Ragnaroku OnLine
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読切 Side Story






プリーストに祝福を











Clock Tower WF

「もっとお尻を、突き出して」
「………もう、止めて」
 配管が剥き出しになった壁に手を当て、哀願するように小さな声で訴える。
 聖職者のシンボルにもなっているビレタから、シルバーブロンドの髪が解れて頬を翳める。
「くださ…あっッ!」
 求めとは裏腹に、背後から腰を掴まれて、思い切り引寄せられる。
 深くお辞儀するように屈み込むと同時に、下腹部の中に硬く憤ったモノが埋め込まれていった。
「何だよ? 弄ってもいないのに、随分とすんなり挿ったじゃないか…」
「ち、違う…」
「狩りの最中から、濡らしてたのかよ。流石、余裕だな、プリースト様は」
 深くスリットの切られた聖衣は腰まで捲り返され、薄暗いダンジョンの中でその剥き出しの尻が、ライトを照らされたように白く浮かび上がっていた。
 迷路のように入り組んだ階層の奥だったが、MOBが出現する可能性が無い訳ではない。
 他の冒険者が来ないとも限らない。
 だが、そのスリルが感度を昂らせているのも事実だった。
 お互い、性器だけを露出して、それを結合させているだけのセックス。
 押し殺した喘ぎ声と、肉を打ち合わせる音だけが微かに響く。
「んっ…ぁ、違う…違うの」
「違わないだろ。吸わせてやってるんだから、もっと尽くせよ。こういう風にっ」
「ん、あ! 嗚呼ァっ!」
 プリーストの腰を掴んでいた手を前に這わせて、結合した部分を扱くように抓んだ。
 腰を前後に揺すりながら、ヌルヌルとした媚肉の感触を確認する。
「…っう…っう」
「ここに、『モノ』を挿れられるコトに、すっかり熟れたみたいだな」
「…っう………はぁ、う〜ッ…」
 男の逸物を咥え込んだ襞の、ぷっくりと充血した突起を擦られ、猫のような鳴き声を喉の奥から搾り出させられる。
「―――アコ時代から、何回も挿れてやったしな」
「…ゃめ…もぉ………ゃ、めて」
「そっだな、もっ………終わる」
「中はいやっ―――ぃゃ…あ」
 壁に寄り掛かるように、壁に押し付けるように。
 重なり合ったまま、二人の身体が震えた。
 股間から滴り落ちた粘糸が、ベルトから外れた黒いガーターを白く汚していった。
 天井の梁にとまっていた鷹が、一声鳴いて首を竦めた。





