘してみた』
『俺らに相談もなく、また勝手なことを…』
『まあ、良いではないですか。挨拶くらいはして貰えるんでしょうね?』
『いや、それが、激しくノビ状態みたいでね。ギルド機能どころか、冒険者のイロハも解っとらんみたいなのさ。んで、今、調教…じゃなくて教育中』
『………不穏な発言が聞こえたのは、誤爆としておきましょう』
 阿保か、と思う。
 取敢えず、この苛立ちをキャンキャンと煩わしく吠えるベリットに叩きつけた。
 袋が爆けるように、限界まで溜め込まれていた収集品がばら撒かれる。
 鼻輪、止まらない心臓、服従の腕輪、白ハーブ、s3アックス………そして、二枚のカード。
『お、カード来た』
『又ですか………何かチート的手法でも用いているのかと、疑ってしまうほどの引きの強さですね』
『おお、オメ&クタバレ♪』
 慈愛に満ち満ちたギルドメンバーの祝福に頭痛を感じつつ、消える前にそれらを拾い上げる。
 掌に乗るほどの、不思議な光を放つ絵札。
 それにはそれぞれ、ミノタウロスとベリットの絵が記載されていた。
『ミノcと腐乱犬cだよ』
『二枚ですか、そうですか。明日死にますね、さようなら』
『オーケー死んで良いよ〜、てか死ね♪』
「祝福の言葉、ファッキン・ザ・センキュー!」
 リアルで吐き捨て、チャットを全て脳裏から閉め出す。
 溜息を吐いて、カードをポケットに入れる。
 自分は何故、このギルドに加入しているのかと、疑問に思うのはこんな時だ。
 だが、まあ―――天井を見上げてニヤリと笑う。
 今夜は良い物が食えそうだ。
「………ついでにイシスでもテイムしていくか」
 蝶の羽の替わりに、蝿の羽を空へ撒く。
 掻き消すように転移したその背後の壁から、滲み出るように一つの影が浮かび上がった。
 水着のように身体に密着した、布巻の軽装。
 闇に紛れるような黒い髪とマスク。
「………M級カード二枚ね」
 カタールを腰に挿してマスクを下ろし、口紅を塗ったかのように赤い唇を舐める。
「今夜のディナーは豪華になりそうじゃない」





「―――合計、245,000z」
「サンキュ。いつも悪いね」
 モロクの南広場は、首都ほどではないが人で濫れている。
 そして、人が集まるところに、商人が集まってくる。
 ただし、プロンテラのように歴然と並んだ物ではなく、思い思いの場所にゴザを広げて露天を出している状態である。
「代売りくらい構わんよ、お得意様だからな。今日び属性武器も中々売れなくてね」
 蝿、蝶、速度ポットや回復剤一式と一緒に、幾つかの武器が陳列してある。
「星ふたつ水フランでも発注してみないか?」
「それは、また今度…というか、露天売りして貰いたい品があるんだけど」
「額でかい奴か?」
 多少考える。
「首都でないと捌けないだろうなぁ」
「これから、ちょいとピラミッドDに籠る予定だったんだが」
 ウェスタングレイスの鍔を押さえて、西の方向を見据える。
「別に急がないよ。銭に困ってる訳じゃないし」
「では、向こうに戻った時に預かろう………おっと、そうだ」
 露天をたたみ、カートに一式を放り込む。
「あんま、派手にやってると、良くない虫が沸くぜ?」
「?」
「モロクに常駐してるギルドは質が悪いって、まあ…それだけなんだが」
「ああ? まあ、良く解らんが気をつけるよ」





