RAGNAROK ONLINE Fan Novel 黒のカタコンベ踏破報告書に記された内容を知る者は少ない。 むしろ、黒のカタコンベの存在自体、知る者は限られている。 無論それは、昨今のシュバルツバルトやアルナベルツとの政治情勢を鑑みた事もあるが。 誰も自分の住んでいる国の首都、その地下におぞましいダンジョンが潜んでいるなどとは知りたくもないだろうという配慮が概ねであった。 しかし。 何時からか、謎の地底ダンジョンにて命を喪った、一人の聖人の詩が吟遊詩人の手によって作られ、歌われるようになる。 黒のカタコンベが再封印を受けてから数年。 多くのものが変わり、そして多くのものが変わらなかった。 黒のカタコンベ 終幕 滑稽 「ち」 プロンテラ西門脇。人目につかない場所に立っていた、一騎の騎士が舌打ちした。 「ここも塞がれてるな。…難儀なこった」 ドラゴンに乗った騎士、ルーンナイトである。 世界情勢は絶え間なく動き、タナトスタワーの発見や魔王モロクの復活など、多くの歴史的事件が起きた。 彼―リュード・クリティカルスターもまた、そういった事件に身一つで飛び入り、大きく成長をした一人である。 『そっちはどうだ?』 『こっちも駄目だな。塞がれてる』 だが、彼の心の一部は、まだこの深い穴に残されたままだった。 『後、考えられる入口としたらどこがある?』 『さてな。大臣どもを締めあげてみるか?』 半ば狂気じみたリュードの口調。任せると大事になりかねないな、と。 『そっちは任せてもらおう。伝手がない訳じゃない』 『…そうだな、頼む』 『グラストヘイムに、桁外れに強いインジャスティスが現れる。何かを探している様子だった』 その報に触れた彼は、迷わずグラストヘイムの探索を開始した。 「…やはりお前だったな」 「生キテ、イタカ」 右腕に修復痕、持っているカタールは忘れもしない『裏切り者』。何よりその面影が、知っている男に酷似していた。 「レア・インジャスティスとやらに改造されたか」 ぎちぎち、と。能面のような硬質な顔が、耳障りな音を立てて笑みの形に歪んだ。 「ヨク…修練ヲ重ネタヨウジャアナイカ」 「まあな」 だが、かつてアサシンと呼ばれていた彼の方が、かつての面影がないようにも見える。 「お前が休んでいる間に、だいぶ技術も進んでな。ギロチンクロスという」 「ホウ」 特殊な毒液をカタールに塗布し、構える。 禍々しさを体現したかのような、殺意とともに。 「さあ、はじめようか。…レア・インジャスティスよ」 「何ヲ…」 「…隠せているとでも思っていたのか?」 「イツキヅイタ?」 心外と言わんばかりの相手に、溜息交じりに返す。 「それで真似てる心算なのか?違和感しかしないな」 「クク…気ニ入ランカ。奴ノ魂ハモウ体二残ッテイナカッタノデナ」 自分の壊れかけの肉体を捨て、こちらに意識を移したのだと。 「再利用トイウヤツダ、フム。心配セズトモ奴ノ魂ハ今頃別ノ生ヲ―」 「使っているのが奴の躯なら、同じことさ」 ずぶりと。一瞬で距離を詰めて、刃を相手の腹部に埋め込む。 「グゥ…!?」 「奴の誇りは、お前がその姿で居る限り踏み躙られ続ける」 当時とは比較にすらならない速度と、膂力で抉り、そして抜く。 「なに、さほど時間はかからんだろう」 感情を一切読みとらせない眼光で相手を観察しながら。 「二度と再利用が出来ないよう、粉になるまで斬り刻むだけの事だ」 ギロチンクロス"斬天"は、静かにそう述べた。 「…国家叛逆罪で投獄される事になるかなぁ」 プロンテラ大聖堂の一室にて。 シュウ・フリューゲルドルフはそう独りごちた。 「…貴公を投獄出来る牢屋に心当たりがないのだが」 目の前で困惑げな顔をするのは、この国では誰もが知る人物の一人。 