ぱすてるチャイムは二度、鳴り響く 第3話 「入学試験(前編)」 朝日奈コロ 「……はぁ」 溜息をつくと幸福が逃げると言うが、幸福が逃げたから溜息をつくんだと思う。 板張りの廊下で一人、溜息をつく。 背中の中程まである白髪は今、三つ編みにして後ろに垂らしてある。 今朝、妙子さんにやられたものだ。 ここは、ラスタル王国の商工ギルドが共同出資で運営している光綾学園。 その光綾学園の学園長室前の廊下。 目の前には重厚な両開きの扉が居を構えている。 その前で俺は学生服に身を包み立っている。 何故ここに自分は居るのか。 言葉だけなら哲学的とも捉えられる問答をいくら繰り返しても、最終的には数日前の出来事に帰結する。 目を閉じなくても数日前のやり取りが目に浮かんでくる 正直甘く見ていた。 夕凪老夫妻、正確に言えば妙子さんの行動は、予想の遥か右斜め上を逝っていた。 『冒険者になる』と宣言した後、妙子さんの行動は素早かった。 元冒険者という話は前に聞いていた。 だが、想像以上に妙子さんの冒険者としての活躍は華々しいものがあり、 ギルドの冒険者、貴族、武器製造社の役員、果ては王族まで顔が利くそうだ。 妙子さんはそのコネを使い、光綾学園に入学してみたらどうだと提案してくれた。 俺はその申し出を最初は遠慮した。 冒険者になると言っても、別に養成施設――冒険者学校に入学する気はなく、養成施設の修業課程を経ていない無印の冒険者になるつもりだった。 戸籍の問題に関しても、コルウェイドに渡ればルーベンス大陸より規制は緩いので、そこで戸籍の偽造をするつもりだった。 渡航に必要なお金も、ダンジョンで見つけた財宝(いつもは異空間に収納している)があるので、それらを売り払ったお金を渡航の費用に当てれば良いと考えていた。 それらの考えを妙子さんに話して説得しようと試みた。 なにより、いつもお世話になっている夕凪老夫婦にこれ以上、負担を強いることはしたくなかったから。 二人の親切に甘えてはいけないと考えた。 が、妙子さんは問答無用で却下。 曰く、昨今の冒険者は昔ならいざ知らず、そのほとんどが養成施設を出た冒険者である。 今の時代、無印冒険者はギルドと契約する事はおろか、下手したら犯罪者と同列に扱われるらしい。 曰く、コルウェイドへの渡航には身分証明が必要で、戸籍の存在しない自分がコルウェイドに行くには密航しか手段が無いとのこと。 他にもカイトがいた時代と現在の世界情勢の差異などを懇切丁寧に長々と話され、いかに無印冒険者になることが無謀な行いかということ夜通し説教された(正座で)。 そんな経緯を経て、妙子さんに説得され、光綾学園入学の話を承諾することになった。 何をどうやったのか申し出を受け入れた次の日には、もう既に俺の新しい戸籍が用意されていた。 夕凪老夫婦の養子としての戸籍を。 名前に関しては俺から夕凪老夫婦にお願いして、変えてもらうことにした。 夫妻は名前を変えることについてあまり良い顔をしなかったが強引に押し切った。 この世界で生きる為の新しい名が欲しかったから…… こうして、俺は相羽カイトではなく、 夕凪老夫婦の養子、 『夕凪 ゼロ』になった―― 「……はぁ」 意識が回想から現在に帰ってくると再び溜息が静かに口から漏れる。 あれから話がトントン拍子に纏まり、書類などの入学手続きが済み、ゼロは此処、光綾学園の学園長室前にいる。 妙子さんが言うには、必要な荷物は既に学園寮に搬入されているらしく、明日には中途入学が可能とのこと。 今日は、最終的な顔合わせの為、学園長に挨拶をしに来た。 いまさら文句を垂れても仕方ない。 意を決したゼロは学園長室の扉をノックする。 コンコンと乾いた音が響いた。 ◆ 「はい、どなたですか?」 聞こえてきた声にゼロは息を呑む。 聞き覚えがある声だった。忘れるはずがない、あの時、あの場所で確かに聞いた声色なのだから。 ベネット・コジュール、それが扉の向こうにいる人物の名前。 