RAGNAROK ONLINE
  Fan Novel





人の慟哭を呑み込み。
魔獣の慟哭を吸い上げ。
其処は魔の住処となった。
棲まう王は魔王の片鱗。
全ての生者に忌み嫌われる者。
全ての生を弄ぶ者。
『夜の法を司る者』と名乗り。
唯、その最奥に在り続けるのだ。






  黒のカタコンベ
    第七幕
      「表層・Side『双つの月』」


                               
滑稽





深夜。
プロンテラ西門前。
「黒のカタコンベはこの下に在る」
「大丈夫なのか?調査隊と鉢合わせになったら厄介だぞ?」
「ん。心配ないよ。連中は東の入り口から入る筈だし、それに彼等の侵入は早朝さ」
「何で知ってるんだ?マスタ」
「ん、シュウさんに聞いた」
人の口に戸は立てられない。
斬や天の件についても、シュウの任務に関しても。
彼等二人はギルド通話によって足のつかないように連絡を取り合っていた。
「副マスが居ないのは少々痛いかもしれないな」
ペコペコの上でそう呟く、厳しい顔つきの騎士。名をD。
二人の友人と共に『双つの月』の風評を聞いて流れてきた騎士であり、その戦闘技術には目を見張るものがある。
彼の友人、退魔能力に秀でたプリースト・ユーナと、一撃の破壊力を極めんとするモンク・レベリオン。
彼等三人は今や『双つの月』の確かな戦力だ。
「大丈夫だって!Dさんはシュウさんを買いかぶり過ぎだってば」
けらけらと笑いながら、もう一人の騎士―レイはDの肩を叩いた。
「です。あの人は少なからず無軌道ですし、場合によっては制御も出来ませんからな」
今度は座っているウィザードがそんな事を言う。
「シキさんまで…。まるであの人を暴れサベージみたいに…」
「あ、それ上手い」
「…どんな人なんだ、その人は」
斬がぼやく。
「んー、強い事は強いらしいんだけどねぇ」
天自身、シュウと組んだ事はなく、とかく極端な評価を聞かされてばかりなのだ。
「突貫気質だからねぇ、シュウさんは」
ラガも苦笑して情報を追加する。
彼はシュウと二人で『双つの月』を立ち上げたから、シュウの事はこの中の誰よりも弁えていると言う。
「まあ、居ない人の話をしても仕方ないよ。各自、準備はいいかい?」
そこで話を切って、面子を見回す。
騎士が二人、アサシンが二人。ハンター、ウィザード、バードにモンクが各一人ずつ、プリーストが三人。
「前衛寄りのギルドなんだな」
「そうだな。だけど、皆が皆腕に覚えのあるクチだよ。今回の仕事は上手く行かせてみせようさ」
と、近くに座っていた女性のプリーストが口を開く。
「大丈夫ですよ。私の歌で皆さんを助けますから。ね、アティ」
「ああ。で、だな。私はモンスターを打ち据える事を旨とする『殴り』だから支援はあまり期待するなよ?」
「…前衛追加か」
ほう、と息を吐く。
殴りプリーストのアティ女史に、バードのテイル氏。
「ま、おいらもハンタとしてはまだ未熟なんだっけどさ」
ちょっと訛っているのはハンターのヴァッヅ。
「斬さん。面通しは終わったかい?」
「ん、ああ。大丈夫だ」
「それじゃ行こうか。…みんな、はぐれちゃ駄目だよ?突貫も禁止」
「応」
「それはシュウさんに言ってくれー」
そう締めたのはハンターのヴァッヅ。
笑いが起きる。
「天」
「ん?」
「中々に…頼もしい人達だな」
だが天は頭を振った。
「…違うよ、斬」
「ん?」
「とても頼もしい人達さ」
「…そうか。…そうだな」