「俺は普通の人間ですよ」 「普通の人間はそんな威圧感を持たぬ」 対面しているだけで疲労を伴うのか、その顔には少なくない汗が滴っている。 「黒のカタコンベと繋がる出入り口はプロンテラ外部の東西に一つずつしかない。フリューゲルドルフ。君の縁者が入った入口と、君たちが入った入口だ」 「そこは確認しました。フィルの報告書が上がる前に封印されたと聞きましたが?」 「…帰還人数が少なすぎた。二百人以上居た調査隊が、一回の探索でほぼ全滅したのだからな」 声音に恐怖が混じる。 「冒険者達が未開の地へ向かうのとは訳が違う。…どこの誰が、足元にあんな…!あんなおぞましいダンジョンが眠っているなどと聞きたいかね!?」 それには同感だ。知らなくていい事なら、知る必要はないだろう。 それはそれとして。 ゆっくりと息を吐き出しながら、シュウは目線を男の後ろ―補佐官であろう人物に向けた。 「プラウドネス補佐官、俺は黒のカタコンベの入り口を再度完全開放してくれと言った覚えはないのだが」 「いや、フリューゲルドルフ殿。無論だ。聖ナッツの遺骸を地下の魔王から回収するという貴殿の進言、大聖堂としても無視は出来ん」 シュウが今回ねじ込んだのは、非公式ではあるが『聖人』に列せられたナッツの遺骸を『関係者として』回収するというものだった。 冒険者としての実績と、大聖堂・王家双方に『貸し』があり、更には当時の関係者である彼でなくば出来ない進言だった。 「今回施された封印は、現存する術法の中でも最大級のものだ。これには隙間はない。持続性も高く、およそ千年は保つものとなっている。恐らく、かつて黒のカタコンベを封印してきたものも、この術と同種だと考えられる」 「…凄い技術だな。媒介に何を使っているんだ?千年保つのだったら、相当なものだろう?」 暫しの沈黙の後、応えたのは補佐官ではなく、その上司だった。 「…人の命だ」 「何?」 「王家に近い立場の人間の命を媒介にし、封印は為された」 「なんとまあ」 意外ではあった。派遣されて死んだ中にでも、王家に近い血筋の者が居たか。 「解けばどうなります?」 「王都に被害はない。だが、再度施すのに、やはり王家に近い人間の命が必要となる。例え聖人の為とは言え、死者の為に人の命をくべる事は出来ぬ」 「…?」 ニュアンスの違いを感じて、疑問を口にする。 「中で死んだ関係者の生命を使ったのでは?」 「否。生きている人間に術式を施し、中へ入ったのち、入口を塞ぐ。その死と同時に封印は発動し、その空間を完全に遮断する」 「…なんと、まあ」 王家に近いとなれば、最低でもそれなりに格式のある貴族だ。 そういう中からそういった残酷な術を施す人間を見繕うとは。 「だいぶ、紛糾したのでは?」 「いや、即決だった」 「ほう?」 わずかにためらいがちに、プラウドネス補佐官が口を開いた。 「サザイ卿は血筋だけは高貴であらせられてな」 「…ああ、成程」 文字通り、命がけで責任を取らされたのだろう。 わずかに溜飲が下がる思いだ。 「千年責任を取ってもらうべきだな、そりゃあ」 「そもそも、解く方法自体が伝わっていない。以上の事から、プロンテラから侵入する経路は最早存在しないと思ってくれ」 解く前提で施すレベルの封印ではないのだから、それも当然だろう。 「まさか千年で何の前触れもなく封印が消え去るなどと誰も思っていなかった。今回の件はそれが直接の原因と言えなくもない。 「そうです、か。それなら仕方ない」 「…随分あっさりしているな」 シュウの様子に、二人も違和感を覚えたようだった。 「元々然程期待せずに進言した程度のものでしたので。それならそれで、他の入り口を探せば良いだけのこと」 かつて闘った管財者―という名の大柄なデビルチ―の発言を思い出す。 『希少種の収集』。