細雪　−ささめゆき−


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　月球儀



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　誰もいない部屋の窓から空を見上げていた男は、いつの間にか雪が降ってきていたこと
に気付いた。冷えてきた部屋を暖めるために暖房を入れると、窓際には戻らずにゆっくり
と部屋の中を見回す。
「もう、この部室も見納めか……。」
　ソファに腰を下ろし一人感慨に耽る男の名は、新開健人。桜水台学園天文部の一人だ。
いや、元天文部員と言うべきか。三年生である彼は、すでに天文部からは引退した身なの
だから。
　この時間なら今頃、彼の同級生は受験の真っ最中だろう。そう思った瞬間、彼は我知ら
ず苦笑していた。同級生などといったところで、自分が考えているのが一人だけだという
ことに気付いたからだ。
　火倉いずみ。
　同級生。天文部の部長。戦友。どれだけの言葉を紡ごうとも、彼が彼女を形容する言葉
はただ一つの言葉に帰結する。
　すなわち、自分の力で護りたいただ一人の女性。
　中学生の時に出会ってから、三年間。
　ずっと見てきた。
　ずっと、見守ってきた。
　彼女が言葉に出来ない秘密を持っていると気付いてからも、いつか秘密を分かち合える
日が来ると信じて。
　だが、自分でも気付かないうちに焦っていたのだろう。そこを光狩につけ込まれ、彼は
彼女を傷つけた。自分を信頼してくれていた彼女を、考え得る限りおよそ最悪の形で。
　どれだけ後悔しても。
　どれだけ自分を責めても。
　過去を変えることが出来ない以上、それは、己が楽になるための行為でしかない。だか
ら、彼はそんなことはしない。
　ただ、消えようと思った。彼女の前に、彼女を傷つけた男が居ていいわけがないから。
たとえ彼女が許してくれていたとしても、自分で自分を許すことが出来ないから。
　大津名市を襲った『真夜』事件も解決し、徒党を組んだ光狩の残党もあらかた始末し終
えた今、もはや自分がこの街にいる必要はない。そう思ったからこそ、卒業を待たずに彼
女の前から消えようと決めた。
「……行くか。」
　既に荷物はまとめてある。ただこの街を出る前に、もう一度だけこの部室に来たかった。
彼が戦い抜いた三年間、常に彼の傍らにいた彼女の姿を心に止めておくために。
　部屋の暖房を止める。
　部屋の電気を消す。
　そして、振り返らずに部室を後にした。
　――窓の外には、雪。

　一歩一歩、踏みしめるようにして歩く。この学園での思い出を思い出しながら。
　顔を上げると、校門の前に人影があった。健人は、そこに立っている男を知っていた。
鋭い目つきでこちらを睨み付けている男の目の前に立った健人は、親しげに声を掛ける。
「どうした、百瀬。今はまだ授業中のはずだろう。」
　百瀬壮一。天文部の後輩で健人にとっては頼れる戦友でもある壮一は、健人の言葉にも
反応せずにじっと彼を睨み付けていたが、やがてぽつりと口を開いた。
「……行くのかよ。」
「ああ。」
「いずみさんには話したのかよ。」
「いいや。」
　最低限の言葉で受け答える健人に、壮一は激高する。
「何で！」
「理由はお前が想像すればいい。おそらくそれで、間違ってはいないだろうからな。」
　静かな眼差しで己を見据える健人の目を見た壮一は、俯いて唇を噛んだ。
「ずりぃよ……。そんな風に言われたら、俺、何も言えないじゃねぇか……。」
「すまんな。俺は不器用な男なんだ。」
　表情を歪める壮一の肩に手を置く、健人。
「火倉を頼む。あいつはいつも笑っているくせに、誰も見ていないところで血を流して、
　誰も見ていないところで涙を流す奴だ。みんなでしっかり支えてやってくれ。」
　それだけ言い置くと、健人はまた歩き出した。
　一歩。
　二歩。
　そして、三歩目で。

