竜園
Original Novel
HighKingReport
第V章 辺境の収穫祭
教会の居住部になっている、半地下の煉瓦造りの遺跡から出る。
井戸のある中庭は、植物の生い茂ったちょっとした広場になっている。
綺麗好きのミル姉が手入れをしており、庭園と言っても差し支えはない。
「ぷは…っ」
桶の水で顔を洗った俺は、枝に掛けたタオルを手に取る。
今日は戦太刀を取りにいく日だ。
この間、メイにフェラをさせてしまった俺としては、やはり会うのは気まずい。
実際、夢の中にメイの巨乳が出てきて困った。
「メイって、プロポーション良かったんだな………」
洟垂れ小僧の時から知っているだけに、異性としては意識した事はなかった。
大体、今でも物腰や喋り方も少年みたいだし。
メイは可愛いとは言えないが、あの分厚い眼鏡を外したらどうなんだ?
子供の頃からずっと掛けてたし、素顔は物凄い美人だったりして。
気が付けば朝立ちの治まった肉根に、血液が流れ込んで勃起していた。
あれからミイアの誘いは理性を総動員させて拒んでいたが、そう長く保たない事も解っていた。
無邪気に慕ってくれるミイアだから、体当たりで懐に飛び込んでくる総てを受け入れるのは少し重い。
幾ら性経験を積んでいたとしても、まだ幼い少女だから。
「ミイアとセックスしたと知ったら、ミル姉が何て言うか………。もう何回もミイアとしてしまったし、ミル姉が俺の事を受け入れてくれる訳じゃ無いしな………」
下半身に血液が行っているせいか、めまいで視界が霞む。
近頃、奇妙な夢を立て続けに見ている所為で、睡眠不足気味だった。
「おっにいちゃんっ☆ おっはよーっ!」
「あ、お早よ………って、抱きつくんじゃないっ」
パジャマ姿のミイアが、同じく洗面道具を手に中庭に現われた。
俺の姿を確認するや否や、黄色い声の明るい挨拶と共に飛び付かれた。
「もう、誰かに見られたらどうするんだ? ミイアも少し神官としての自覚持ちな」
「…きゅーん」
頭に手を置いて髪をくしゃくしゃに掻き撫でると、子猫のような声で鳴く。
鳶色の大きな目が、膨れたように俺を睨む。
「もーぅ、お兄ちゃんってば。ミイア大人だもん。子供扱いはしないでぇ」
「だったら、子供みたいに駄々捏ねなさんな」
「みゃう…あん、髪を撫でられるの好きーぃ」
朝日の下だと赤毛にも見えるミイアの房結が、撫でられるのに揺れる。
俺は結わえているピンクのリボンが、かなり草臥れているのに気付いた。
気持ち良さそうに目を細めるミイアは、ごろごろと喉を鳴らす。
「あうん…お兄ちゃん、今日はぁミイアとお祭り見に行こーね」
「ん…? ああ、今日から収穫祭だったか」
「うん、今年はミルお姉様の代わりに、ミイアが神前奉納するの」
毎年の収穫祭は、辺境の村人にとって最高の娯楽のひとつだ。
トザクの村の収穫祭にも毎年、吟遊詩人などの旅芸人の旅団がやってくる。
村の広場には的屋が立ち並び、弾き語りや大道芸人が場を盛り上げる。
大人の男性用には、流しの娼婦が祭りに華を添える。
羽目を外しすぎて、祭りの後にすっからかんになるものも毎年出る。
「ねっ、お祭り最後の三日目には、ミイア色々忙しくなっちゃうもん」
収穫祭の本来の目的は、農耕を司る神々への感謝と、来年の豊作の祈願だ。
祭りの最後の夜は、神への礼拝と貢ぎ物の儀式で締め括られる。
「礼拝堂早めに終わりにしちゃうから、ミイアと一緒に行こ。ミイア、お祭りに行くの初めてなんだあ。ミイアがお兄ちゃんにおごってあげるー」
ずっと修道院暮しだったミイアは、期待を抑えきれないようだ。
「はいはい、羽目外し過ぎるなよ? っと…そうだ、俺、今日はメルクリウスに魔剣を取りに行かなきゃならないから、少し遅くなるよ」
「メルクリウスって、魔法屋のメイ=ディエさんの所………?」
「ああ、会ったことあったっけ」
不意にミイアは何か思い当ったのか、怒ったように不機嫌に顔を膨らませた。
魔道士と神官は、何故か仲が悪いのが相場だ。
アズはミイアが機嫌を損ねた理由を深く考えなかった。
「………メイさんって、お兄ちゃんの幼馴染み、なんだよね………」
「そうとも言うな。少しメイに相談があってさ」
「ふーむ………幼馴染み…かぁ」
呟いて思い悩むミイアをいい事に、アズは外食をするべく足音を忍ばせた。
耐刃の装甲ジャケットを纏ったアズは、ラディッシュに足を向ける。
旧遺跡の砦跡に作られたトザク村に怪物が侵入してくる事は滅多に無いが、護身用に外出する時は武器を持つのは珍しくない。
こと辺境では、豚頭や犬頭の他にも、用兵崩れの山賊の襲撃もある。
トザク村の属しているメザイア神聖帝国は、隣のアルザク連合王国と慢性的な敵対関係にある。
大きな戦争は三年前に一時的な停戦条約を結んでいた。
だがその所為で、職にあふれた雇われ兵が辺境の治安を乱している。
愛剣の戦太刀をメイに預けているアズは、腰に予備武器の小剣を帯びている。
酒場兼飯屋兼宿屋のラディッシュには、珍しく泊り客の姿があった。
「いらっしゃい…アズ? どうしたの、収穫祭が待ちきれないとか?」
「成程…ね。旅芸人の一行だったのか。お客が居るなんて珍しいと思った」
心無し忙しそうなエルが、アズに向かって舌を出す。
「大きなお世話、よ。何時もの定食でいいわね? 今日は貴方の世話をやいている暇はないわよ」
「はい、はい。悪かったな、忙しい所」
カウンターに座った俺は、エルに向かい肩を竦めた。
今更ながらに思うが、破局した恋人同士にしてはさばけた関係が続いてる。
焼肉を詰めたラディッシュ特製パンを噛りながら、テーブルをメイキングするエルのお尻を眺める。
スカート越しに覗く程よく盛り上がった臀部が、嫌に意識される。
その尻の締め具合や、色形を鮮明に思い出せるアズだった。
エルのプロポーズを断ってから、当然だがセックスはしていない。
………エルの奴、婚約者と上手くやってるのか?
