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戦い続けるという事。
滅ぼし続けるという事。
護り続けるという事。
それは血を吐くほど大変な事だ。
だが。
それでも私はそうすると決めた。






  黒のカタコンベ
    第六幕
      「シュウ・3rd」


                               
滑稽





大聖堂内広間。
今日ここに集まっているのは帰し、プリースト、そしてクルセイダー。
王都防衛の要と言える三種の戦力が結集したのである。
会議が始まろうという少し前になって、一人のクルセイダーがそこに現れた。
シュウ・フリューゲルドルフである。
結論から述べるならば、彼等は王都近くに発見された『黒のカタコンベ』の調査の為に選抜された部隊であり。
この調査隊のおよそ九割が、同ダンジョンで命を落とす事になる。


シュウが広間に入ったとき、広間の中からざわめきとどよめきが起こった。
彼等がざわめいたのは、シュウの被る金色の兜に対してだ。
オークヒーローの兜。
オーク族との戦闘と交流の果てに、ごく稀に人ながらオークヒーローとして認められる者が居る。
彼もその一人だという、証の一つ。
粗悪な模造品とは品格からして違うという、その姿。
「シュウ!!」
と、知った声が広間の前方から聞こえてきた。
「…ああ、フィルか」
「こっちへ」
呼ばれるままに、フィルの元へ。
「派手な登場をするねぇ」
「普通にしてただけさ。騒ぐのは向こうの勝手だけどな」
「君らしいよ。…来てくれて有難う」
「友人をこんな下らない事で亡くすのは気に食わなかった。それだけの事だ」
「下らない…ですって?」
と、フィルの横に居たプリーストの女性がこちらを睨みつけてきた。
「あんたは?」
「今回の調査隊に立候補した者よ」
「へぇ。物好きなんだな?」
「もっ!?」
びき、と彼女の頬が引き攣った。
「あんたねぇッ!!」
フィルを押し退け、掴みかかってくる彼女。
「ちょっとララムッ!!」
「離してっ!!この腰抜けを一発殴ってやらなきゃ気が済まないのよ!!」
「こ、こしぬけって!この兜がどんなものだか判ってる!?」
「どうせレプリカでしょうよっ!!」
「だ・め・だって・ば!!」
喚き散らすプリースト―ララム、というらしい―を羽交い絞めにするのは、同じくプリーストの男性。
「済まないな。後ろの方。迷惑をかける」
「い、いえいえ。こちらこそ連れが迷惑を」
「にこやかにやってんじゃなぁい!!ナッくんもこの馬鹿をブチのめす手伝いをしなさいよっ!!」
「…止めようか?」
「あ、いやいや。それはこちらが」
と、ナッくんなる彼は一瞬腕を解いた。
「この馬鹿クルセぎゅっ!?」
が、今度は突撃しようとしたララムの首元に巻きついた彼の腕。
勢いと腕に首をきゅ、と締められ、ララムは見事に動きを止めた。
「荒っぽいねぇ」
「いやいやそれほどでも。初めまして。ナッツ・ルティと言います。こっちはララム・アルデナータ」
「シュウ・フリューゲルドルフだ。よろしく」
「はい。昔ゲフェン地価で貴方を拝見した事があります」
「ほう?」
「ドラキュラをたった二人で打ち倒されたあの勇姿。今も目に焼きついてます」
「そうか」
その現場に居たとは。
ドラキュラはゲフェン地下に巣食う強大なモンスターだ。
ナイトメアを狩りに訪れた中級の冒険者には大敵として在るが、その更に下へと赴かんとする上級者達には意外とカモだ。
「静粛に」
と、壇上に一人の男が立った。
誰知らず喋るのを止め始め、視線がそこへ集中していく。
「王宮から来た、サザイだ。諸君等にはこれより『黒のカタコンベ』へ調査部隊として向かってもらう。王都の代表である誇りを持って各自粉骨砕身―」
「ちょっと待て」
シュウはたまらずそれを遮った。
貴族然としたこの男―サザイとか名乗ったか―の見下した視線もだが、スカスカで意味のない激に辟易したのだ。
「何か?」
言を切られたのが気に入らなかったのか、眉根を寄せるサザイ。
「アンタの大層なお言葉を聞くつもりは毛頭無いんだ。取り敢えず幾つか聞かせてもらいたい」
「貴公、名は?」
「シュウ・フリューゲルドルフだ」
「ふむ、フリューゲルドルフか。覚えておこう」
どう考えてもいい覚えではなさそうだが、そのような事は関係ない。
「とにかく、まず一つ目だ。他の街のギルドから応援は来るのか?」
「来る訳ないだろう。この街は我等の管轄だ。他所の戦力を当てにするなどという馬鹿な事をするものか」
「…縄張り意識か」