　バシィッ！

「なんのつもりだ、百瀬？」
　側頭部を狙った壮一の回し蹴りを振り向かずに右腕一本で防いだ健人は、底冷えのする
ような声を出す。
「覚えてるかよ、ゴリポン。卒業までに必ず一本取ってやるって言ったろ？」
　にやり、と壮一は不敵に笑う。
「どうしても行くって言うなら、俺とやり合いな。勝ち逃げが許されると思うなよ？」
「……いいだろう。ここでは何だ、公園に行くか。」
　対する健人は、野太い笑みを浮かべた。

　二人が向かった公園には、彼らの他は誰一人居なかった。平日の昼日中とはいえ、普段
ならば散歩中の親子連れや茶飲み話に花を咲かせる老人などがいるのだが、この雪だ。皆
家から出たくないのだろう。二人にとっては、好都合だった。
「腕ずくでも行かせねぇからな。覚悟しやがれ！」
「口だけは一人前だが、俺に向かって言うのは百年早いぞ。さぁ来い！」
「舐めやがって……行くぜ！」
　言い終える前に、突進。
「おらおらおらぁっ！」
　流れるような壮一の連続技。突きから蹴りへと移行するその動きには、僅かな遅滞すら
ない。一年間実戦の中で鍛えられ、磨かれてきた壮一の動きは、もはや一流の火者と呼ん
でなんら差し支えないほどの物だ。
（初めて会ったときには、ほんのヒヨッコだったのにな。）
　当時を思い出し、そういえばこいつは初対面から気に食わないガキだった、と苦笑する。
　まず第一印象がお互いに最悪だった。いずみが壮一に汚された、と勘違いした健人は、
壮一の顔を見るのと同時に殴りつけたのだ。そのこと自体はすぐに誤解だったと分かった
のだが、以来壮一は何事に付け、健人に張り合うようになった。
　ケンカっ早く、向こう見ずで、生意気で。なのに、いずみにだけは従順で。
　まったく、手の掛かる後輩だった。
　けれど、仲間を見捨てるようなことだけはしなくて。火者としての能力が無い分、少し
でも強くなろうと隠れて努力していて。
　いつしか弟のように思っていた後輩、壮一の成長が、涙が出そうなほど嬉しい。
「どうしたよゴリポン、そんなもんか！？」
　けれど。
「調子に乗るなよっ！」
　一旦距離を取った壮一に、低い体勢で肩から突き上げるようなタックル。鳩尾を狙った
その一撃は、狙い過たずに突き刺さる。
「げほっ、ぐ、ちっくしょ……まだまだぁっ！」
　数メートルは吹き飛ばされながらも立ち上がり、向かってくる壮一に、健人は嬉しさと
同時に限りない頼もしさを覚える。
　自分が居なくなってもいずみは大丈夫だろう。翼は居なくなってしまったが亮や鏡花、
真言美にマコト、おまけでキララもいる。そして、何よりも壮一が居る。この頼もしい仲
間達がいれば。
　だから。
「いい根性だ。ならば、これを喰らってもまだ立ち上がることが出来るか！？」
「勿体ぶってんじゃねぇよ……御託はいいからかかって来な！」
　この勝負だけは、壮一に負けるわけにはいかない。
　先輩として、戦友として。なによりも、壮一がいつか越えるべき目標として。
　稽古としてではない、互いの全力を出し尽くした真剣勝負をしたのだと、壮一に教えて
やりたかった。これからの壮一の成長のために。
　それが自分が壮一に残せる唯一の手向けだと信じ、健人は己が持つ最強の技を放った。
「いくぞおらぁっ！」
「必殺！地獄のこけら落としィッ！！」