「関係ない、か………」
「え? どうかしたの、アズ?」
「いや、ご馳走さま。金、ここに置いとくぜ」
訳の解らないもやもやした感情のまま、店を出た。
エルとの事は区切りを付けた筈だったが、何処か取られた感じがあるのも確かだ。
「未練くさいな、俺も………。誰でもいいから無茶苦茶に犯してー…」
自分で言った台詞に驚く。
「どうかしてる。溜まってるのか、俺は?」
「何を破廉恥な台詞を呟いているのよ? 馬鹿」
呆れた口調で背後から声をかけられた。
「吃驚するだろう、エル」
「お釣りを渡しに来てあげたのに、随分な言い方ね」
エプロン姿のエルは、皮肉げに微笑んで片目を瞑る。
鳶色のストレートヘアが、メイドのようにスカーフで結わえられている。
「貴方も仕様がない人ね。強姦魔にでもなる心算なのかしら?」
「ほおっておいてくれ。追い詰められてる気がして、安らげないんだよ」
「もう………すっきりさせて上げましょうか?」
「えっ…?」
含んだ表情のエルは、部屋のキーを鳴らした。
「………泊り客の世話があるんじゃなかったっけ?」
「皆お祭りの準備に出ていっちゃたわ。後片付けも終わったしね」
「俺が相手でなくてもいいんじゃないのか?」
「貴方、獣みたいな目をしてるんだもの。昔の男が犯罪者になるのを、ほっておけないでしょう?」
アズは自分でもそんな顔をしているだろうと思いつつ、部屋の鍵を受け取った。
限界をむかえた俺は、エルの胎内で欲望液を爆発させた。
自分の指を噛み締めるエルも、子猫のような泣き声で呻く。
「はぁはぁ…んん………っ!…くぅ………」
エルの脚の絡んだ俺の尻筋が、びくびくっと痙攣して最後の一絞りを放った。
淫らに滑った膣肉の粘膜が、粘々の精液で白く染まる。
ラディッシュの二階の個室にある、ベッドの上での出来事だ。
脱ぎ捨てられた俺とエルの衣服は、床にひとまとめにわだかまっている。
「ぅん………はぁ…ん、ぅ…。どう? 少しはすっきりできた?」
余韻に頬を火照らせたエルが、胸の中から潤んだ瞳で見詰める。
俺はエルの脚の間に腰を入れたまま、上半身を起こして上気しているエルの身体を眺めなおした。
「あ…ず? どうしたの…じっと見ちゃって?」
「ん…良い女だなって」
「くすっ…少しはお世辞が上手くなったみたいね」
可愛く笑うエルの上から降りると、煙草を手探りしてくわえる。
前々から疑問に思っていたのだが、セックスの後に煙草を吸いたくなるのは俺だけなんだろうか。
唇に挟んだ煙草を、エルが色っぽく口に含んで取り上げる。
「煙草は駄目。………髪に匂いがついちゃうって、言ってるでしょ…う?」
誘うようなエルの眼差しに、俺は鳶色の柔髪の毛に手櫛を通した。
子猫のように呻くエルは、仰向けに寝転がる俺に跨がる。
四ん這いのエルは、微かに触れるか触れないかで身体をくねらせる。
背中越しに覗く形の良い臀部に、萎えていた肉根が硬直しだす。
「エル…もう一度」
「うん……入れるね………ぅ、んんっ…」
「っ…はあぁ………」
エルは肉根に手を添え、自分のお尻にあてがった肉根を飲み込ませていく。
俺の胸板に突いた腕が、かくかく…っと震えて崩れる。
エルの胎内深くに肉根が収められると、心地よい滑りと、互いの性器に馴れた適度な緊迫感が下半身を痺れさせる。
「んん…はぁ…はぁ…アズ………。お願い…少しだけ…このままで」
腰を跳ね上げかけた俺の耳元で、エルが切なく哀願した。
俺は小さく震えるエルの腰を抱き寄せると、頭を抱え髪を撫でる。
「後免な…エル………」
エルとの付き合いは三年以上前に遡る。
男と女の関係になった時にも、互いに童貞と処女だった。
他愛もなく、じゃれあうように肌を重ねてきた。
俺がミル姉を諦められない限り、こんな別れが見えていた関係だった。
それでも、俺はエルの事を好きな気持ちに変わりはない。
エルが中途半端な関係に疲れたとしても、俺には責める権利はない。
「忘れさせて…お願いよ。アズっ………」
不意にエルが、お尻を擦り付けるように蠢かした。
膣に刺さった肉根も、粘膜に掻き回される刺激に痺れた。
「駄目ぇッ…駄目なのっ、貴方の事…忘れられないよぅ」
「ッ…無茶苦茶に…してやるよ。真っ白に消え去るまで!」
泣き声で弱音を漏らすエルは、強く背中にしがみつく。
俺は悶えるエルの身体を組み敷くと、遠慮をかなぐり捨てて激しく腰を打ち合った。
余りにも野性的で、欲望そのままの動きに、エルとベッドが悲鳴を漏らす。