「ちょっと待てよ、そこのクルセ野郎」
 足を止めて、振り向いて、げんなりした。
 騎士にハンター、そしてローグが屯している。
 ひとり祝杯をあげ、高価な夕飯に満足していた穏やかな心が、萎える。
「おいおい、アンタさぁ。マナー違反だぜ?」
「横殴りされた上に、ドロップかっさらわれたら、タマンね〜のよ、ワカル?」
 ここでマトモに相手をするような真似をするから、GMからお人好し呼ばわりされるのは解っている。
「何のことだ?」
「呆けちゃ困るぜ、クルセ野郎」
「昼間にさ、カード拾ったろ? ピラ地下でさ」
「アレ、俺たちが狩ったMOBが落としたcなんだよね」
「そそ。ソイツをルートしたベリットを、アンタが横殴りして、取っちまったって訳」
「カードってと、このソルスケとマミーの事か?」
 懐から二枚のカードを取り出す。
「そうそう、解ってんじゃねぇか」
「へへっ…素直な奴は長生きするぜ」
 カード二枚を地面に投げ捨てる。
「後よ、あんた金持ちなんだろ? 慰謝料として銭も出せよ」
「粘着して晒すのは勘弁してやるからよ、ハハハハっ」
「実は嫌いではないが、俺はアルコールとか普段は飲まない性質なんだがな」
 クルセイダーの規則には、元から飲酒を禁じる規約は無い。
 ただ、嗜好に合わないだけだ。
 何故ならば、常に理性的であるのが、理想であるからだ。
「だが、今は酔ってるんだよ。俺は」
「はァァ? 何いってんだ?」
 剣を地面に突き刺し、片手を夜空に掲げた。
「―――臓物を、ぶち撒けろ」





「大体なぁ…GX使いのクルセとタイマンして、アサが本気で勝てると思ったのか、お前は?」
「………」
「普通、モルボル二刀だろ………突如、カタ特攻って何だよ、漢の戦いか、マジで」
「ウルセエ! ケダモノ野郎っ!」
 シーツで身体を包んだアサ子が、背中を向けたまま怒鳴りつける。
 枕代わりのクッションに身体を沈めたまま、取り上げたその武器を眺める。
「………ジャマかよ」
「言うなっ!」
「………兎刺しかよ」
 それも未精練状態という素敵さである。
 アサ子の背中が震える。
 そのうなじが羞恥で真っ赤に染まる。
 力ずくで陵辱された事よりも、自分の武器を分析される事が、たまらなく恥ずかしい。
「………ひょっとしたら、ひょっとするんだが。お前クリアサ志願?」
 当たらない、クリティカルも出ない、という素晴らしい連打を思い出してみる。
「一応聞いてみるが………TCJは?」
「んなブルジョア武器持ってねぇ」
「コボクリは?」
「うっせぇな! ねぇモノはねぇんだヨっ!」
「………逆切れすんなよ」
 クリティカル必中前提の特殊な戦闘を行なうアサシン、通称クリアサは、他の職業と比べても非情に装備依存度が高い。
 最低限、トリプルクリティカルジュル、コボルト刺しアクセ、そして木琴が要る。
 剥ぎ取って、女アサの衣装と一緒に床に蟠るフード(未精練)を見てみる。
「………腐れ兄貴刺しかよ」
「五月蝿いっ! 何か文句あるってのかよッ」
「あるに決まってんだろうが、馬鹿かお前は」
 殴りかかってくる拳を掴んで、床に押し付ける。
「装備なんて借りればいいだろうが、プリの支援貰うとか」
「ケダモノが悟った口開くんじゃねぇ! そんな都合良く行くかよ」
「………あれか、取敢えず、ギルド入って援助貰おうとしたクチか、お前」
 路地で臓物をぶち撒けている連中が仲間なら、そんな気遣いがあるメンツには見えなかったが。
 まあ、朝になればカプラサービスが回収して蘇生するだろう。
「モノ欲しそうなツラでギルド入ってくれば、それは鴨られるに決まってるだろう」
「…ッっ!」
「玩具にされてたんじゃないのか?」
「くっ…そったれっ…」
 床に押し付けられたままのアサ子が、悪態とともに嗚咽を漏らす。
 激しく萎えた。
 愁嘆場の役者になるのも、説教臭い偽善者になるのも、まったくもって趣味じゃない。
 やはり酒なんぞは飲む物ではない。
「………お前、今のギルド抜けろ」
「なっ…何言って」
「こういうのは趣味じゃないが―――まあ、たまには馬鹿な真似も面白いかもしらん」
 手を放してクッションに腰掛け、昼間の戦利品を撒く。
「な、んで、四枚も」
「ああ、ちょいテイムしに3F行ったら、出た」
 ソルジャースケルトンカードと、マミーカードが。
「コイツくれてやるから、売ってクリ装備整えて、狩って返せ。現金でな」
「なっ、何で、だよ…?」
「いや、ちょっと流石に、な」
 溜息を吐き、乾いた風が吹き込む窓から、砂に吸い込まれそうに傾いた満月を仰いだ。
「これ持って帰ったら、ギルメンにマジメにブチ殺されそうだって………それだけだ」







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