　――雪が降っていた。
　しんしんと降り積もる、雪。白く白く。そして淡く。
　仰向けになり、空に向かってまっすぐに突き出しかざした手のひらの上で。ゆっくりと
溶けていく雪を見つめ、壮一は言った。
「ちぇ、また負けかよ……。」
　ふてくされたような壮一に、健人は話しかけた。
「百瀬。」
「あん？なんだよ？」
「強くなったな。これなら安心して後を任せられる。」
「……うるせぇ。」
　毒づき、体を起こそうとするが、全身に力が入らない。
「ではな。俺はもう行く。天文部のみんなにもよろしく言って……」
「新開くん！」
　それは、叫び。呼びかけなどと言うレベルを通り越した声。
「新開くん……ひどいよ、黙って行くなんて。」
「火倉……お前、なんで……。」
「それは私でーす♪」
　横から出てきた場違いに明るい声は、三輪坂真言美。壮一と同級生の、天文部員だ。
「モモちゃんから私のケータイに連絡がありまして、すぐにいずみ先輩を呼びに行って来
　たんですよぅ。試験中ってケータイの電源切ってあるから不便ですよねぇ。」
　えへへ、と真言美が悪戯っぽく笑う。
「百瀬、お前！？」
「へへっ、何とか間に合ったみたいだな。」
　してやったり、と言いたげな笑みを浮かべる壮一のその言葉に、健人が何か反応するよ
りも早く。
「一本取られただろ？」
　地面に横たわりながら、それでも不敵さを失わない壮一の口調に、健人は思わず吹き出
してしまった。
「ははっ！そうだな、確かに一本取られた。やっぱり強くなったよ、お前は。」
　楽しそうに笑いながら服の埃を払い、荷物を背負う。そして未だに起きあがれない壮一
を抱えると、ベンチに横たわらせて真奈美を呼んだ。
「ちょ、離せよおい！」
「おい三輪坂。百瀬はしばらく起きあがれんだろうから、側にいてやってくれ。」
「ばっ、余計なお世話だこのゴリポン！仕返しのつもりか！？」
「はーい、お任せくださーい！」
「お前も勝手に任されてんじゃねぇ！」
　嬉々として壮一に駆け寄る真言美に後を任せ、健人はいずみを呼んだ。
「新開くん……。」
「少し歩かないか、火倉。」

　健人達が行った後、公園のベンチに残された壮一は。
「おい三輪坂、恥ずかしいからいいって……。」
「ダメだよ、無理したら。いいから目を閉じててってば。」
　真言美の膝枕で看護されていた。
　あの後真言美は自分のハンカチを公園の水道で濡らしてきて、壮一の額に乗せてやって
いた。それだけならば感謝するのだが、膝枕はいくら何でもやりすぎだと壮一は思う。
「やっぱり止めろって。いいよ、起き上がれるから。」
「寝てなきゃダメだってば！」
　起きあがろうとはするのだが、押さえ込まれるようにして真言美の膝の上に戻される。
もうどうにでもなれ、と諦めて、せめて真言美の顔を直視しないように、未だに雪の降り
続ける空を見上げる。そして。
「結局、一度も勝てなかったな……。」
　呟き、拳を握りしめる。体はまだ痺れていて、それが初めて健人の本気の技を喰らった
のだということを認識させる。
　壮一は、複雑な気分だった。
　健人の卒業までに一本取る、その誓いが果たせなかったことへの悔しさがある。
　健人と出会ってから、恐らく初めて彼に本気を出させたことへの充足感がある。
　己の感情を持て余し、しばらく拳を閉じたり開いたりしていると、額にそっと真言美の
手が置かれた。
「お、おい、三輪坂？」
　戸惑いの声を上げる壮一に構わず、真言美は右手を壮一の額に当てたまま、もう片方の
手でそっと壮一の頭を撫で始めた。
「お疲れさま、モモちゃん。頑張ったね。」
　そっと。頭を撫でながら。
「凄く格好良かったよ。新開先輩と戦ってたモモちゃん。」
「何だ、見てたのかよ。」
「うん。いずみ先輩は飛び出そうとしてたけど、私が止めたの。モモちゃんに最後までや
　らせてあげてください、って。」
　優しい声で。
「……そっか。ありがとな、三輪坂。おかげで、初めて本気でやり合えた。」
　それに、まさか健人から聞けるとは思わなかった言葉を聞くことが出来た。
（強くなったな、か……。）
　思えば健人が自分を誉めてくれたのは、これが初めてかもしれない。本気の彼と戦い、
認められた。壮一は、そのことがたまらなく嬉しかった。そしてまた、立ち去る彼の遠い
背中に最後まで届かなかったことが、どうしようもなく悔しかった。
「まだまだだよなぁ、俺も。」
「でもモモちゃんはいつか、どんなヒーローよりも強くなれるよ。私はそう信じてるから。
　いつか先輩達がみんな卒業しても、きっとモモちゃんが優しい夜を守ってくれるって。」
　優しく笑う。
「ヒーロー、か。なれるのかな、俺に。」
「言霊使いの言葉は信用しなさい。それにね？」
「うん？」
「私にとっては、モモちゃんはとっくに、私だけのヒーローなんだよ？」
　真言美の手つきも、声も。とても優しくて。
　だから壮一は、両腕で顔を覆った。
「……なぁ、三輪坂。俺、しばらくこうしててもいいか……？」
「モモちゃんが望んでくれるなら、ずっと、ね。」
　壮一の頬を伝う涙に気付かない振りをして。真言美は、壮一の頭を撫でていた。
　優しく。この上もなく優しく。壮一が眠りにつくまで、ずっと。