エルという肉の器に、俺の肉が弾む、奥に突き刺さってえぐる。
「お願い!お願いよ…中に出して、貴方を全部肉体に刻み込んで!」
人形のように犯されるエルを俯せる。
牝犬のような獣の姿にさせたエルを、背後から突き刺しまくる。
エルのお尻の桃肉が、俺の腰と打ち合って鳴る。
アナルも、薄紅に爆ぜ割れて肉根を飲み込んだ性器も、エルの肉体全部を責め貫く。
「行くぞ、エルッ! 中に…膣内に出すから!」
「うんっ…うんっ! いっぱい、貴方の子種を入れてぇ!」
乱れてはしたない格好を晒すエルのお尻を抱え、膣の奥深くの子宮で精液を濁流のごとく流し込んだ。
「はうぅ…!はうぅはうぅ!うっうぅっー………ッ」
仰け反りかえって絞め殺されるように悶えるエルの腹の中で、どっく…どっく…どっく…っと俺の濃い体液が滴り流れる。
アズはエルの尻をしっかりと抱え、性器が蕩ける射精の快楽に身を任せた。
胎内で出されるのを嫌い、口で射精させるのが常だったが、やはり緊迫する粘膜に密着させて出した方が快楽が強い。
アズは体液が込み上げるたびに、エルの臀部の奥を突き刺す。
どくどくっと流し込まれる熱い精液に、エルは密かに涙を零す。
アズには黙っているが、今日は妊娠の可能性の高い日だった。
親に無理矢理に結婚を決められたエルは、アズの子供を身篭もる事を選んだのだ。
無論、アズに言う心算はなかった。
婚約者は毎晩身体を求めてくるが、胎内に射精はさせていない。
生理が止まって、妊娠を確認するまでアズに子種を貰う心算だった。
「愛してるわ…アズ」
アズには聞こえないように、そっと呟いたエルだった。
大きく伸びをしたアズは、使用多可で怠くなった腰を叩いた。
エル=リアの幾度もの求めに、全て応じた報いだった。
「何か変だったな、エル………。まさか、溜まってた訳じゃないだろうし…さ」
乙女心も知らず、無神経な台詞を吐くアズ。
魔法雑貨店『メルクリウス』への、石造りの階段を降りていく。
休業中の掛け札が出された扉を、幾度かノックする。
「メイ、居るんだろ? 入るからな」
「いらっしゃい、アズ。待ってたんだ」
勝手知ったる他人の家で、薄暗い店内に入っていく。
カウンターで霊珠を弄っていたメイは、アズの姿から心無し視線を外す。
臨界だった欲情を鎮めたばかりのアズは、メイの頬が上気して染まっているのに気付かなかった。
「休業中の看板があったから、留守かと思ったぞ」
「ああ、今日からは収穫祭だろ? 来客なんか来ないんだしさ、戦太刀の属性付加に手間食っちゃって」
言いながらメイは、カウンター上に黒鞘の太刀を取り出す。
柄頭と握り柄の部分に、蒼銀色の霊珠が埋め込まれている。
ボロくなっていたグリップも新しく巻き直されており、鍛えられたばかりの新造品のようになっている。
「へぇ、お色直しもしてくれたんだ。サンキュ」
鞘から刀身を引き抜くと、硝子のように刃が煌めいた。
ミスリル銀製の刀身は、物理上は損傷する事はないとされてる。
純銀を精練した魔法金属で、非常に高価だが剣や鎧を作るには最適とされる。
「どうしても、霊珠の力場出力が安定しなくってさ。霊珠の並行的な位置関係を、魔技式術の方程式に当てはめて」
「だから、俺にんな事言っても分かんないって」
「兎に角っ、物凄い苦労したんだぞ!」
実際、メイの目尻には隈ができていた。
かなり無理をして仕上げたのだろう。
「本当の所、素材が良かったからボクにも出来たんだけどサ。今迄の作品で、最高の自信作だよ」
「ああ、凄いな。刀身に宿ったフィールドが、今迄と段違いだ」
子供が新しい玩具を貰ったように喜ぶアズに、満更でもない顔をするメイ。
「うんうん、感謝、感謝」
「じゃ、約束通り、龍の精髄の詰まった霊珠を貰うからな」
「ひとつで良いのか? 戦太刀にふたつ使うとは思わなかったよ」
「いいって、いいって。サービスにしとくからサ」
明後日の方を見て顔を引きつらせるメイ。
アズには敢えて黙っているが、ルーンの宿った魔道具はとんでもなく高価だった。
ましてや、龍の精髄が宿っている品は、滅多にない希少品である。
「それじゃあさ。今度、何か奢るよ。好きなの言っていいぜ」
「えっ…ぁ………本当…?」
後ろ暗さもなんのその、メイは胸を高鳴らせる。
徹夜で仕上げた甲斐があったというものだ。
「そ、あの…サ。きょ…今日、収穫祭だろ…? ボ、ボク…トウモロコシ焼きなんか食べたいナ…って思ってた」
「何だ、んな物でいーのか? いいぜ、すぐ買ってくるよ」
