Ragnaroku OnLine
ラグナロクオンライン
Side Story






High Level AFRO
- ハイレベルアフロ -




Scene-4
「To err is divine to forgive human」






 それは詰め将棋に似ていた。
 相手の動きを予測し。
 道順を誘導して纏めあげ。
 必殺の一撃を放つ。
「ファイヤーウォール」
 体捌きと位置取り、そしてタイミング。
 歯車の軋む音を重ねつつ、一ダースのアラームがその歩みを収束させていく。
 眼前に聳え立つ紅蓮の業火が、瞬く間にその半無機質なボディに喰い潰されていく。
 全ては計算の範囲内に。
 MOBの数、火壁の耐久限度、大魔法を射つための魔力収束時間。
 高まる魔力の余剰が、足元からオーラとなって立ち昇った。
 右手を左の肩に当て、眼前を薙ぎ払うように腕を振るい、魔力を解放する。
「ストームガスト」
 広範囲に極寒の冷気が吹き荒れ、その歪んだ生命活動と共に全てのMOBを氷りつかせる。
 ―――筈だった。
 吹雪の止んだその中で、何事もなく行進を続けてきたアラームの一団が、その白く無表情な仮面で睨んでいる。
「ふむ………ラグですか、そうですか」
 最後にその目に映ったものは、一斉に喰いつかれてミンチのように四散した自分の四肢だった。





「―――いらっしゃいませ、カプラサービスはいつも皆様のそばにいます」
「…」
「なにをお手伝いいたしましょう?」
 気が付くと、人込みの中に立ち尽くしていた。
 目の前には、メガネを掛けたカプラサービスの出張嬢と、空を突き抜けんばかりの巨大な建造物。
 アルデバランの中央に聳え立つ、時計塔であった。
「そうですね、一つだけ伝言をお願いできませんか? ココの管理会社に」
「いらっしゃいませ、カプラサービスはいつも皆様の」
「―――チンポ噛んで死ね、とね」





 ミョルニール山脈の北部。
 シュバルツバルド共和国の最南端都市。
 歴然と配置された白調の美しい建物。
 空に回る風車と、それにより汲み上げられた運河が街を循環している。
 そして、街のシンボルとも言うべき、巨大建築物である『時計塔』が存在している。
 遥かな昔。
 オーク族と人間族が共同で建築したと伝えられる塔であるが、今では内部に凶悪なモンスターが徘徊している無法地帯と化していた。
 だが、それ故に修行目的や狩り場として、人が絶える事のない街でもあった。
『ぎゃああああああっ!』
 断末魔の悲鳴が頭蓋骨に共鳴した。
 目眩いがしそうなほどの、悲鳴だった。
『ホルグレ〜ン〜!!』
 地獄の鬼のごとき怨嗟が、ギルドチャットに垂れ流される。
『マキシマイズファッキューッ! 今すぐ死ね! 腹掻っ捌いて詫びろ! ホモ野郎がああああァ!!』
『五月蝿い』
 塔の前のテラスで、椅子に腰掛け回復に専念していたが、その顔が歪む。
 というか頭痛がしてくる。
『………嗚呼、俺はもう駄目だ。+5程度で』
『はいはい』
 一転して泣言が頭蓋に流し込まれる。
『ナニを砕かれたのよ、今度は』
『俺の、シルクハットが、ゴミ屑に』
『………趣味品のレアを過剰する馬鹿がどこにいる』
『趣味じゃない。最終頭装備候補にしようと思った逸品だ』
 目に見えるようである。
 シルクハットに咥え煙草に片目メガネのプリースト。
 その妖しい奇術師のような恰好は、それはそれは似合うだろう。
『畜生。クタバレ。死ね、ホモグレン。焼けた鉄の上に土下座して、額を五秒間擦りつけろ』
『その台詞良く聞くけどさ、実際に精錬士の殺害に成功したって奴の話は聞かないなぁ』
 冒険者の絶対多数が、一度は精錬士に殺意を抱くだろう。
 それは間違いない。
『………ホルを始めとして、アイツ等不死身なんじゃねェかと思うんだが、どうか』
『んな事しらないが、グランドクロスの直撃にも笑ってやがったのは事実だ』
『こないだ、ケミ子が足元に撒いた火炎瓶に程よく焼けながら、全身に硫酸を浴びて、フローラから背中を抱かれて、イクラの自爆に巻き込まれながら、勢い良く槌を振るって剣をクホっていたんだが………』
『うし、ま、こんなモンだ』
 聖騎士の満足げな言葉尻に、僻みの塊と化した聖職者が引っ掛かる。
『ま、買った方が良いよ? 過剰精練品は』
『待て。今、何処で何をしてる』
『モロクで、sブーツの精錬を、サレー氏に依頼していた』
『………へェええええ、それで。プラス値は幾つよ?』
 チンピラと化したギルドマスターの問い掛けに、毒が注ぎ込まれる。
『+7フレジッドブーツ』
『糞ったれ! 死ねっ!!』
『今日もいい天気だね………てか、今日は静かだね? AFKかな』
『………いや、居ますがね。素敵に荒んだ会話に参加する気分ではないのですよ』
 眉間を揉み解しながら、溜息を吐く。
 体力も魔力も回復していたが、狩りに行く気力は枯渇したままだ。
『どうしたのさ? 逝った?』
『ええ、まあ、そういう事ですがね』
『『オメ♪』』
 綺麗に被る祝福のレスが早い。
『デスペナ1Mオメデト〜♪』
『デスペナルティ〜おめでと〜、デスペナルティオメデト〜、でぇえすぺなるてぃおめでと〜』
 わざわざ、お誕生日ソングに合わせて熱唱が始まる。
『そんなに人が死んだのが嬉しいのですか、貴方達は』
『『気の所為だよ、HAHAHA』』
「くたばりなさい。さようなら」
 ギルド機能を強制的にぶっち切る。
 こんなにもいい天気だと言うのに。
 頭痛は、収まりそうに無かった。