プロンテラ大聖堂礼拝室

「―――偉大にして慈悲深き我等が神よ。人の子を救いたまえ、人の子の罪を許したまえ」
 ステンドグラスから降り注ぐ壮麗な聖堂で、跪き目を瞑りて祈りを捧げる。
「そして、願わくば………私の罪を許したまえ」
「ハハっ、また随分と熱心ねぇ」
「先輩っ?」
「よっ♪」
 どこか楽しげに片手を上げて見せたのは、黒髪に黒い翼のヘアバンドをした女性の司祭だった。
 長椅子に腰掛けて、無造作に足を組む。
 形の良い、ガーターに包まれた足が、ほぼ根元まで剥き出しになったが気にした様子も無い。
「ふぅ………平和ねぇ、ここ最近の首都はテロも起きやしない」
「は、はぁ………あの先輩、ここで煙草は…その、また大司教様から叱責を」
 煙を神聖な静寂に満ちた聖堂に吐き出した後。
 改めて咥え直してニヤリと笑う。
「今更今更♪ こんな辛気臭い場所で奉仕義務なんて、一服でもしないとやってられないわよ」
「先輩っ、声が大き」
「アンタだってそう思うでしょう?」
 目の前の司祭は、アコライト時代に師事していた頃から、そのサバケ具合がまったく変わって居なかった。
 普通の聖職者から見れば、信心深いとは言えない自分がここまで来れたのは、この人が師であったからこそだろう。
「………ま、まあ、それはそうだと思いますけど」
「でしょ?」
 我が意を得たとばかりに胸を張る司祭が、腕組みをして屈みこむ。
「で、アンタはその辛気臭い場所で何をしてるのさ?」
「…っえ!?」
「神様に祈りを捧げて問題が解決するのなら、世の中もっと平和だってコトよ」
 椅子にそっくり返って伸びをする。
 神は全能であるかもしれないが、全知ではない。
 大体、神様はお忙しいので、下々の都合に一々構っちゃいられない。
 気に入らない厄介事があるのなら、自分の拳でカタを付けた方が早い。
 ―――という異端フレーズが、殴りプリである彼女のスタンスであった。
「まあ、完全支援仕様のアンタにゃ、キビシイかも知れないわな」
「あ、いえ、その」
「悩み事の相談なら、神様よりちょっくら先輩に話してみ?」
「いえ、良いです。悩みとか、そういうのじゃ無いですから」
「………はあ、成程ねぇ。オトコかぁ」
 目を見開いて硬直する。
 その様子を見て苦笑した。
 BINGO、である。
「まあねぇ。実際、多いんだわ。アンタ達くらいの歳だと、色恋沙汰のすったもんだがね」
「ち、違うんです!」
「確かアンタって、どっかのギルドで姫…げふげふっ、あ〜養殖、じゃなくて、固定ペアで組んでるんだったかな?」
「ぅ…は………はい、そうです」
「ハンターだっけ、彼?」
「そうです」
 諦めたのか、正座したままの恰好で話し始める。
「んで、どうしたのさ? 彼、BOSS狩りにでもハマったとか」
「違います」
「新しい相方でも紹介された?」
「違います」
「廃ギルドにでも引っこ抜かれそうだとか?」
「多分、違います」
「非公平支援してくれ、とか言われてるとか?」
「時給効率で1.8M以上出てるので、満足してくれてるみたいです」
「あ…そ」
 思わず拳が出そうになってしまったが、抑える。
 殴りプリの自分の場合、効率は計測し様とすら思わない。
「じゃあ、なんなのさ? 狩りの儲けとか、全部持ってかれてるとか?」
「そうですが、特にゼニーが欲しい訳じゃないので、問題ではないです」
「いや、問題あるから、それ」
 コメカミを押さえて溜息を吐く。
 ふたりが一次職時代に、相方だというアーチャーだった少年と逢った事がある。
 印象として、悪い意味ではなく、普通の少年だった。
 初々しいふたりのやり取りに、拳が出そうになった事を覚えている。
「そりゃあ、ふたりの取り決めだから、アタシが口出すコトじゃないんだけどさ」
「すみません」
「結局、何を悩んでいたのさ?」
「それは………」
 口籠る、がそれは思いを言葉に出来なかったからだ。
 目を瞑り、胸に手を当てて答えを探す。
「自分、が―――必要とされているのか、自信が持てなくなったんです」
「ん〜…ははぁ。フフフっ…」
「な、何ですか、先輩っ。私はマジメにっ」
「ふふっ、あ〜いや、ごめんごめん」
 楽しそうに笑ったまま、手を合わせて謝罪する。
「馬鹿にする心算はないわよ。ただ、うん、そうだねぇ…アンタも一端の聖職者っぽくなってきたんだねぇ」
「先輩?」
「そろそろ、戻らなきゃね。奉仕期間延長なんて、ぞっとしないからねぇ」
 煙草を揉み消して、椅子から立って尻を叩く。
「ああ、そうそう。そういう時はね、初心に戻って御覧なさいな。アコライトになった時のコトをね」
「…は、はぁ」
「まあ、あんまり彼氏が無茶言うようなら、アタシがスパナでぶん殴ってあげる」





