竜園
Original Novel
-迷宮神話-
第V章 魔法街の占術士
陽光がラグナロクを囲う城壁を掠める頃。
魔法使いエミュールは、まじない通りに近い宿から商売に向かった。
魔法使いの魔法力は、生来の素質で決まる。
神官に必要な能力も、魔法使いと同じ魔法力だ。
攻撃魔法を使える魔法使いは、シーダーに雇われて迷宮へ探索に赴く事も多い。
エミュールが占いの露店を建てるのは、一日置きだ。
人通りの少ない場所だが、借り代として日2銀貨を払っている。
エミュールは何年も前に、父と共にラグナロクに移り住んでいる。
母を流行り病で亡くした父は傭兵だったが、シーダーとなって迷宮へと向かった。
今となっては、父が何を思ってラグナロクへ挑んだのか、エミュールには解らない。
父が戦死してからも奴隷とならずに済んだのは、エミュール自身がシーダーとして探索者協会に登録していたからだ。
財産のほとんどは、エミュール名義で両替所に預けてあった。
だが、遺産はすぐに底を尽き、エミュールは自力で稼がねばならなかった。
最初は幾度か迷宮へ挑んだが、ひ弱な魔法使いが独りで戦い貫ける訳もなかった。
今では、母から習い覚えた占いを糧に、露店を開いて飢えを凌いでいる。
最もコネも実績もないエミュールが、占いだけで生活していくのは不可能だった。
実際『エミュールの水晶占い』とは名ばかりで、娼婦の真似事で金を稼いでいた。
エミュールは典型的なシャリアメイ風の美女であり、身体目当ての顧客には困る事はなかった。
露店を開いたエミュールは、来るであろう客を密かに待ち侘びた。
純粋に占いを求める、初めての常連客だ。
煉瓦通りを鳴らす拍車の音を、エミュールは我知らず楽しげに聞いていた。
「いらっしゃいませ。シヴァ様」
「やあ」
騎士鎧姿のシヴァは、何処か疲れたように挨拶を返す。
シヴァは迷宮に降りる前に、エミュールの店へ寄るのが習慣になり始めていた。
エミュールは、シヴァの心無し痩けた頬に気づく。
「あの、シヴァ様………やつれていらっしゃいませんか?」
「いや…昨日、少したちの悪いキャッチセールスに引っ掛かって」
シヴァは腰に提げた黒剣に触れる。
腰が起たなくなるまでシヴァを帰さなかった迷宮商店の店主は、詫びの報酬にと第100階層までの転移資格を譲られていた。
「結果から言えば、この前の占いも当たってたな」
「まあ。では、占いが外れるまで通って下さるお心算ですのね?」
エミュールはくす…っと微笑んだ。
「それでは、シヴァ様に見捨てられないよう、気合いを込めて視させて戴きますわ」
「頼む」
エミュールは水晶球へと手を翳す。
シヴァの依頼は、聞かずとも解っていた。
シヴァは毎回、同じ事を聞いていた。
強力な剣の在処だ。
瞳を瞑ったまま呪文を唱えるエミュールは、しばらくして顔をあげる。
「シヴァ様…深くの階層へと赴くのですね?」
エミュールの占いでは、被術者の可能性の内しか予見する事は出来ない。
行動の延長上の可能性を覗き見るのであり、偶然的な厄災を忠告する事は出来ない。
シヴァが深い階層にまで足を踏み入れる事が可能になったからこそ、エミュールの占いでもより深くの階層までを見通せるようになったのだ。
「ああ」
「では………70階層辺りに、不思議な導きを感じました。助けを求めるような…誰かを喚んでいる声。新しい力と、対抗する力、を」
エミュールは形の良い眉を、不安げに寄せた。
「もしも、敢えて赴くのでしたら…お気を付け下さい。決して、無理をなさらないで」
「解った。有難う」
微笑んだシヴァは、何時ものように一枚の金貨をテーブルに乗せた。
「あのっ…シヴァ様」
足を止めて振り返ったシヴァに、エミュールは小さく言葉を送った。
「また………いらして下さい」
シヴァは軽く手を掲げ、迷宮へと姿を消した。
見えなくなってからも後ろ姿を見詰めていたエミュールに、野太い中年男の声が掛けられた。
「また、最近は随分と商売熱心な事だな?」
「これは…バンブー様…お久しぶりで御座います」
エミュールは微笑みを消して、丁寧に頭を下げる。
バンブーと呼ばれた男は、肥満体を魔法使いのローブに包んでいた。
魔法協会の役員を務めるバンブーは、エミュールのもうひとつの商売の常連客だ。
「ふむ。商売を済ませたばかりか。ま、良かろう。若造が相手では、お前のケツも満足はできぬ様だしの」
「いえっ…あのお方は…」
バンブーは天幕を潜って狭い個室に入ると、背後からエミュールを抱えた。
エミュールが慌てて入り口の幕を降ろすと同時に、腰布を捲られる。
「くく、急いても仕様がないだろう。お前が淫売である事は、誰もが承知だ」
「…」
唇を噛み締めるエミュールの尻を、バンブーは淫猥に撫で擦った。
ほっそりとして、肉の締まったエミュールの尻は、紐のような細い下着だった。
秘所を僅かなの三角の布切れで覆い、尻の溝に食い込む白紐は腰骨で結われていた。
娼婦が好みそうな鄙猥なパンティだが、シャリアメイ地方では普通の下着だった。
高温多湿な気候のためだ。
水着のように際どい装束を纏ったエミュールだから、普通の下着は着れないのだ。
下着は容易く下ろされ、エミュールは秘所を晒す羞恥心に顔を背けた。
「あぅ…!」
ぱん、と尻が叩かれ、エミュールは心無し脚を開く。
微かに震える桃尻に、うっすらと赤い紅葉が浮かび上がる。
芋虫のような指が、エミュールの股間を弄った。
「ぁ…」
元から全裸に近い装束のエミュールだ。
羞恥に腰を捩ったが、逃れる事は許されない。
机に手を突いた姿勢で、されるがままに尻を弄られる。
「おお、犯られておらんのか。では、何時ものように」
「ひぃ…あ、あはぁぁ」
エミュールの股間に掌を当てたバンブーは、短く呪文を唱えた。
喘ぎ声をかみ殺すエミュールの股間から、愛液の滴りが内腿を伝う。
バンブーは自分の催淫術にほくそ笑むと、そそくさとズボンを降ろした。
ひくひく…と快感に震えるエミュールの尻に、太短い逸物が射し込まれる。
「あっ…あん」
「メス犬め。そんなにチンポが欲しいか? 鳴け、鳴け、もっと尻を振ってみろ」
エミュールは尻を突かれるたびに、頭を上下に振った。