　――雪が降っていた。全てを染める、真白の雪が。

　視界が悪く、周りには誰の姿も見えない。振り返ればそこには己と隣の彼女の足跡しか
なく、世界に唯二人だけのような錯覚に陥る中、健人といずみが向かった場所。それは、
桜水台学園だった。部室に向かおうとするいずみを、新開が引き止める。
「屋上に行かないか？」
「え、でも寒いよ？部室の方がよくない？」
「いや、屋上がいいんだ。……頼む。」
　健人のいつにない強引さ、と言うよりは必死さに負けて、いずみは了承した。
　屋上に行くと、やはり風が強い分、寒さもより強く感じる。二人は風が直接当たらない
よう、屋上に設置してある給水塔の縁に腰掛けた。
「やっぱり寒いねー。」
「ああ。すまんな、我が侭を言って。」
「いいよ。何か理由があるんでしょ？」
　柔らかく笑ういずみの顔が眩しくて、健人は視線を逸らした。
「新開くん？」
「……二人だけで部室にいるのが、怖かったんだ。」
「え？」
「二人だけで部室にいたらまた火倉を傷つけそうで、それが怖かった。」
「……新開くん……。」
　戸惑いの色をその瞳に浮かべて、いずみ。だがもう、健人は止まらなかった。
「火倉が好きだ。最初はお前と一緒に戦うことで、強さの意味を知りたいと思った。でも
　俺は戦っているうちに、いつかお前を護るために強くなろうと思った。お前を護れるだ
　けの力が欲しいと思った。お前を護ることが、俺の強くなる理由になっていたんだ。」
「……」
「でも、俺には出来なかった。護るどころか、俺は……」
「新開くん、いいの。その事はもういいのよ。だからもう……」
「俺はお前を傷つけ、あまつさえ償いもせずに逃げ出したんだ！」
　絶叫。
「俺は火倉の前に居ることすら許されない、卑怯者なんだ。だから……。」
　その声はもはや絞り出すように……すがるかのように響く。
「だから、私の前から黙って消えようとしたの？あの時みたいに？」
「ああ、そ……」
　パシーン！
　目の前に火花が散ったような、見事な平手打ちだった。
「馬鹿！馬鹿！ばかばかばか、新開健人の大馬鹿ぁっ！」
「か、火倉？」
「何で一人で勝手に決めるの、何で相談してくれないの！私が好きだって言うなら、どう
　して黙って私の前から消えるの！？」
「いや、だからそれは」
「わかってない、君は全然何も分かってない！一度でも私の気持ちを聞いたの？どこかに
　行って欲しいって、消えて欲しいって私が言ったの！？言ってないでしょう！だったら
　それは君が逃げたいだけ、君の自己満足のために逃げたいだけでしょう！そんなの、そ
　れこそ卑怯者のする事じゃないの！違う！？違うなら言ってみなさいよ！」
　彼女は、その双眸に涙を浮かべていた。その涙を流させたのが自分であるという事実、
そして彼女の言葉で暴かれた自分の欺瞞に、健人は激しい自己嫌悪を感じていた。
　違わなかった。彼女の言うとおりだった。どれだけ自分に言い訳したところで誤魔化せ
るものでもなく、ただいずみに嫌われるのが怖かった。軽蔑されるのが怖かった。彼女の
目の前にいることが怖かった。
　あのとき光狩に操られてしたことが、実は自分の本当の望みだったのではないか、と。
そう思う自分が、何よりも嫌だった。
　だから逃げだそうとしたのだ。彼女から。全てから。
　彼女に会うことを恐れていたのは、きっと予想していたからだ。自分の卑怯な理屈が、
彼女には決して通用しないことを。
「俺は……」
　肩で息をするいずみは、俯く健人に向かって多少落ち着いた声音で言う。
「……ねぇ、新開くん。もしも私が、新開くんの前から黙って消えて、連絡も取れないよ
　うな処に行って、行方不明になったらどうする？」
　唐突な質問だが、もしもそうなったら。健人は自分が採る行動を容易に想像出来た。
「探す。そして、絶対に見つける。」
「何年も見つからないかもしれないよ？」
