が来る!
― square of the MOON ―

短編 After Story





ラブラブな日々で行こう!
(Original Version)





Monday:

鏡花と一緒の月曜日










 コウヤとの超常バトルから一月が過ぎようとしていた。
 様々な傷を、そして思いと記憶とを残した戦い。
 だが、桜水台学園・天文部のメンバーにも賑やかだが、それなりに平穏な日常が戻ってきていた。










「ねっ、亮。アンタも一緒に買い物、付き合ってくれるんでしょ?」

 放課後の天文部室。
 何気ない鏡花の一言に、みんなの視線が集まる。
 今更、と言われるかもしれないが、かなり照れる。
 俺と鏡花はあの戦いの後、正式な恋人関係になっていた。
 天文部のみんなに対して、特別に気まずい思いがあるわけじゃない。
 というか、周りの連中もほとんど『ばカップル』みて〜な組み合わせだし。

「今夜は鏡花さんの手料理ですか? も〜相変わらずラブラブですね、先輩たちは♪」

 とか言いつつ、ちゃっかりと百瀬の隣をキープしている真言美ちゃんが茶化す。

「まあね。亮の奴が、どうしてもアタシの手料理を食べたいって言うから、仕方なく作ってやろうかな〜って感じだけど」
「そっか………そうゆうのも良いよね」

 新開さんの隣に座ったいずみさんが、ひとり納得している。

「私も、手料理とか作ってあげようかな?」
「お、おうっ! 何ぼでも作ってくれ」

 上擦った声で承諾した新開さんが、
物凄い汗をダラダラと流し始める。
 大方、いずみさんの手料理をイメージしたのだろう。
 パブロフの犬と同じ現象だ。

「………勇気あるよな、ゴリポン」
「まあ、特に身体に悪い料理じゃないんだが」

 確実に胃には悪そうだ。
 俺は新開さんが、最近『痔』で悩んでいる事を知っている。
 そんな事を相談されても、非常に困ったのだが。

「先輩もチャレンジャーだと思うぜ?」
「ま、まあ、覚悟はしてるよ」

 動揺する心を抑えつける。
 今更、鏡花の機嫌を損ねるわけにはいかない。
 そう、総ては深謀にして遠大な計画を遂行するために!

「………何か、結構リキ入ってますよね、今日の先輩」
「………ま、良からぬコト企んでるのは、解ってるんだけどね」
「………はあ。大人ですね〜、鏡花さん」










「おっじゃましまーす」
「いらっしゃい」

 一緒に部屋に入りながらも、そんな挨拶をする自分たちが滑稽で、ちょっと笑う。

「白々しいよね?」
「でも、お約束みたいなモノだしな」

 制服姿のままの鏡花は、背負っていたバックを奥に放り投げてから靴を脱ぐ。
 バックの中身は、所謂『お泊りセット』だった。
 どうでも良いが、何のてらいも無しに其のバックを学園に持ち込むのは如何なものだろうか。
 流石に教室ではなく天文部室に置かれていたわけだが、特に真言美ちゃんの意味深な含み笑いが心に突き刺さった。

「はぁ…ちょっと休憩」
「重い荷物を持っていたのは、俺の方だろうが」

 スーパーのビニール袋を両手に提げて商店街を歩くのは、ある意味『狭間』での訓練よりキッツイものがあった。
 隣に寄り添っていた鏡花とのツーショットに、『あらあら、近頃の若い者は、本当に』というオバサン方の心の声が聞こえた気がした。
 大声を上げながら手足を振り回し、その場から逃げ出したくなったくらいだ。
 まあ、実際に聞こえてる筈の鏡花は、何かどことなく嬉しそうな顔をしてたが、何故だ?

「夕飯の仕度は、もうちょっと後で良いでしょ?」

 ソファーに座り込んで伸びをする鏡花は、自分の部屋のようにくつろいでいた。
 そんな飾らない彼女に惚れたのは自分なのだが。
 何と言うか王様、というより
女王様のようだな。

「………ちょっと、何気に失礼なコト考えてない?」
「事実だろ」

 基本的に鏡花に対して、隠し事は通用しない。
 こういう場合は開き直るに限る。
 制服を脱いでから、鏡花の隣に腰掛けた。

「ふ〜ん…『飾らないアタシに惚れた〜』とかいう件はどーなのかな?」
「それも事実だし」
「ほ、ホントに開き直ったわね」

 珍しく赤面した鏡花が、膝を抱えるように丸くなる。
 確かに俺は飾らない鏡花が好きだ。
 そこに今回の趣旨がある!!