首都プロンテラ南門広場

「―――はぁ…」
 大きな溜息が一つ。
 プロンテラ南門城外には、今日も沢山の冒険者で溢れていた。
 ある者は、臨時と呼ばれる一時パーティを組むため。
 ある者は、ギルドの勧誘、そしてギルド探しのため。
 ある者は、その集まった人目当ての商売のため。
「ねぇ、キミ?」
「は、はは、はいっ?」
「ひょっとして、ギルド探してたりする?」
 ヘルムを冠った剣士とゴーグル姿のシーフが、城壁の際に座りこんでいたアコライトに声を掛ける。
 装備も、腰に下げた武器も、真新しく綺麗だった。
 それは、即ち駆け出しの冒険者である事を物語っていた。
「俺たち、まだ一次転職したばっかりのペーペーなんだけどさ」
「こないだ、オークダンジョンいったら、エンペ拾ってね。ギルド作って見たんだ」
「良ければ、ギルドに勧誘したいんだけど。どう?」
「まだ、俺たちふたりだけで、アコ系さん居ないんだ。仲間になってくれないかな?」
 真っ直ぐな瞳で、誘いの手を伸ばす。
 だが、その誘いの返答は、亜麻色の旋毛だった。
「あ、あのっ…すみません。ごめんなさい」
 ぺこぺこと頭を下げるアコライトの少女に、剣士とシーフの少年は顔を見合わせて苦笑した。
「ああ。こっちこそ御免。てっきり、ギルド探してるんだと思ってた」
「お前の顔が恐いんだよ。断られたの何人目だ」
「言ってろっ、この………じゃ、またね。アコさん」
「は、はいっ」
 どつき漫才をしながら去っていったふたりを、見送った後。
 大きな溜息を漏らして、がっくりと肩を落とす。
「………折角、誘って貰えたのに」
 わざわざ、南門外で座りこんでいた理由は、一緒に冒険をする仲間を探しているためだった。
 アコライトは特殊なタイプを除いて、戦闘能力は殆ど無い。
 武器を使った戦闘や攻撃魔法ではなく、癒しの力、戦闘を補助する能力に長けている。
 だから、修行を積むためには、仲間と一緒に戦う必要があった。
「先輩ぃ…私はもう挫折しそうです」
 少女を臨交広場に送り込んだ殴りプリの師匠は、スパルタ系であった。
 無論少女も、装備の貸し出しも、壁育成も無しでアコにまで転職させている。
 空を見上げて、もう一度諦めの溜息を吐いた。
「―――はぁ…」
「―――ふぅ…」
 ふと隣に、同じような鬱の入った溜息を聞き付けて振り向く。
「あっ?」
「えっ?」
 問いかけが重なり、同時に吹き出した。
 同じように城壁に寄り掛かるように立っていたのは、真新しい弓を背負ったアーチャーの少年だった。
「あ…っと、何をしてらっしゃるんですか?」
「あ、うん。ちょっと休憩…」
 少年は頬を掻いて、視線を逸らすように空を仰いだ。
 その仕草の意味は自分も良く知っていたので、その横顔をじぃーっと見詰める。
「………実はギルド探し」
「やっぱり…」
「あはは。でも、どうも気後れしちゃってさ。ゼニーも無いし、装備も店売り品だしさ」
 それは、少女も同じであった。
 臨時パーティーでの公募も、木琴、特化装備を前提にしてるのが殆どだ。
「キミも?」
「え、ぁ、はい…なんですけどね」
「ん、じゃ頑張って。俺は、暫らくソロかなぁ」
 その、寂しげな笑顔が、何となく自分とダブってしまって。
「あのっ! それじゃ………」
 立ち上がって、一歩を踏み出していた。
「私と、一緒に、狩りにいってみませんか?」





Former Day's

「―――なんか、エルダが火属性って、可笑しくない?」
「あわっ、良いからっ、矢を変えて下さいっ」


「ヒールボム!」
「ダメだって! タゲそっちいく、回復専念お願いっ」

「やった!! ソヒからsマフラ来たああっ!」
「やったね! 二人の貯金あれば、木琴マフラ作れるよっ」


「あ、あのさ………本当にいいの? これは二人のゼニーで」
「いっぱい躱せるようになれば、私の負担も減るんだよ? だから、これは私を守る事にもなるんだから」


「じゃ、じゃあさ。何か、俺にできるコト、言ってよ」
「あ、う〜ん………あはっ、じゃ………キスとか」
「…」
「…ぁ」
「こ、これは、お礼とかじゃ無くてっ! 俺、その…キミのコト好きだから」
「…ぁ」
「う、あっ、ごめっ…泣かないで」