バンブーの催淫術は、常用性のある麻薬のようなものだった。
波打つ腹脂肪の下で、赤黒い肉管がエミュールの尻を凌辱している。
「あんっ…あんっ…あんっ…」
「おう、おう…ぎゅうぎゅうと搾り取るようだわ。淫乱めが!」
ベールの下で唇を噛み締めたエミュールは、固く瞑った目蓋から涙を滲ませた。
「おう!」
一声呻いたバンブーは、エミュールの尻を抱え込んで醜く震えた。
表情が弛み、満足気な臭い息を吐く。
「ぅ…ぁ」
ぬぼゅ…ぅと逸物が抜かれると、エミュールは哀しげに呻いて崩折れた。
綺麗な曲線を描く尻が、ぼてりと煉瓦路に落ちる。
乱暴に犯されて捲れた膣膜から、どろり…と白粘液が垂れ漏れた。
可憐な桜色した淫唇と、汚らしい混濁した白汁が哀れを催した。
エミュールは内腿をつぅ…と流れ落ちる汚濁液を、拭おうとはしなかった。
「儂のチンポで女にしてやってから、何度こうして仕込んでやった事かよ。感謝してほしいものだな。貴様が商売を続けていられるのは、儂のお陰なのだから」
逸物を塵紙で拭ったバンブーは、僅かばかりの金貨と一緒に机に放る。
「なかなか、良い具合だったぞ。今度は、弟子も連れて来てやる」
男が消えた後も、エミュールは蹲ったまま嗚咽を洩らした。
腐った術者とはいえ、高レベルの催淫術は何時までも後を引いた。
エミュールは握り締めていた右手を、そ…っと開いた。
一枚の金貨が、慎ましやかに煌めいた。
「せやァ!」
一瞬の閃光が半月を描いた。
ちょうど、X文字のように交差した軌跡が、同時に鞘に滑り戻った。
斬られた事を思い出したように、遅らばせながら鮮血が飛沫いた。
コボルトは上半身と下半身を、逆向きに倒れさせる。
「吃驚した。まさか、こんな所で犬頭に出喰わすとは思わなかった」
「サクヤ。あんたが、逃げる暇も与えないなんて、らしくないじゃんサ?」
サクヤと呼ばれた娘は、図星なだけにむっとして振り返った。
腰まで伸びた長い黒髪は、三つ編みしてリボン留めされていた。
艶やかな漆黒の髪色は、ツクサミ地方出身の証だ。
アーマーローブに板金を繋ぎ合わせたような、剣士仕様の鎧を纏っている。
剣士が着用可能な鎧は、防御能力を犠牲に、敏捷さを主眼に造られている。
腰帯の左右に、二振りずつの戦刀を提げている。
「不意打ち掛けられて、手加減なんか出来る訳ないでしょ」
それでも、無意味な殺生をしたという、後味の悪さを感じた。
彼女等のパーティーは、地下200階層からの帰りだ。
迷宮一階の転移フィールドから門を出るまでの短い距離で、偶々犬頭に遭遇した。
ケルベロスやサイクロプスといった強力な魔獣と渡り合う彼女等にとって、コボルトなどはまったくの雑魚に等しい。
迷宮内の魔獣は、100階層ごとに段違いに強力さを増す。
200階層にまで辿り着けるシーダーは、かなりの力を持った者に限られる。
淘汰された一握りのシーダー達も、ハイクラスへと昇級を果たす頃だ。
ラグナロクにある聖堂と同じようなものは、大陸のあちらこちらに点在する。
だが、地上でそれだけのEXPを稼ぐのは不可能に近い。
「でも、ま。様になってきたじゃん。ソードマギ、様々って感じ」
「茶化さないでよ、もぉ」
言いながらサクヤは、名称の響きに嬉しそうに頬を弛ませた。
ソードマギ=魔剣士とは、剣士系ハイクラスのひとつだ。
剣士系でも特殊なクラスのひとつで、魔法剣の魔法力を増幅して使用できる。
半月前に念願のクラスチェンジが可能になったのだ。
上級クラスの者は、ラグナロクではエリートステータスの証明だ。
「リハビリは辛かったけどね。それだけの価値はあったわ。手足に力が漲ってるのが解るの。生まれ変わったみたい」
「嫌だ嫌だ。すっかり天狗になっちゃってサ。こりゃ、お役御免にされちゃうかもね」
「冗談でも怒るわよ。ミグ」
目の笑っていない笑顔に、ミグは乾いた笑いを浮かべて後退りした。
「冗談よ、冗談。ジョークだって」
ミグは男物のバトルジャケットの上に、鉄鋲皮鎧を着込んでいる。
バンデッドメイルに闘着姿のミグは、一見美少年にも見えたが女性だった。
白銀のショートヘアに切れ長の緋瞳、きびきびした動作が彼女を凛々しく見せた。
ミグは盗賊協会に属した、迷宮罠士だ。
迷宮を探索するシーダーの援護として、ラグナロクにはシーフギルドが公に認められていた。
普通はギルドを通してシーダーと契約を結び、定期間仕える形を採る。
「ボクはサクヤの事を信用してる。報酬の支払いもいいしね」
ミグは小剣の収まった腰を叩いた。
もう一本の戦闘帯には、投擲用の短剣が10本以上提げられていた。
「お金の話じゃなくって………。ね、シャルも何か言ってやってよ」
「………」
二人目の仲間は、振り向いただけで何も言わなかった。
ハルバードに付いた血糊を、黙々と拭っている。
赤い染料で紋章の描かれた大盾に、白銀の重甲冑。
数匹のコボルトは、彼女の槍斧の一振りで、壁の染みと化していた。
高レベルの騎士は、ハイクラスに匹敵する攻撃力を宿している。
「もう、シャルロットってば少しは喋ってよ」
サクヤの言葉に、シャルロットは尻尾を振って答える。
シャルロットは獣人種の亜人だ。
頭の髪から可愛く生えた獣耳、尻からはフサフサの馬の尾のような尻尾があった。
ライオンのようにふわふわと広がった髪の毛は、三毛色に綺麗に染め分けたような色をしていた。
迷宮から出た三人は、何時ものサロンに足を向けた。
迷宮の転移装置が同時に三人まで転送できる事から、三人までの同時探索が許可されている。
もっとも、独りで迷宮に赴くシーダーも多い。
サロン『テンパランスの杯』は、酒場というよりは高級風の社交場だ。
「では、今回の無事を祝して。乾杯」
「はいさ」
「…」
赤い発酵葡萄酒の細いグラスが、三重奏を鳴らした。
彼女達がパーティーを組んで二年になる。
今回はサクヤのクラスチェンジのブランクで、ひと月ぶりの探索だった。
彼女達のレベル位のシーダーになると、一回の稼ぎは数千ソルに達する。
日々の生活は贅沢が可能になり、武具も魔法で強化された魔法具だ。
「これが今回の報酬ね」
サリアは両替所から引き出した銀貨の袋を、ミグに手渡した。
