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鬱蒼と茂る森の中。
獣道、というには広く、街道、というには整備されていない、そんな道。
群がるトンボから身を隠し、木像の怪物をからかい(動けないのだ、こいつは)、九本の尾をくゆらせる狐から逃げ惑う。
そうした先に。
奴は居る!
「くらいやがれこのエドガ野郎!ファイアーボルト!」
右手のロッドを握り緊め、俺は叫んだ。
―うっせーんだこの小童。
とでも言わんばかりのアッパーカットが、俺のちっさな体を大きく空へとふっ飛ばした。
「へっふぅぅぅぅん!」
ああ、今日も空が綺麗だなあ…


TAREKICHI- ざ・えむぶいぴぃすれいあー


「で、えーと?これで何敗目?」
「うむ、これでマイナス三百八十七勝目だな」
「意地でも敗けって言葉使わないよね、たれ吉…」
ご丁寧にも記録をつけてくれている友人の呆れた目線をガン無視しながら、呻く。
「しかし、なんであいつはいつもいつもいつもいつも俺の一撃をなーんの抵抗もなく突っ切ってきやがるんだろうな…?」
「まあ、あいつ『えむぶいぴー』だからね。それくらいするだろうさ。…で、ちなみに何を使ってるんだい?」
「ファイアーボルト」
「………」
呆れた目が、少し質を変えてくる。
…哀れみ…?そんな、長い付き合いのこいつがこの程度の事で俺を哀れむなんて…!?
その視線にショックを受ける俺。
「ねえ、たれ吉」
「…おう」
「エドガ、火属性だよ…?」
「…」
「…」
見つめあい、そして。
「…………」
俺は物凄い勢いでくず折れた。


「というわけでくらえエドガ野郎!コールドボルト!」
―だからその程度で勝ち誇ってんじゃねえ小僧。
「きゃっふううん!」


「凍っちまえ!フロストダイバー!」
―ヌルイな坊ん。この程度じゃあ凍ってやれねえ。
「どっへええええええええええ!」


「この野郎、今日こそ勝ち星プラス1してくれる!」
―残念だな坊主、俺はそういう俗な欲とは別の所で勝負しているんだ。
「だあああ!」


何度打ち据えられただろうか。
ある日。
行ってみたら、奴は居なかった。
だけど、黄色い。あいつのものとしか思えない、黄色い足が。さびしくぽつんと落ちていた。
「…」
拾い上げて、周囲を見回す。
その日は味気なく、狐に尻を齧られた。


「…で、何でたそがれてる訳?」
「うっさいな」
「ふむ。んじゃ次のえむぶいぴぃでも追っかけてみる?」
次のお勧めはこのハティー辺りかな?根城がルティエのフィールドだから行き易いよ?などという発言を聞き流して。
「もう一回、行ってくる」
俺はやっぱりあそこへと向かった。


いつもの空気、いつもの気配。
あいつは。いつものように。
そ知らぬ顔ですぱぁ、と煙管をくゆらしていやがった!
「居た!いやがったなこの野郎!心配させやがってえええええええええ!」
―何かお前、勘違いしてきてねえか?
「わひゃああっほおおおおおい!」
うん、やっぱりこうやって見る空が一番綺麗だなあ。








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