 露店を見まわって白ポを買い込み、気分転換に時計塔の回りを散策する。
 頭痛、というか、明らかに身体の動きが鈍い。
 原因は定かではないが、タマにこう云う時がある。
 魔法の発動や、身体の動きに遅延が生じる。
 即ち、ラグが発生している。
 魔法使いならば、尚の事。
 例えば、多勢の冒険者が集った空間。
 規模の大きな魔法が連続で使用された空間。
 世界の基幹を司っている情報伝達システムが、過負荷により異常をきたすと言われているが、究明も改善もされる様子は無い。
 その為の維持管理会社も存在しているという噂だが、逆に世界に毒を撒いているという評判が素敵だ。
「ふっ………慣れっこなのですよ。この程度は」
 必死に自己暗示を掛ける。
 三重に重ねたファイヤーウォールの向こうから、赤芋蟲に噛まれて逝く、という経験はマジ系には必ずあるからだ。
 縦に敷いたファイヤーウォールの遥か彼方から、クロックに噛まれる、という経験もある。
 最近は訓練されたクロックが、アグレッシブに動き回る魔境と化しているから尚更だ。
「いいぞベイベー!
 クロックに噛まれて逝くのはマジだ!
 逝った後に凶暴化したクロックで他のマジを道連れにするのは訓練されたマジだ!
 ホント時計塔は地獄だぜ、フゥハハハーハァー」
「………」
 意味不明の奇声を上げながら疾走していった軍人を、遠い目で見送る。
「SS」
「わっはー!」
 と思ったがソウルストライクを撃ち込んで見た。
 運河に転落した軍人を満足げに見守る。
「―――ラグの原因は消しておかなければなりませんね」
 意味不明な奇行を行なう奴らが多いから、ラグ死などと言う理不尽な死に目にあうのだ。
 例えば、そう―――
「折れ〜オレオレっ」
「えんじぇキボン」
「ソヒーきた〜〜〜〜!」
「剥ぎ取れ! 脱がせっ、sマフラーっ」
「乙女の着物でもイイゾ!」
 わざわざ街中で枝祭りを開催している馬鹿な連中とか。
 運河の片隅に三つ葉や、ゼロピなどが大量に散乱していた。
 古木の枝、というアイテムには、ランダムでモンスターを召喚するという力がある。
 それこそ、ポリンから、極小確立ながら強力なBOSSモンスターが出る時もある。
 かなりの量をまとめて折ったのか、屑収集品が山のように積まれていた。
「黙らせろっ、自決させんなっ」
「任せろ、誰か、小太刀買って来いテイムれ!」
「箱産純潔ならあるぜ」
 ソヒーはフェイヨンダンジョンに多数生息しているMOBであり、非常に人気のある獲物であった。
 水属性の悪魔であり、中々に強力な中堅モンスターなのだが、ドロップアイテムに高価な品が多かった。
 その姿は悪魔でありながら、人間の少女のような姿形をしている。
「うし、黙った。殴れ〜殺すなよっ」
「素手祭り開始っ♪」
 プリーストのスキルで沈黙状態にさせられたソヒーを、囲んだ数人が素手で殴りつけ始める。
 空中に浮かんだソヒーが、小さな短刀を振り回しながら抵抗するが、高レベルプレイヤーにとっては雑魚に分類されるMOBだ。
 死なないように手加減された拳で、四方から殴られ、無言のまま苦痛に顔を歪めていた。
「ふっ………愚劣な」
「誰だっ!?」
 運河への階段を降りつつ、溜息を吐いて頭を振る。
「枝とは、使うものではなく、売るものなのですよ」
 枝は折るものではなく、売るものである。
