窓から見える海がどんどん鮮明な青い輝きをみせてくれる。
 針のようだった船も空母と解る大きさになる。
「どうやら着いたようね・・・。シンジ君、みんなも降りる準備をして」
 はしゃぐ友人達をよそに、シンジは帽子を被り直すミサトに話し掛ける。
「ミサトさん、この船に僕と同じEVAのパイロットがいるんですよね」
「ええ、あなたたちと同じ14歳、しかもとびっきりの美少女」
「び、少女?」
「そ、セカンドチルドレン惣流・アスカ・ラングレー。EVAの操縦もそうだけど、大学もでてる優秀な子よ」

(大学・・・か。すごいな、僕と全然ちがうんだろうな。相手にもされないだろうし、せめて嫌われないようにしよう・・・)

 物憂げな黒い瞳は窓の外の鮮明な青に視線を戻す。

 そして飛行甲板に降り立つヘリを見つめる蒼い瞳。
「来たわね・・・」
 あの中にサードチルドレンも乗っていると教えてもらった。
 今のアタシではサードにみくびられるだろう。
 先制攻撃(?)で優位にたたなくてはならない。
「いくわよ、アスカ!」

 ネガティブなシンジの思考をよそに、相手はしっかりとシンジを意識していた。






もう一つのアスカ・ストライク!




作:HIRO





「ヘロウ。アタシはセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラ・・ン・・・グレー・・・よ・・・」
 その子は僕の目の前に現れるなりそう言った。
「さ、冴えない・・わ・ね・・・」
 その子は、なぜか顔を赤らめながらそうつけたしてきた。
 下から見上げる目線は、こちらをじいっと離れない。
 ・・・ん、?下から見上げる・・・目線?
「み、ミサトさん・・・」
 シンジ君再起動成功。
「・・・・・・(・・)」
 ミサトいまだ目が点状態。
「ミサトさん!!」
「は!な、なに、シンちゃん」
 ミサト機、再起動成功です!
「たしかセカンドチルドレンって僕と同じ14歳っていってませんでしたか・・・」
「そ、そ〜よう、シンちゃんと同じ、じ、14歳よ・・・」
「ど、どうみても14歳にはみえませんよ!」

 そう。
 身長およそ80cm程度、(ツルペタ)胸を精一杯にそっくりかえり、手を(おうとつのない)腰にあてる様は、りりしいというよりほほえましいがぴったり。
 美少女というより美幼女、女の子という言葉がぴったり。
 どう見ても10歳以下である。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
 同伴の二人の少年らは言葉もない。

(おい、名前ぐらいだせよ!)
(せや、せや!ひとくくりはひどいで!)
 この回でめだたない、情けない、おまけにモテないお前らに紹介は必要ないっしょ。
(も、モテないは関係ないだろ!お前だってもてないくせに!)
(せや!義理チョコすら会社に入ってから初めてもろうたくせに!)
 や、やかましい!!
 男子校みたいな高校でそんなもんもらえるわけねーだろ!
(なら中学のころはどないや!)
(そうだ、立派な共学だったはずだ!)
 なっ!・・・少年達のほうは目もくれず、女の子アスカはシンジにくぎづけ。
(ちっ、話を進めやがった)
(男のすることやあらへん)

 コホン。
 なんともいえない沈黙があたりを支配する。
「お、お嬢ちゃん・・・え〜と・・・アスカって・・・アスカなの?」
 ミサトがおそるおそる尋ねる。
「・・・はっ、な、なによ、ミサト!」
 やっとシンジ以外の存在に気づき、あわててそちらに向く。
 と、バランスを崩し、倒れこんだ。
「!」
 とっさにシンジが手でささえ、抱きとめる。
「あ・・・」
「大丈夫?」
 胸をさわられてる・・・。
 おそらくシンジ自身には自覚はないが(つるぺたですから)、とっさに出されたその手は少女の胸部にしっかりとある。
 しかし、既に第二次性長期をすぎた(ことのある)アスカにはささいなことではない。
 当然お怒りだ。
「ど、どこさわっているのよ、このスケベ!」
「え?・・・あ、ご、ごめんね、アスカちゃん」
「!き、きやすく、ア、アタシの名前を呼ぶんじゃないわよ!これでも、アンタと同じ14歳なんだから!」
 弱みをみせまいと、そんな風にいってみる。
 ところが本音は、下から見上げた顔は結構美形で、かつ、纏っているどことなく優しげな雰囲気に目がはなせない。

 こんな風に自分を優しく見つめてくれる人はいなかった。
 名前を呼ばれるのがどこか・・・嬉しい。
 すまなさそうに、それでもアタシを見てくれてる・・・。
 顔はどんどん上気し、すでに真っ赤。