溜め息をつく。案の定といえば案の定の解答だ。
「で、次だ。中の戦力調査を少しくらいはした上で、他所の戦力を当てにしないなどと言っているんだろうな?」
「何を言っている、馬鹿めが。わざわざ無用な被害を出すような真似をしてどうする」
「…無用ねえ」
基本中の基本だと思うのだが。
死刑囚に装備を渡すとか、色々方法はあると思うのだが。
「つまり、敵性体の情報がまったく判らないような場所へ現有の戦力だけで赴いて結果を出せと?」
「その通りだ。何度も言わせるな」
戦闘を理解していないにも程がある。
「…話にならんな」
シュウは呆れすら通り越して首を振ると、フィルの方を向いた。
「フィル、帰ろう」
「え?」
「上がこれほど無能だとは思わなかった。明確に『死ね』って言われたようなもんだ」
「臆したか?その兜は飾りかっ!フリューゲルドルフよ!!」
居丈高にこちらを見下ろす男に殺気の篭もった視線を叩きつけ、
「戦うということは己の限界を知ることでもある。己と相手との戦力比較は戦闘の基本だ」
「口では何とでも言えようさ、腰抜け」
慎重を腰抜けと罵るサザイ。シュウは我慢の限界を迎えた。
「…なら、アンタはここに居る連中の命に責任を持てるのか?」
「責任だと?」
「そうだ。彼等を死地に遣ることへの責任だ」
「ふん、下らん…」
嘲笑するサザイの元へ歩み寄り、その胸倉を掴み上げる。
「ぐぇっ!?」
「ここに居る連中の…そうだな、半数だ。半数以上の命が散らされたならば、アンタ、生き残った連中の前で死ね」
「な、にを…」
「心配するな。首は俺が刎ねてやる」
「ひ―」
「返事は?」
先程より強い殺気を乗せて、問う。
「わ、判った!判ったから今は殺さないでくれぇ!!」
「よし」
手を離すと、サザイはぐったりとくず折れた。
「おい、シュウ―」
「ん?」
「いいのか?お前…」
「いいさ。俺はあいつに仕えた覚えはない」
「しかしな…」
「いいじゃないの」
と、会話に割り込んできたのはララム。
「シュウ、って言ったっけ。アンタいい啖呵切ったじゃない。気に入ったわ」
「そりゃどうも」
「さっきは悪かったわね。ララム・アルデナータよ。よろしく」
「シュウ・フリューゲルドルフだ」
がっちりと握手を交わす二人。
「何か意気投合してますね」
「…底辺が似てるんだね、きっと」
注視の集まる所での演劇のようなやり取り。
場が適度に和んだ所で、
「もういいかね?」
「あ、団長」
そそくさと、シュウとララムを引き摺って人込みに戻るフィル達。
心無しか顔が甘い。
「あー、サザイ殿が不慮の事故で失神なさった為、話は私が引き継ごう」
今度壇上に上がったのは、重厚な鎧を纏った中年男。
「フリューゲルドルフ氏の言は一々尤もではあるが、残念ながら他ギルドに依頼して人員を募っている時間はない」
「何故ですか?」
これはシュウたちとは別方向から。
「フリーランスの冒険者達の情報網と貪欲さを鑑みて、だ。二次被害や被害流出による市民への被害拡大だけは防がねばならん」
シュウもこれには納得する。
フリーで活動していた自分だ。貪欲かつ命知らずな友人、知人は少なからず居る。
自分もその一人であるという自覚もあるし。
「フリューゲルドルフ君。力を貸してくれるかね?」
「少なくとも、六割は逝きますよ?俺も例外じゃない」
見回した限り、フリーの騎士やプリーストと比べて緊張感を感じられないのが多い。クルセイダーも無論の事、この面子では本当に被害は甚大だろう。
「それでも、だ。マイヤーズは団員として行かざるを得ないしな」
サザイより数段交渉というやつを心得ている人だ。
「判りましたよ。取り敢えず死なない程度に頑張りましょ」
折れる。
「うむ。集合は明日早朝、東門を出た所だ。確かに危険だが、各員の努力を期待する」
真面目な顔でそう締めると、今度はにっと相好を崩して、
「代わりと言っては何だが、報酬は期待してくれて構わんぞ」
歓声が上がる。
「…死んでしまえば期待も何もないだろうに」
だが、シュウは歓声に紛れるように呟いた。
こんな事で死ぬ訳にはいかない。
「行こうぜ、フィル」
「ん?」
「もうここに用はないからな」
「あ、ああ」
歓声と昂奮を背に、シュウは広間を出た。
全ては、明日だ。


続く











後書き
ども、滑稽です。
シュウもまた組織に組み込まれました。
彼等が黒のカタコンベにてどういう生き様を示すのか、楽しみにして頂ければ嬉しいです。
では、また次回。






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