 箱も開けるものではなく、転売するためのものである。
 ましてや、エルニウムは精錬するためのものではなく、売って精錬品を買うための資金源である。
「何だよ? 何か文句でもあるのか」
「枝祭りなら、他の街でやってくれませんか? ただでさえ、アルデは重いのです」
「そんなもの、俺たちの勝手だろ」
「ほっとけよ」
「自治厨キタ」
「俺マナー厨うぜー…」
「貴方たちは存在がウザイのですよ、醜い」
 表情は笑顔、口調は丁寧だったが、その内容は辛辣だった。
「ラグは私たちウィズにとって死活問題なのですよ。それも察せない低能な人は、土下座して私の足でも舐めて下さい」
「喧嘩売ってるのか、おま―――」
 胸倉を掴み上げたその手が、灰色に変わり、其れが全身に広がっていく。
 石像と化した騎士を見詰めて、満足げに頷く。
「相変わらず素敵な成功率ですね、我がストーンカース10は」
「ネタウィズっ?」
「失敬な!」
 マントを翻し、胸を張る。
「VITプリを葬るのに、これ以上便利な呪文は無いでしょう!」
「………いや、普通そんな対人思考でスキル取らないと思うんだけど」
 コメカミを押さえて頭痛に耐える。
「ウチの淫売ギルマスは嫉妬で人を殺すコトができますが、何か」
「―――いや、それは普通じゃないから」
「副ギルマスは無意識に人を殺してしまっているコトがありますが、何か」
 取敢えず、タラ盾、がギルドの不文律というか常識だった。
 どこの狩り場に行くのも、クラニアル持参。
 BOSS狩りなら、尚更。
「訳わかんねぇんだよ! このネタウィズっ」
「………ネタ、ネタと」
 笑顔が引きつって、悪魔の頬笑みに変わる。
「この愚民どもがっ! 分からないのですか、この素晴らしい呪文が!?」
「アイスウォール?」
 地面から氷の柱が、立て続けに隆起する。
「これこそが力!」
「なにこれ?」
 地味に旋回するオブジェクトを踏んだローグが空に吹き飛ぶ。
 MDEF貫通は地味に強い。
「これこそが真理!」
 天に両腕を掲げ、自己真理を歌いあげる。
 氷壁に囲われて右往左往する人塊に、真赤に灼けた隕石が降り注いだ。
「―――ヒィヤッハァー!」
 振動する地面のヴァイブレーションに陶酔する。
 悲鳴が花束、罵声がスポットライト、死体が勲章であるとは、腐ったプリギルマスの台詞だったろうか。
 ゴミに塗れたモルグのような状況の中で、ふと我に帰った。
「む」
 眉をしかめる。
「いけませんね………ゴミをブチ撒けてしまったようです」
 もっとも、腐る前にカプラサービスが回収にくるだろう。
 何しろ、ここには本社があるのだ。
 それでも、転がるオブジェクトが『重さ』の原因になる可能性もあり、派手に火葬した方がいいのかもしれない。
「―――ろ〜…どオブヴぁ〜…」
「―――っちじゃないのか?」
「大魔法連発してる基地外が」
「ラグるんだよ、フクロに」
 多数の人の気配と声。
 詠唱をキャンセルしつつ舌打ちする。
「自治厨ですか、ウザイですね。………ですがこの状況から鑑みるに、彼等が酷い誤解をする可能性が高いのも事実、ここは速やかに戦略的撤退を試みましょう」
 外套を翻して踵を返す。
 足元で、パキンと音がしたが、予想以上に数が多い足音に気が急く。
 懐から蝶の羽を取り出し、空に撒いた。
 光の渦が足元から立ち昇り、その姿が薄れて消えた。





