RAGNAROK ONLINE Fan Novel 闘争という唄がある。戦争という組曲がある。 交錯、激突、打撃斬撃刺突それら全てが発する音を楽曲とし。 闘志と悲鳴と怒号を謡い。 暴力と破壊と粉砕を舞い。 吐血と流血で戦渦を描く。 嗚呼、此処には血塗れの真理がある。 黒のカタコンベ 第十七幕 「side:シュウ『Das blutig wahrheit』」 滑稽 負の力に固められた骨が、浄化の波動によって軋み、ひび割れる。 天から体内に呼び込んだ聖気聖力を、その全身から放つのがグランドクロス、というスキルの要諦だ。 信仰にて一度に放てる力の質量を増し、膂力によって対象への貫通力を高める。 多くのクルセイダーは信仰を高めることでグランドクロスの聖気の絶対量を増すのが主流だ。 魔素によって聖なる力を遮られ、その威力を減じられる。それでもなお、必殺の威力を確信できる程の過剰な聖気が確保できるからだ。 そういう意味ではシュウのような、極限まで膂力を高めて聖気を余す事無く叩き込むタイプは少ない。 もっとも、シュウはグランドクロス以外にも多くのスキルを使う事を念頭に置いたが故に信仰心より膂力を極めたのだが。 「…こいつが切り札、だ。どうだ、効いただろう?」 「確かに効いた。…思わずあちら側に逝ってしまう程にな」 過剰な威力の所為で、反動による消耗も激しい。 向こうの発言を額面通りに取るか、軽口を叩く余裕、と見るか。 「ち、まだ満足には遠いかね」 シュウは評価を自分にとって下方に修正した。 この相手は、それ位がちょうどいい。 切り札を出したにしては、ちょっとショックなほどに効いていなかったが。 「遠くはない。…だが、まだここで止めるには惜しい、それだけだ」 「そういうのを、遠いって言うんだが…な」 とはいえ、全体を覆ったひびを見る限り、全く越えられない壁ではなさそうだ。 三本ほど白ポーションを続けて呷り、一息つく。 消耗が完全に回復した訳ではないが、それでも充分に闘う力は戻ってきた。 「まあいい。最期まで付き合ってやるさ」 押しているとはいえ、ここで気を抜けばこちらが斃れてしまう。 「油断は期待するなよ。どちらかが終わるまで、全力だ」 「当然だ、新米。…いや、同胞よ」 打ち合った剣の威力は、まだまだ衰えて居なかった。 「…分が悪いようだな」 ぽつりと、管財者が呟いた。 「そうでもないだろうに。こっちにはジェムの残りも―」 「我々ではない。この状況を維持し続ける事は、お前たちには出来るまい?」 「…ちぃ」 それが判っていて、何故このような言葉を吐き出すのか。 ここで戦っている自分達に向けての言ではないとするならば。 「…お前!?」 「私が手を出せば、それは『誇りある戦い』ではなくなる」 それは、シュウとスカルヒーローの戦闘に対する明確な侮辱だ。 「お前…奴の望みを知らない訳ではないだろう!」 「くっくっく、それが私の役目なのだよ」 成る程、管財者とはよく言ったものだ。 『財産』管理のために、手段は選ばない、ということだ。 「貴様には、戦士の誇りが判らないというのか!」 「判らんね。下らない感傷を百年以上も蓄えているアレが悪いのさ」 ぎしり、と。歯の奥が軋る。 フィルの全身に、目の前の悪魔に対する怒りが漲っていく。 「あの皹の入った体も、主の興をそそるかもしれないからな」 「やらせると思うか!」 「思わん…が関係ない」 ふっと、管財者の姿が掻き消えた。 首を回すと、案の定シュウの至近へと現れていた。 追いすがり、進路を塞ぐ。 「あいつの闘いを邪魔しようというなら、私を殺してからにしてもらおう!!」 「ふん、この距離ならお前の存在など気にする必要はない」 「この―」 「甘いわ、フィルさん。こういう奴は、そんな風に言葉で威圧するんじゃなくて」 割り込んできたのはララム。管財者の耳をむんず、と掴み上げ。 「こうやって、実力行使でなんとかしないとぉ…」 ぽん、と中空に放り投げ。 「駄目よおおおおおおおおっ!!」 鈍器をフルスイングした。 「へぶううううううううう!?」 「ね?」 にこやかな笑顔がそら恐ろしい。 フィルは頷きながら、だが一瞬で状況を把握すると、ペコペコを管財者に向けて走らせた。 「このまま―」 落下しつつある管財者が視界に入った瞬間。 「吹き飛ぶがいい!スピアスタブ!!」 槍を振り回して壁に叩きつけ、更に槍を突き込む。 「がっ…がぶっ!!」 「ララムさん!」 「オッケー!」 数歩分遅れて来たララムと、そのまま二人懸かりで殴り続ける。 フィルはスキルを多用して、ララムはその武器と施された祝福で。 その間にもナッツは聖域を展開し、管財者を焼くと同時に二人を助ける。 最大級の戦力一点集中。 轟音ではないが周囲に響く音が絶えずに続き、管財者の反撃すら許さない連打が続く。 暫しの拮抗。耐えるだけの管財者は数十秒の後、ふと瞳を見開いた。 