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求めたものは心震えるほどの闘争。
同種の中でも至強と呼ばれ、絶対君主として一族に君臨する筈だった。
だが今は、暗い暗い牢獄の中で、闘う事も出来ずに愛でられる日々を続けるだけ。
何年、何百年、何千年の孤独。
しかし、それでも。
諦めては居なかった。
朽ち果てたこの身を、冷え切った魂を熱くさせてくれる闘争を味わえる瞬間が来ると。
頑なに、信じていたのである。
そして今、それが叶えられる時が来ようとしていた。








  黒のカタコンベ
    第十幕
      「中層〜Unknown・Side『シュウ』」


                               
滑稽





先頭を歩くのは騎士とクルセイダー。
それを補佐するのはプリースト二人。
後衛となる者が居ないのであまり良い布陣とは言えないが、それでも誰一人欠ける事もなく、しっかりと進んでいた。
「…やはり繋がらないか」
「ん…ギルドの?」
「ああ。参ったな…合流するには降り続けるしかない」
ギルドのメンバーは時間的には先行している筈だ。
何時の間にかウィスパーも通じなくなっている。
そういう封印の類がダンジョン内に為されているのだろう。
「パーティ会話機能が生き残っているだけでもありがたい所だろうさ」
だが、これもいつまで保つか判らない。
「気をつけていこう。向こうと合流できなきゃ、俺達だけでここのダンジョンを進むには限界があるからな」
「ん」
頷く三人。
周囲に気を配りながら、更に奥へと進む。
と。
―闘争…。
「ん?」
「どうした?シュウ」
「今、何か声が…聞こえなかったか?」
かなり重厚な声が、脳裡に叩きつけられたのだ。
「いや?」
「んー…」
だが、フィル達にはまったく聞こえていないようで。
(幻聴か…?)
首を傾げるが、だが確かに聞こえた。
―闘争こそが…我が生涯。
「…」
二度目。間違いない。
すぅ、と。
シュウは目を細めた。
「旦那?」
―闘って、闘って、闘い抜いて…
「呼んでやがる」
「は?…誰が?」
ララムがそう声を上げた瞬間。
空間が撓んだ。
「おい、今すぐここから離れ―」
シュウの声が終わるより早く。
―そして、至高の勝利を!!
撓んだ空間が、シュウと周囲に居た三人を飲み込んだ。


「ふん、せっかちな奴だな」
四人が放り出されたのは、円形の部屋だった。
「こ、ここは?」
扉はない。上を見ても微かな明かりが差すだけで、見通しは悪い。
「墓地か…玉座か」
「玉座…?ヒッ!?」
松明を点けたララムが、悲鳴を上げた。
全員の目がララムに、そしてララムの向こうに在る『それ』へと向けられる。
「闘争種族、オーク。その頂点に立つ者が、万闘の覇者たるオークロードであるならば…」
雄美な兜、一振りのシンプルかつ重厚な作りの剣。
「生まれながらにして剛き彼等は、種族的な志向に於いて『祝福された』存在だ」
「…オークヒーロー」
「そう、オーク族に伝わる秘伝の武具を与えられ、身が朽ち果てるまで闘う事を喜びとする―」
眼前に座す、それこそは。
「その、朽ち果てた姿だ」
ララム達が目を反らす。
だが、シュウは目を反らしすらせず、その骸へと歩み寄った。
「闘い抜いて死んだオークは安らかに地へ還るが、生前悔いを遺した者は死してなお闘いを求めて彷徨う事となる」
剣を抜き放ち、徐に骸へと振り下ろす。
「シュウ!?」
フィル達が非難の声を上げるが、次の瞬間響いた金属音によって彼等は絶句してしまった。
「俺を呼んだのは、あんただろう?旧き遠き、偉大な勇者さん、よ」
「ニンゲン…か」
どんな原理だか、骨から声が響く。
シュウの一撃を、己の持つ剣で受け止めたのだ。
「我が…狂おしき叫びを…聞いたのが、卑小なるニンゲンだったとは…な」
その声は、少なからず失望をはらんでいた。
「悪かったな、卑小で」
と、骨が立ち上がった。何かに気付いたらしい。
「貴様…その兜は」
「アンタのモノと一緒さ。オークヒーローの兜だ」
ぎちぎち、と。骨が歯を軋らせた。
「それをどこで、手に入れた」
「アンタの故郷、オークの村さ」
「どうやって手に入れた…!勇者を殺し、その死体から奪ったとでもいうのか!!」
「そんな事するものかよ」
だが、骨が怒りも顕にその剣を振るう。
「ぐォ…!」
盾で、そして鎧でも受け切れなかったその剛剣に、体が揺らぐ。
「許さん、許さんぞ貴様!その兜は我等の―」
「戦士の誇りを我欲で奪うほど、俺は外道ではないッ!」
シュウもまた怒号を上げる。
「ぬ…」
「万に及ぶ闘争を経て、百に至る死闘の果てに、アンタの一族から認められた証が、これだ」
懐から丸い板のようなものと、一振りの剣を取り出し、示す。
「その剣…と証…」
「判るだろ?アンタの一族が俺の為に作り、与えてくれたものだ」
オーキッシュソードと、オーク族の勇者の証。
「アンタ達に認められた事は、間違いなく俺の誇りさ」
「ならば、貴様…貴様は!」
「そうだ。人の身でありながら、オークヒーローとして認められた者さ」
「オオ…オオオオオッ…!!」
その身を震わせる骨。喜びか、猛りか。
「始めよう、先達」
シュウは手持ちの二振りのうち、オーキッシュソードの方を構えた。
「アンタにどんな悔いがあって、今ここに在るのかは判らん。…だがな」
数百年、いや数千年に至るかもしれない孤独。願い続け、そして叶わなかった苦悶。
「ここには闘争がある。アンタが望んだものとはいくらか違うかもしれんが…」
互いの剣が届く距離。互いに全身の力を総動員し、そして。
「アンタも、俺も。自らを焦がし尽くすほどの闘争を繰り広げてみせようさ。なあ―」
眼前の敵へと叩きつけた。
「スカルヒーローさんよ!!」


続く









後書き
ども、滑稽です。
天や斬に続き、シュウもまたダンジョンの中に棲む特殊な存在と戦闘を開始しました。
ちなみにオークヒーローの兜云々については、入手クエストを元に構成しました。
次回以降、なんでこんなところに骨ヒーローさんが居るのか、とかも書こうと思っています。
では、次回にて。
次回はリュード編になります。






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