ミグは盗賊ギルドを介して雇われているから、本来ならば報酬を支払う義務はない。
だがサクヤは、ミグを従者としてではなく、仲間として付き合っている。
「サンキュ。じゃ、次回もちゃんと呼んでよね?」
素早く食事を済ませたミグは、銀貨袋の重さを確かめた。
彼女等は探索に赴くのに、最低でも三日程のインターバルを置いている。
今回は特に怪我もなかったが、体調を回復させる一種の慣習だ。
「ミグ、もう行くの?」
「んふふ。ハロルドが心配するからサ。顔を見せてあげたいじゃん」
「そんな事を言って、ミグが逢いたいくせに」
解る?と惚気るミグに、サクヤは溜息を吐いた。
ミグはベタ惚れの恋人が居り、最近は暇さえあれば彼氏の所に通い詰めていた。
「そんな事言ってていいのかなぁ? 男が、サクヤに会いに来てるの知ってるんだぞ」
ミグは勿体つけた仕草で、指の間に指輪を摘んでみせた。
魔法の指輪はサイズが着用者に合わせて変化するが、飾り気のない純銀の指輪は普通の男物の指輪だった。
「何、それ? 知らないわよ」
「大使館の前でうろついてた男から、サクヤに渡してくれって預かったんだけど? ひょっとして貢ぎ物かもね。ナイト風の奴だったけど、覚えが無いの?」
サクヤは気味悪げに、受け取った指輪を卓上で転がす。
「………呪いが掛かっているかもしれない。気をつけて」
「大丈夫よ。ハロルドに調べてもらったもん。普通の古びた指輪だってサ」
眉を顰めたシャルロットに、ミグは気取って指を振った。
突然、サクヤは椅子を蹴倒すように立ち上がった。
驚いて振り返ると、指輪を握り締めたままミグに詰め寄る。
「誰が持ってきたの? 何時!?」
「レ、レイロードとか言ってた。昨日の昼頃」
サクヤは礼を言う事も忘れ、そのまま店の外に走っていった。
呆然と見送ったミグが、ぽつりと呟く。
「………吃驚した」
「…」
シャルロットも頷く。
「やっぱり、知合いじゃないか。ボクもハロルドの所に行こっと。ご馳走様」
ミグは文字通り、風のように姿を消した。
シャルロットはテーブルに残された、三人分のレシートを見詰める。
「………………狡い」
まじない通りの一角に、『ハロルドの召喚小屋』が看板を掲げていた。
召喚小屋とは、幻想界から幻獣を呼び出す職業だ。
幻獣召喚術を修めた魔法使いは、特に召喚魔導師と呼び慣わされる。
騎士は召喚魔導師から幻獣を召喚してもらい、それを乗馬とする事が出来る。
騎士が従属できる幻獣は、プーカと呼ばれる精霊馬だ。
精霊馬は生身の馬とは違い、世話や餌をやる必要もない。
その代わり、主人の精気を吸収しているのだ。
契約を交わした主人が死なない限り、基本的に殺される事もない。
普段は本来の世界である幻想界に棲んでおり、主人の呼び掛けに応えて瞬時にこちらの世界へ実体化する。
ハイクラスの騎士になると、その属性に応じて、鷲頭獅子や天馬など強力な幻獣を従える事が可能だ。
ミグは銀貨袋をじゃらつかせながら、ハロルドの家へと向かった。
「500銀貨は入ってるかな? もう、ちょっとじゃん」
盗賊ギルドの登録者は、ギルド以外からの報酬を受け取るのは禁止されている。
ミグを含めたシーダー登録された盗賊は、盗賊ギルドに身柄を売られた奴隷身分の者達ばかりだからだ。
幼い頃に買い取られて、盗賊としての修業を積ませられる。
盗賊として迷宮に降りる契約料金は、大半がギルドに上納される仕組みだった。
ミグは自分で自分の身柄を買い取るために、危険を承知で蓄財に励んでいた。
「そいでそいで、ハロルドと一緒に暮らしちゃったりなんかシテ。くふ、くふふ☆」
ミグはノックも無しで、召喚小屋の中に入っていった。
勝手知ったる恋人の家。
ミグは仲間の女盗賊に、『どこに惚れたの? あんな、なよなよ青瓢箪』と表されたハロルドの顔を探す。
店の中は、相変わらず動物の鳴き声で喧しかった。
栗鼠や猫などの、可愛らしい小動物が多い。
幻獣の召喚には、目的の幻獣に相似した生物を、生け贄にして実体化させるのだ。
ハロルドの場合。
世話をしている内に情が移ってしまい、犠牲に出来なくなるという事が良くあった。
「ハロルドのそゆ所、好きなんだけどサ」
ミグは誰にともなく呟いて、頬っぺたを掻いた。
本人の前では、優柔不断呼ばわりしてしまう自分の性格を恨めしく思ったりする。
「珍し。お客さん、来てるのかな?」
魔法陣がしつらえてある奥の部屋から、嘶き声が響き漏れた。
馬の嘶きからして、騎士がプーカの召喚を依頼しにきたのだろう。
手順は、馬を贄に召喚されたプーカに、主人が名前を命名する事で支配下に置く。
幻獣や、精霊などにとって、名前とは重要な意味を持つ言霊だった。
「………何か問題があったら、遠慮無くいらして下さい」
「……ああ。それじゃ」
奥の扉が開き、二人の男が現われる。
魔法使いの装束を纏った青年は、分厚い魔法書を小脇に抱えていた。
色素の薄いサラサラの茶髪が、分厚い壜底眼鏡に掛かっている。
細身だが長身のハロルドは、腰が低いといっていい程に物腰が柔らかかった。
二十歳を越えていない店主に、大概の客は驚き、退いてしまう事もある。
「あれ、ミグちゃん?」
「えへ☆ ただいま、ハロルド。また来ちゃった」
ミグは普段からは想像できない程、可愛らしく微笑んで片目を瞑った。
「ね…ボクが来ても、迷惑じゃないよ、ね?」
「そ、そんな事ないよ」
上目遣いから恥じらいに視線を逸らすという乙女手管攻撃に、女性に免疫の無いハロルドは真っ赤になって否定する。
「良かったぁ。じゃ、デートしようよ。ボクが奢ってあげるからサ」
「ちょ、ちょっと待って。今、仕事中だから」
「いいじゃん。適当に切り上げてサ………。って、あんた?」
ミグはハロルドの背後の人影に、見覚えがあるのに驚いた。
何処と無く疲れた表情のシヴァは、黒髪を掻き上げてハロルドを振り返った。
「それじゃな」
「は、はい。毎度、有難う御座いました」
見事に無視されたミグは、声を掛けるタイミングを逸して見送ってしまう。
「今のって…」
「ミグちゃん、知り合いだったの? シヴァさん、プーカの召喚に来たんだよ」
「昨日、一回会っただけだよ。誤解しちゃ駄目」
「誤解って?」