「く…そ…」 それを契機として、徐々に管財者の体が透けていく。 終わりが近いという事だ。 「お前達…に…呪いを…かけてやる…」 「何…?」 最早放っておいても管財者は消滅する。二人が手を出すまでもない。 だが、その言葉だけは止まらない。 「お前達のうち…一人は…ここから、決して生きて…出られない」 「!」 悪魔の、呪い。その効果がどれほど厄介か、知らない冒険者は居ない。 そして、その意味も。 「囚われるのか、殺されるのか。そこまでは指定しない。…だが、お前達のうちの一人。決してここから命ある者としては出られない…」 断末の言葉として、それは刻み付けられた。 三人の魂に。三人の心に。三人の未来に。 「とは…言え。このまま…進めば、お前達は…主の手で…全員…」 その言葉を最期に、管財者は空間に溶けて消えた。 快勝。誰も死なず、紛れもない快勝である。 だがその裏に潜む後味の悪さが、三人を押し黙らせるには充分だった。 闘争とは、『敵』在ってこそ存在する。 憎悪がある訳ではなく。 同情した訳でもなく。 憤怒したのではなく。 悲哀を抱いていたのでもない。 敵とは即ち、己が『強』を示す鏡である。 死ぬ為ではなく。 生きる為でもなく。 殺す為ではなく。 活かす為でもない。 強を示さんが為に、強ならんが為に。 奪う為ではなく。 ただ与える為でもなく。 勝つ為ではなく。 さりとて負ける為でなどある訳もなく。 二人は今、闘争という一つの現象だった。 只管、闘う為に。 闘う為に、闘う。 その全てを渾身で。 目の前に存在する全てを打ち倒す為に。 だが、一秒でも永く闘い続けようと願い。 矛盾を抱えながらも、叩き込む一撃には一切の加減などなく。 幾度と無く斬り合い、斬り結び。 殴り、殴られ。 大小の傷からは鮮血やら魔素やらを流しながら。 闘争は果てなどないかのように、力強く続いていた。 とはいえ。 「我は誘わん!」 何事にも終わりは来るのだ。 「光、力、聖なる十字。天より手繰り寄せる軍神の刃」 シュウは、一歩だけ退いて、剣を地に突き立てた。 最後の力を振り絞り、スカルヒーローが突進してくる。 みしみしと音を立てる腕、足の骨。既に衝撃に耐えられる限界を超えてしまっているのだ。 それでも、後ろは見せない。 ぴしぴし、と骨の欠片が弾けては消失する。 「異種!骸なれど誇り高き戦士の魂!闘争を求める激情さえ打ち砕き!」 シュウが何をするでもなく。 致命的な、音が聞こえた。 最後の踏み込みで左足が砕け散り、剣を振りかざした右腕がへし折れた。 「永き、妄執の…果てに」 折れた右腕が塵と散る中、その剣だけが床に突き刺さる。 「満ち足りる闘争を、得た。…喜ばしく、思う」 だが。だが、それでも、左手を突き出し、シュウの頸の骨を砕こうと― 「眼前の者に!今度こそ!」 添えられた手に、最早力はなく。 満載の充足と、ほんの少しの悔しさを滲ませて。 「嗚呼、だが。勝ちたくは、あったぞ」 それは、敗北を認めた、ということ。 自壊による、滅びではなく。あくまで闘争の敗北として。 「救いを!齎せ!!」 最期の粉砕が起きるより、ほんの僅かに早く。 「そして、その勝利を誇りたいとも、思った」 詠唱は、終わった。 「グランドクロス!!」 聖気が、満ちる。 圧倒的な力の奔流が、一瞬にしてスカルヒーローを飲み込み。 ―さらばだ。名も知らぬ強き同胞よ。 骨片の一つ、塵一つすら残さず、スカルヒーローは終わりを迎えたのである。 「…終わったな、シュウ」 「ああ」 シュウの脳裏に、浮かぶ情景。 その一瞬、消し飛ぶ骨の奥に、威嚇するような笑みを浮かべるオークヒーローの姿を見たような気がして。 「…満足したか?旦那」 囚われた魂は、間違いなく大量の聖気と共に天に昇った筈だ。 だがそれでも、語りかけずには、いられなかった。 「俺も。アンタと闘えた事を、誇りに…思うよ」 そして、床に刺さった二振りの―良く似ているが、微妙に装飾の違う―剣を抜き放つ。 「ここの主とやら…。それを倒す為に、アンタの誇りを借り受ける」 スカルヒーローが散ったからか、管財者が散ったからか。 シュウとナッツらを挟んだ中央に、ワープポイントが開いている。 「進もう。ラガさんもきっと、最下にいる」 続きます 後書き ども、滑稽です。 嗚呼、シュウ君は扱い易い…。 という訳で、新旧オークヒーロー対決はこれにて終幕です。 なんかスカルヒーローが格好よくなってしまいましたが。 ともあれ、前話の斬達と違い、シュウ等四人の闘いは、まだ続くわけで。 まずはこの話により、現在最下層を目指している全勢力の合流が近づいた、という事になります。 そして、黒のカタコンベの『主』の下へたどり着くのも、また。 筆速がどんどん遅滞しておりますが、どうぞ完結までよろしくお願いします。 では、また次回。 |
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