Clock Tower WF

「Lex Aeterna!!」
 空に映し出された裁きの女神幻影が、剣の雨を降らせる。
 不可避の幻影の剣は、綿帽子に針を刺すかのように、容易くMOBに埋まった。
 だが、それは蚊に刺された程の衝撃も与えず、巨大な振子時計は何事もなかったかのように、無機質な表情で放浪を続けている。
「Double Strafin!!」
 高精錬された無形特化角弓から、閃光の勢いで火矢が放たれる。
 同時に射撃された2本の矢は、僅かにずれてクロックに着弾した。
 最初の音で、その擬似生命機能が停止し、次の音でふたつに撃ち砕ける。
 四散した木屑の中に、綺麗な細工の針と、淡い光を放つ金属の塊が転がっていた。
「おっ…と、八つ目」
「…おめ」
 拾い上げてサックに放り込む。
 防具の精錬に使用されるため、エルニウムと呼ばれる希少金属は高値で取引される。
「これだけあれば、何とかなるかな」
 満足げな溜息を漏らして、角弓を肩に担ぐ。
「じゃ、今日はそろそろ切り上げよ?」
「うん…」
「まあ。今日はそこそこ稼げたね」
「うん…」
「ていうか、沸きが良かったのかな。ラグかったけどさ」
「うん…」
「さっきから、どうしたんだよ? 何か、心此処に非ずって感じだし」
「うん…御免ね」
 矢の補充と収集品を整理するために、何時もの休憩場所に退き込もる。
「ま、いいや。―――脱げよ」
「うん…いいよ」
 相方の前に立ったまま、聖衣のスリットを捲るように自ら下腹部を晒した。
 亜麻色の三つ編みにした髪と同じ、股間に繁る若草があらわになる。
「…て、何で下着」
「別に………いいでしょ。同じなんだし…」
「そ…っかよ。準備オーケーって訳なんだ」
 座り込んだ彼女の、どこか無機質な瞳に苛立つ。
「それじゃあ、俺の準備を整えてくれよ」
「何を…すれば、いいの?」
「咥えて」
 壁に背中を預けて寄り掛かり、腰のベルトを外して目の前に曝け出した。
 両手を掲げるように、これからの行為に鎌首をもたげ始めている陰茎の根に触れる。
「ま、って」
「…なに?」
 手馴れた様子で根元から扱き出した彼女を、腰を退くようにして離す。
「口で、して」
「………? だから」
「手、使わないで」
 その頬が一瞬。
 赤っ…と染まったように見えた。
「ぅ…うん」
 両手を腰の後ろに回し、ソレを直視しないように視線を逸らせながら顔を近づけていく。
 上から見下ろしていたがその仕草に、勃起の興奮度が昂る。
「…きゃ!」
 頬を弄るように、跳ね上がった逸物の先端が彼女の唇を掠める。
「ぁっ、ごっ…」
 ビクリと振るえた手を、自分で抑えつけて唇を舐める。
 一度だけ深呼吸をして、冷たい声色を作って言葉を告げた。
「―――舐めて」
「………ん」
 桜色の唇からチロリと舌先が覗き、既に反り返って裏筋を晒す逸物に触れた。
 出張った裏筋の中心に沿って、キャンディを舐めるように下から舐めあげる。
 口での奉仕は初めてではなかったものの、そのぎこちなさは隠しようがない。
「今まで、嫌がってたのに、随分…素直にっ」
 亀頭の括れを繰り返し舐めると、張り詰めた先端から先走りの雫が混み上がってくる。
 敏感な部分への刺激に、ハンターの膝がガクガクと振るえる。
「…はー…はー…ん〜」
 亀頭の先端にキスをするように唇を乗せ、舌を押し当てて絡める。
 くちゅくちゅという響きの中で、先端だけに加えられる刺激に堪え切れず、絹糸のような髪とビレタを押さえて抱え寄せる。
「んっんんぅー…」
 口腔に押し込まれた肉棒に、一瞬だけ呻いて喉を鳴らす。
 唇から滴る唾液を拭い取ることもせず、何かを守るかのように両腕を腰の後ろに組んだまま。
 舌の上に溜った唾液を塗りこむように、下から亀頭の括れを舐め回していく。
 根の元に掛かる熱の混じった息が、擽ったいような掻き毟りたいようなもどかしさを煽る。
 左手で顎を、右手でビレタを掴んで、喉の奥にゆっくりと深く挿入させていく。
 呼吸を塞がれて切なげに眉をしかめるのにも気づかず、喉輪に亀頭を擦りつけるように腰を前後させた。