スカルヒーローもそうだったのであれば、封印に関与しない出入り口があった筈だ。 「…それについて、一つ情報がある」 「ふむ」 「かつての調査隊派遣の際、事態を憂慮され、アサシンギルドにも依頼を出された王族の方が居られた」 「ああ。私のギルドの一員でしたね」 結局、出会う機会もなく彼は黒のカタコンベで人生を終えた。 「奇縁なものよな。そして、その報告書の中に『レア・インジャスティス』なるモンスターの情報があった」 「インジャスティスの親玉のようなものですか」 「製作者だ、という話だが」 「それはまた…。それで?」 「インジャスティスの発生ダンジョンである魔都グラストヘイム。そこに最近、他の個体より明らかに強いインジャスティスの発見報告がある。…興味深くはないかね?」 「成程。それは確かに興味深い」 予想以上に有用な情報である。間違っていれば、また他を探せば良いだけのことだ。 「ありがとうございます。まずは行ってみるとしますよ」 「…済まぬな」 「いえいえ。ナッツさんは必ず大聖堂に連れて帰りますよ。ご心配なく」 「しかし、フリューゲルドルフ殿。今回の件が当たりだとは限らないが…」 「さっきも言ったろう?プラウドネス補佐官」 シュウは言いながら席を立った。横で大人しく座っていたグリフォンを撫で、跨る。 「よしよし、と。…間違っていたら、また他を探すだけさ。今のところ、時間だけはあるのでね」 「さ、これで終わりだ」 「バ、化物…メ!」 全身を文字通り『腑分け』され、ばらばらになったレア・インジャスティスの頭が呻いた。 「化物結構。これだけ刻めば、いい加減その体で再構成も出来るまい」 無傷の斬天が粛々と告げる。 「お前のことだ、次の体の当てくらいは十分に集めているんだろ?」 程なく違う体で復活するのだから問題なかろう、と。 「そもそも今の俺の状態は前回の敗北ありきだ。そういう意味じゃあ、お前が俺をこうさせたんだよ」 「グゥ…」 「因果応報。その言葉を噛みしめながらくたばりな」 刃をその眉間に突き込むと、レア・インジャスティスの全身はまさしく粉になって朽ち果てた。 カタールすら、残さず。 「…終わったよ」 小さく呟いた斬天は、だが次の瞬間には全ての感情を制して歩き出した。 私怨は終わり。これからは鍛え上げたこの力を、仲間達の為にと心に定めながら。 グラストヘイム城内の一角。 「落ちつけよリュード」 「煩えぞフリューゲルドルフ。間違いねえ。この饐えたような闇のにおい。あのダンジョンに繋がっているに違いねえ」 暗い興奮に身を震わせるリュードに一抹の不安を感じながらも、視線は周囲を油断なく見回している。 「しかし…。昔はここをよく通ったもんだが」 昔は気付かなかった、水のにおいに混じる濃密な魔素のにおい。 「成程、あの時とよく似ている」 グラストヘイムの魔素自体が濃密であるから普通は気付かないだろうが、他と比べると確かに『混じり気』を感じる。 「で、どうする?ここを探すか」 「ああ。だがまずは、ここに出没するとかいうモンスターを見つけるのが先だ」 情報はギルドメンバーからも得られた。 間違いなく、ここは黒のカタコンベに繋がっている。 「そいつには、俺もうちのメンバーを一人奪われている都合がある。手を出すなよ、リュード」 「…ち、それならば仕方ねえ」 暫くの探索の後。 「貴様がレア・インジャスティスとかいう奴か」 「…何故その名を知っているんだ?君は」 「シュウ・フリューゲルドルフ。貴様に案内してほしい場所がある」 言い様、シュウは槍を閃かせた。 槍で突き刺す音としては異様な、炸裂したような音が響く。 「バニシングポイント」 「がっっ!」 音が間断なく、間断なく続く。両者の間にはある程度の距離があるが、間合いの外から連続しての攻撃に、レア・インジャスティスは攻撃されるがままだ。 