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―あれあれ?随分粘るねえ。
―困ったね。中々有能な指揮官が居るようだ。
―このままだと王様の所が騒がしくなってしまうよ。
―仕方ない。
―うん、仕方ないね。
―僕達の力を。
―見せてあげよう。
―炭にしてあげよう。
―楽にしてあげよう。
―押し潰してあげよう。
―皆殺しにしてあげよう♪







  黒のカタコンベ
    第十一幕
      「中層・Side『リュード』」


                               
滑稽





「あー、もう!もう少し柔軟に戦おう、って考えはねえのかよッ!?」
何十度目かの戦闘だろうか。
敵を退けた後、リュードの怒号が騎士達に浴びせられた。
「いや、しかし…」
「調練の際には…」
そして毎回返されるこの台詞。
「だ・か・ら・な!?何度も言ってンだろうがよッ!連中がてめえの予想や訓練どおりに行動してくれる訳がねえだろうッ!」
「ぬぅ…」
「後ろが支援してくれる、盾で攻撃を防いでくれる。そこまで信頼できるほど、てめえら互いに付き合い深ェのか、ああッ!?」
今度はクルセイダーやプリースト達へも。
「それは…」
いつまで経っても煮え切らない面々に、いい加減リュードの我慢も限界を超えた。
「…もういい。なら次も杓子定規にやって勝手に殺されて死ねよ。俺はもう知らね」
溜め息をついて、吐き捨てる。
シュウとの約定もこれだけやれば果たした事になるだろう。
「おい、行くぞ。こんな連中に手ェ貸すより、フリューゲルドルフを探し出して合流した方が生還出来る確率上がりそうだ」
「ん」
「そうね」
「判ったわ。…ご機嫌よう、皆様」
リュードが連れていた三人が、人波から外れて彼の方につく。
「じゃ、ま。精々頑張って戦い抜いて死ね?」
走り出しながら、片手を上げて別れを告げたところで、
「ふん。所詮騎士団にも属さぬ無頼よな。品性の低いことよ」
という言葉が浴びせられ、四人は足を止めた。
「まあ、やっすい挑発だな、おい。それで?その言葉で俺に何をさせたいんだ?なぁ、低能さんよう」
「てっ…低能だと!?」
「…お安いやつだなぁ」
簡単に挑発に乗る辺り、特に。
「手前の程度の低さも弁えずに一人前ヅラしているボケどもと心中するつもりはないんでな。失礼するぜ?」
と、お安いと評されて激昂した騎士がこちらに向かってきた。
「貴様、ふざけ―」
『おやおや、仲間割れかい?』
厳かな、だがそれでいて妙に軽い調子の声が響いた。
刹那。
「ひぎいやあああああああ!!」
巨大な落雷が、突出した騎士を一瞬で黒炭に変えた。
「ん…!」
リュードは咄嗟に鎧の留め具を外した。流れるような手つきで次の鎧を取り出し、身に付ける。
『ふむ。反応が早いのが居るね』
『そうだね。どうやらこいつが指揮官みたいだ』
黒炭の上、つまりリュードと調査隊の間に現れた二体。
「…最悪だ」
彼とて、熟練の冒険者である。その姿は、何度となく見た事も、戦った事もある。
服装の色が違う事から、その亜種と見受けられるが、とにかく。
「…ふくろう貴族、か」
『格調の低い呼び方だけど、まあその通り』
『僕はオウルカウント』
『私はオウルマキス』
オウルカウント、と名乗る方が白い服に白い帽子。
オウルマキス、と名乗る方が黒い服に黒い帽子。
「あー、くそ。フリューゲルドルフの野郎…」
別段友人の所為ではないのだが、それでも毒づかずにはおれない。そんな相手。
『さあ、始めようね』
ぶわ、と空気が揺らぐ。
「ひぃ!?」
現れたのは、少なく見積もって十を超えるオウルバロンとオウルデューク。
更にオウルバロンがオウルデュークを呼び出して―
「…こりゃ凄ぇ」
三十を超えるオウルノーブルが、そこに出現したのである。
ペコペコを真横につけた女性騎士が、そっと囁く。
「ここは退こう、リュード。…あいつらを囮に使えば戻れる筈さ」
逃げる。それも有効な一手だろう。
「んー…」
だが、逃げ切れるだろうか。
仮にここで逃げ切れたとして、連中の出現方法を考えて、追いつかれないと言えるだろうか。
追いつかれた場合、たった四人でこの軍勢を相手にする事が、出来るのか。
「…仕方ねえな。俺はいつからこんなにお人よしになっちまったかね」
敢えて、リュードは恩着せがましい台詞を口にした。
半ばパニックになっている調査隊。
無理もない。オウルノーブルはモンスターの中でも非常に強い部類に入る。
「おい!そこの低能ども!!」
リュードが大声を上げた。
一瞬オウルノーブルが自分の事か、と眉を顰めるが、リュードの視線はその向こう。
「もう一度、もう一度だけ手を貸せ!こいつらを殲滅しなきゃあ、全滅するだけだ!!」
「!」
「どうだ!もう一度だけ俺に賭けるか!それともここで仲間と共に死ぬ覚悟を決めるか!!選べッ!!」
一瞬の逡巡。だが、
「…頼むっ!!」
一人のプリーストがそう叫んだ直後、調査隊の面々が次々とそれに続く。
『ほう、彼等を見捨てない、と言うのかい?』
「普段ならてめえらみたいなのは予め準備しない限り相手しない事にしてるんだがな」
本心は違う。
この大勢を例え捨石でも使った方が、まだ自分達が生き残る可能性が高い。
だがそんな事はそもそも口に出来ない訳で。
「ダチに約束しちまった以上、ここでこのボケどもを見捨てる訳にもいかんのよ」
何となく、リュードの魂胆を見抜いたらしく、女性陣も戦闘の準備を開始する。
その前面に立ちはだかるリュード。
「バビィ。ヤユ。イリウ。…行くぜ?」
「了解」
「ええ」
「仕方ないな」
「いいか!デュークには騎士1、クルセイダー1、支援出来るプリースト1!バロンにはマグヌスを使えるプリーストを中心に戦え!」
「「「応!!」」」
「いいか、柔軟に、だ!自分で考えて、対応して、生き抜け!ただ依存するだけじゃ、無様にここで死ぬだけだ!!」
陣形を取る。
だが、リュードの言った事を咄嗟に実践出来るのは半分も居るまい。
そして、出来ない連中から死んでいく事になる。
「さあて、雑兵どもはこれでよし」
戦闘を開始したオウルノーブルと調査隊。
ちょうど挟撃という形だが、こちらには一匹のバロンもデュークも来ていない。
「…気を使ってもらったようで」
『いやいや。彼等より君達の方が楽しそうだからね』
『そうとも。君曰くの雑兵で押し潰すには少々惜しい』
「惜しい…ね?」
その驕りが続いている内に、せめて片方。
潰してみせよう。
向こうで死闘を繰り広げている彼等の為に。後ろに控える愛すべき三人の為に。
「つくづく…お人よしになったもんだ、俺も」
これは本心。
呟いて、槍を構える。
「このリュード・クリティカルスターがここでてめえらにきっちり引導くれてやらぁなっ!!」
大きく突き出した槍の一撃が、オウルカウントの腹部を捉えた。


続く










後書き
ども、滑稽です。
オウルノーブル(貴族)のネタは結構前から考えていた話ではあります。
リュードの話も含めて、黒コンに含めるつもりはあんまりなかったのですが。
とまれ、次は双つの月、もしくはアサシン三人編になるかと思います。
では、次回にて。






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