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「外見が変わっても内面は変わらねえんだな…やっぱり」
…カード四枚でモノにされた(本人不認可)女アサシンの談。
もしくは、
「…済みません。不用意な発言をするとますたーが怒るんですー」
…色々あってなんか懐いてしまったマーチャント娘の談。


…いや、題名長いか?


「外見が(以下略)。改め、
「転生した元プリーストと元クルセイダーの路地裏での雑談」


…え、まだ長い?









  猥談ちっく雑談


                               
滑稽





「うっす」
「や」
うらぶれた、路地裏。
強い日差しを避けて、小さな日陰で座っていた彼の足元に、強引に反射された光が落ちる。
見上げるまでもなく、挨拶を返す。
鳴き声を上げないペコペコの獣臭が、反射光が声より如実に相手の素性を悟らせる。
パラディンである。
見るからにマゾヒスティックとしか言いようのない程の重量を感じさせる白鎧を纏い、そんな重量をペコペコに背負わせる凶悪なサディスト―
「捏造良くない」
「いや、どう見てもそれペコたんが可哀想でねえ…」
「その恩恵に与ってるのは俺だけじゃねえしさ」
ともあれ。
隣に座して、渡された煙草を吹かす相方。
「んで。何してたのさ」
「いや、ちょっと考え事をねー」
「足元を見て?」
「天に懺悔しながら考えるような事じゃねえしなー」
まあ、懺悔のネタだけなら売るほどあるだろうが。
互いに。
「んじゃ、何考えてたのさ?」
煙を吹かしながら、答える。
「俺達のステが性技に与える影響について」
沈黙。
言葉の音韻を咀嚼しているらしい。
言葉の内容を吟味しているらしい。
言葉の意味を反芻しているらしい。
「…は?」
結果、真顔で問い返してくる。
「つまり、閨での特性さね」
「ああ、そういう事かい」
一瞬何の乱心か、と勘繰ったようだが、なるほどそっちの意味なら納得出来るらしい。
というか、無駄に長い付き合いだ。向こうの考えも判りすぎるほど判る。
今日はお気に入りのマーチャント娘が何を奮起したのか旅に出ているようで、連絡が取れない。
あちらとしても落としたアサシンと連絡がつかないらしいから、こちらの話に呆れながらも切り返してはこないのだろうが。
「んで、どう思うよ?」


心底下らない話ではある。
ただまあ、たまには付き合ってやるのも、悪くない。
…出来れば、酒場辺りで酒でもかっ食らいながらにしたかった、が。
どう考えても、青空の下でする話じゃあ、ないだろう。
取り敢えず、聞かれた内容に答える。
「やはりSTRは力強さだと思うんだけど、どうよ」
「いや、噴射量って説もあるんじゃないか?」
「大きさ…はどうなんだろうな」
「それはVITって事にしたいな」
「初期値だもんな、STR」
「カ…カンストだからって威張るなぁぁっ!」
いや、別に哀れんだつもりは、ないが。


「で、AGIは…」
「腰使いの速さだろ」
即答。疑問を差し挟ませる余地すら許さない。そんな即答。
「…だな。つか…うちら初期値だしな」
「考証できる材料すらねえ、か」
AGI騎士の一人でも居れば少しは掘り下げ様もあるのだろうが。
「当然の事ながらVITはタフさだよな…」
「そんでもって、大きさな」
「粘るね」
これは譲れない一線だ。
「俺のはちっさくないしな」
「何との比較だよ」
むしろVITの値だけならば、目の前の戦闘狂より高いのだ。
…STRは比較にならないが。
「じゃあ、何だと思うのさ?」
大きさとタフさ。それでいいじゃないか。
「むしろほら、カタさじゃね?」
「!」
残念ながら、納得出来すぎた。


「INTは知識。…耳年増ってやつか」
「いや、知識は重要さ。ただ腰を振ればいいってもんじゃない」
そればかりはステータス的な知識の他にも、経験則という重要なファクターが隠れている筈だが。
と、ずびし、とでも擬音を立てそうなほどに勢い良く指をこちらに向け、断言してくる。
「縛り方とか大事だぜ?順番とかちゃんと把握してないと、キモチヨクならないって言うしな」
「…アンタ本当に聖職者か」
それは多分ギルドメンバー全員が心の奥底で密かに思っているだろう観念だが。
突っ込んだら余計疑問を深くしそうなので、話を進めることにする。
「で。ならばDEXはテクだろうか」
「鉄板だな」
疑いどころは、ない。
別段、二人して充分な数値を確保しているから掘り下げる必要がなかったと言う訳ではない。
…断じて、ない。