「はぁ………それで? 今日はアタシに何をさせたいのかしら」
「うむ。
エプロンをして頂きたい」
「はあ?」

 他の想像をしていたのか、鏡花は拍子抜けしたような声を上げる。

 
多分、その想像は間違っておられない。

 何で変な敬語になってるんだ、俺。

「そりゃ、するわよ? 料理作るんだし」

 ちなみに、既に俺の部屋には、鏡花専用のエプロンやタオルや歯ブラシやパジャマなんかが置いてあったりする。

「いや、確かにそうなんだが…」
「何よ。どうせ、また変なコト考えてるんでしょ?」

 考えております。
 というか、ビジュアル付で脳裏に………いかん。
 案の定。
 鏡花の顔が、見る見る真っ赤に染まっていく。

「………ヤッちゃえ、チロ!!」
「シャー…ガブリッ!」
「あぎゃア!」

 照れる鏡花も可愛い………それより、本気で痛いよ、チロ。










「ホンットに信じらんない!」

 鏡花さんは何やらご立腹のようだった。
 キッチンから鏡花さんの罵倒が、休む事無く聞こえてくる。

「そーゆーコトさせたがるなんて、アンタって救いようが無いくらい変態よね」
「男として、当然の野望なんだ」
「ホントに馬鹿」

 今、鏡花さんは何やら野菜を切っておられるようだ。
 今日のメニューは何だったか。
 取り合えず、今は何も考えられませんね。

「………ちょっと。振り向いたら、殺すわよ?」
「承知」

 
嘘だけど。
 正確には嘘じゃないんだけど。
 何を言ってるんだ、俺。
 まあ、それぐらい感激してる自分が居た。
 ソファーに座った俺は背もたれに思いっきり寄りかかり、そのまま天井を通り越して背後に頭を釣り下げている。
 反転した視界に、鏡花が台所で料理する姿を捕えている。
 そう、裸にエプロンのみをした鏡花の後姿を!
 すらりとした脚とか。
 きゅっとしたお尻とか。
 うなじから背中にかけての見事なラインとかが、総て目の前に。
 何だかんだと文句を言いながら(キッツイ罵りと物理攻撃も有ったが)、本当に裸エプロンをしてくれた鏡花が愛しい。
 
嗚呼、有難う、鏡花!
 
有難う、美里さん!

「………何でそこで、お姉ちゃんが出てくるのよ?」
「うっ………特に意味は無いのだが」

 微妙に怖い顔で振り向いた鏡花だったが、大きな溜息を吐いてエプロンをした腰に手を当てる。
 ちなみにエプロンのデザインは、ピンクの生地にフリルが幾重にも重ねられた可愛い系だ。

「もう…亮ってば、こういうのが好きなの?」
「はっきり言って、好きです」

 鏡花と付き合い始めてから、正直になり過ぎてる自分が怖い。

「お尻とか、アタシの裸なら………ほとんど毎日見てるじゃない」

 いや、まあ、それはそうなんだけども。
 鏡花に裸エプロンをしてもらいたかったんだ、俺は。
 恥ずかしいんだけども、好きな男の望みならば、というのをして頂きたかったのだ。
 普段は我がままというか、自己中心的な性格の鏡花だが、実は惚れた相手には結構健気なタイプであると思う。
 強気で押せば大抵、俺の意図に従ってくれるのだ。
 少なくとも、ベッドの上では。

「ま、いいわよ。………料理が終わるまで、変なイタズラしちゃ駄目だからね?」
「了解」



 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 
ゴメン、嘘。

 というか、そんな可愛い念を押されて、黙っていられる男がいるだろうか?
 断じて否である!
 極限まで意識を研ぎ澄ませたストーキングで、鍋を掻き回している鏡花の背後に忍び寄る。