「ちっ、違うって………そ、その、い…一緒に、行っ………」
激しく脈打つ心臓を抑えたメイが、あらん限りの勇気を振り絞って言い掛けた瞬間。
何の脈絡もなく、閉店の看板の掛かっていた扉が甲高い音を立てて開かれた。
「おっにいちゃーんっ! 迎えにきたよーんッ」
「あれっ? ミイア、何でここに?」
わざとしい位の明るい声と共に、外出用にお粧ししたミイアが顔を覗かせた。
可愛いピンク色のブラウスの上に、浅黄色の外套を羽織り、菱形のお洒落な帽子から三つ編みを垂らしている。
「教会は閉めてきちゃったからぁ、約束通りぃ一緒にお祭りに行こ☆」
「閉めてきたって、お前なぁ。まだ、全然時間が早いぞ」
「だぁーって、お兄ちゃん遅いんだもん。ミイア、お迎えに来てあげたんだもん」
心無し頬を膨らませるミイアに、アズは髪をクシャクシャに撫でる。
「ぁん…セット崩れちゃう」
絶妙のタイミングで間を外されたメイは、肩を落として大きな溜息を吐く。
メイはアズに気づかれないようにして、ミイアを恨みがましい目で睨んだ。
不図、視線に気が付いたミイアが、メイに目で語りかけた。
同じ恋する女同士の直感で、メイはタイミングの良い横槍が偶然でない事を知った。
内心勝ち誇って舌を出すミイアは、実はしばらく前からドアの向こうで期を見計らっていたのだった。
状況を一目見て、メイがアズを好きだという事は分かった。
ぎこちない誘い言葉から考えても、ふたりが肉体関係を持っているような深い仲には見えない。
その手の感情に鈍いお兄ちゃんが、メイさんの想いに気づいてる筈ないし。
だったら、ミイアの方が断然有利だもん。
只でさえミルリッヒという強力なライバルが居るのに、幼馴染みなんか敵じゃないもんっとミイアは思った。
「さ、お兄ちゃん。早くお祭りに行こ、行こ。ミイアが恋人役になったげるからぁ」
お兄ちゃんは渡さないもんっと言いたげなミイアの得意げな顔に、メイは肩を震わせて悔しがる。
「こらっ、引っ張るなってば」
「お兄ちゃん約束したもん。早くー行こーよー」
「ま、待った。ア…アズっ、ボクのトウモロコシ焼きはどうなるんだよ!?」
メイの中の女のプライドが、思わぬ台詞を口走らせていた。
メイは自分で驚き、赤面しているのが分かっていた。
「メーイさん、焼きトウモロコシ位、ミイアがいっぱい買ってきたげる。だからぁ、大人しく待っててねー」
「ぐっ…トウモロコシ焼きはなぁ。焼きたてが一番美味しいんだよ!」
「ちゃんと帰り際に買ってきてあげますよー。遅くなるかも知れないけど…きゃは☆」
「ぬ、ぐぐっ…その☆はなんだよ! その☆はぁ!」
「やん、そんなの恥ずかしくって言えないもーん」
妙に殺気立ったふたりのやり取りに、アズは訳がわからず打開策を提案する。
「なんなら、メイも一緒に行こうぜ。ミイアと三人で収穫祭にさ」
「そんな、お兄ちゃ…」
「あ、いいかもしれない。うん、じゃあ、ボクも行く」
立場を逆にした意地悪げなメイの流し目に、ミイアは思い切り膨れた。
神代遺跡の施設をそのまま利用した噴水を中心にした、トザク村の真ん中の広場には様々な出し物が軒をつらねていた。
伝統的な所で烏賊焼き、玉蜀黍焼きに焼き鳥、飴売り。
見習いの魔道士が、小遣い稼ぎに作ったような、ちょっとした魔法の玩具。
この時ばかりは羽目を外すのを許される子供達は、なけなしの小遣いをポケットに詰めて店々を見て回る。
年頃の少女達は、都から流れてきた流行の服や小物を娯しげに物色する。
ナイフ投げの少年が林檎を針だらけにし、口から火を吐く大男に歓声があがる。
夜も晩ない内から立ち並んだ出張酒場は満杯になり、仕事から開放された大人達も麦酒や蒸留酒で喉を潤す。
「うわっ、うわーっ! すっごーいッ。あっ、お兄ちゃん、あれはあれは?」
メイと睨み合っていたミイアだったが、思いの外喧騒に溢れていたお祭りの様子にすっかり心を奪われてしまっている。
「きゃん、あれ可愛いーッ。あん、お兄ちゃん、これ美味しそーだよぉ」
「もう、ミイア。そんなに慌てなくていいから」
瞳を煌々させるミイアに苦笑するアズが、果実を搾った飲み物を買い与える。
赤くどろどろした液体に興味を引かれ、自分とメイの分も注文した。
「はい、メイ。結構いけるぜ」
「あ、う…うん。ありがと」
酸味と甘味の混じり合ったジュースは、温かい地方で作られる果実製だった。
メイは喧嘩を売ってきたミイアの様子に、すっかり拍子抜けしていた。