しかし、攻撃を受けつつもこちらに向かってくるのは流石と言えた。 だが。 「ピンポイントアタック」 「ぐはぁっ!」 突進してきたシュウに喉笛を貫かれるに至り、レア・インジャスティスは漸く動きを止めた。 「荒っぽい…奴だ」 「黙れ」 足がつかない程度にモンスターを中空に串刺しにしたまま、 「フリムルーラーに会いたい。貴様の根城に案内しろ」 シュウは冷然と告げた。 「な―」 まさしく狼狽したのはレア・インジャスティスだった。 「なぜそれを」 「黙れ。お前に許されているのは俺とこいつをフリムルーラーの居城に運ぶことだけだ。先に三回ぐらい有無を言わさず破壊してやろうか」 「分かった!分かったよ。…後で文句つけるなよ」 瞬間、視界が暗転した。 次の瞬間には、景色が変わっていた。いわゆる、研究所のような部屋。リヒタルゼンの地下を彷彿とさせた。 「今回だけだぞ。くそ、冗談じゃない」 どうやら移動の際に抜けたのか、喉の穴を押さえたレア・インジャスティスが呻いている。どうにも人間的な動きだ。成程、他のインジャスティスと一線を画しているというのも頷けた。 「フリムルーラーはどこだ!おら木偶人形!さっさと教えろってんだよ!」 リュードの発言から段々と正気の色が抜けているような気もする、が。 (無理もない…か) かけた時間を考えれば、彼の溜め込んだ怨念も無理からぬ話だ。レア・インジャスティスに無言で促す。 「そこから行ける。私はフリムルーラー殿の客分扱いだから、そんなに近くには出ないぞ」 「先に行くぞ、フリューゲルドルフ!」 ワープポイントが開いた瞬間、こちらの返答も聞かずにリュードは部屋を出て行った。 「やれやれ…。ところで、だ。このワープポイントは貴様が居なくても開いているのか?」 「私が閉じなければ、な。…探索含めて何度も来る心算か?ふむ。それは困る」 「何、心配しなくていい」 返答に満足し、シュウは。 「今回だけで済ます心算だよ」 「取り敢えずあの無礼者も居ない事だし、近づける限りフリムルーラー殿に近い位置に設定しなおしておいたから…何?」 「そうかい、ありがとよ」 躊躇なく、独白をしていたレア・インジャスティスの顔面を槍で突き貫いた。 「ぐぶっ…!?」 大した反応も出来ないまま風化を始めるレア・インジャスティスに。 「それなら、後で貴様を叩き潰しに戻って来なくていいという訳だな」 聞こえているかは分からないが、シュウはそう告げたのだった。 ―来たか。 「改めてここに来るのに随分と手間がかかっちまったよ」 溜息交じりの一言に、だが見覚えのある鎧はこう告げた。 ―なに。我にしてみれば貴様らの随分は一瞬に等しい。 「…だろうな」 鎧は身動ぎもしなかった。先達の剣は未だに王を玉座に縛り付け続けているのだろうか。 どうやらリュードの態度にレア・インジャスティスは大分腹が立っていたらしい。闘った後のような気配はないから、リュードは随分入り口寄りの辺りに出たようだ。 好都合だ。 「ナッツさんは」 ―ナッツの体はそこにある。 促された方を見れば、紫と黒の花が敷き詰められた豪奢な棺の中央に、眠るように横たわるナッツの姿があった。 ミイラになっている訳でもなく、その姿はまるで生きているようだった。 「亡くなって…いるのだよな?」 ―ああ。これは奴の体だけだ。 「…俺の目的はナッツさんの遺体を然るべき場所に埋葬する事だ」 ―奴の魂は、ヴァルキリ―が連れて行ったぞ。今頃然るべき所で転生を果たしているのではないか。 「だとしても、だ。ここに彼の遺体がある事が、生まれ変わった彼の未来に影を落とさないと断言できるか」 ―確かに、それは我も望む所ではない。 ゆるゆると、フリムルーラーは嘆息したようだった。 ―連れて行くと良い。