「…ぅ…かふ………はっ、ぁ」
「ぁ―――も、挿れた、ぃ」
 そのまま仰向けに押し倒し、スリットからスカートを捲り上げて足を開かせる。
 人形のように従順な彼女の片足を肩に担ぎ、反り返った自分の逸物を押さえつけてソコに宛がう。
 前戯を与えられずとも綻ぶように口を開いた淫唇は、内側から膨らんで泌んでいた。
 先端を押し込めると、両手を顔に当てていた彼女の顎がビクリと震えた。
「ぅ…ん」
 ずるり、と肉根の幹が柔らかい肉の中に浸入していく。
 襞を押し分けるように膣の底へ押し当たる。
 挿れただけで達しそうになる衝動を抑え込み、自分のモノを咥え込んだ彼女の恥丘へ寄り掛かるように覆い被さる。
 下から掬い上げるように、腰を両手で抱え込み、露出させた下肢同士の密着感を高める。
 擦るように小刻みに腰を揺すり、中の肉を馴染ませて捏ねる。
 幾度も、そしてほぼ連日の行為を繰り返しているソコは、すぐにねっとりとした感触をふたりに与え始める。
 背中を石畳に擦られて肩を捩るが、そのまま抱き起こされて互いに組み合う体位にされる。
「一緒に…動いて」
「ぅ…ぅ、ん」
 胡座をかいた男の腰に跨がるプリーストは、抱き締めた背中を強く掴み、自分からゆっくりと腰を前後に蠢す。
 歯車が回り、針が傾ぎ、振り子が踊る。
 遥かな時間をただ規則正しく刻んできた機械たちが、囀るような歌を刻んでいる。
 呼吸のリズムが、周囲の音に飲まれていく。
 喘いでいる、そんな呼吸を繰り返している。
 自分の一部を飲み込んでいる、彼女の腰を両手を回して抱える。
 聖衣の下に手を挿れ、肉付きの良い尻を掴む。
 首に縋りつき、一途に揺すられる彼女のリズムをコントロールする。
 吐息のようだったその呼吸が、熱くうなされる鳴き声に変調していく。
 掻き回される肉の感触が、不随意の生理反応にビクリビクリと痙攣を始めた。
 狂ったリズムの蠢きの中で、反り返る背筋が震え、跨いだ太股がガクガクと痙る。
 どちらかが誘うまでもなく、横臥したふたりはお互いに足を絡ませたまま、ただ腰を揺すった。
 受け入れた肉の窄まりが、小刻みな痙攣を繰り返した後に凝縮した。
「っぁ…はっ、ァ」
「んッ、ふっ…あ、アあァ…ぁん」
 突き出された彼女の腰を背中から更に抱き寄せ、挟みこんだ足の付け根の衝動が解放された。
「っ、ア! ぁ、ァ」
 女のような鳴き声をあげ、強く彼女の身体を抱き締めながら射精を行なう。
 胎内に繰り返し、幾度も爆ぜる体液の放出に、彼女は達した後の空虚感のままに満たしていく感触を受け入れていた。
「―――あのさ、今日はもう降りよう。そして、さ。渡す物があるんだけど」
 銀色の髪を梳きながら、もう片方の手で乳房を撫でる。
 服の上からでも隠せない膨らみを、確かめるような手付きで揉んだ。
 挿入したままの逸物が、意識せずに再び起つ。
 子宮に溜った男の精液が、ヌルリと滑った膣膜の蠕動に滴る。
「の、前にもう一回、このまま」
「もう―――終わりにしましょう?」
「え?」
 男の胸に額を当てたまま、静かに告げる。
「なっ、何でだよ? 今更、かまとと振るなよっ。自分だって好きなんだろ?」
「うん、好きだよ。大好き」
 顔を上げず、男の身体を抱き締めたまま告白した。
「アナタの事を愛しているから―――もう、別れましょう?」
 呼吸が止まって、血が凍りついて、頭が真白に白熱した。
 時計の歯車の音ですら、凍りついた自分の中の一瞬の永遠の感情。
「アナタの事が好きです。だから、さようなら…」
「…」
 胸の中から仰いだ顔が、涙を零しながら笑っていた。
 その笑顔を最後に残そうと。
 だから、その言葉が本気だと悟った。
 何か。
 言わなくちゃいけないのに言葉が喉の奥で凍りついたまま出てこないのに頭の中で思うのはそんな彼女の笑顔が何時から見れなくなっていたんだろうなんて馬鹿な考えをしてる。
 このまま彼女を失うとしたら、それは彼女からの永遠の祝福になる。
 だけど、そんなものは。
「―――ち、がう」
 から。
「―――」