「ん………ミイアの奴さ、物心ついてから、ずっと修道院暮しだったらしくてさ。初めて行くんだって、すっげー楽しみにしてたんだ」
「そっか、司祭の人って皆そうだもんな」
根が善人のメイは、恋敵のミイアに素直に同情してしまう。
アズは木彫りのグラスを飲み干して、店に返す。
「そうだ、俺の刀に名前つけてくれないか?」
「えっ、ボクが? 何で?」
妙に可愛く、両手でグラスを握るメイが聞き返す。
「いいじゃん。メイの造った魔剣なんだし、銘無しじゃ様にならないからさ」
「そんな…急に言われても、精竜剣じゃ駄目かな?」
「ん、もっと格好良いのないか?」
「え、じゃ…じゃ、竜だから………。うん! 餓竜刀っての、どうだい?」
アズは言葉の響きに頷き、メイのセンスの良さに感心する。
「イイっ、すっげー良い感じ。何か、強そうだし」
「そう、じゃなくて、実際強いんだよ! 通常の斬撃力もそこらの魔剣なんかに負けないし。なにより、竜属の魔技式術を増幅すんだかんな」
得意げに眼鏡を押し上げるメイ。
「そうっ、それそれ! 魔式の発動言語、教えてくれる約束だろ?」
「へん、教えて欲しけりゃ、ボクに貢ぎなよね。まずは、トウモロコシ焼き食べたんだってば」
「汚いぞッ、メイ!」
「お兄ちゃーんッ! ミイアも焼きトウキビ食べたいよぉ」
無邪気な悪女ふたりに挟まれたアズは、財布の行方を思って深い溜息を吐いた。
トウキビ焼き、烏賊焼き、林檎飴、お団子に焼き栗。
ミイアとメイは一時休戦したのか、アズにおんぶに抱っこして収穫祭を満喫する。
ミイアには錦織の可愛いリボンと、本人の希望で銀の鈴をふたつ。
メイは翡翠とルビーのイヤリングを所望した。
遺跡の探索でため込んでいた資金が、ガスガス減っていく。
ま、喜んでくれるなら少しくらい、いいけどね。
「うわぁ! お兄ちゃん、機神だよ、機神ッ」
綿菓子とチョコバナナを手にしたミイアが、座り込んだ巨大な機動仕掛けの甲冑人形を物珍しげに指差す。
旅芸人の旅団が所有している機動甲冑なのだろう。
人型をしているとは言っても、ずんぐりむっくりしたボディに頭はなく、足が短い代わりに手は妙に長い。
お世辞にも格好いいとは言えず、まるで手長猿のようだ。
「念の為教えといてあげるけど。機神てのはさ、神様が作ったオリジナルの機動甲冑の事を言うんだよね。これ、多分ハヌマーンGY型だと思うけど、欠陥品のかかしだって噂があったケド」
キャラバンのマスコット的な役割を果たしているのだろう。
装甲は極彩色で塗りたくられ、無意味な飾り付けがなされている。
機動甲冑のシンボルである機神剣は、幅広の巨大な曲刀をしていた。
「………そういや、アズさ。君の『龍皇』って何処にあるんだい?」
不意に、メイは声をひそめてアズに囁き掛ける。
「それは俺が知りたい。機神剣だけあって、甲冑の方が何処にあるか知んないんだよ」
「どうしてだよッ。ボクにまで秘密にする事ないだろ」
「マジだって! 機神剣を抜いた瞬間、迷宮の外に転移させられてたんだ」
「そんな、マジなのか?」
「もーうっ、お兄ちゃんミイアの事、仲間外れにしてるぅ!」
ひそひそ話をするアズ達に、勘違いしたミイアは膨れて割り込む。
見せびらかすようにアズの腕を抱え、乳房を押し付ける。
メイの方がグラマーなのを、嫉妬しているミイアだった。
「ねぇ〜お兄ちゃぁん…腕組も、恋人みたくー腕を組もうよぉ」
「こらっ、其処の色欲多情な司祭! アズにベタベタくっつくんじゃない!」
「むぅ! しっつれーな事言わないでっ。第一ぃ、メイさんってお兄ちゃんの何なの?恋人でも何でもないんでしょお?」
びぃーっと舌を出したミイアが、アズにこれ見よがしにひっつく。
アズは後ろ暗い事がある反面、邪険にも出来ず戸惑ってしまう。
メイはそんなアズの煮え切らない態度に、不快指数が増す。
「き、君こそアズの何なんだよっ!? そんなベタベタくっついて、恥じらいってものが無いのかよっ。アズが迷惑してるのが解んないのか?」
「あ、あのね。ふたりとも………」
「迷惑なんか掛けてないもん! お兄ちゃんはミイアの事を可愛がってくれるんだもん。 ご飯だって美味しいって食べてくれるし、優しくしてくれるもん………ベッドの中でもねッ」
「………ッ!?」
「馬鹿! ミイアっ!」
「お兄ちゃんはミイアのだよ。メイさん関係ないじゃない!」
頭に血の昇ったミイアは、アズの制止を無視して勝ち誇ったように言い切る。
血の気の引いたアズに負けず劣らず、メイも訳の解らない感情の中で蒼白になる。
「………アズ…本当なのか………?」