「………♪ ララ…♪………」

 普通の人間なら、それどころか火者や光狩にすら、今の俺の気配を捕える事は出来ないだろう。
 呼吸すら止め、鏡花の背後に立つ。

「…♪♪…ル………ラ♪」

 唯一、俺の隠形の通じない相手が居るとすれば。
 『サトリ』である鏡花だけなのだ。
 つまり、期待してくれてると解釈して良いのだな♪

「ッ…違っ!」

 弾けるように振り向きかける鏡花の手を、重ね合わせるようにして押さえる。
 そして、怒ったような表情で瞳を潤ませる鏡花に、唇を重ねた。

「ぅ…や、亮………ぉ」
「好きだよ。鏡花」

 舌先で舐めるように、小鳥がついばむように、繰り返しキスをした。

「ヤダ…ずるい、よ………亮の…バカ」

 鏡花が身体を委ねるように、小さく寄りかかる。
 所謂、『スイッチが入った』状態の鏡花に、心の中でガッツポーズをした。

「………バカ」
「そういう口を叩けるのも、今の内だぞ」

 背中から抱き締めた格好のまま、ゆっくりと太腿を撫でる。
 脂肪がついているわけではないのだが、凄く軟らかくて滑らかな肌。

「手つきが…おぢさん臭い」
「さては、そーゆーのがイイんだ? 鏡花は」
「違う…んっ、はあ!」

 エプロン越しに乳房に触れると、掌の中心に確かな凝りが感じられる。
 そこに中指を乗せ、押し付けるようにして揉むと、鏡花の身体がタイミングに合わせて震える。

「…やァ…ああ…やッ…」
「何か、最初から反応が良いみたいだな?」

 感度が良い鏡花だったが、明らかにいつもよりも身体が『出来あがる』のが早い。
 肝心な部分に直接触れる前から、声にも艶が混じっていた。

「そ…そんなコト………無い、モン」
「ホントか、な」

 脇の下を潜らせるようにして、両方の乳房を直に包んだ。
 ワサワサと淫らに蠢くエプロンの胸当てを、鏡花は隠すように押さえた。

「ゃ…ホントにやらしい…ってば」
「やらしい事してるんだ」
「バカ…ぁ、何で、そんなに…嬉しそうに…してんのよぉ…」

 それは事実、凄く嬉しいし。
 普段は気の強い鏡花の、泣きそうな顔とか見てると、何となく意地悪したくなるし。

「変態…色魔…スケベ…」

 ここで否定するつもりは無いです。
 というより、鏡花も割りと好きな方なのは、既に承知だし。

「亮の方が、絶対エッチだよ………もう、こんな硬くして」
「ッっ…」

 手探りで伸ばされた鏡花の手が、俺の股間に触れる。
 言わずもがな、これ以上ない位に反応を示している。

「ね………亮? シテあげよっか?」
「…ッ」

 恥ずかしながら、声を出せなかった。
 意地悪そうな、それでいてどこか媚びるような、覗き込むような鏡花の瞳に囚われてしまった。

「ふふっ…じっとしててね。まだ、馴れてないんだから♪」
「………噛むのだけは勘弁してくれ」

 そんな憎まれ口を叩くのがやっとだ。
 足元に跪いた鏡花が、制服のジッパーを下ろす。
 さらけ出されたそれは、鏡花の指を弾くように反り返った。

「きゃ…って、もう…こんなになってる」

 裸エプロン姿の鏡花が奉仕してくれるという期待だけで、痛いぐらいに充血してしまっていた。

「やっぱり、亮の方が助平じゃない………んっ」
「…っくう」

 みっともない声が漏れて、無意識に腰が引ける。
 いかん。
 こんな計画では無かった筈なのに。
 だが、嗚呼………畜生、鏡花も上手くなったな。

「だって、んゥ…はぁ………色んなコト…亮が仕込むから…はむっ」

 暫し、粘っこい音と、鏡花の荒い息遣いが台所に響く。
 先端を咥えたまま根元を扱かれ、込みあがる射精感を必死で堪えた。

「あん………イッちゃっても良いのに」
「そ、そーゆー訳には」

 というか、俺はここまでのテクを教えてないぞ。

「ふふん。アタシもそれなりに勉強したもんね。何時までも亮に鳴かされるだけってのも、つまんないモン。………あ、雑誌とかだから、心配しないでね」
「それはそれで、問題があるぞ」
「素直に喜びなさいよ………こうなったら、意地でもイカせてあげるっ♪」