考えれば彼女が光綾学園の先生をしていても何ら不思議は無かった。 ルーベンス大陸に存在する冒険者育成学校は七つ。 彼女が舞弦学園から転勤したならば会う確率はそれほど低くはない。 部屋の中からは二人の人間の気配を感じる。 ……大丈夫……ここに居るのは俺の知る『ベネット先生』じゃないのだから。 自己暗示にも似た言葉を心内で呟き、平時より心拍数の上がった心臓を落ち着かせる。 「……夕凪です」 「入りなさい」 室内に入ると、其処には予想と違わぬ人物が学園長の物と思われアンティーク調の机に座っていた。 ゼロの姿を確認したベネットの眼鏡の内側の瞳が大きく見開かれる。 ベネットの隣に佇んでいた緑髪のエルフの女性もゼロを見て狼狽した気配が伝わる。 「……『はじめまして』、夕凪ゼロです」 ……これでいい、眼前に居るのは、知り合いによく似た『他人』なのだから。 「え、ええ、はじめまして。私が当学園長のベネット・コジュールです」 やや戸惑いの色を見せるベネット。 しかし、自己紹介の内に己を立て直したのか学園長らしい厳格な雰囲気で隣にいる女性を紹介する。 「こちらの彼女が、試験の引率を担当するセレス・ルーブランです」 伝えられた名前に再度、心臓が跳ね上がる。 彼女が……セレス……。 視線を彼女の方に向ける。 ブラウスの上に白いジャケットを羽織り、顔にはやや大きめの野暮ったい丸眼鏡を掛けている。 ベネットに紹介されたセレスは、困惑の表情を浮かべながらゼロの姿を凝視していた。 「セレス先生」 「あ、はい、私が今日一日夕凪くんの試験の引率を務めるセレス・ルーブランです」 ベネットに促され、セレスが挨拶をする。 若草色の髪が会釈とともに揺れる。 「試験……ですか?」 先程から気になっていた単語を問う。 「? 夕凪妙子さんから聞いていませんか。今日、光陵学園に来てもらったのは貴方が中途入学する学年を決定する為の試験を執り行うからです」 返ってきた回答に首をひねるゼロ。 今日、ここに来たのは顔合わせだけと妙子さんから聞いてきた。 しかし目の前のベネットは試験を行うと述べている。 「……いえ、義母からは今日は顔合わせだけだと」 両者の間に認識の齟齬が発生しているらしい。 「そうですか。あの人は昔からこういうことに関してはズボラでしたね」 ゼロの言葉を聞いたベネットは眉間に指を当て、なにやら苦悩しているのか小声で何か言っている。 「えーと、どういうことなのでしょうか」 状況が把握できていないセレスが困ったように首をかしげている。 「夕凪くん」 「……はい」 居住まいを正したベネットがゼロを呼びかける。 「先程、夕凪くんに言った通り私たちは今日、貴方に中途入学する学年を決定する為の試験を行う予定でした」 「……?……あの」 「何か?」 「入学する学年は一年生からが普通では無いでしょうか?」 今までの会話で気になっていた疑問をぶつけてみる。 時期が時期だけに中途入学するとは聞いていたが、何故一年生からではなく、試験で編入する学年を決めるのか。 「確かにこの場合、一年生として入学してもらうのが普通なのですが、夕凪さんから言付けで貴方の実力に伴った学年に編入させて欲しいとのことでしたので」 ……絶句とはまさにこのことを表すのだろうか。 なんだその無茶な要望は。 妙子さん……貴方は一体ベネット先生とどういった知り合いなんですか。 「……そんな無茶が通るんですか」 「普通は通りません。ですが、貴方の実力なら直ぐにでも一流の冒険者としてやっていけると聞いていますので、今回は特例と言うことになりますね」 ……妙子さん、本当にどういった紹介をベネット先生にしたんですか。 「話を続けましょう」 そう言ってベネット先生は自身の眼鏡を押し上げる。 「私達は編入試験を受けてもらうつもりでしたが、貴方は何も準備をしてきていないのでしょう?」 「……はい」 事実なので頷くしかない。 