 旅館ネンカラス別館。
 以外と知られて居ないことだが、ここでもベースポイントの位置セーブが可能である。
 知られて居ない、というコトは利用者が少ないというコトだ。
 一時潜伏するには良い場所だ。
「ネンカラス別館は、そんなテロリスト嗜好をもったお客様に大好評でございます」
「アルマさん、客の素性を詮索するのはマナー違反というものですよ」
 カプラサービスと良く似たメイド作業服姿の従業員に、にっこりと頬笑みかける。
「失礼いたしました。ごゆっくりとお楽しみ下さい〜」
 いつもと微妙に違う台詞を怪訝に思いつつ、二階に上がって空き部屋をみつくろう。
 とんがり帽子を脱ぎ、帽子掛けに据えた。
「まったく、最悪の一日でしたね。今日は」
「…ふぅ」
 呟き、溜息を吐く。
「そろそろ、過剰精練に手を出す時期ですかねぇ………ラグる度にデスペナを食らっていては、レベルも上がりませんからね」
「…じー」
「問題は、WIZの狩り場は銭が貯らないと言うことですが、さて」
 振り返る。
「何故、憑いてくるのですか、そこなソヒー」
 そこには、身体を丸めるようにして空中に浮かんだままのソヒーが漂っていた。
 絹糸のように長い紫檀の髪が、フワフワと揺らめいている。
 ちょこんと手元から顔を覗かせたソヒーは、ふん…とばかりに顔を背けて無視する。
「何ですかそれは、媚ているつもりですか。というか、メテオで蒸発したのではなかったのですか。ラグでオブジェクトでも欠けましたか、そうですか」
 外身は平静でも、その饒舌が困惑をあらわにしていた。
 再び、ふんっと小さく鼻を鳴らしたソヒーは、自分の腰帯に刺してある小太刀を指差す。
 そして、足元を指差して踏んづけた。
 純潔の小太刀を踏み砕く、という行為がテイミングを発動させたと言いたいのだろう。
「………人様の足を踏みつけるとは良い度胸をしていますね」
「………ふぅ」
「私は、その人を小馬鹿にした態度にゾクゾクくるような変態ではないのです」
 新しい自分を発見したのは事実だが。
「大体、私は貧乏なのです。ペットを養う余裕など無いのですよ」
 この世界では、レアの引きが強い=銭持ちが真理であった。
 もっとも、商才のあるものにとっては、首都で転売業務に勤しむと言う手段もある。
 リアルラックに自信のあるものは、箱や精錬ギャンブルに身を投じるという方法もある。
 だが、それも元手があってこそだ。
 自分にはそんなアヤフヤな賭けをするつもりはない。
 破算を繰り返すのが趣味のギルドメンバーが反面教師となっているので、尚更だ。
 換金できるモノは銭にし、必要な物を買う。
 それが正しい、世の中の真理というものだ。
「む………フフフ」
「…?」
「私としたことが、棚からぼた餅的な状況に、柄にも無く動揺していたようですね」
 髪を掻き上げてソヒーを指差す。
 一時期の高騰は過ぎ去ったとはいえ、キューペットとしてのソヒーは、かなりレアな代物だ。
 ポリンを始めとし、ムナックやルナティックの卵を専門に扱う露店もある。
 観賞用、そして愛玩用として大枚を叩くブルジョアは存在するのだ。
「さあ、卵となって我が過剰精練の資金源となりなさい」
「…ちゅーちゅー…」
「―――人の指を吸うのが楽しいのですか? というか喰われているようで多少ビビッているので止めて下さい」
 腹でも空いているのか、一心に人差し指を咥えて吸っていた。
 時折覗く赤い舌。
 そして八重歯というには鋭すぎる犬歯に、喉仏が鳴る。
「ふむ、これがハイソサエティなペットライフというモノですか」
 人に酷似したモンスターを愛玩用に飼育する、等という趣味は無いが、これはこれでクるものがあるのも確かだ。
 試しにスルメの足を一本与えて見る。
 すると疑いもせずにもごもごとしゃぶり始める。
「ふむ、ペットフードばかりでなく、何でも食すようですね。そのチャレンジャースピリッツには好感度がアップですよ」
 ソヒーに対する好感度が上がった。
 逆のような気もするが。
「………む、もしやポリンの様に、目前のモノを習性的に口に入れるだけですか」
 怪しげな袋から怪しげな収集品を物色し始めるウィズを、スルメを咥えてモゴモゴと咀嚼し続けるソヒーが覗きこむ。
 既に手段と目的が入れ替わって事象の地平へと転送されていたが、それは良くある事である。
 右手にロゼッタストーンの破片、左手にアイスクリームを手にしたまま振り返る。
「さて、始めましょうか?」