ミグは意味が解らずきょとんとしたハロルドに、溜息を吐いて一応説明を続けた。
「サクヤ…様って言ったら、ツクサミの帆穂波のお姫様だったね」
「勘当だか、家出だかしたって、本人言ってたけどねー。ボクなんか、タメ口きいてるしさ。サクヤとは友達だと思ってるから。あっちはどうだか知らないけどサ」
「確かに、お姫様ってイメージとは違うね。それは、綺麗でいらっしゃるけれど」
眼鏡の奥で瞳を彷徨わせたハロルドに、ミグはむっとする。
尻を抓って悲鳴を上げさせると、じぃとハロルドの顔を覗き込む。
「やっぱり………盗賊の娘じゃ、ダメかな?」
微かに瞳を潤ませたミグの心細げな表情は、演技ではなくなっていた。
「薄汚い奴隷の子じゃ、好きになってもらえない…の?」
「違っ…」
ハロルドは反射的に、逃げようとするミグの背中を抱き締めていた。
「そんな事、あるもんか。身分なんか関係なく、僕はミグちゃんが、好きだから」
「ぁ…」
「だ、だ、だから…そんな事を言わないで」
真っ赤になって吃るハロルドを、ミグは抱き締め返した。
「ボクも、ハロルドの事が…好き、だよ」
「あ、有難」
「くす…。ね、キス…して」
目を瞑って、心持ち顔を上げたミグに、ハロルドは罠に掛けられた兎の気持ちを悟ったのだった。
「んっ…んぷ…ちゅぷ…」
光が漏れる天蓋の中。
エミュールは三人の男に輪姦されていた。
閉めきった天鵞絨の露天の中で、すっ裸に剥かれたエミュールが凌辱されている。
相手は皆、魔法使いギルドのにきび面の少年達だった。
M字開脚されたエミュールの尻は、地面に寝そべった少年の腰に乗せられている。
エミュールの胎内に根元まで逸物を納めた少年は、激しく喘いで腰をビクつかせながら射精していた。
若いだけあって、何度射精しても勃起が解けないらしい。
「お前、凄い早漏じゃん」
「本当、しょうがねぇ奴ぅ」
エミュールの両脇に立った二人の少年が、ちょっとだけ余裕の表情を見せた。
下肢のみ裸になった少年達の逸物は、エミュールが両手で扱き続けていた。
強力な催淫術を施されたエミュールは、虚ろな瞳で腰を振りながら、掴まるように指を絡める二本の逸物を交互にしゃぶった。
異国の姫を思わせる美貌に、放たれたザーメンが滴れる。
少年達はエミュールを犬のように這いつくばらせ、同時に貪る。
「お前等、空になるまで抜いて、勉強に集中できるようにしろよ」
一人椅子に腰掛けたバンブーが、弟子達の乱交をにやけながら観察していた。
エミュールが占い商売を続ける限り、魔法協会役員のバンブーには逆らえないのだ。
天幕は鄙猥な腰の振りにはためき、内部で行なわれている情事が丸解りだった。
「まったく、我が弟子ながら浅ましいわ」
「先生には感謝してます」
「本当、本当。俺、ずっとこの女とセックスしたかったんスから」
「今度から、ちょくちょく来てセックス出来るんですね」
一人の腰に跨がらせられたエミュールは、肛門と口腔を同時に犯されている。
死にたくなるような現実の中で、子宮を痺れさせる快感だけが鮮明だった。
一人、また一人と、エミュールの肉体の中に、射精液を注ぎ込む。
エミュールの子宮には、受精を阻害させる呪術が施されていた。
バンブーから初めてレイプされた、その日からずっと。
世間の仕組みも知らなかった幼い少女を、バンブーは端金と淫術で玩んだ。
「ひぃ………あ…ぃ…あぃ…」
ひくひく…と痙攣するエミュールは、壊れた玩具のように煉瓦畳に残された。
どろりどろりと股間から流れ落ちる精液。
慎ましやかな肛門の窄まりも、摩擦に腫れて白液を搾りだしている。
咽せたエミュールの喉からでさえ、ザーメンの雫が吐かれた。
半身を起こして周囲を見回せば、天鵞絨の中には誰も居なくなっていた。
涙は、流れなかった。
機械的な仕草で肌を拭い、装束を身につける。
それでも、染みついた匂い、肌に浮かんだ凌辱の烙印は消せない。
エミュールはゆっくりと、入り口の天鵞絨を開いた。
指が止まる。
そして、震える。
逆光を背にした人影が、エミュール自身に影を落とす。
「シヴァ…さま………」
何も答えず立つシヴァに、エミュールはずっと見られていた事実を悟った。
それでなくとも、立ち篭める淫蕩な空気は誤魔化せはしない。
解っていた。
解っていると、思っていた。
それでも、目のあたりにされた事実に、エミュールの想いは締め付けられた。
「占い、ですか? 申し訳ありません、少々、お待ちになって…下さ………ぃ…」
水晶に触れる細い指先が震える。
途切れた言葉の後の沈黙は、しばらくの間続いた。
ぽつ…。
ぽつ…ぽつ…と、透明な雫が水晶球の表面を濡らす。
「帰って………下さい」
「………解った」
踵を返したシヴァは、振り返らなかった。
押し殺した嗚咽が、何時までもシヴァの耳を刺していた。
ザリザリ…と硬い金属が、擦れる音が響く。
ひと月借り続けている『斑の木馬亭』の自室で、シヴァは武具の手入れをしていた。
椅子に腰掛け、剣の刀身にヤスリをあてがっている。
魔法具に使われている金属は、ほとんどがオリハルコンと呼ばれる希少金属だ。
この物質は魔法によって加工される事により、強度や伸縮性はおろか、質量や属性までもが変化する超常物質だった。
シヴァは剣を眼前で水平に掲げ、刃先の欠けを見定める。
オリハルコン製の魔法具は、手酷く破壊されない限り、自己修復作用がある。
何百年もの間、迷宮の中で腐食しないのはそのためだ。
それでも、酷使すれば修復が追い付かず、性能が劣化する。
シヴァは刀身の汚れを削り取った暗黒剣を、鞘に納めてベッドに立て掛ける。
先に手入れを済ませた火炎剣の隣から、もう一振りの曲刀を手に取る。
両手剣程の長さを持つ片刃の湾曲刀は、鞘のない剥出しの状態を晒している。
カオス系武器独特の、漆黒の金属が艶光る。
処刑刀と銘打たれた、強力な暗黒属性の魔法具だった。
シヴァはグラスに蒸留酒を注ぎ足すと、刃を返してヤスリを滑らせた。
微かな虫の声に混じり、扉がノックされる。
「誰だ?」
刃先を扉に向けたシヴァは、低い声で誰何する。
「私。サリア」
「………開いてる」
溜息を吐いて剣を降ろしたシヴァは、再び刃にヤスリをあてがった。