プロンテラ大聖堂懺悔室

「―――はいはいはい。それで、どうしたって?」
 赤裸々な。
 あまつさえ自分のアノ時の声を実況中継しながらの、長い長い懺悔が終わった。
「あの人ったら、自分じゃ効率が出せないって思い込んでて、それを引け目に感じちゃってたらしいんですよ〜」
 アノヒトと来た。
 悪魔のヘアバンドをした女性司祭は、この間とは打って変わって上機嫌な後輩に呆れる。
 完全に意識がハイ状態だった。
 もう、天上界の住人、ハイランダーだ。
 んな訳は無い、と自分の脳内でセルフ突っ込みを入れる。
「それでですね〜、意地悪というか、試すというか…ごにょごにょな事をして、私の愛情を試してたっぽいんですよ、これが」
「………あ〜、ハイハイハイ」
「まったく、男の子って幾つになっても、子供ですよね〜。好きな子を苛めたいって、ああいう屈折した愛情表現らしいんですよ。可愛いですよね〜」
 可愛いじゃネエ。
 ポケットから新しい煙草を取り出して咥える。
 素で聞いているのが、激しく虚しい。
 もはや、惚気話と化した会話は、懺悔室の無機質な空間をラブ色に塗り潰していた。
「『いかないでくれ!』『キミが必要なんだ!』『愛してる!』『転生してもずっと一緒に居よう』って、最初からそう云ってくれてれば、私も悩まなかったっていうのに、冗談じゃないですよね〜本当」
 冗談じゃネエ、ってか逝ケ。
 と、半ば本気で思う。
 胸の前で組み合わせた手は、祈りを捧げるための合掌ではなく、薬指に煌めくエンゲージリングを見せびらかす為に違いない。
 だが、まあ、確かに針の先ほどは羨ましく思わなくも無い。
 暗く萎れた花よりも、明るく咲き誇った花の方が美しい。
 身に纏う空気ですら鮮やかに見えた。
「というか、新調したのね。装備」
「あ、解りますか?」
「………んなに、肩忿らせて胸張ってるのを無視するのも忍びなくてね」
 聞くのが先輩としての務めだろう。
「あの人がですね〜、知り合いのブラックスミスに頼んで、精練して貰ってたんだそうです。今までの稼ぎを全部つぎ込んじゃったらしいんですよ。本当、馬鹿ですよね〜」
「そりゃ、+7規定のイミュンマフラーなんぞ作ったら、貯金も飛ぶわな」
「『キミに怪我をさせたくないんだ…』なんて台詞、もう恥ずかし過ぎですよぉ」
 そろそろ、堪忍袋のリミットブレイクが近づいてきたのを自覚する。
「それで、アタシに、何の用が在るのか、的確かつ迅速に宣べよ」
「あ、はい。そうでした、もう〜…先輩が余計な事を聞くから」
「あはは」
 人間相手に殺意を持ったのは、久し振りの事であった。
「それで、ですね…その、来週に式を挙げたいと思いまして」
「ほ」
「先輩に、お願いしたいんです」





