RAGNAROK ONLINE
  Fan Novel





一軍を払う槍の冴え。
傲然たるその威風。
世に英雄と称される者が居るならば。
それは彼のような者を指すのであろう。
彼、リュードは確かに「決定的な花形」なのだと言えた。









  黒のカタコンベ
    第十五幕
      「リュード・Critical-star」


                               
滑稽





「ちい、硬ぇ…!」
びりびりと。突き抜いたにしては異様すぎる感触に、眉をしかめる。
同じ点を狙い、二度、三度と槍を繰り出してみるが、結果は同じ。
「…ろくに効かねえな」
これでも武装の質には自信を持っていたのだが。
「まあいい。なら全力で…」
ぶんぶん、と槍を回しながら、間合いを計る。
ぎしり。意を感じた相棒―長年連れ添ったペコペコだ。こちらのしようとしている事は察してくれているらしい―が脚を突っ張り。
「削り殺してやるっ!!」
余裕でこちらに大量の雷を落としてくる白ふくろう―オウルカウントに張り付くリュード。
「こちらは私とヤユが受け持つ!バビィ…リュードは任せた!」
「任せたよ、イリウ!」
背後からの慈愛に応えながら、リュードはがつんがつんと硬すぎる貴族に一撃を叩きつけ続けた。


一方。物量戦となったオウルバロン・デュークらと人間達の戦闘は膠着状態になっていた。
大量の聖域が広げられ、騎士やクルセイダーは自らを護るその力に勇躍し、思うさま刃を振るう。
一見不利に見えるオウルノーブルも、次々に同種を召還しては大量の雷撃で少しずつ人間の数を減らしていく。
分散して食らう者は聖域の力で耐えられるが、その中でも稀に集中して雷撃を受けた者は断末魔を上げる前に消し炭になってしまう。
そして、デュークを召還するバロンの数が減ると、
「…ふ。邪魔されては叶わんからな」
オウルマキスが再びバロンを召還してみせる。
膠着状態は、もう少し続くようだ。


「ち。…何だと言うんだ」
女騎士―イリウは両手剣を振り回して、オウルマキスと戦闘を続けていた。
至近、というほどの近距離でもないが、もう片方はリュードと交戦中で、こちらには一切の干渉はない。
だが。
「手ごたえは…ある。あるが…しかし」
「どうした?戦闘中に考え事とは、余裕だな」
雷撃の衝撃くらいでは、準備を整えた彼女達なれば戦闘を維持するのくらいは容易い。
「こちらには優秀な仲間が居るからな。貴様が特殊だ、という事を考察する余裕くらいはある」
いくら攻撃をしても、応えた様子が見えないのだ。
硬すぎる、という雰囲気はない。むしろデュークと同等程度には柔らかい。
余程タフなのか、それともこちらからの攻撃が通じない仕掛けでもあるのか。
見極めなければ、勝機はない。
「なに、逆転の一手を考えているだけさ。そちらこそ…可愛い雷だな?」
「ふ…」
(笑わせておくさ…今は、な)
変わらず剣を舞わせながら、イリウはじっくりと観察を開始した。