「鍵掛けてないなんて、物騒じゃない」
淡い色合のフレアスカートを履いたサリアが、呆れたように部屋に入ってくる。
普段のタイトな制服姿とは違い、村娘のような格好は、半妖精のサリアを普通の少女のように見せていた。
「今日、更新に来ると思ったのに。ちょっと、心配したわよ」
途中で買ったファーストフードの袋をテーブルに置いたサリアは、腕組をして頬を膨らせた。
「そうだったか。悪い」
「あのね………。更新に遅れるって事は、ラグナロクでの戸籍を抹消されるのよ? ギルドから徴税官がやってきて、一切合財徴収されちゃうんだからね」
実際、そういう迂闊なシーダーは偶に居たりした。
特に財産を築いたシーダーが更新を忘れたりすると、洒落にならない損害になる。
シヴァは肩を竦めてみせると、処刑刀を壁に立て掛けた。
「わ。結構、凄そうな魔法剣ね。…邪々しい気を感じるけど」
「52階層で拾った。………そうだ、火炎剣を返すよ。今まで、有難」
「え、いいわよ。その剣は、シヴァ君にあげたんだから」
サリアは不図、悪戯っぽく微笑んだ。
「それじゃあ、ね。私を身請けする時の、代金の足しにして。約束でしょ?」
「シーダーズギルドから?」
「そう。私を貰ってくれると、いい事があるわよ。ギルドの内情にも詳しいし。まだ、シヴァ君が知らない街の事も教えてあげられるし。………勿論、ベッドも温めてあげるわ。毎日毎晩のセックスでも、どんな格好で抱いても許してあげちゃう」
流石に頬を染めたサリアは、片目を瞑ってポニーテールを揺らした。
「くす。今でもシヴァ君ったら、凄いエッチな格好で挑んでくるんだけれど、ね?」
「そっか…」
「今がお買い得よ。なんて…ふふっ」
煙草をくわえたシヴァは、ややして頷いた。
「解った。君を買うよ」
「えっ…ほ、本気? あのね、奴隷の相場、幾らするか知ってるの? それでなくとも、シーダーズ協会の職員の娘は高いんだよ。50000銀貨もするんだからね」
月に一度開かれる奴隷市の相場は、一万銀貨から競りが始まる。
売却値は、並みの小娘で二万銀貨程だった。
「今、20000ソル位あるから…再来週辺りには、買えるけど」
「ほ…本気で、言ってくれてる、の…?」
「金が、欲しくて戦ってる訳じゃなし。サリアには、それだけの恩義があるから」
シヴァは曲げた膝を抱え込んで、背凭れに寄り掛かった。
「サリアが望むなら、身請けする」
「………望むよ。私を貰って。シヴァ君の物にシテ」
心無し瞳を潤ませたサリアは、椅子の背後からシヴァを胸に抱いた。
「ね、シヴァ…抱いて。手付けに、一杯セックス…シテ」
抱き上げられてベッドに運ばれたサリアは、大人しくシヴァに脱がされた。
正面から眼鏡をシヴァに取られると、恥ずかしそうに小首を傾げて微笑む。
繊細な妖精族の容姿を隠すための伊達眼鏡だったが、シヴァの前では素顔を晒す事が出来るようになっていた。
スカートとブラウスを脱がされたサリアは、ほっそりとした手足が陶磁器の人形のように可憐で愛らしかった。
腹部と胸を包むコルセットの袷紐を抜こうとすると、そ…っと抵抗する。
「だめ………このまま」
「後で、脱がせるよ」
耳元で囁くと、長耳がヒクっと跳ねる。
コルセットで吊られたストッキングの上から、浅黄色のパンティを降ろした。
「私…痩せてるから。下着姿の方が…色っぽく感じるでしょ…?」
確かに、全裸より下着姿に色香を覚える事はよくある。
最もサリアは、骨筋の顕な身体ではない。
シヴァは内腿から臀部の膨らみへ、つぃと指を這わせる。
「ぁ…」
見掛けは15、6歳の少女でも、触れる場所にはちゃんと肉が乗っている。
性感帯への刺激にも、小気味好い程に反応する。
俯せで尻だけを高く掲げたサリアは、尻肉を咬まれて子犬のように鳴いた。
「だ、だめ…っ、ぁ…あうぅぅ」
「ここも、可愛いままだ…。男を知らない少女みたいだな」
気持ちだけ生えている陰毛を撫で、淫唇を指先で開いて唇を当てる。
膣口の肉唇を舌でなぞられ、少年のようなサリアの尻がきゅきゅと可愛く絞まる。
シヴァはサリアの尻溝に顔を埋め、ほぐれ始めた性器を啜った。
「あふん…ぁ…ひぃ……あぅん…あぅん」
サリアは顔を埋めた枕をぎゅと握り締め、腰を逃がすようにくぃ…くぃ…っと淫猥に円を描くように振った。
性器に挿れた舌が抜けないよう、サリアの尻には指が食い込んで抱えられていた。
「…ぁ…ん…ぁ…ぁ……ゃ、嫌ぁ…やめちゃ…」
「ぷぁ…」
口元を拭ったシヴァは、追ってくる尻を軽く食んで諌める。
ガチャガチャとベルトが外される音に、サリアは尻をヒクつかせたまま待った。
シヴァはサリアの腹の下に、クッションを押し込んで姿勢を固定させる。
後背位での挿入を待つサリアは、枕の隙間からシヴァの様子を覗く。
「来て…シヴァ」
言われるまでもなく、沈滞なくサリアの尻が奪われる。
逸物をぎゅぷ…っと膣孔に搾られたシヴァは、背筋を反らせて射精感を堪えた。
サリアは尻を左右に小刻みに振って、ぴったりの填まり具合に馴染ませる。
「出しちゃっても良かったのに…。どうせ、シヴァったら…一発じゃ治まらないんだし。今日は…貴方がイキたい時に、好きなだけイッて」
「後免…駄目っ、だ」
サリアの背中に崩れたシヴァは、奥に埋めたまま大量に射精した。
「きゃ…ん」
「今夜は、溺れさせてくれ」
「う…ん。いっぱ…ぁぃのが、熱…ぃ。もっと、遠慮しないで…お腹に流し込んで」
妖精族は生理の周期が年に4回程で、半妖精も似たような体質だ。
妊娠させる方が難しいのであり、サリアも膣に放たれる忌避感は薄かった。
もっとも、ここまで素直に受け入れるのはシヴァだからだ。
「あっ…あふぁ…胎がぬっちゃぬちゃ…してる…ぅ」
バックスタイルでは結合部が淫猥に鳴るものだが、シヴァのスペルマが大量に膣孔に蓄まっている分だけ派手に響いた。
シヴァはサリアの腰を掴んで、可愛い尻を撃ち続ける。
反り返った逸物が膣襞を抉り、サリアもぷるぷると尻を揺すって応える。
逸物が淫唇から引き抜かれると、捲れた膣膜からこぷぅ…こぷぅ…とシヴァが漏らしたスペルマ汁が内腿に滴れる。
シヴァはサリアの尻に跨がったまま、股間に浸透する快感に浸った。