セレスは予定外の事態にいまだ困惑の表情のままあたふたとしている。 「でもー、困りましたね。ベネット先生、他の先生方にはもう準備をしてもらっていますし」 「仕方ありません。夕凪くんには後日試験を受けてもらうことにして、先生方には私から試験延期の旨を伝えておきます。それとセレス先生、学園内では私のことは学園長と呼んでください」 慣れた呼び方なのは分かりますが、と最後に付け加えるベネット。 話を聞く限りでは妙子さんの不手際が原因で光陵学園の先生に迷惑が掛かっているらしい。 「……申し訳ありません。義母のせいで皆さんにご迷惑をかけて」 「いえ、あの人の自由奔放さは身をもって知っていますから、夕凪くんが気にする必要はありませんよ」 そう言うベネットの脳裏に快活な妙子さんの顔が浮かぶ。 まだベネットが冒険者として駆け出しの頃、とても世話になった大先輩の顔が。 「ではセレス先生、今日は夕凪くんに学生寮の案内をしてあげてください」 「ハイ、わかりました」 では付いてきてくださいね、とセレスに連れられ学園長室を後にするゼロ。 二人が出て行き、シンと静まり返る。 室内に残ったのはベネットただ一人。 「似すぎている……彼は一体…」 答えの返ってくることのない疑問は空中に吸い込まれて消えた。 ベネットの目が机の上に置いてある写真立てに止まる。 中の写真には二人の学生の姿が映っていた。 それはベネットにとって悔恨の証であると共に、とても喜ばしい写真。 そしてゼロにとっては―― ◆ 翌日。 学生寮で一夜を過ごしたゼロはセレスを伴って光陵学園のスカウト実習室に来ていた。 室内には授業で使うのか、いたるところに開錠用の道具、ダンジョンに設置されるトラップ、南京錠のついた箱などが置かれている。 今日はゼロの試験の為この時間、他の生徒はいない。部屋の中はゼロとセレスの二人だけ。 昨日の内に聞かされた試験の内容は、まず専攻しているクラス(職業)の能力が水準以上に達しているかどうかを判断する為、それぞれ担当している教師が出す実技の課題をパスすれば良いそうだ。 それらの課題が終了した後、総合的な技能を見る為、教師一人をパーティーに加えたダンジョン実習を行い試験終了となる。 試験ごとの評価は五段階評定でつけられる。 ゼロは四つあるクラスのうち神術以外の三つのクラスに適性がある。 すなわち。 魔物に打ち勝つ誇り高き剣を振るうクラス――戦士。 深淵の力を纏う強い魔力を操るクラス――魔法使い。 危機に対応しうる繊細な技術を保有するクラス――スカウト。 この三つのクラスがゼロの適性のあるクラスだ。 「さて、まず私がスカウトの試験を務めることになります」 普段のほほんとしている顔を引き締め、セレスが実習室に備え付けている長机の前に立つ。 長机の上には大小様々な宝箱が五つ置かれている。それらの宝箱には頑強そうな南京錠や鍵穴などが取り付けられており、簡単には開きそうにない。 「スカウト技能の試験内容は、ズバリ開錠です。」 ぴっ、と指を立てたセレスが真剣な表情で試験の内容を説明していく。 「具体的に夕凪くんにやってもらう事は、今、私の前にある宝箱五つを時間内に開けてもらいます。開錠の道具は……んしょ」 机の下から工具箱を取り出すセレス。 それらの中身――主にピッキングツール――を卓上に並べ。 「道具はこちらに有るものや、この部屋に有るものを自由に使ってください。制限時間は一時間です」 ここまで何か分からない事はありますか?と聞くセレス。 ゼロは首を緩く振り、質問は無いという意を示す。 「箱一つににつき一点、全部開けることが出来れば満点です。では今から十分後に開始しますので、好きな道具を選んでください」 ではどうぞ、と言われたゼロは部屋の中を物色し始める。 「夕凪くん、こっちの道具はどうですか〜?初心者の人でも使いやすくて、なおかつ現役の冒険者も愛用している人が多いんですよ」 壁に備え付けてあるナイフや弓矢を見ていたゼロにセレスが話し掛ける。 