それは、面白いほどに幸運だった、と彼は後に述懐した。
何が面白かったのかはいまいちよく判らないが、とにかくひたすら幸運だったらしい。
何が幸運だったのか、といえばつまり、足元に落ちていた死肉の塊。
その存在が、パーティの分断および全滅を避けさせた。
「…これは…死体だね」
死体。まだ腐り始めで、死んでから然程経っていない事を示している。
「…アンデッドになってなければ、だけど」
と、ラガがしゃがんでその死体の検分を始める。
「ああ、こりゃ間違いなく死んでる」
不死者には独特の気配がある、というのが彼の持論であり、同時に彼を今まで生かしてきた理由のひとつでもあった。
「可哀想に…迷い込んだんだな、こりゃ。…しかも毒死だ」
「毒死?」
「ひどく強力な毒だね。空気や皮膚同士の接触を介して、って類のモノじゃないのが救いかな」
「何で判るんだ?マスタ」
「…俺、近寄って触れてるし」
「ああ、成程」
腐っているが故の色ではない、不自然な紫。
「天さん、斬さん。どんな毒か判る?」
「ん、どれ…」
天と斬の二人が死体の検分に参加する。
「…こいつぁ凄い」
「ああ、だな」
「?」
冷えた目の天が、ふるふると首を振る。
「…この毒にやられたら、間違いなく死にます」
「それどころか即死するだろうな。俺達でも解毒は出来ないだろう」
「…そんなに強い毒なのかい?」
「表情の割にもがいた様子もないしね。余程瞬間的に命を奪う猛毒だったんじゃないかな」
「…」
話を聞いていた全員が、表情に不安を浮かべる。
「ここに居るモンスターの仕業だっていうのは想像に難くないね。入り口入って直ぐだから、待ち伏せしてる奴が居る事も考えられる」
「…油断は禁物って事か」
「それも最上級の緊張が必要だってことさ」
「…だね」
こきり、と誰かが関節を鳴らした。
全員の緊張が目に見えて増していくのが判る。
だが、誰も弱音を吐かない。逃げようともしない。
「ま、この程度の修羅場なら、何度もくぐってるしなぁ?」
「だなぁ」
口々に軽口を叩きながら―だが身にまとう空気は桁外れに冷たく鋭くなっている―騎士を先頭に彼等は歩きだした。
「シキさん」
と、声を上げたのは先頭を行くDだった。
「?」
「すまないがストームガストを撃ってみてくれないか?」
「…いいですよ?」
怪訝な表情で、だがシキは言われるままに詠唱を始めた。
「吹雪の園、氷の原野、絶えなく凍風吹き荒ぶ獄界より来たれ…」
魔力が収束し、彼等の立つより少しだけ先の空間が歪む。
「万象斉しく凍えて砕けよ!ストームガストッ!!」
ぶわ、と巻き起こる凍気の嵐。
と、ぼとぼとと天井から落下してきた物体があった。
「何だ?こりゃ」
じゅわ、っと広がっていくそれを生温い目で見守る彼等。
「ヒドラ…なんだろうな。腐ってるけど」
「…何で判ったの?」
「残ってるのは五メートル位先、かな。その辺りの天井、見てみ」
言われるまま彼等がそこを見上げると、そこにはだらりと垂れ下がっている触手が。
「今しがた目の前に一本触手っぽいのが落ちてきたんでね。上を見たら、こうだった」
「うわぁ…」
触手をだらりとぶら下げたヒドラっぽい肉塊の数々。
触手はぴくりとも動かず、何故そこにあるのかも判らない。
「トラップの一種、って事かな」
「さあな。魔素も濃いし、一種のアンデッドかもしれん」
「んー…」
「まあ、進もう。シキさん、ヴァッヅさん、テイルさん。済まないが先々のアレの処理は頼む」
「了解。任せてくださいな」
「あいよー」
見上げる天井は随分高い。
このヒドラにどういった特性があるかわからない以上、迎え撃つのは危険だ。
とはいえ、手が届かないほどの高所を攻撃する手段があるのは三人だけ。
いや、あるにはあるのだが。
「ホーリーライトは駄目かな?」
「駄目じゃないが…、こんなとこで無駄撃ちしてたら後々息切れするだろう」
「マグヌスは…届かないよね、やっぱり」
「そもそもあれが不死者だって確証すらないだろう」
「私のホーリーライトは効果なんてあってないようなものだぞ」
「…端ッから求めてない」
丁寧に『攻撃手段』に関する問いに答えるD。
「Dさんって苦労性?」
「いや、面倒見がいいとか他に言い様が…」
「…こういうのは普段は副マスの仕事なんだがな」
溜め息雑じりのD。
「まあ、のんびり行こう」
それを締める、ラガ。
「奥へ急ぐ必要性はそれほどないんだし、さ」
「まあ、そうだね…」
「矢が尽きるまでに最奥につきたいねぇ」
まさしく、のんびり。


「おお、ペコペコのゾンビか、こいつら」
三十分ほどうろうろして。入り込んだ通路の先には、数えるのも億劫な程の瞳がこちらを見ていた。
腐った、歩行する鳥類。つまり、ペコペコ。
「天より下されし三条の光―」
「はや!?」
そしてそれらと目が合った瞬間、ユーナは詠唱を始めた。
「シキさん、ファイアウォールで侵攻抑えといてね」
「はいはい〜」
「救い司るもの、禁め司るもの、裁き司るもの―」
幾重にも吹き上がる炎の壁がぞろぞろと向かってくるペコペコの群れを焼く。
だが、痛みも恐怖もないゾンビはそのまま強引に壁を破ろうと向かってくる。
「死してなお彷徨うものに救いを、己が滅びを認められないものに導きを―」
だが、充分時間は稼げた。
何匹かの犠牲を伴い、ペコペコゾンビの群れがぶ厚い炎の壁を突破した瞬間。
「マグヌスエクソシズム!!」
ユーナの展開した領域が、踏み込んできたゾンビ達を次々に土くれへと変えていく。
「浄化浄化〜」
「凄いな…」
山ほど居たペコペコゾンビが、骨すら残らず完全に土に還ってしまう。
「さ、行こうか。立地考えるとこいつらの数にはキリがなさそうだ」
何しろプロンテラから少し南に行けばペコペコの大生息地帯だ。
ペコペコはまだ初心者に毛が生えた程度の冒険者達のいい戦闘相手としてひたすら狩られたり、騎士の騎乗用に捕獲されたりと乱獲されている。
生来の繁殖力のお陰で数は随分居るが、その分ゾンビの数も半端ではなさそうだ。
「ま、階段が見つかったらさっさと下に行こう。見つからない限りはのんびり、って事で―」
「ええい、行き当たりばったりな!」
それ以前に、それじゃ踏査も調査もあったものではないような気もするのだが。
しかし、斬は何も言わなかった。余裕ぶっては居るが、彼等の目付きは真剣そのもの。
何が原因でパーティが瓦解してしまうか判らない。そんなリスクが付き纏っているのだ、ここには。
そして、そういったリスクを心底理解しているのだ、彼等は。
言い様に不満がない訳ではなかったが、それでも信頼に足る面子なのだと思えた。


彼等が表層から中層へと踏み込んだのは、だがそれから更に三時間程表層を探索してからの事だった。


続く











後書き
ども、滑稽です。
…後衛がしっかりしているのは、次回への伏線だったりします。
後衛のしっかりしてないPTはかなり不安定だ、という事。
今回割を食い気味の前衛さん達の活躍は次回以降となる予定です。
どうぞお楽しみに。
では、また次回。






[Central]