ぱすてるチャイム
Another Season One More Time
菊と刀


02
お願い☆スチューデンツ



作:ティースプン





「『なんで?』とは聞かないでね。理由を聞かれたら、カイト君の生まれた年度が悪い。現世から五年間も消失してたのが悪い。ソロッと帰ってくりゃ良いのに、警備会社の設置したセンサーに引っ掛かって、外部のニンゲンを招きいれたのが悪い、って答えるしか無いんだから」
ロニィ先生はそう言って生徒の舌鋒を封じた。

「何から話したら良いのか。とにかくカイト君が消えていた五年間で、世の中いろいろ変わったのよ。もちろん、変わっていない所も沢山有るけど、その辺はカイト君自身で確かめていくべきことだから、先生からは何も言わないわ。自分で調べていくこと、良いわね?」
唇を尖らせながらも頷くカイトに先生は笑みを浮かべる。
「さて、これはカイト君だけじゃなくて、今の学園、特にこの国の冒険課を併設している教育機関全てに関わってくる問題なんだけど、とにもかくにも今は生徒の数が多いの。それで先生が不足してる。幸い、ウチは可愛くて、優秀で、ピチピチした補助員が来てくれてるから、まだ助かってるんだけど……」


カイトの二つ下の年度からは生徒数が急増するのは先ほど竜胆も述べた。
これは仕方がない。
結婚や出産する時期などは自然と重なるのだから、子供の数を規制する法律や罰則を定めて、厳重に取り締まってでもいかない限り、一定周期で繰り返されることだ。
だが冒険者ブームで冒険課を志望する生徒が大量に増えたこと。
そしてそれらの生徒のほとんどが――少子化の影響によって親の愛情を一身に受け、過保護の限りを尽くして育てられてきた為に――ワガママ放題に仕上がっていること。
そこに教師数が少ないという条件が重なるとどうなるか……


「冒険課生の不良化と冒険者の悪党化が、深っ刻な、社会問題になりつつあるのよ」
と真剣な表情でロニィ先生が言うと、
「夜間のコンビニ前の座り込みだとか」
ミュウが続け、
「冒険課で販売されてる〜医薬品の成分を〜抽出して〜売り捌くとか〜」
セレスが受け、
「街で騒ぎ起こして、警察にしょっ引かれて、学園が叩かれるんだよ」
吐き捨てるような口調で竜胆がオチをつける。

「街でって、ココって外出許可証を貰って出かけても、行った先で時間とか記入して貰ってこないと、そいつのクラス全員が連帯責任で四週間禁足って罰則があんのに、そんなに揉め事なんか起きんの?」
「あ〜、カイトさん〜、今の舞弦学園は〜自宅通学も〜認めてるんですよ〜」
「マ、マジっすか?」
「生徒が多過ぎで、寮はキツキツのパンク状態。カイト君の頃とかだったら二人一部屋なんて当たり前で、三人一部屋っていうのも、場合によっては結構、アリだったんだけど」
「『誰かが』漫研の女子に同人誌のネタとして売りつけたアレっすね」
腕を組んで瞑目してるロニィ先生に、カイトは白い視線を注いでいる。
「今そんなの無しよ。みんな個室で入りたがるの。でも生徒が多いってことはさすがに判ってるから、相部屋にせざるを得ないことに大抵の保護者は同意してくれるんだけど、どうしてもそれが嫌って子もいるから、自宅通学や下宿も認めてるのよ」
お手上げだという風に、ロニィ先生が両手を上げる。
「ってぇか、ここから一時間圏内に家のあるガキどもは、殆ど、自宅通学だよ」
その憎々しげな竜胆の様子から、それらの生徒の多くがスクールバッシングと、竜胆のストレスの元凶とカイトは見た。

「全寮制なのは自主性とか自立性だけじゃなく、協調性や社会性、何よりも自制心を培うためとかじゃなかったけ?」
入学時に配られた学園案内にそんな文言を見た記憶がカイトにはあった。
「そうなんだけど、まあ、快適な居住空間を求める権利だとか、学生連合憲章だとかで、その辺りの自由を認める声明文が出されちゃってるのよ。ウチなんかワリと最近に寮の建て直しをしてたからまだマシな方だけど、寮の老朽化が激しいとこなんかは、もう、色んな意味で、大変なことになってるのよ〜」
ロニィ先生の言葉にカイトは神妙な面持ちで頷いている。