プロンテラ大聖堂礼拝所

 ステンドグラスの光が刺し込む中で、嬉しそうに深く一礼をして踵を返す。
 煙草を咥えたまま、苦笑いを浮かべて頭を掻く。
 出口では一人のハンターが、壁に寄り掛かるようにして待っていた。
 お互いに駆け寄るようにして抱擁し、僅かな会話が躱される。
 多少、聖職者としての体裁を教えておいた方が良かったかもしれない、と場違いな感想が浮かんだ。
 ふたりはこちらに向かって深く頭を下げると、寄り添うようにして礼拝所を後にした。
「フゥ〜………あの子が結婚ねぇ」
 誰も居ない礼拝所の中で、歴然と並べられた椅子の一つに座り込んで溜息を吐いた。
「アタシも歳食ったって事かな」
「そりゃまた、感動的な台詞だな………感心ーする。まだ若い心算で居たかァ」
「黙れ。てかどっから入ってきたんだ、アンタは」
 腕を組んで、チェシャ猫のようにイヤラシイ笑みを浮かべた男が鼻で笑う。
「正面から、堂々と」
「破門された破戒僧の台詞じゃないでしょうに」
「はぁ〜ん? 古巣に遊びにくるのに、遠慮する必要ないだろ」
 一般解放もされている大聖堂の中である。
 ましてや、聖衣を来た人物が中を歩いていれば、誰が呼び止める事も無い。
 黒と赤の聖衣を着た男は、煙草の紫煙をワッカにして吐き出す。
「ここは、アンタの遊び場じゃないってのよ。何しにキタ」
「ハンティング。まあ俺ギルドにアコプリ足りなくってなー。青田狩り」
「カエレ」
「同期のよしみで、可愛いアコたん紹介しておくれ。無論、おにゃのこだ」
 そう、あの子は間違っていた。
 下半身直結厨とは、こういう男の事を指すのだ。
「清純な顔をしつつも、身体はボイ〜ンな感じで、エッチなんか知りません、てな性格をしつつも実は淫乱、そんなアハーンウフーン的なアコたんを希望するぞ」
「阿保くさ。―――そんなに暇なら、狩りにでも行く?」
「はァ? 誰と」
「アタシとペアで」
 両手の指で自分を指差して見る。
「………」
「うん?」
「………殴り仕様プリと支援仕様プリが組んで、どこで狩るってんだよ。マジで」
「いいじゃない、たまには。効率ばっかり追ってると、魂が腐るわよ」
「冗談じゃね。ペア狩りなら、魔女っ子拉致って、廃屋監禁これ最強…グボッァ!」
 街中で普段着に対人装備を纏っている奇人プリだとて、そっくり反って嘲笑っている隙を突けば、気絶させる程度は容易い。
 右手を掲げてワープポータルを開き、生ゴミのようになっている腐れ縁の腐れプリを放り込む。
 そして、自分も足を踏み入れる前に、ふと振り返って胸で小さく祈りを捧げた。
「―――偉大にして慈悲深き我等が神よ。人の子に恵みを、人の子に祝福を与えたまえ」
 ステンドグラスから降り注ぐ壮麗な聖堂で、誰も居ない空間に祈りの残滓が木霊した。
「そして、願わくば………ほんの少しの祝福をあの子たちに」







[Central]