『―――うほっ!』
『………なぁ、ギルマス? いい加減ギルチャに妖しい呻き声垂れ流すの、止めないか?』
『青箱からゼロピ出た』
『開けるなよ!』
『無茶言うなよ〜フハハハ』
『ゴメ、メッチャ殺意沸くんだが』
 溜息を吐く。
 怠い、滅茶苦茶に、怠い。
『てか、どこに青箱買う銭があったんだよ』
『骨銃から矢リンゴ出た』
 矢リンゴも良い装備だ。
 DEXを上げている身ならば、尚更。
『貯蓄しろ、過剰精練品は買え』
『解ってはいるんだが、魔が差したというか、出来心というか』
『魔が差す………良くあるコトですね』
 ベッドから起き上がり、髪を掻きあげた。
『おや、居たのかい?』
『うはっ! 足枷出た』
『だからっ、開けんなよっ』
『この、重量20の箱に、何ゆえ鉄塊が………という、知的好奇心だ』
 知的好奇心は人間が進歩するために、とても重要だ。
 胸の内から湧き上がる衝動は止めようが無い。
 のだ。
『まず、ブレスとグロを掛け直して』
 まったく人の忠告を無視したギルマスの気合グロリアを聞きながら、溜息を吐く。
「………じー」
『何度破産しても懲りないんだから』
『まあ………性分というモノです』
 無言の視線に振り返ると、ソヒーが両手でちょこんと押さえたシーツの隙間からこちらを覗き込んでいる。
 その頬は桜色に火照っていた。
『わはっ、鉄矢出た』
『シネ』
『………まあ、好奇心だったのですよ。最初はあくまで』
 脳内チャットに無視されていると思ったのか、毛布に潜り込んでもぞもぞと潜行する。
『何と言うか、他意はなかったのですが、どうでしょうね』
 胡座をかいた足元のシーツが膨れ、黒い絹のような頭が顔を出す。
 そのはだけた肩から背中まで、濡れたように艶やかな肌があらわになる。
 両手の指を添えるように、それを握って口に頬張る。
『問題ですね、これは問題だと思います』
『………さっきから、微妙に会話が噛み合ってない気がするんだが、気の所為かい?』
『少なくとも疑問は解決しましたね。同じでした』
『だから、ナニがさ?』
 熱心なのは良い事である。
 少なくとも、献身的な幻想を抱くことはできる。
『まあ、つまりは、あれです』
 顔を埋めたまま一心に奉仕しているソヒーの、頬を押さえるようにして離させる。
 そのままフワフワと浮き上がる身体を反転させ、シーツに包みこんだ。
『もう少し実地検証をしますので、AFROになります………ノシ』
 細い手足を開かせるように、その上に跨がる。
 綿菓子のような、そんな抱き心地。
「…ふぅ」
 再び中に押し入った瞬間に、吐息のような呼気のような曖昧な音が唇から漏れた。
 不粋なチャットの会話は、既に聞こえない。
『何なんだ?』
『くはっ、べとべとした液体出た』
『イイから、アンタは死んどけ』







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