「まあ、それがウチの現状。こっちの目を逃れて外へ悪さしに出てく子たちなんかと較べたら、チョッとの出席日数不足ぐらい、温情点でカバーしてあげる所なんだけど……」
ロニィ先生は何やら言い難そうにその先を続けた。
「五年前の事件って、未だに尾を曳いてるトコがいっぱい有って、新聞や雑誌社なんかがカイト君のこと色々調べちゃったのよ。それであの日、ダンジョンからカイト君が一旦は戻ってきて、避難命令が出されてるのが解ってたのに、ダンジョンに戻ったことが知られちゃってるの。まあ、それは事実だからしょうがないんだけど、誰かがカイト君の内申書の一部を学園の外に持ち出したのよ。それで平常点と出席日数の部分が一部の週刊誌に出ちゃって、店頭に並ぶまえに回収しようとできる限りのことはしたんだけど……」
ロニィ先生は申し訳無さそうに視線を落とした。
その記事を見た中からカイトの除籍処分を求める声が上がったらしい。
突き上げは両親にまで及んだのだろう。
カイトはミュウ達の様子からそう悟った。

「相羽が戻ってきたことが国中に知られてる今、すんなりと卒業なんかさせたら、当時の記事を覚えてる連中が出席日数のことをまた叫びだす可能性が高いってことか」
竜胆が忌々しげに呟く。
「今の風潮なんかと併せると、ひどいバッシングが起きるかも知れないわね」
コレットもそう嘆息する。
「でも、何故、今ごろになってそんなことを?」
先ほどから沈思黙考の態でいたミュウが突然口を開いた。
「「「「何故って?」」」」
「だって、今日来たのは教育省じゃなく、ぐ……」
「ああ。うん。まあ、色々と向うにも今回の試案では含む所があるのよ。カイト君のことを持ち出したのは、タチの悪い嫌がらせ。チョッとした意趣返しってとこでしょうね。今回の要求を呑まざるを得なかったってことよ」
ミュウの言葉を遮るようにロニィ先生がそう答えた。

「でも〜、カイトさんはそれで宜しいんですか〜?」
先刻から黙っていたセレスがカイトにそう尋ねてきた。
「生徒の権利章典とか〜、学生人権規約とか調べれば〜、今回のような場合〜、カイトさんの卒業する権利を〜認める条文や〜判例とかも〜有ると思うんですけど〜」
皆のしゃべる速さに付いていけなかっただけで、内容が理解できなかったワケでは無いようである。

「……って言ってくれてるけど、カイト君は如何したい? カイト君が何を選んでも、学園も、わたしも、ミュウちゃん達も、全面的にバックアップするわよ」
ロニィ先生がカイトにそう問うた。


「じゃあ…………いや、良いです。もう一度、三年生をやりますよ」


「絶対に譲れない事情があったのは事実だけど、そのことを他の人に話してからでも甲斐那さん達の所には行けたハズだし、両親や先生、ミュウやコレットや竜胆やセレスや、他のクラスメートにも心配や迷惑掛けて申し訳ないって気持ちがあるし、それに……」
カイトはそこで口を閉ざす。
(そんな嫌がらせまでしてくるってことは、学園以外のあっちこっちにも結構迷惑を掛けたんだろうし。それ位で向うの気が済むんなら……)

生徒の沈黙を黙って見つめていたが、やがてロニィ先生は納得した様子で、
「ふ〜ん。まあ、その方が良いかもね。カイト君の体の心配もあるし、色々と技術の移り変わりをその目でじっくりと確かめられるって言う利点もあるし」 そこで意味深な、というよりかは、悪意満タンとでも言ったほうが良さげな笑みを浮かべる。
「ミュウちゃんやコレットちゃん達とのイケナイ雰囲気の学園ライフを満喫できるって楽しみをフイにするって手は無いわよねぇ」







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