我の孤独は、ナッツの存命したごく僅かな時間、確かに晴らされた。…その思い出だけで、我はまだ耐えられよう。 「…そうか」 違和感を禁じえない。 前の時は戦闘中に乱入した形だったのであまり記憶にないのだが、随分と穏やかになったものだ。 それが全て、ナッツのお陰なのだったとしたら。 「一つ、聞いておきたい」 ―何だ? 「…ナッツさんの死に様だ。やはり餓えて死んだのか?」 ―…ここには、人が正常に食せるようなものはなにもない。 「だろうな」 ―我はナッツの話を楽しんでいた。故に、奴の衰弱は望みではなかった。 「…何をした?」 ―苦痛と飢餓を意識から取り除いただけよ。奴は餓えて死んだ。その事実は変わらぬ。 「そうか。ナッツさんは苦しまずに逝けたのか…」 ―魔力を活力に換えて、ナッツは半年の間生きた。その間、ずっと我の孤独を癒やす事だけを考えてくれていた。 ぎぎ、と。顔を頭上に向けたフリムルーラーは確かに告げた。 ―我は、ナッツに感謝している。 「そうか」 彼は自分の境遇を最期の時まで恨まなかったのだ。 彼は結局自分の事より、目の前の魔王の孤独の事を気にしたのだ。 彼は一度たりとも、目の前の魔王に自分たちへの恨み言を口にしなかったのだ。 「叶わねえな…ナッツさん。あんたは本当に、誰より強い人だった」 目を閉じ、溜息をつく。 涙は出なかった。そして、それよりも思う事があった。 ナッツは最期の時、何を願い、何を望んだのかと。 そしてその時、俺やフィルの事を、頼ってはくれたのかと。 意を決し、シュウは目を開いた。フリムルーラーを見据え、堂々と告げる。 「フリムルーラーよ」 ―なんだ? 「また来てやる。俺達が冒険で得た経験をあんたに話してやりに、な」 ―何故だ? 心底不思議そうに、だが微かに嬉しそうな色を載せて、フリムルーラーが問う。 「あんたはナッツさんを悼んでくれた。だからさ。気まぐれだよ」 そういう声を出されたら、言葉だけにはしておけない。 「俺達はあんたの寝所に無断で押し入った。冒険者ってのはそんなもんだ。詫びる気はない。…あんたの手で死んだ仲間も居る。先達の件もある。あんたを孤独から解放してやる事は出来ない」 あの日死んだ仲間達は、自分に復讐を望んだだろうか。 ―ああ。どちらにしろ我はここを出られぬ。 「ここにずっと居てやる訳にはいかない。今度は俺が死んでしまうし、そもそも新しい経験も出来ないからな。だが、たまに来てやる事は出来る」 ―そうか。 そして今も生きている仲間達は、自分に闘えと告げただろうか。 何より、他ならぬ自分自身が、ナッツの想いを叶えたい自分と、復讐の為に槍を突き込みたい自分との間でせめぎ合っていたのだから。 今、自分はその想いの殆どを、真っ向から裏切っている。 「…それがきっと、ナッツさんの最期の願いだからな」 ―…礼を言う。シュウ・フリューゲルドルフ。 「こちらこそ、だ。フリムルーラー」 ナッツの遺骸を抱え上げ、グリフォンに乗せる。 ―これを持って行け。 シュウの眼前に、一枚のメダルが出現した。 ―これに念ずれば、お前とその仲間がここに直接来られるようにした。 「助かる。ここへの入り口はもう鎖されているからな」 ―来ても構わんのだがな。我としては賑やかで良い。 「そこまで面倒は見切れんよ」 苦笑しながらメダルを手に取る。受諾の意志だ。 「ああ、そうだ」 ―む? 「あの時、あんたに挑んだ中で、俺の盟友が一人居る」 ―ほう。 「ここには一緒に入ってきた。辿り着いた様子はないようだが、あんたを滅ぼす心算でいるぜ」 フリムルーラーは、今度こそ意外そうな声を上げた。 ―良いのか?…そんな事を話して。 「良いさ。奴があんたに勝つにしろ負けるにしろ、それをあんたが知っているかどうかが勝敗を左右するとは思えん」 今のリュードならば、フリムルーラーにも勝てる可能性はある。 