その手に持っているのは一般的なピッキングツール。 先程の真剣な表情を崩し、ほにゃりと笑みを浮かべながら道具を勧めてくる。 しばし、セレスの手の中に納められている道具を見たゼロはふるふると首を振り、提案を辞退する。 「じゃあ、こっちなんかどうですか?」 そう言うとまた別の開錠道具を勧めてくる。 「……ルーブラン教諭」 「あ、はい、なんですか?それと夕凪くん、私の事はセレス先生でいいですよ。皆さんそう呼びますから」 「ルーブラン教諭」 「……あぅ〜」 眉を八の字にして頭垂れるセレス。 が、かまわず続けるゼロ。 「試験官が受験者の手伝いをしてもいいんですか?……」 「……」 「……」 場に奇妙な沈黙が流れる。 「あっ、そうでしたね。」 ようやく自分の失敗に気づいたセレスがバツの悪そうに笑う。 「すみません、夕凪くんが知っている人に似ていたのでついお手伝いをしてしまいました」 発せられた言葉にゼロの顔がセレスに気付かれない程度、僅かに歪む。 恐らくセレスの言う人物は、この世界の『相羽カイト』だろう。 心内に渦巻く複雑な感情が露見しないように、壁にあった道具を一つ手に取り、淡々と机の前まで移動する。 「……準備できました。試験を開始して下さい」 「えっでも」 手に握られている物体を見てセレスが眉を顰める。 一振りのサバイバルナイフ。 鈍色の光を放つそれは、明らかに鍵の開錠とは無縁の刃物だ。 しかし、ゼロにしてみればナイフ一本で済む試験だと確信を持っている。 「……構いません、始めてください」 「……わかりました」 暫しの逡巡の後、承諾をする。 「これより、夕凪くんの編入試験、スカウト部門を執り行います」 懐から金色の懐中時計を取り出したセレスは試験開始のタイミングを計っている。 時計の長針が盤上の12を指した。 「始めてください」 試験が……始まった。 ゴトン。 試験開始から間も無く、セレスの耳に鈍い音が届いた。 「……えっ」 間の抜けた声が口から零れる。 音の正体は、宝箱に付いていた南京錠が地面に落ちる音だった。正確に言えば、南京錠の下半分が床に転がっている。 セレスは自分の目を疑う。 眼前では彼女の常識を著しく逸脱したコトが行われていた。 試験開始を宣言されたゼロが最初に取った行動は、手に持ったサバイバルナイフを宝箱に付いた南京錠に向かって切りつけただけ。 唯それだけで錠前はバターを切るように分断された。 別段、化け物じみた力を入れた訳でもなく、かと言って、空気を切り裂くほどの速度を持って斬った訳でもなかった。 セレスの目には、ゼロがナイフを持った右腕を水平に移動させただけに見えた。 故に異常。 だが、怪異は続く。 最初の宝箱の錠前を切り裂いたゼロは次にやや大きめの宝箱に向かって斜めに切りつける。 音も無く刃が目標を通り抜ける。 抵抗らしい抵抗を受けないまま一定の速度で切られた箱。 数瞬後。 ズル、と箱が斜めに……ズレた。 刃の届く範囲を超えて両断されるソレ。 「この世に……切れぬモノは無し」 小さく、誰に聞かせる訳でもないその呟きはセレスの頭に酷く印象づいた。 後はこの幻想じみた現象の繰り返し。 ゼロが腕を、ナイフの刃を閃かせる度、いとも容易く切断されていく宝箱や錠前。 動く度にたなびく、男性にしては長すぎる銀髪が幻想的でさらにセレスの精神を現実から乖離させる。 そして円舞は終演を告げる…… コトリ、と手に持ったナイフを卓上に置き、短く息を吐く。 長机の上には元は宝箱であった奇怪なオブジェが雑然と並んでいる。 あるものは斜めに両断され、またあるものはバラバラに分割されている。 果たしてこれは開錠と言えるのか疑問に思えるやり方で開けた?ので試験の結果がどうなるか分からない。 試験前にセレスに言われた事が心に残り、ついやってしまったが、終わってみると後悔で頭を抱えたくなる。 明らかに開錠のスキルではない。 