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インジャスティスは人間を改造したモンスターだと言う噂があった。
そして、その素体となったのは例外なくアサシンであっただろう、という噂も。
単独での戦闘を好むアサシンは、戦闘中に行方不明になる事が多い。
もしもそれが事実であれば、それは全てのアサシンの、そしてギルドの屈辱である。
その根源が目の前に在る。
彼等が心を燃やすのも自明の理であると言えた。








  黒のカタコンベ
    第十二幕
      「Side『天&斬・rare-injustice』」


                               
滑稽





「ソニックブロー!」
『ふむ。ソニックブロー』
天の神速の斬撃がレア・インジャスティスを捉えると同時に、レア・インジャスティスもまた高速の斬撃を繰り出してきた。
だが天の斬撃はその腕と肩を抉り、悉くの軌道を変える。
「はっ!」
その間に死角に回り込んだ斬が、右手の刃を回転させながら斬り付け、返す刃を喉笛に突き立てる。
レア・インジャスティスが反撃しようとした時には、既に離れている。
見事な連携とヒット&アウェイである、が。
「ち」
「またか」
『ふむ。非常に鋭い動きだねえ。どうやら人間はあれからもずっと研鑽を続けていたようだ。感心感心』
ずぶずぶ、と再生していくレア・インジャスティスの肉体。
「リジェネレーション…?」
『ふむ。現状の君たちの破壊性能では、私を討つ事は出来ないだろうな』
「ち…」
レア・インジャスティスの発言に嘘はない。
確かにこちらの持つ手段ではあれに勝つ事は難しいだろう。
広域破壊力に特化したメンバーが一緒だったなら、まだ。
『ふむ。カタール使いの君は私の研究を注ぎ込むに相応しい逸材だと考えているのだが、どうかね』
「願い下げだな」
『ふむ。だろうねえ。仕方あるまい』
天に狙いを定めたレア・インジャスティス。
『ふむ、出来るだけ上手く死なせてから使わせてもらうとしよう』
「させるかっ」
立ちはだかる、斬。
『ふむ。邪魔をしないでもらいたいものだな』
「ちぃ…」
天と斬の攻撃をことごとく受けながら、再生を続けつつ攻撃を繰り出してくる。
「しまっ…!」
ダマスクスを絡め取られて体勢を崩した斬。その頭蓋を断たんと、振り下ろされるカタール。
『ふむ、君の体は彼のスペアにでも使わせてもらごぶっ…!?』
だが、それは届かず。
「!?」
人間で言えば脊髄。そこを背後から短刀で貫く、もう一人。
「旦那様…」
「お前、何故…!」
「追って参りました」
「ち…勝手な事を」
歯を軋らせる斬。
「知り合いか?」
「妻だ」
「ほう」
「置いてきたつもりだったんだがな」
「だが、現状では有難い」
「…違いない」
天の言葉に、渋々ながらも斬は妻に声をかけた。
「手を貸せ。こいつは少々難物だ」
「はい」
喉に風穴を開けられた所為か、かなり再生は遅い。
『…ふむ。もう一人隠れていたのか。気づかなかった。全く気づかなかったとも』
「そりゃ注意力散漫ってもんだ」
『ふむ。猛省するとしよう。だが、例え三人になったとしても、私には勝てるまいよ』
「どうかな」
『君達は速く、そして上手い。だが、得物の所為かまだまだ私に届かせるには一撃が軽すぎると思うね、ふむ』
「…持ってきているか?」
「もちろんです」
その言葉を無視して、斬は妻から短刀を受け取った。
「インジャスティス。不死者でありながら不死者に非ず。忘れていたよ」
今しがた持っていた二刀を仕舞い、受け取った方を手に取る。
『ふむ?』
「刻んでやるとも。この一撃を食らってもまだ軽い、なんて寝言ぬかしてられるかな」
無造作に近づき、斬りつける。
『ぐぅ!?』
「人間は確かにお前らと比べりゃ非力だがな」
…まあ、中には足を止めて殴りあうような輩も居る訳だが。
「だからこそ手段を工夫できるんだよ」
レア・インジャスティスの上半身をずたずたに斬り裂きながら、そう告げる。
『ふむ…ふむ!成る程、もと人間として、その姿勢には大いに同意させてもらおう!』
だが、三人に刻まれながらもレア・インジャスティスは余裕の姿勢を崩さない。
「ちぃ!退くんだ、斬!!」
その危険を察して、一気に飛び退く三人。
『…ふむ。危機察知も一流か』
「何だ…?今のは一体」
何かを飛ばされた。それは判る。
だが、何を飛ばされたのかが判らない。
「針、だな」
天が呻くように呟く。
「針…腕と足のあれか」
「ああ。飛ばした原理がいまいちわからんが」
『ふむ、一応奥の手だったのだが』
残念そうに言うレア・インジャスティス。
「残念だったな。この程度で―」
『捉えたのは一人だけ、か。ふむ』
「なに?」
「済まん、斬」
がば、と振り返る。
天の右腕に突き刺さった、針。
「お前、俺に―」
「いや、避けきれなかったのは自分の不明だ」
左手で必死に抜こうとしているようだが、抜ける気配がない。
「手伝おう」
「いや、こっちはいいから、奴を。また同じ事をやってくるかもしれん」
「…判った」
頷きざま、斬は一瞬で掻き消えた。
出現したのは、レアインジャスティスの背後。
『な―』
「はぁぁぁっ!!」
ぞぶぞぶぞぶぞぶ。
反応しきれないでいたその背中を、幾度となく斬り刻んでいく。
再生速度を超えるほどの手数を、刻み続ける。
『調子に、乗るなッ!!』
ぶん、と振り回される一撃を簡単に避けながら、次の接触に向けての集中を。
ぞぶっ。
「腕を落とされても、再生は出来るのかい?」
今度は腕を落とす。これで戦闘能力は激減する。
『きさ、貴様…!』
「ふむ、がなくなったな。焦りか?余裕もなくなっちまったってか、御大」
喉の部分を下から突き上げる。
「やはり腕は生えてこないか。ならば両手両足もぎ取ってやろう」
内心を憤怒で焼きながら、斬は冷淡にそう告げた。
『ちぃ…っ!!』
と、突如部屋の端へと逃げ出すレア・インジャスティス。
「逃げるかっ」
その先にあったのは扉。一瞬逃亡を危惧するが、レア・インジャスティスは扉に手をかけて振り向いた。
『こいつらを殺せっ!!』
開いた扉から、飛び出してきたのは、
「ふん…この状況で隠し玉か」
どこか普通とは違うインジャスティスの群れだった。
十体は居るだろうか。
「二人とも、行くぞ。一人頭三体だ。とっとと刻んで奴を狩る!」
意気込む斬。
だが。
「無理だ。…退こう、斬」
返ってきたのは感情を押し殺した『否』の答え。
「な…。追い立てているのは俺達だろう!?」
回復剤も十分な量を持ってきている。苦戦はするだろうが、負けるとは思っていなかった。
「天、臆するな。俺達は勝て…」
勝てる。そう言おうと振り返って。
思わず斬は絶句した。
天の右腕が血色を失い、
「済まん、斬。…こういう訳だ」
まるでインジャスティスのような形に変貌していたのだ。


続く









後書き
ども、滑稽です。
次回の斬&天編にて、斬&天編は一旦お仕舞い、となります。
レア・インジャスティスに関してのキャラつくりは「マッドサイエンティスト」に尽きます。
だから白衣を着せてみたんですが、狙ったとは言え、思った以上に変態度も数段UP。
個人的にはお気に入りのモンスターに仕上がりました。
では、次回にて。






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