無論、勝てない可能性もある。 だが、それをフリムルーラーが知っていようといまいと。 それが決定打になる程、格の低い両者ではないと、シュウは確信していた。 「お前が無事なら、そうだな。次は仲間を連れてくる。あの時よりも更に強くなった仲間達だ。ここで散った仲間達の仇討ちもしなけりゃならん」 ―どちらの用件でも構わん。討たれたところでまたここに戻ってくる。 「そうだな」 フリムルーラーが手をかざすと、目の前にワープポイントが出現する。 ―そこを使えば上の街に出る。 「そうかい、ありがとよ」 シュウがグリフォンを進め、ワープポイントに乗ると。 ―ではさらばだ。また会おう、シュウ・フリューゲルドルフ。 「ああ、またな」 ざわめきが復活した。 出た場所は南門の前。 日光の下に出た事を理解する。 日の光に晒された彼は、やはり傷ひとつない。 行き先は決まっている。彼を弔うべき場所へ。 だが、まずは一言。彼に言っておかなくてはならない言葉がある。 「おかえり、ナッツさん」 シュウは、大聖堂に向かうべく進みだした。 ―来たか。 奇しくも、先程と同じ言葉を呟いた。 「…会いたかったぜ。夢にまで見た」 ―そうか。 「フリューゲルドルフはまだか。先に始めちまうぞ」 ―グリフォンに乗った騎士なら、先程来たが。 「何!?そいつをどうした!」 ―もうここには居らぬ。 もう地上に帰した、とは何故か言い出す心算にはならなかった。 目の前の殺気に、当てられたのか。 「…この野郎。理由がまたひとつ増えちまったじゃねえか」 ―そうか。 なんとなく察する。 こういった蛮勇は、好みではない。 叡智に裏打ちされた魂の強さも、意志と肉体の剛毅な強さも感じない。 ただ、感情のままに蛮勇を振るう姿が、気に入らないのだ。 ―次は貴様が我の相手をしてくれるのか。 虚空から斧を取り出し、構える。 ーお前など、『この台座から立つ必要も感じぬ』。 「今度こそ、今度こそ殺す!覚悟しやがれ、フリムルーラー!!」 ―ああ、付き合ってやろう、気の済むまで、な。 「上等ぉーーーーーッ!」 巨大な槍を構えて突っ込んでくるその横腹に、斧を叩きつけながら。 ―ぎゃあぎゃあと煩い人間だ。昔の我のようで我慢ならん。 自分もまた、殺意を浮かべていたものだった。 最期まで世話になるね、と。 そんな声を聞いた気がした。 送られる棺を遠目に見ながら、俺は大きく息を吐いた。 一仕事終わった、そんな気になったからだ。 『ああ、ラガさん。終わったよ。ああ、恙無くだ』 相棒にウィスパーを飛ばしつつ、人ごみから抜け出して歩き出す。 『お疲れさん。後の予定は…ある訳ないよね』 ひどいな。だがやはりよく分かっている。 『そうだな、狩りにでも行きたい気分だ』 『いいよ、そしたらどこがいいさね?』 少し考え、そして決める。 『そうだな、いい加減ポールドロン生活には飽きてきたところなんだ。優秀な肩装備が手に入る所がいいねぇ』 『はいよ、そうしたら溜まり場まで』 今日も変わらず、明日も変わらず。 俺はきっと、冒険を続けているのだろう。 『今日は出るといいんだけどな』 『そう簡単にはいかないから、面白いんじゃないか』 この世界で、仲間達と。 「さ、行こうか」 ラグナロクオンライン二次創作小説 黒のカタコンベ 完 後書き ご無沙汰しております。滑稽です。 書き始めた頃はクルセだった我が分身も、今では無骨なオーラロイガ。 書き終わって思います。やっぱり、私はROが大好き!と。 読了下さった皆さんに、この想いの万分の一でも伝われば幸せです。 ではまた、いつか違う小説にて。 |
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