スカウト技能はある程度使えたのに、何故コッチの方法を選んでしまったのか。 弐堂式絶招。 それが先程、俺が使った技の流派の名前。 物質、魔法、概念といったこの世のありとあらゆるモノを『斬る』コトのできる流派。 落ち込んでても仕方ない。 気持ちを切り替えたゼロがセレスに告げる。 「…………終了しました」 「えっ、あっはい」 しばし呆けていたセレスが我に返る。 「結果は……」 合格かどうか聞くゼロ。 「えーと……はい!試験の結果は満点ですよ。夕凪くん」 すごいです!、と興奮気味に言ってくるセレスに安著する。 とりあえず第一関門クリア……かな。 ◆ 私は今、夕凪くんと一緒に次の試験会場である魔法教室に向かっています。 廊下を歩く他の生徒が私達を、正確に言えば夕凪くんを見て物珍しそうにしています。 確かに彼の髪の毛は男の方にしては長髪です。黒い紐を使って首の辺りで一束に結んでいるから彼が歩くたびに髪がゆらゆらと揺れてちょっと可愛い。 彼の白髪が窓から降り注ぐ陽光を浴びてキラキラと白銀に輝くから生徒達の目を惹くのも頷けます。 何より、彼の顔は……何と言いますか、その、かなり美形の部類に入る顔立ちで、彼を見て立ち止まっている生徒も大半が女生徒さんたちです。 でも……そんなことより私が気になっている事は…… 私は隣を歩く私より頭一つ分高い横顔を見つめる。 初めて彼に学園長室で会ったときからずっと考えていました。 夕凪くんの顔は『相羽くん』に似ています。いえ、似ているなんてモノじゃなく同じです。 相羽くんの血縁者か何かなんでしょうか。 私は昔の想い人に似た彼の横顔をぽー、と眺めながらそんなコトを考える。 「……さっきはすみません」 「ひゃいっ!」 急に声を掛けられて、素っ頓狂な声を出してしまう。 は、恥ずかしい… 「え、えっと何がですか?」 頬の紅潮を取り繕うため慌てて彼が何について謝罪をしているのか尋ねる。 「試験の事……あれは明らかにスカウト技能じゃ無かった」 確かに。 ついさっき、彼がスカウト実習室で使った技能はスカウトの技を大きく逸脱していた。 腕を振るう度、豆腐でも切るように両断されていく南京錠や宝箱。 しかし、あの試験に限らずスカウトの開錠技術は宝箱の中身を手に入れる、または扉を開けてその向こう側に行くという目的の為の手段の一つでしかない。 極論を言ってしまえば、宝箱を爆破しても中身さえ無事に手に入りさえすれば、それは開錠と言える。 だから、笑顔で彼に言ってあげる。 「大丈夫ですよ。夕凪くんはちゃんと合格ですよ。ちょっとビックリするような開け方でしたけど、あれだけ短時間で開けられたらスカウト教師として自身を失くしちゃうくらいです」 最後だけ冗談めかしに言うと彼は立ち止まり。 「ありがとうございます」 僅かに微笑んだ。 と言ってもホントに少しで、よく見ないと分からないくらいの変化でしたけど、私が思わず見惚れるくらい綺麗で。 私は年甲斐もなく、少女の様にどぎまぎしてしまいました。 普段、少し無愛想に感じる彼からの笑顔はものすごい威力です。 これがギャップというやつでしょうか。 ああっほら、不幸にも?偶然、彼の微笑を目撃した女性徒数名が顔を赤らめているじゃないですか! その瞬間、確信しました。 彼――夕凪ゼロくんは相羽くんと同類であると。 ほっておいたら相羽くんと同じで絶対女たらしになっちゃいます! 予感ではなく確信です。 私は彼を相羽くんの様な全自動フラグ立て機にならないように教育する決意を今この瞬間誓います! まず、そのためには夕凪くんが私のクラスに入ってもらうために頑張ってもらわなければいけません。 ファイトです夕凪くん。 「次の試験は魔法教室で行います。頑張ってくださいね♪」 そうして私達は再び廊下を歩く始める。 |
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