「あ、ごめんね。え〜と、そ、惣流さんでいいかな?」
「あ・・・。ま、まあ同じパイロット同士、特別にア、アスカと呼ぶことを許してあげるわ」
「そ、そう?ありがとう、アスカちゃん」
「・・・・・・」

(アスカちゃん、か・・・なんかひさしぶりね、そうよばれるの・・・。なんか、ウレシイ・・・)

「ちょ、ちょっと、アスカ!?」
「なによ、ミサト。そんな大声ださなくても聞こえてるわよ」
 うるさそうにミサトを向く。
 いいところをジャマして、と目線もキツイ。
 知り合いにもかかわらず、シンジと全然反応が違った。
「ど、どうなってるのよ、あんたこの前あった時よりもちっちゃくなってるじゃない!」
「・・・人生はいろいろあるのよ」
「あ、あんたの場合はおかしいのよ!普通の体験談じゃすまないのよ!」
「るっさいわねー!こっちだって困ってるのよ。こんな姿じゃモーションかけられないじゃない・・・」
「モ、モーションて何よ?」
「え?そ、そんなことより、ちゃんと紹介しなさいよ!円滑な人間関係はお互いをよく知ることにあるのよ!!」
「いや、だからその前にちゃんと事情を・・・」
「まずは自己紹介ね!さっきアタシはやったから今度はアンタの番よ!」
 アスカ様はまったく聞いちゃいなかった。
 びしっと指差す対象はもちろんシンジ君。つーかそれ以外に興味なし。
 いまやアスカの意識はシンジだけにある。
「あ、うん。僕は初号機パイロットの碇シンジ。よろしくね」
 アスカの前にかがんでにっこり笑う。
 近距離で青空と海をばっくにまぶしい笑顔がアスカに炸裂。
 さっそく趣味やら好きなものやらを聞き出そうとしていたアスカの精神は、すでにこの攻撃で壊滅状態。
「あう〜・・・・・」
 顔を真っ赤にしてモジモジしている。
 なんて顔するのよぉ・・・うう、なんかものすごくはずかしぃ・・・。
 今まで生きてきた14年間で、初めての感情に心臓は爆発寸前だった。
「どうしたの?」
「!なんでもない!ミ、ミサト、艦長のところに案内するわ、ついて来なさい!!」
 あせったようにアスカはいきなり走り出した。  
「ちょ、ちょっとアスカ!?こらー、説明してけー!!」
  