ストッキングの中に指を這わせ、昂ぶりで閉まってきた脚を開かせる。
サリアの背中を抱いたまま身体を起こさせ、背後から抱き締めて深く結合する。
「あふ…んぅ」
子宮をくり…っと亀頭で抉られ、サリアは可愛らしく鼻を鳴らす。
小柄なエルフは、生殖器の造りも小柄だ。
硬い逆刺の大きく張ったシヴァの逸物は、サリアの膣を押し開くように抉る。
性感帯を掘るような逸物の突き込みに、サリアはひくひくぅ…と腰を跳ね上げる。
「ぁ…あっ…。ねっ、シヴァ…わ…私、イッちゃ…ぅ」
「うん…俺も」
太股ごと腹を抱き締められたサリアは、絶対に逃げられない格好で膣内射精される。
「あひ…あひ」
胎でびゅぐんびゅぐん蠢く肉管に、サリアは腹筋を痙攣させた。
膣粘膜に注ぎ掛けられる精液も、生々しい感触で粘った。
「ん」
「ぁ…ふ、ちゅ…んんぅ」
開いた唇が重なり合い、蛞蝓の交尾のように粘膜と唾液を濃密に絡める。
余韻の痙攣が治まった淫唇から、とろとろ…と逸物に精液が伝い漏れた。
シヴァの胸板に寄り掛かったサリアは、長耳をひくつかせて吐息を漏らす。
「もぉ…シヴァ君て、独特のセックス…するのね」
余韻に頬を火照らせ、シヴァのすっきりしたが満足していない顔を振り仰ぐ。
「えっ…?」
「セックスの間中…ずっと、私を捕まえたまま逃がしてくれないの。肉体でぎゅって縛って、抵抗できないまま貪られちゃうの」
今も抱かれたままのサリアは、お返しにとシヴァの二の腕を噛んだ。
「上手く言えないけれど、ここを…」
サリアはシヴァの手を取って、自分の胸に触れさせる。
「…ここの奥まで抱いてくるの。逃がさないぞ…って」
「んな事は」
「私がそう感じるってだけよ。だから、シヴァ君に貰ってほしいと思ったんだし、ね」
サリアは繊細な幼顔を綻ばせ、男に抱かれている安堵感に浸った。
「あと………シヴァ君、上手なんだもん。私…こんなにイッちゃった経験初めて」
「サリアの具合も、気持ちいいね」
「うん…あそこがフィットしてる感じ。だから…シヴァ君に抱かれるの…嫌じゃない」
「回数、熟す羽目になっても?」
「心配しなくても…毎晩…何回でも相手してあげられるよ」
羞恥で頬を染めたサリアは、きゅ…と括約筋を搾ってみせる。
計らずとも催してしまったシヴァは、一緒に身体を倒して横からサリアを抱いた。
そのまま、ペースを落とさず腰を動かし続け、抜かずに三度目の射精を放った。
サリアは背後から抱えるシヴァの、痙攣する逸物を優しく胎内で慰撫した。
サリア以外と関係を持っていない証に、シヴァの逸物は勃起が治まっていなかった。
それだけの事なのに、サリアの胸がきゅんと甘く疼いた。
「女の子…抱きたくなったら、何時でも誘って。娼婦館に行くお金、節約させてあげるから。貰われてからも、尽くしてあげる」
「ああ、頼む…」
シヴァはサリアの長耳を食みながら、ボディスの紐を解いた。
「何でだか知らないけど。最近、昂ぶって寝れないんだ」
「EXPの強いシーダーは、皆そうなっちゃうのね。精力が増幅されちゃう上に、戦いの興奮がどうしても性欲を高めるの」
赤子のように乳首を吸うシヴァの髪を、サリアは優しく撫で梳いた。
「肉体に順応しきれないEXPを、異性とのセックスで馴染ませるって意味もあるわ」
「それで、ラグナロクには山程の娼婦館があるのか………」
「ぁん…だから、シーダーの人が性奴隷を囲うのは、仕方がない事なのかもしれない。大勢の娘を囲う事が、シーダーにとってはステータスの一種でもあるし」
「れる…」
「や…ぃ。はぁ…ぁ」
乳房から唾液の糸を引いたシヴァは、仰向けに抱いたサリアの顔を見詰める。
勃起したままの逸物に指を這わせていたサリアは、挿入されると思って脚を開いて迎え入れる姿勢を取る。
「どう…したの?」
「それで、辛くないのか?」
シヴァはサリアの隣に寝転がると、昼間のエミュールの件を話した。
話を聞き終えたサリアは、驚きもせずにそう、とだけ呟いた。
直接的ではないにしろ、エミュールの副業は知っていたのだろう。
「………言ったでしょう? ラグナロクは、戦い続けられる、強さを持った者達の場所だって。ましてや、女性が独りで生きていくのは、不可能に近いわ」
「知って、たのか?」
「だからって、私にも何も出来ないじゃない。身体を売ってお金を稼いじゃ悪いの? エミュールだって、好きでもない男達に身体を開いて、楽しい訳ない」
サリアは組み敷かれたまま、シヴァを挑むように見詰めた。
「私だって、ギルドの役員の人達に抱かれてるわ。受付嬢には、奴隷の中でも容姿の整った娘が選別されるから。皆、三日に一度は呼び出されて、接待や何だと理由を付けて玩ばれるんだから。でも、でも………好きで犯されてるんじゃない」
シヴァは声を震わせるサリアを抱き寄せた。
手を突っ張って藻掻くサリアを押さえ込み、腰を挿し射れて激しくセックスをする。
サリアはベッドが激しく軋む腰の動きに、シヴァの背中に爪痕を刻み込んだ。
「シヴァ…の馬鹿」
「お前が、自分を傷つける言葉を吐くからだ」
汗だくで息も荒いシヴァの胸に縋ったサリアは、こくん…と頷いた。
「………後免ね」
「それでいいんだよ。自分の台詞に後悔するのは、虚しいし辛いから」
「うん。………でも、力技でセックスに持ってっちゃうのは、ちょっと強引過ぎ」
元々、耐久力には自信のないサリアは、腰がガクガクになってしまった。
優しく、優しくシヴァの肩に噛み跡を付けていく。
「シヴァは奴隷を飼う事自体に、抵抗があるんでしょう?」
「かも…しれない」
「でもね…私はシヴァに身請けしてもらった方が、嬉しいし、少なくとも不幸じゃないのよ。セックスの回数を増やす事ぐらい、苦痛でも辛くもない」
サリアがシヴァの股間に手をやると、まだ逸物がビクビクと勃起している。
シヴァは本気で済まなく思ったのか、赤面して腰を退いた。
「だったら尚更、無理して抱かれなくていい。ちゃんと身請けして、面倒見るから」
「んもぉ。言わないと解らない? ………私はね。シヴァの事が…好き、よ」
びくとシヴァの背中が震えた。
口に出して思い切れたのか、サリアは両腕でシヴァを抱き締めた。