 くう、本気で気持ち良いぞ。
 確かにマジで嬉しいのは確かなのだが。
 せめてベッドでの主導権ぐらいは、俺が握っていたいと本気で思う。
 昼は鏡花に完全に尻に敷かれている訳だし。

「ん、んん…っ、ほら。こんなにピクピクしてるんだよ。………我慢しないで」


 
ふおおオオオオォォォ!!
 護国の英霊よ!
 我に力を与えたまえ!!
 色即是空、空即是色!
 六根清浄!六根清浄!!六根清浄ォォ!!!


 …

 …

 …

 ………一瞬、
向こう側の世界を覗いた。


「………ん、もう! 亮のクセに我慢強いじゃない」
「ふ、ふふ…今度は俺の番だな?」
「きゃ…ちょ、ちょっと、強引過ぎる」

 抱きかかえるように鏡花を立たせると、流し台に両手を突かせる。

「あのね、亮ぉ………本気で恥ずかしい」
「いいんだ。それが本来の趣旨だから」
「趣旨って………ヤ。いきなり…は」

 逆手で鏡花のお尻を撫でると、ヌルリとした粘液で濡れていた。
 途中で意識が跳んでいたので解らなかったが、どうやら自分の指で同時に慰めていたらしい。
 股間にまで掌を這わせ、指先でひときわ軟らかい媚肉を開く。

「ヤ、ぁァ…亮…ぉ」
「鏡花…濡らしすぎ」
「バ…バカ………あ!」

 鏡花の腰を抱えるように掴み、腰を突き出した。

「うあ、あッ…ッ………っ!っッ!!」

 根元まで挿入した瞬間。
 がくがく、と痙攣した鏡花が強く俺自身を締め付けた。
 鏡花は俺に奉仕してくれながら、自分でも昂ぶっていたのだろう。

「………頭の中、真っ白になったみたい………」

 脱力して流しに上体を預けた鏡花が、夢見心地で呟いた。
 下半身も俺が腰を抱えていなければ、崩れてしまうだろう。
 目の前にさらけ出された背中に汗が浮かび、艶っぽく光って見えた。
 さて、これからが本番である。

「ちょ…ちょっと………う、嘘でしょ?」
「ホント」

 イヤ、マジで。
 だって、俺はまだイッて無いんだし。
 夜はまだまだ長いんだし。

「せ、せめて…ちょっとだけ休憩とか」
「………鏡花。愛してる」
「りょ…」

 その台詞で、鏡花が抵抗できなくなると知っていたけど。
 でも、それは俺の心の『本当』だったから。

「亮の………バカ(はぁと)」










 その夜は、当然一緒にベッドで寝た訳だが。
 ちょっとした問題が発生した。

「………ちょっと、じゃなぁ〜い!」

 いささか無理な我慢をした所為だろうが、俺のナニが治まらなくなってしまったのだ。
 うむ。
 どうせ一時的な症状であろうし、折角のシチュエーションを堪能させて貰おう。
 まあ、俺も鏡花もセックスは割りと好きな方だし。
 どこまでイケるかチャレンジしてみるのも一興だろう。

「………私が死んじゃうってば!」
「まあ、その………なんだ」
「なによぅ…」

 流石の鏡花も、既に涙目状態だった。
 何度も何度も達した身体は、火照りきって完全に脱力している。
 自分で四肢を動かせない鏡花は、俺の成すがままだった。
 継続する余韻と絶頂感に、本当に息も絶え絶えといった様相だった。

 …

 …

 …
 ゴメン。
 本気で可愛い。
 こんな状況じゃなくても、元気になった事、疑い無いです。

「大好きだよ。鏡花」
「うぅ………亮の大バカァ! 憶えてなさいよね!」

 抱き締めると、微かに抱き返してくる鏡花に頷く。
 忘れるわけは無い。
 多分、これから先も、ずっと。
 繰り返されていく、俺達だけの夜だから。




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