「何年だって探す。見つかるまで、一生だって探すさ。」
「どうして？」
　下から覗き込むような上目遣いで、いずみ。その顔を見て、やはり自分は彼女に惚れて
いるのだな、と再確認する。そして、それこそが理由なのだと。
　たとえ彼女を傷付けても、故に彼女の前から逃げようとしても。それでもやはり。
「好きだからだ。新開健人は、火倉いずみに惚れている。だから、探すんだ。」
「だったら、どうして気付かないのかな……？」
　いずみは呆れたように溜め息をつくが、健人にはその理由が分からない。
「え？」
「新開くんが黙って居なくなったら、私も同じようにするってこと。」
「……なんでだ？」
　信じられない言葉を聞いた、という表情の健人の胸にいずみは飛び込んだ。
「好きだから。火倉いずみは、新開健人に惚れているからだよ。」
「か、火倉……本当なのか？」
「新開くん……もうどこにも行っちゃやだよ。あの時みたいに黙って行かないで……。」
　己の胸に顔を埋めるようにして涙を流すいずみを、健人は無性に愛しいと思った。
　光狩に操られていたときの、独占欲とは違う。ただ、目の前の彼女が愛しかった。
　そっと、いずみを抱きしめる。壊れないように、離れないように。ようやく通じ合った
二人の想いが、二度と分かたれぬように。
　静かだった。例えようもなく静かだった。聞こえる音と言えば、互いが抱きしめた相手
の鼓動が全て。そんな心地よい静寂の中で、そっと健人が囁く。
「火倉、聞いてくれ。俺はここにいる。ずっとお前の側にいる。俺はもう、お前に黙って
　どこにも行かない。だから、安心してくれ。」
「……本当？もう私から逃げようとしない？」
「ああ。本当だ。俺は火倉の側にいる。」
「絶対？ちゃんと、卒業式にも出る？」
「ああ。絶対だ。火倉と一緒に卒業したいからな。」
　力強く頷く健人の胸に、いずみはもたれかかる。抱きしめられた腕の力強さを心地よく
感じながら。
「じゃあ、約束してくれる？」
　浮かべたのは、輝くような笑顔。それを見て。
　健人は、自分の力が何を護るためにあるのか、ようやく分かったような気がした。
「ああ、わかった。俺はお前の笑顔を護る。
　お前がもう一人で泣かないで済むように。
　お前がもう一人で傷付かずに済むように。
　俺の命在る限り、俺はお前の隣にいよう。お前をこの俺の命で護ろう。」
　見つめ合い、絡み合う二人の視線。
「好きだ……いずみ。」
「私もよ、健人くん……。」
　どちらからともなく、目を閉じて。ゆっくりと顔が近付きあっていく。
　それは、約束の証。幾千幾万の言葉を連ねるよりも、何よりも確かな約束の証。
　雪の降る音すら聞こえてきそうな静寂の中、彼らは初めての口づけを交わした。

　雪は二人を祝福するように。ただ、白く……そして、淡く。
　……世界をゆっくりと、真白に……。
















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後書き

　竜園にご来園の方々、初めまして。月球儀です。
　今回投稿させていただいたのはアリスソフト制作『夜が来る！』から、新開×いずみの
お話です。ゲーム中ではあまり出番の無かった彼ですが、個人的に「頼れるアニキ」的な
彼が好きなのでこのようなお話となりました。初の投稿作品ですが、いかがだったでしょ
うか。ここまで読んで下さった皆様方に、少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
　最後になりましたが、作品を発表する機会と場を提供して下さった竜庭様、本当にあり
がとうございました。

　それでは皆様、いつかまたどこかでお会いしましょう♪










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