「…ジェムの残りが少ないか」
ほぼ不休でマグヌスを連発していたプリーストが、苦々しく呟く。
「こっちもだ。もう直ぐ聖域も張れなくなるな」
よく保った、と言うべきなのだろう。
少なくとも、損耗率はオウルノーブルらとの戦闘前と比して著しく低い。
拙いながらも連携を取り始めていたのが、激戦の中で形を成した。つまりは、そういう事なのだろう。
が。
消耗は消耗するからこそ、消耗なのだ。
「だが、まだ終わらん!」
「そうだ、終わるまで…!」
「あそこの騎士殿のように、足掻くまでだっ!!」
昂ぶった感情のままに叫ぶプリースト達と違い、クルセイダー、そして騎士達はかなり危機感を抱いていた。
彼らにしてみれば、支援の終了が即死に繋がっている。その分、冷静になれたのだ。
ジェムの枯渇が直ぐに影響する訳ではないが、戦闘の比重が拮抗している状況で攻め手が欠ければ押されるのは自明。
「クリティカルスター!そちらの状況はどうだ!!」
一人の騎士が逆方のリュードに声を投げた。
「芳しくねえ!芳しくねえ…が!来るなよ!!」
「何故だ!?」
「乱戦になれば、こいつを捕捉する事が出来なくなるだろうが!」
「ちぃ…!」
「余程戦闘慣れしているようだね、君達の大将は。そちらの戦い方も実に洗練されている。だけど…僕達が生きている限り、こちらの戦力が枯渇することはないのだよ」
オウルカウントの言はまだまだ余裕だ。
「何発叩き込んでいる、クリティカルスター!」
「山ほどだ!だが、何一つ効いている実感がねえ!」
「なんだと…!?」
「硬い…!バロンより遥かにっ!!」
「ふふ。残念だねえ。君は確かに強い。だけど、僕の体はそういうものに生まれつき耐性があってね」
そろそろ諦めるかい?と嘲笑う。
確かに、こちらには決定打がありえない。だが。
「…笑わせやがる」
内心の動揺を押し殺しながら、リュードは吼えた。
「鎧が砕けても、代わりはあらあ。槍が折れても、拳があらあ!俺の全てが潰えるまで、相棒達の力が尽きるまで、付き合ってもらうぜ、梟貴族!」
「物好きだね…」
轟音と怒声の中に、会話が埋もれていく。
と。
「…そうだ!」
何を思ったか、バロンやマキスらの間に身を躍らせる一人の女性プリーストが居た。
ばっ、と手を差し広げて、叫ぶ。
「シグナムクルシス!!」
それは、あらゆる悪魔から抵抗力を奪う術。
悪魔・不死族にしか通じないが、だがいかな強力な悪魔とて避けられない点に、この術の強みはある。
強制的に身を護る魔素を低減させられる為、この場面では―
「「「うおおああああああああああああああああ!」」」
凄まじい鼓舞となり得た。
「でかしたぜ、ねーちゃん!後で抱いてやるからよっ!!」
リュードもまた、内心折れかけていた闘争心を奮い立たせて、凄絶な笑みを顔に浮かべた。
そのまま槍を頭上で振り回し、叩きつける。
「はぁっはぁぁぁ!ブランディッシュ・スピア!!」
「…しまっ!?」
先程はろくに効きもしなかったその一撃は、今度は確かにオウルカウントを傷つけてみせた。
「カウント!?」
「うああ、痛い!痛い痛い!!」
「はっ!柔らかくなっただけで、随分堪え性がなくなったじゃあねえか!?」



「マキス!マキス!!僕を護るんだ!判るだろう…!?『僕が死んだらお前がどうなるのか』!!」
「くっ…!」
カウントの元に向かおうとするマキスの前に立ちはだかりながら、
「…成る程、な」
イリウは目を細めた。
「貴様は、つまり、奴の『取り巻き』か」
「ち…!」
「普通なら一匹の大物に数匹の取り巻きがつく筈。それを一匹に収束した結果が、貴様か」
つまり、この打たれ強さの秘密は、単純にタフだから、というだけではなく。
「高速で『再召喚』されている…ということか」
もしくはもっと違うシステムがあるのかもしれないが。
「貴様あああああああああ!」
怒号。だが、ここでのそれは最早言い訳も出来ないほどの、肯定。
「ならば、こちらも活力が沸いてこようというもの…!」
二体の、一見すると兄弟のような―だが立場の差が歴然としていた―梟の間に立ち、
破顔したイリウが、切っ先をマキスに突きつけた。
「後は、リュードが奴を滅ぼすまで、私がお前を押し止めておけばいい」


機を、逃さない。
リュードは全力を一気に叩き込んだ。
「殺してやる。覚悟しやがれ…!」
「あああ、痛い!痛い!!」
「カウント!」
「行かせない…っ!」
「ああ、止めていろよ、イリウ!とっとと終わらせてみせるさっ!!」
「助けて、マキス!」
「カウント!…ええい、どけっ!!」
ずどん、ずどんと。梟の体を穿つ、穿つ、穿つ。
「ああ、くそっ…!くそ…!!」
ちらりとマキスを見ながら、リュードは毒づく。
「お前達は人間を見下した。ならばお前も、俺達人間に見下されるのを覚悟しなきゃならねえ」
大きく振りかぶって、突き出した槍は。
「死ねよ。お前達は負けたんだ。人間の足掻きに、人間の力に」
オウルカウントの眉間を見事に貫いた。
「カウント…!」
「マキス…」
服だけを残し、消えていく白と黒の梟。
程なく残ったバロンやデュークも消え去り、リュードは槍を仕舞いながら、
「戦略は生物であり、機は一瞬で戦果を異にする。…ま、勝ててよかった」
ほう、と大きく溜息をついた。





続きます









後書き
…難産でしたorz
先に16の方が完成してしまうほど、非常に難産な一本でした。
ですが、まだまだ相手は中ボス。三話も費やすほどの相手でもないので、実は結構端折ってます。
例えば、オウルカウントがオウルマキスを「取りまき」にした理由ですとか、実は色々設定があったのです…が。
さて、次話は斬&天編、完結話です。
では、また次回。






[Central]