「あ、いや…だからっ、それは………」
心無し俯いたメイの声が、冷たく震えていた。
激しく動揺するアズが、墓穴を掘りそうな言い訳を口に上らせかける。
救いの神ならぬ、邪魔の嘲笑がアズを救ったとも言える。
「けへっ、とんだ愁嘆場みてーだな」
「ああ、色男は辛いって訳だ。垂らし野郎がよぉ」
下種な笑い声を上げる男達は、アズ達を囲んだ。
村でも札付きの悪党どもに、祭りを楽しんでいた人々も無関係を装い離れていく。
村のまとめ役の長男ザイクがリーダーであり、自警団も罪を容認せざるをえない。
アズは無意識に相手の戦闘能力を確認していた。
人数は六名、武装は長剣と棍棒、短剣の類い。
魔具ではないだろうし、防具の類は身に付けていない。
タイマンで戦えば敗ける事はないだろうが、囲まれてフクロにされれば脅威だ。
「お嬢ちゃん達、俺達が替わりに可愛がってやってもいいんだぜ?」
お世辞にも見栄えするとは言えない顔のザイクが、好色に笑いながら仲間に同意を求める。
「そんな軟弱野郎より、ずっと気持ち良くしてやっからよ。付き合えよ」
「びぇーっだ! ブ男が何気取ってんのよ。気持ち悪いから触んないでッ!」
相手を知らないミイアが、思い切り舌を出すとアズの腰に抱きつく。
もっとも、神官は治外法権を持っている。
「あんだとっ、このアマがっ!」
「止めた方がいいんじゃないのかい? この子は、赴任してきた新しい司祭様だよ」
追求の腰を折られたメイが、物凄く不機嫌な声で忠告する。
神官の殺害や、傷害を加えるのは重罪だ。
お世辞にも権力者に従順とは言えない俺が村八分にならないのも、ミル姉の身内であるからだ。
「そーゆー事! ミイアのお兄ちゃんに手ぇ出したらぁ、許さないんだからッ」
「うせてくれない? 君達は目障りだよ。ボクは話の続きがあるんだケドね」
ミイアに続いて、目の据わったメイが過激な言葉を吐く。
メイの奴、思い切りきているらしい。
流石に色めき立った悪党達だったが、メイは懐から拳大の水晶球を取り出した。
「護球覚醒・攻制モード起動」
メイの台詞に反応した護球は、鈍色に発光しながら空中に浮遊した。
護球とは、魔道士が身を守るために作り出した魔具だ。
属性を付加した複数の護球を操り、結界や攻撃魔術を使う事も出来る。
魔力を有し、強力な魔術を操る魔道士だが、戦いの場においては無力だ。
切り合いをしている中で、長々と呪文を唱えるわけにもいかない。
前もって召喚した幻獣や、魔具を用いる。
「ばっ、メイ! 正気か?」
「君は黙ってろ!」
理性の決壊しそうなメイの怒声に、アズも悪党も激しい危険を感じた。
舌打ちを残して悪党達が去りぎわに、アズに向かい外卑た捨て台詞を吐いた。
「けっ、良い身分だな。てめえの捨てた女は、俺達がたっぷり可愛がってやったぜ」
「どういう事だ!?」
含みのある嫌らしい台詞に、アズは声を荒げる。
好色に嘲笑するザイクが、得意げに言葉を続ける。
「お前が捨てられたんだっけか? 良い身体してたぜ、エルはよぉ」
「なっ………」
「親父がよ、弟の婚約者決めたってからよ。味見してやったんだよ」
エルの結婚相手は村長の次男だったのか。
立場上、エルの両親も断ることは出来ないだろう。
ザイクは両親に愛想を尽かされているので、次男が跡目を継ぐことが決まっている。
「まっ、弟の物は、昔から俺の物なんだからよ。あの女の所有権は俺のだ」
「へへっ、ザイクさん。俺等もまたご相伴させて下さいよ」
「具合良かったぜぇ。馬小屋に連込んで輪姦してやったんだよ。あのアマ、自分から腰使ってきてよぉ」
「良い仕込みだったぜ。顔もケツも、俺達の精液塗れにしてやったぜぇ、ぎゃは」
身振りを交えて解説する男達に、アズは腹腔にどす黒い憎悪を感じた。
意識せずに戦太刀の鳥羽口を切り、餓竜刀を抜刀する。
ミイアが制止の悲鳴を上げかけた瞬間。
ザイクの正面に踏み込んだアズは、鋭い斬撃を打ち放った。
魔獣を相手に腕を研いてきたアズの剣術は、並みの『狩人』を凌駕する腕だった。
アズの居間は、ザイクの服ごと皮一枚を十字に切り裂いていた。
冷たく表情を凍らせたアズは、ゆっくり戦太刀を納める。
「二度とエルに手を出すな。貴様等をぶち殺す事ぐらい簡単なんだぜ………」
「ぉ…おにいちゃ………」
「アズ、行こう。ここじゃ人目があるよ」
小さく震えるザイクを尻目に、アズは餓竜刀を握る手に力を込めて振り返った。
「ざ、ザイクさん。大丈夫ですか?」
「畜生っ…舐めやがって、ぶっ殺してやんぜ」
