竜王戦鬼
著:エピオス
序幕−騎士
しゃくり上げるような声が、巨大な屋敷の一部屋から聞こえてくる。
人影の数は四つ。一つは両手両足を縛られた二十歳前後のメイド服姿の女性。残りの三人は、各々違った獲物を持つ屈強な男たちだった。
「静かにしろ!!」
男の一人が、手にした斧を振り上げながら女性を睨みつける。
「ひっ」小さな呟きとともに、低い嗚咽は無くなり、その場には沈黙が鎮座する。
「・・・・・・・・・・・・おかしい」
男たちの中でリーダー核であろう男が、落ち着いた、だがどこか焦ったような複雑な声で呟く。
「俺たちが要求を出してからもう二時間は経つ。だが、何の音沙汰もないとは・・・・・・・・・・・・・・・」
顎に蓄えた白髭をさすりながら、その男は周りを見渡した。彼らが立て篭もっているのは、巨大な屋敷の最も奥。背後にある窓の先はすぐに森が広がっている。
夜の間に屋敷に忍び込み、屋敷の主人やその家族を脅して金品を奪おうと考えていたのだが、運が良いのか悪いのか、その日、その屋敷にいたのは数人の
執事
メイドとバトラーだけだった。どれだけ締め上げてもメイドやバトラーが金品の在り処を知っているはずも無く、そうやって手間取っているうちに、逃げ出したメイドの一人が街の自警団の元へ走ったのだ。
「へっ・・・・・街に『Move Legend』でも来てたか?」
レイピアを腰に下げた男が、ふざけた口調でそう言った。しかし、それを笑う者はいなかった。最悪の事態。こんな街に『アレ』がくるとは思えない。だが、可能性は零では無い。
「もしかしたら、自分たちは、とんでもない時に仕事をしてしまったんでは無いだろうか?」そんな思いが男たちの心に巣食い始めた・・・・・・・・その時!!
バサ!
「「「!」」」
いきなり、部屋の中を闇が支配する。窓をふさがれた。彼らがそれに気付いた時、それは留置所の中だろう。
彼等は何もできない。いや、自分が何を見たのか、何によって倒されたのか、まったく判らなかっただろう。
彼らの隙間を縫うように走り抜けた、一筋の閃光。鉄色のソレは、全ての敵の行動不能を確認すると、指を口元に添え、唇と指の隙間から、勢い良く息を噴出した。
ピイイイィィィィィィィィィィィィ・・・・・・・
その合図を聞き、垂れ幕のような黒い布をかぶせた窓を突き破り、何人もの重武装の騎士が飛び込んできた。
「状況終了!撤収!」
凛とした声が響き、鉄の仮面で顔を隠した何人もの騎士が、一斉に彼女へ敬礼をした。
ある者は縛られたメイドを抱え上げ、またある者は男たちを部屋から引きずり出す。その連携の取れた動きは、そういう場面に慣れている事を感じさせた。
「やけに焦っていましたね、団長」
背の高い騎士が――良く見ればその兜には紅い二本線が走っている。他の騎士には無いものだ――最初の閃光に話し掛ける。
「私は焦ってなどいない」
俯くことも無く、怒る訳でもない。唯の無表情をその美貌に貼り付けた短髪の少女は、紅線騎士の横をすり抜けていった。
「あっちゃ〜〜、だいぶキてるな・・・・・・・・」
鋭くとがった、猛獣のような爪の付いた手甲で竜に似た兜の後頭部を掻きながら、『アレ』をのぞき、唯一ダイヤドラゴンを殲滅できる最強騎士団。『竜王遊撃騎士団』第一副団長は、表情の読み取れない仮面の奥で、苦笑の形に顔を歪めた。
※竜王遊撃騎士団・・・主にビシャトル大陸を活動の場としている遊撃騎士団。ビシャトル大陸内のどの国にも属さず、大陸中の大国小国、果てには地図にも乗らぬ村までも、無報酬で助力する『正義』の代名詞。
また、『Move Legend』を覗き、唯一ダイヤドラゴンを殲滅できる集団としても有名である。
尚、騎士団に属する者は、全て竜人である。
あとがき
ども、戦鬼の続編みたいなもんです。
これも結構長く続きそうです。何しろあの復讐相手が出てきますから(笑)
さあ、次なる第一幕−Tは、とうとう『彼』が出てきます。今度は最初から本名を名乗ってますよ。あと、今回からはどんどん『彼』の秘密が明らかに・・・。