「最初は打算だったけど。今は…貴方が好きよ。理由は聞かないでね。私、シヴァより年上だけど、男の人を愛しく思えたのなんて、初めての経験なんだから」
「あ、ぁ」
「正直に言うとね。貴方に抱かれてると、幸せな気持ちが込み上げるの。じゃなきゃ、自分から貴方の部屋になんか、来るはずないでしょ?」
シヴァの動かない訳に思い到ったサリアは、そっと顔を覗き見る。
案の定、シヴァは赤面して固まっていた。
「エミュールが泣いたのもね。きっと、見られたのが貴方だから。貴方にだけは見られたくなかったんだと思うわ。理由は………もう、言わなくても解るでしょ?」
「馬鹿な。だからって、俺には…」
「面倒、見てあげればいいのよ。エミュールも絶対、貴方の元に居る事を選ぶわ」
サリアの言葉には何の根拠もないが、不思議と確信に満ちた説得力があった。
女のカン、なのだろうかとシヴァは苦々しく思った。
「エミュールが居てくれた方が、私も助かるしね。だって…シヴァ君の…これ、まだ…全然…元気一杯のやんちゃ坊なんだもん。やっぱり、私一人じゃ壊れちゃいそう」
サリアの掌の中で、シヴァの逸物は身悶えするように痙攣していた。
「もし…エミュールを引き取ったら、サリアの身請けが遅れる、かも知れないぞ」
「あの娘は大事な友達だし。最近、凄く危ないみたいだから、エミュールの方から面倒見てあげて。私は、半年でも一年でも、待ってるから。………その代わり、私の事忘れたら泣いちゃうから。ちゃぁんと、可愛がって…ね」
サリアはシヴァの背中を抱き締めたまま、少女のような微笑みを浮かべた。
それから数日、シヴァは愚図っていた。
余程の怪我をしても、翌々日には迷宮へ赴いていたが、サリアの台詞が後ろ指を刺していたのだ。
気まずい。
エミュールと顔を合わせるのが。
シヴァに女心が理解できる訳もなかったし、サリアの言葉の正否も解らなかった。
それでも、『危険』というサリアの忠告に、嫌な予感を感じていた。
結局、腰に剣を提げると、財布を持って街に出た。
どちらにしろ、両替所で精霊珠を換金する必要があった。
メインストリートを外れ、呪い通りに足を向ける。
空には灰色の分厚い雲が覆い、雨が降りそうに見えた。
シヴァはサーコートを締め直し、指先が剥けた黒皮手袋を、騎士紋章が刻まれた左掌に填めた。
サーコートは甲冑の上から羽織る、騎士用のマントだ。
最近のラグナロクではサーコートが流行っているのか、騎士でもないシーダーや街人も同じような外套を羽織っていた。
本物の騎士は、サーコートに家紋か独自の紋章を入れている。
ちなみにシヴァは無記のままだ。
虚勢や洒落っ気が、根本的に欠如しているのだ。
『エミュールの露天占い』は、往来も少ない呪い通りの終わりにある。
シヴァは眉を顰め、首を傾げた。
占いの台は破壊され、天鵞絨の天蓋が裂かれている。
そこには顔をベールで覆った、エミュールの姿は見当らなかった。
「…っ」
「…っら…」
「…ぅ…」
不図した気配に耳を峙たせたシヴァは、側の裏路地に視線を向けた。
空気に重なる、気配が視える。
それもまた、騎士の能力のひとつだった。
裏路地の入口には、一人の男が壁に寄り掛かって煙草を吹かしていた。
着崩れた服を直そうともせず、ニヤニヤ北叟笑みながら路地奥を眺めている。
シヴァはポケットに両手を入れたまま、路地へと近づいた。
解っていた。
路地の奥で、何が起きているのか。
予感というには鮮明すぎる、それは確信だった。
見張りをしていない見張りの男が、隣に立ち尽くしたシヴァにようやく気づいた。
シヴァは奇妙に惚けた表情で、凌辱劇を眺めていた。
女性一人を、三人の少年達がなぶり回している。
エミュールは木箱に腰掛けた男に、背後から抱き貫かれて犯されていた。
男が荒々しく腰を突き上げるたびに、薄汚れたエミュールのハニーブロンドが蜘蛛の糸のように波打つ。
二人目の男は、エミュールの正面に立っている。
ズボンを膝まで降ろして突き出した逸物を、エミュールの口にしゃぶらせていた。
乱暴に髪を掴み、窮屈な姿勢でしゃがませたエミュールの頭を前後に揺すっている。
エミュールは呼吸も困難なのか、咽せては喉の奥まで犯される。
最後の一人は、ただ突っ立って、萎えた逸物を扱かせていた。
何度もエミュールの肉体を貪った証拠に、うな垂れた逸物にはべっとりと精液がこびり付いているのが解る。
性的な仕打ちの他にも、暴力をふるわれたのだろう。
こんな時でも綺麗な曲線を描く背中に、蚯蚓腫れの筋が赤く引かれていた。
全裸のエミュールは抵抗する気力も無くし、人形のように身体を開き続けていた。
「出る…ぅ」
「俺も、俺もだ」
不様に腰を捩ってエミュールの頭を押さえる男に、尻を奪っている男が唱和した。
「早く終われよ。また、勃起してきちまったぜ」
「ぇ…ぉ」
頭を開放されたエミュールは、呻きながら喉の奥からザーメンを吐き戻した。
背後の男は、エミュールの乳房を握るように抱き起こした。
そして、エミュールの太股を持ち上げ、精液を放つために思う様腰を蠢かした。
虚ろなサファイアの瞳をしたエミュールは、唇から喉、乳房に滴るザーメンを拭おうともしない。
見習い魔法使い達全員から、実験台として繰り返し催淫魔法を施されていた。
魔法抵抗力の低い一般人なら、発情するどころか発狂しかねない。
卑猥に開け放たれた股間は、性器から垂れたザーメンでねとねとに濡れていた。
四人の少年達から、繰り返し流し込まれた精液は、内腿から膝にまで滴っている。
「ほぅ! はあぁぁ」
「…ゃ…ぁ」
思い切り射精した男は、エミュールの脇の下から頭を出した。
ついで、エミュールの尻を持ち上げ、性器の結合を解く。
ぬろん…っと逸物が抜け出たエミュールの淫唇は、立て続けの激しい凌辱穿孔に弛んで膣穴を覗かせたままになっている。
どろどろの白い粘液に塗れた淫唇は、茹でられた桜貝のようにぴくぴく…痙攣した。
一呼吸置いて、膣孔の奥から、どぷりどぷり…とザーメンが搾り流れてきた。
淫唇から直接、煉瓦畳にぺちゃり…と流れ落ちる。
粘度の濃い白い精液は、淫唇と路面とに卑猥な糸を引いて繋がっている。
「くくっ…凄ぇ凄ぇ。俺達のザーメンで、この女の胎ん中ぐちょぐちょだぜ」