去って行く三つの人影を、ザイクは憎悪を込めて見送った。
「あの娘には刺激が強過ぎたみたいだね」
「ああ………」
あの後、アズの別の一面を垣間見たミイアは、暫らく口もきけなかった。
少なくとも祭りを楽しめる状況ではなくなっていた。
祭りの広場を見下ろせる高台に腰を下ろしたまま、アズは無言で煙草を吹かした。
ミイアは先に教会へと帰した。
外見だけは元気していたが、初めて身に浴びた殺気に笑みが強ばっていた。
嫌われたかな。
アズはメイの話を聞くとはなしに、紫煙を吐き出す。
思えば今日のエルがおかしかったのは、彼奴等に凌辱された所為もあったのだろう。
気丈なエルだから、耐えていられたのだろう。
「………ず…アズっ! 人の話聞いてるのか?」
「あ、済まない。何か言ったか?」
一瞬むっとしたメイが、何か言いかけて溜息を吐く。
暫らく俯いたままだったが、不意に呟くような言葉で問い掛けた。
「あの娘………ミイアちゃん、抱いたって本当…?」
触れたくない話題をぶり返されたアズは、熱っとなって振り向く。
メイの膝上で握り締められた拳に気づく事はなく。
「しつこいぜ、メイ。お前には関係ないだろ」
「抱いたの? 抱いてないの?」
「くッ………抱いたよ」
煙草と一緒に投げ捨てるように言った。
訳の解らない苛立ちが沸き上がったアズは、メイを怒鳴りかけた。
だが、メイの細い肩が震え、握り締めた掌に涙の雫が零れるのに息を飲む。
「ボクは………ボクは君の何なんだ?」
「え…?」
「アズはミルリッヒさんが好きなんじゃないか? なのに何で………」
暗喩な責め言葉に、アズは言い訳も出来なかった。
「なのにエルさん、そしてあの娘………。ボクはもう解んないよ! ずっと我慢してたんだぞッ。君がミルリッヒさんが好きだって言うからッ………」
「メイ、何言って………がッ!?」
後頭部に強い打撃を受けたアズは、呻き声を上げ崩れた。
意識を失う前に、逆転する視界の中で、棍棒を振りかぶったままにやけるザイクの姿を捉えた。
同時に、霞む意識の中で、ゴロツキに囚われていたミイアの姿も。
「アズっ! 貴様たちっ、何の心算だ………ぅぐッ!」
「おに、お兄ちゃん! 嫌ぁ、放して…お兄ちゃぁん!」
続けて二本の短刀が、無防備なアズの背中に突き立てられる。
倒れ伏したアズの頭から流れ出た血で、石畳が真っ赤に染まっていく。
羽交い締めにされて口を塞がれたメイの手から、護球が転がり落ちる。
教会へ着く前に拉致されたミイアも、呪文を唱えられないように猿轡をされていた。
「へっ、殺されるのはどっちだってんだよ!」
「ザイクさん、殺しちまったんですかい?」
「知るかよ。んな事より、折角の獲物だ。楽しもうぜぇ」
藻掻くメイとミイアの身体を、無数の手が乱暴にはい回る。
地面に押さえ付けられたメイの目の前で、手足を別々の男達に押さえられたミイアが、服を胸元から引き裂かれた。
ミイアのまだ幼い、新雪のような白肌の乳房が零れた。
「いっ…嫌あっ、お兄ちゃん、お兄ちゃーん!」
「へへっ、こっちの餓鬼は俺が一番手ね」
「早く済ませろよ。順番詰まってんだからよぉ」
「そっちの眼鏡女と犯ればいいだろ?」
「冗談言うなよ。顔にハンカチでも掛けろってかぁ?」
言いながらその男は、メイを俯せにすると尻を掲げ上げさせた。
足首まであるスカートを捲ると、予想外に綺麗な足と、肉の張った臀部が顕になる。
メイは必死に藻掻くが、男の力にねじ伏せられる。
「おおっ、でっけーケツしてやがるぜ。案外、具合いいかもな」
「もっと股、開かせろよ。暴れて堪んねえぜ」
ミイアの股間に腰を入れた男は、醜く隆起した肉根を、陰毛も淡い可憐な女性器にねじ込もうと腰を押さえ付けた。
手下達の所業を笑い眺めていたザイクは、当初の計画を思い出してアズに近付く。
血溜りに顔を埋めて、身動ぐアズの髪を掴んで上げさせる。
「よく見てみろよ。いい様だろぉ? 俺様を虚仮にした報いを、たっぷりと身体で償ってもらうぜ」
脳震盪と出血症状で失神しているアズの目には、無論何も見えてはいなかった。
二人の男に手足を押さえられたミイアの上で、初めの男が遮二無二腰を振っている。
強姦されるミイアは、泣きながらアズに助けを求める。
「いいぜ、いいぜぇ! 餓鬼のくせに絞めてきやがる」
「ラッキーだな。これからちょくちょく呼び出してセックスさせようぜ」
「ああ、ぐちょぐちょに犯されたのをばらされたくなかったら、俺達の言いなりになりな! 飽きるまで毎日可愛がってやるぜ」
