RAGNAROK ONLINE
  Fan Novel





競うことに是非はない。
ただ、それが『名前』なんてアバウトなものを賭けて、っていう事に気が乗らないだけで。
競うことは望むところだ。
それが我等の『誇り』に根ざすものであるならば、尚更。





  黒のカタコンベ
    第五幕
      「斬、そして天」


                               
滑稽





「それまで」
重々しい声が、二人の動きを止めた。
そのままその場に座す、刹と刃の二人。
「これより、汝等に名を与えよう」
上座に座る、三人の老人。
先ずは、右側の老人が刃の方へと歩み寄った。
「喜べ。今より汝の名が『斬』だ」
「はっ」
恭しく、頭を下げる刃、否『斬』。
「して、刹よ」
「…は」
今度は左側の老人が、刹に歩み寄る。
「汝は斬の名を負う事能わず。…されど、新たなりし斬と互するその技は見事なり」
「はぁ」
「故に汝に与えよう。『天』の名を」
「…天」
斬と比しても劣ることのない名だ。相応の評価をしてくれた、という事なのだろう。
彼もまた、頭を下げた。
「これにて汝等に与えられるべき名が渡った事になる」
「…あ、はぃ」
気の抜けた返事を返すのは、天。
「汝等に、王都よりの依頼を与える」
「王都…?」
犬猿の仲である、貴族とアサシンギルド。今までに何度、アサシンギルドの掃討が議会に立案されたか。
だが、王都の主である王、または大臣等アサシンの有用性を理解している者がその議案を全て握り潰していた。
恩があるとも言い切れないが、仇とは出来ない関係と言おうか。
故に、王都の依頼というと殆どの場合王族や大臣のものである事が非常に多い。
因みにそこの市民達からの依頼であれば『プロンテラからの依頼』となる。
「内容は」
「先だって王都付近で発見された新たなダンジョンの調査、及び踏破」
「「はっ」」
ギルドからの通達に否はない。あってはならないというのがギルドの掟なのだ。
「行け。そして己が役目を果たせ」


「天」
「ん?」
ギルドから出たところで、天は斬から声をかけられた。
「どうしたんだい?斬」
「今回の役目、どう見極める?」
「余程の難題」
「…やはりそう見るか」
「ああ。王都のボンクラ貴族どもが依頼するとは思えんから、恐らく依頼主は戦場に明るい王族か騎士団の偉方だろうさ」
「王族に…居るのか?」
「ああ。二人ほど知ってる。ともあれ、個人で挑むにはきわどい仕事だろうな」
「同感だ」
そうでなくば、名を与えた直後に仕事を寄越さないだろう。
が、斬が応じた事に天は驚いて彼を見返した。
「なんだ?」
「いや、随分物分りがいいなと思ってね」
「ふ…。あまりいい印象を持たれていないようだな、私は」
「あ、ああ…いや」
「構わんさ。私も似たようなものだった」
小さく笑いながら、
「斬にしろ、天にしろ。旧くからの由緒ある名を継げたのは私にとって誇りだ。そして―」
ぽん、と天の肩を叩く斬。
「それ程の研鑽を続けていたお前を私は評価しているのさ」
「…照れくさいね」
「ふっ。…で、だ。天よ。私と組まんか?」
「ん。…他の面子は?」
「他?」
「最低でもプリーストが二人。ウィザードや騎士とかも居ると助かるよね」
「…しかし」
斬の言わんとしている事は判る。あくまでも秘密裏に事を済ませるべきではないのか?という事だ。
が。
「全くの未踏査のダンジョンに、二人だけで挑むなんて愚行もいいところだよ。死にたい訳?」
「む…」
「ただでさえ王都の連中がこっちにも事を寄越すんだ。正式な調査隊も用意してる筈」
「心許ない、と?」
「秘宝でも奪ってこい、ってなら最初からそう言ってくるだろうさ」
「確かに、な」
元々、綺麗な仕事をしているギルドではないのだ。依頼内容まで包み隠す必要はない。
「準備の一種だと思ってくれればいい。何なら秘密を守ってくれる連中に当たってみるけど」
「…判った。頼む」
「おうさ」


自宅にて。
斬は普段通りの水浴びを終え、寝床に戻った。
「…閨の用意は整っております、旦那様」
「ああ」
す、と裸身を抱き締め、息を吐く。
「…役目を仰せつかった」
「存じております」
「天と共に臨む事に決めた」
「はい」
「…お前が普段、かげながら私を見守ってくれた事は知っている」
「!」
「…だが、今度の役目の折は来るな」
「何の…事でございますか」
「…白を切らなくて良い。次の役目には命の危険が付き纏う。お前の技法を疑う心算は毛頭ないが…」
「なれば…」
それは、斬の予測への明確な肯定。
それをする程、彼女にとって今回の仕事は重いものなのだ。
「来てはならない」
「…」
「そして、私が死ぬような事があれば…天を頼れ」
「…天、様でございますか」
「奴は私が唯一認めた男だ。話は通しておく。…良いか?」
「判りました」
これは、斬の少々歪な情であった。
彼女もまた、それを察していた。だからこそ、彼女もまたある覚悟を決めたのである。


「や、大将」
「おや、久しぶりだね刹さん」
「あ、うん。悪いね、今の俺は『天』なんだ」
「『天』?」
「そ。深くは考えないでそう呼んでくれると嬉しいんだけど」
「ん、判った」
プロンテラ路地裏、牛乳商人前。
そこが彼の所属ギルド『双つの月』の溜まり場だ。
「で、どうしたのさ?」
「ちょっとした依頼を受けてね」
「依頼?」
「大将、『黒のカタコンベ』って知っているかい?」
瞬間、大将―ラガの表情が凍った。
「…それを、どこで?」
「アサシンギルド。そこの調査、踏破を依頼されてね」
「…そっか」
何事かを考え込んでいる様子のラガ。
拙かったか、と天はもう一度問うてみた。
「頼めるかい?」
「うん。…メンバーに声をかけておくよ」
「ありがとう、大将!」
天の礼にも、険しいままの表情のラガ。
「出来る限りの準備はしておいてくれ」
「え?そりゃ勿論」
「他に人手はあるのかい?」
「ああ、うん。同僚が一人」
「彼も連れて来ておいて。覚悟は出来てる人だよね?」
「そりゃ、出来てるさ」
「おっけ。それじゃ俺も準備に入るよ」
と、せわしなく立ち上がり、歩き去る。
「…何か、あったのかな」
どんな物事にも動じない、頼れるやさぐれプリースト。
そんな彼のこんな態を見たのは、ある種新鮮ではあった。
が、その驚きも、彼の様子が意味するところを悟るに至って霧散する。
「…し過ぎて困る事はないよな」
倉庫に預けてある財産を使い切ったとしても。
天は最高の状態で挑もうと心に決めた。


続く










後書き
ども、滑稽です。
結構端折ってます。シュウの話とのバランスを取るため…でもありますが。
彼等にも色々あったんだな、と思って頂ければ嬉しいです。
結局のところ表題どおり『黒のカタコンベ』での出来事の方が大事だ、という事にしておいてくださいませ。
では、次の作品でお会いしましょう。






[Central]