「こいつのおまんこ具合良いからよ。俺達が何時も行ってた、安娼婦なんか目じゃねえもんな。高級娼婦クラスの女だぜ、きっとよ」
「まったく、良い器だぜ」
漆喰の壁に力無く蹲ったエミュールが、使い古した芋袋のように見下される。
虚ろな瞳をしたエミュールは、糸の切れた操り人形のように四肢を投げ出していた。
催淫術の副作用で開いていた瞳孔が、逆光で影になった四人目の登場人物を捉えた。
「………良い…器…」
「おい! あんた、見せ物じゃねえんだよ」
何事か呟くシヴァは、魂の脱け殻のように呆然としていた。
見張り役の男は苛立ち、殴るようにシヴァの肩を押す。
だが、岩を殴ったような手応えに、逆に手首を痛めて呻いた。
エミュールをなぶっていた少年達も、もめ事に気づいてシヴァの方に注意を向ける。
「ウツワ…イレモノ、タマシイ」
シヴァは全員の視線が向けられた事にも気づかず、エミュールを見詰めていた。
正確には、エミュールの姿に重ねた何かを。
「………シヴァ…様」
エミュールの瞳に色が戻る。
同時に、自分の置かれた状況を、直視しなければならない意識が戻っていた。
「いやあ! 見ないでっ、見ないで下さいっ。いや…嫌あぁぁ!!」
咄嗟に肩を抱き締めたエミュールは、縮こまってシヴァの視線から逃れようとする。
無反応のエミュールに飽食していた少年達は、生娘のような姿態に焙り火のような欲望を覚えていた。
啜り泣くエミュールと、呆然と立ち竦んで見えるシヴァ。
少年達は皆、二人は恋人同士か何かだと思い込んだ。
無言で目配せした男達は、シヴァとエミュールの間に壁となった。
「兄ちゃんさ。順番は守ってくれよ。今は俺達が貸し切りなんだけどなぁ」
「場所代の取り立てなんだ。バンブー様の代わりに、たっぷり可愛がってやってんだ」
膝を抱き締めて蹲るエミュールは、嘘よ、と心の中で弁明した。
少年達は、理不尽な口実でセックスを強要していた。
あの日から毎日詰め掛け、半日はたっぷり身体を玩んだ。
一昨日などは、少年達が借りている宿に無理矢理監禁され、一昼夜ベッドに拘束されて犯され続けていた。
ギルド役員のバンブーが背後に居る限り、逆らう事は出来ないのだ。
いっそと自殺まで思い詰めたエミュールだが、何故か脳裏に浮かぶシヴァの面影に縋って堪えてきたのだ。
だが、そのシヴァに今の姿を見られ、エミュールは死にたいと切実に願った。
自分の淡い恋心に気づいたのは、皮肉にも総てが終わったこの時だった。
「…だからさ。大人しく眺めてろよ」
「逃げようなんて思うなよな。あんたの大事な女が、傷物になるかもしれないぜ?」
少年達は、シヴァの目の前でエミュールを凌辱しようと目論んでいた。
教師が腐っているだけあって、生徒の性根も歪み切っている。
震えるエミュールが悲鳴をあげ掛けた時。
岩の砕ける破壊音と、空気と地面を伝う振動に驚く。
エミュールに詰め寄っていた少年達は、ちょっと目には滑稽な現場を見た。
裏路地を挟んだ壁の左側から、人間の下半身が地面と水平に生えている。
不思議な事ではない。
胸倉を掴まれたシヴァが、左手でその頭を握り、壁に叩きつけた結果だ。
少年の頭は漆喰の壁を突き破り、上半身を家の中に食い込ませていた。
人間の力で出来る事ではない。
だが、クラスチェンジで転生した超人は、人間とは言えないかもしれない。
「あァ…アアあ?」
シヴァは歌うように呻いて、壁から引き抜いた自分の左手を見詰める。
指先から皮手袋に、ドロリとした赤い液体が流れる。
「ぁ…」
「て、てんめぇ!」
勢い込んだ少年達だったが、シヴァの普通ではない気配に怯えていた。
ようやく、シヴァが街に溢れるエセ騎士ではなく、本物のナイト能力者であると悟ったのだ。
砕けた壁の破片を踏み砕き、塵芥の中からシヴァが一歩踏み出す。
「放、セ…」
感情の抜け落ちた、呟きが洩れる。
少年達は、シヴァから放たれる圧迫感に後退さる。
高レベルのシーダーが纏う気圏は、物理的な障壁となる。
エミュールは惚けたように、目の前で展開される光景に魅入った。
少年達は魔獣に直面したような恐怖から、シヴァに向けて魔法弾を放った。
収束するスカイブルーの魔法弾は、掲げられたシヴァの左掌に防がれた。
闘気を防衛膜として展開し、魔法力を弾く。
見習いの魔法使いが放つ魔法弾など、今のシヴァには直撃したとて痛痒を感じない。
吼えたシヴァは、オーラを込めた右手を地面に叩きつける。
煉瓦が捲れるように爆発し、衝撃波に少年達が吹っ飛ばされた。
鞘走りの響きに、エミュールが我に帰った。
シヴァは抜き身の剣をぶら下げ、幽鬼のように少年の一人へ近づく。
漆黒の刀身に、ゆらりと真っ黒いオーラが波打っている。
申請された決闘以外での殺傷ざたは、シーダーといえ罰則が降される。
「駄目です…っ」
エミュールが必死に呼び掛ける。
シヴァの褐色の瞳には、暗く澱んだ殺気が宿っていた。
「お止め下さい、シヴァ様。もう…いいです。お鎮まり下さい、シヴァ…様」
「セハ、放セ…ッ」
エミュールはシヴァの腰に縋り、繰り返し名前を呼んだ。
反射的に振り払おうとしたシヴァは、振り仰いだエミュールの顔を認め、びくっと身動いだ。
「シヴァ…様ぁ」
「あ」
正気を取り戻したシヴァは、手にした剣を見て驚く。
そして周りを見回し、怯え切って竦んだ少年達に気づく。
少年達は化け物を見る目でシヴァを見詰め、震えながら失禁している者も居た。
「………シヴァ様」
「エミュール?」
身体を預けるように抱かれていたエミュールは、不意に赤面して藻掻いた。
全裸の上に、肌を塗らすザーメンが泣く程に恥ずかしい。
「申し訳ありません。御身に、汚れ…を…」
身を捩って顔を覆ったエミュールを、シヴァはコートの中に引き入れて抱え込んだ。
背中と膝で抱き上げたまま、路地裏から出た。
「ゃ…だめ…嫌ぁ」
エミュールは抱かれたまま、赤子のように啜り泣いた。
だが、シヴァから髪を梳かれるように撫でられ、観念して面をあげた。
「俺の、所に…おいで」
「ぁ…」
驚いたように固まったエミュールの瞳が、不意に潤んだ。
「は…ぃ」
こくり、と頷いたエミュールは、藻掻くのを止めてシヴァの腕に身を委ねた。