ここまで続けた所で、難関が待ち受けていた。
「…所で、LUKは?」
「…めいちゅう率?」
何が、とは言わないのがここでの暗黙の了解だ。
この場合、反対の意味でも大して間違いではないかもしれないが。
それすらも、追求してはイケマセン。


しばし、そんな実のない会話を続けていると。
「そう言えば、この考察って野郎パターンのみだよな」
突如、何を思ったか相方がそんな事を言い出した。
「ああ、そうか。女性の場合はどうなんだろうな」
「だねえ。ねえ、どう思いますそこの牛乳売りのおねーさん」
そう続けて、横を見る。吊られてこちらも横を見る。
と、そこには無言で淡々と、こちらの会話を常に完全スルーして牛乳売りに精を出す商人の女性が―
「私に振らないで下さい!ついでに店の側でそんな猥談やめてくれませんかっ!?ここには何にも知らないノービスのお嬢さん達だって見えるんですよっ!?」
…存外真っ赤だった。
「ああ、そうだね。…なら、俺とどこかで実地検証してみては如何でしょう」
これ幸い、とばかりに掌を包むように掴む生殖…いや、聖職者。
ンな流れで言ったって落ちるまいに、と呆れるが。
「え、ちょ、そんな…!こんなところで!?」
…思ったより乗り気くさい。
「あ、じゃこうしましょ」
ぺた、とその頬に掌を当て、
「インティミデイト」
「禿マフラ!?」
二人揃って掻き消える。
ぽつんと一人残されて、所在無げに頬を掻く。
この分だと人気のない所でアオカンだろうなあ、とぼんやり考えながら。
きょろきょろと辺りを見回し、気付く。
「…店、どーすんだろ」
更にきょろきょろと見回している間に、こちらをじっと見つめるノービスのつぶらな瞳と目が合ってしまう。
「…俺?」
こくこく。
「店?」
こくこく。
「…だよなあ」
取り残された以上、やることはそう、多くはないんじゃないかと。
『…ほんともう、節操ないこと』
取り敢えず、ぼそりと嫌味をギルドチャットで入れてみた。





暫くして。
「なあ…」
「ん?」
何事もなかったかのように戻ってきた二人に何をしていたか、などと野暮を問う事もなく。
また同じように談義は続けられる。
「検証してて思ったんだけどさ」
「んー」
気が抜けたように、応対する。
「…AGIってさ」
「そりゃあもう腰の速さだと言ったろうそれ以外はあるまいよあっちゃいけないだろむしろ君の言いたい事はそりゃあわかるよわかるけどわかったりみとめたりしちゃ困る人がきっと出て来るんだと思うんだてか俺はほらむしろAGI初期値の鈍重だけどさ」
次の反応は、瞬間だった。
「…そーろ」
「だからやめれ」
さりげなく隣の商人から相方に向けられる熱い視線に辟易しながら、溜息をつく。
「大体俺も君もAGI初期値じゃん。なら認めても問題ないでしょ」
「だから、そういうしっつれーな憶測は人としてどうよ、ってことだよ」
「だいじょーぶだいじょーぶ。早いのも個性だよ、その人の」
「自分がそうだったら絶対吐かねえだろ、その台詞」
「当然じゃないかFUHAHAHAHA♪」
ギルドメンバーが(行方不明の者も含めて、だが)二十人を越え、それなりに大所帯になったとは言え、変わらない間合いというのもあるもので。
実際、ギルドメンバーが一桁台の頃からほぼ変わらないやり取りだった。
「んまあ、俺は早くナイヨ?」
「…実際どうなのか、本人に聞いてみたいものだけどねえ」
と。ギルド機能が一人のメンバーの帰還を報せた。
「む、噂をすれば影、だね」
「だね」
少しだけの間があって。
「やあ、二人とも」
す、と物陰から浮かび出るように現れたのは、待望のAGI特化。
しかも、少なくともこのテの話には間違いなくノるタイプの。
「あ、早い奴キタ」
「あ、ほんとだ。はやい奴キタ」
一瞬で、二人ともが同ベクトルの言葉を向ける。
つまりは、『いじる』系統の。
「…何故だろう。本当に心の底からまったく喜べない発言の気がするんだけど」
慣れたもので―というより慣らされたのだが―二人のその態度にちょっとだけ頬を引き攣らせただけで対応する彼。
「「気のせいだよ、FUHAHAHAHA♪」」
「…ところで、何の話をしてたんだい?」
「「早漏の話」」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」









この日、タイミングよく来てしまった彼にとても不名誉な職位が与えられた。



…本当に彼がそうなのかは、世界の謎である。






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