勃起した肉根を下着の脇から宛がった男が、メイのバージンを貫こうとした瞬間。
「ぎゃ、ぎゃあぁ!! 俺の足、俺の足があぁ!」
唐突にザイクの悲鳴が上がった。
手下達の誰もが動きを止め、握り潰したザイクの右足を投げ捨てるアズの姿を見た。
「あっ、あっ…お兄…お兄ちゃ………ぁ」
「ぁ…アズ? っ………放せ! この強姦魔やろーっ!」
精神的ショックで息絶え絶えのミイアの恥丘から、にゅぶり…と肉根が抜き出た。
隙を突いたメイも、今まさに挿入仕掛けていた背後の男を蹴飛ばす。
「て、ててってめえ!」
「ザイクさんっ、貴様ぁ! アズ、ぶっ殺す!」
正気に戻ったゴロツキ達は、手に手に有り合わせの武器を握った。
「お兄ちゃん………」
ほっとしたように呟くミイアに、メイが駆け寄った。
凌辱されてうずくまるミイアに、外套を掛けて抱き締める。
「大丈夫!? ミイアちゃん」
「メイさんも………」
「ボクは平気。それより………あのアズ、おかしいよ、正気じゃない。危険だ」
額から流れだした鮮血で、顔を真っ赤に染めたアズは、幽霊のように希薄な存在感のままに仁王立ちしていた。
メイやミイアを気遣う視線すら向けず、色の無い無機質な瞳で辺りを睥睨している。
例えれば、古の大樹のような異質な存在感にゴロツキも恐怖する。
異様な力によって千切り取ったザイクの右足を放り投げると、冷たく瞳と同じ無感情な声で呟きを洩らした。
「魔儀式術発動、肉体再生・開始………」
「魔式…だって? 何故、アズが使えるんだ?」
ミイアを抱き抱えたままのメイが、驚きの声を洩らした。
薄暗くなり掛けた遺跡を背後に、アズの身体が白い蛍光を纏う。
「…治癒…術の、光り……お兄ちゃ…?」
「ワ…我ハ…『龍・皇』ナリ。我ガ主人ノ、身体ヲ傷ツケル者…強制排除ス」
例えるならば、樹齢数百年の聖霊が出す声。
驚異的な畏怖感と、存在意識が空気を震わせる。
「機神剣・招来」
発動言語に応じ、アズの自室に仕舞ってあった機神剣が、手の中に実体化する。
ザイクの取り巻きたちが、それを見て激しく動揺する。
「なっ、何でこいつが騎士!? 冗談………」
「馬鹿! びびるなッ、はったりだ。第一、機動甲冑がなきゃ意味がねえはずだ」
「知るかよ! こんな話は聞いてねえよ。俺、抜けさせてもらうぜ」
ミイアを凌辱していた男が、怖気づいて後退りした。
実物を見た事がなくとも、伝説として騎士の強さは誰もが知っていた。
抜き身の機神剣を地に当てたアズは、小さく息を吸い込む。
その意図と、目標を感じたメイが反射的に声を上げかけた瞬間。
「アズっ…止め………ッ!!」
「『駆爪』!」
魔道の祖、ソーサル=ロウが編み出したとされる魔技式術は、霊珠を媒介に強力な術式を発動させる。
アズの言葉を発動言語に、竜が属の魔技式術が顕現する。
機神剣の触れた石畳みに、四つの爪痕が抉り込まれた。
見えない巨大な爪が地面を引き裂き、轟音と共に大理石の石柱を切り倒す。
爪痕の軌跡に居た男を輪切りにしたまま。
余りにも一方的な惨殺に、ゴロツキ達は恐怖にかな縛る。
「こ、殺…こ、殺し」
「アズ! 幾ら何でもやり過ぎだぞっ。逃げる奴を後から殺すなんて!」
血の気の引いたメイの抗議に、アズは虚ろな瞳で振り返った。
背中の傷も、額からの流血も、完全に治癒しているのにメイは気づいた。
同時に、別の人格がアズを支配しているのにも。
「第一次・自己防衛機能…起動中。殺人、殺傷許可…確認」
「龍皇…? 龍皇の擬似人格だろ、お前は!」
メイの洞察通り、アズの肉体を動かしているのは機神『龍皇』に他ならない。
同一化式インターフェースユニットによって、太古の昔に書き込まれた自己防衛本能のままに行動していた。
「機動甲冑、起動確認。敵対意志ノ存在感知………」
「わっ! それ違うってば! 止めろッ、馬鹿っ!」
騒ぎに気づいた祭り広場では、この場から逃げ出したゴロツキのひとりが、強引にハヌマーンを動かそうとしていた。
アズの、正確には龍皇の次の行動を予知したメイは、パニックになり掛ける。
「転移陣固定」
機神剣を地面に突き刺すと、刀身に書き込まれていた魔法陣が立ち上がる。
空間に光の帯が走り、燐光を宿した雪のような立体魔法陣が構築されていく。
「メイさん、何が…?」
「だから、あの馬鹿! 龍皇呼び出す心算なのか!?」
「AZ=REKISANDURA=DRAGONRORDノ名ニオイテ、封印ヲトク………『機神召喚』!!」