 で、艦長室。
 何故か顔を赤くしたアスカに連れられてここに来た。
 走って。全力疾走。
 アスカと共に飛び込んできたシンジ達にブリッジにいた人達は驚いていた。
 で、誰が飛び込んできたか悟ると、何故か緊張の度合いが増す。
「来たか・・・君がネルフの作戦部長かね?」
 周りの人間の反応に首を捻っていたミサト達に、いきなり話し掛けてきた者がいた。
 中央の椅子に座る初老の男。
 肩に付けている階級章からこの艦の艦長であり、艦隊司令であることがわかる。
 ミサトが慌てて失礼しましたと敬礼する。
「はい、特務機関ネルフ、作戦部所属作戦部長葛城一尉です。ここまでの護衛並びに弐号機輸送ありがとうございました。さっそくですが弐号機引渡しの」
「そんなことはどうでもいい!!」
「はああ!?」
 艦長はミサトが差し出す指令書をほうり投げると、鼻息も荒くミサトを睨み付ける。
「子供をパイロットとして戦わせているとは聞いていたが・・・君等は、あんな幼子にまで戦わせているのかねっ!?」
「え?あ、いや、ひょっとしてアスカのことですか?」
「当たり前だ!あんな年端もいかない幼ない子供まで戦わせるとはそれでも軍人か!?」
「あ〜〜、いやあ、私もちょっち何がなんだか・・・」
「ほう・・・とぼけるきかね?」
 なにやら会話がおかしな方向にむかっているが、ミサトにだってよく状況が解らない。
 半年前に自分がアスカとあった時は、シンジと同じくらいの年齢容姿していたはずなのだ。
 しかし、どうやら艦長はミサトがとぼけていると思い込んだようだ。 
 ますます混乱するミサトにアスカが興味なさそうに声をかける。
「・・・ミサト〜、逃げたほうがいいわよ・・・」
「はあ?あにいってんのよ、あんたは。だいたいアスカがちゃんと事情を」
「おい!葛城、逃げろ!!」
 ブリッジの入り口から男が顔を除かして怒鳴っている。
「か、加持〜!!な、なんであんたがここに!?」
「そんなことはどうでも・・・うお!」
 加持が頭を引っ込めると同時に、数発の銃声と共に銃弾が加持の頭があった場所を通過する。
「か、加持い!?か、かんちょ・・・う?」
 突然再開した顔見知りにも驚いたが、その知り合いがいきなり銃撃されたのにさらに驚きを増す。
 慌てて振り向くと、艦長と呼んでいた男が座った目で銃に弾をこめていた。
「くっくっく・・・加持君、ここに顔を出すとはいい度胸だ。褒美にブリッジに招待しよう。さあ、こちらまで来たまえ」
「いかん、艦長がまた切れたぞ!!」
「バカヤロウ!まだ銃をとりあげてなかったのか!?」
「だったらテメェが取れぇ!!」
「あ、あの・・・どう・・・された・の・でえ〜!!」
 騒ぎ出す周り。
 状況が判らないミサトが恐る恐る話し掛けると、弾を込め終えた銃はミサトを向いていた。
「ああ、そうっだったな。ネルフの人間はまだここにもいたなあ・・・くっくっく・・・ああ、葛城君だったな、さあサインしよう・・・君自身の赤い血でぇぇぇ!!」
「ヒ、ヒイイイイ〜〜〜!?」
 身の危険を感じすぎたミサトは慌ててブリッジから走り出した。
「子供は、子供はあああ、未来の宝なんだぞぉぉおぉおお!!!!」
 言ってる事は立派だが、行動はどこか間違ってる艦長。
 熱い涙を流しながらライフルを振り回し、吼え猛る。
「はああ、はあ、はあ、逃げたか・・・。く、くっ、くっ、くっ・・・さあ狩りの時間だ」
 ゆらりと席を立つと、どこからともなく取り出した禍禍しいナイフやらごつい武器やらを身に付ける。
 それを見たブリッジ要員が慌てて騒ぎ出す。
「か、艦長、お、落ち着いて下さい!!」
「そ、そうですよ、上にばれたら大変ですよ!?」
「ばか野郎供が!!・・・海の男が怖いのはアニキサスだけだ。海の男は、海の男はなぁ、弱い者や子供を守るもんだぁ!!」
「だめだ・・・」 
 るるるーと涙を流す男達を尻目に、ブリッジを出ようとする艦長の目にシンジの姿が止まる。
 シンジは、自分の後ろにアスカを移動させ、艦長を睨んでる。
 普通並の学歴しかないシンジには先程の英会話はさっぱり判らず、シンジの目には、艦長がいきなり銃を乱射したようにしか見えなかった。
「・・・・・・」
「・・・そうだ、海の男はそれでいい。坊主、しっかり守るんだぞ」
 優しく頭をなでられ、きょとんとするシンジ。
 続いてアスカの頭も優しくなでる。
「・・・安心しなお嬢ちゃん、ワシがしっかり守ってやるからな」
 その言葉を最後に静かにブリッジを出て行く艦長。
 後に残ったのは、るるるーと涙を流すブリッジ要員と状況についていけないシンジと、深い溜息を吐くアスカだけだった。

 
「どう?これがアタシの専用機、エヴァンゲリオン弐号機よ!!」

 あの後、アスカに弐号機の所まで引っ張りまわされたシンジは、弐号機の頂にてヤモリのごとく張り付きセミのように薀蓄をたれるアスカにはらはらしていた。
「わかったから早く降りといで、危ないから」
「むー、ほんとにわかってるんでしょうねえ?」
 アスカがつつーと弐号機を滑り降りた途端、衝撃と爆音が二人を包む。 
「水中衝撃波!まさか!?」
 その言葉とともに表に飛び出していく。
 シンジもあわててアスカの後を追う。

 そして見た。
 懸命にジャンプを繰り返すアスカの姿を。
 そう、手すりの位置が高くて外が見れないのである。
 シンジはアスカの背後に立つとアスカを抱きかかえた。
「!ちょ、ちょっと!?」
「どう、見える?」
「・・・・・・アリガト」
 いきなり抱かかえられてアスカはびっくりしたが、間近にあるシンジの真剣な面差しにドキドキ。
 周りの状況(泳ぎ回る使徒や沈んでいく船のこと(汗))も忘れただただシンジに見入る。
「あれは・・・使徒」
「・・・・・・」
「このままではみんなが・・・」
「・・・・・・」
「アスカちゃん、とりあえずミサトさんに・・・?アスカちゃん?」
「はっ!まただわ・・・じゃなくて!!あ、あれが使徒!?」
「え?うん、たぶん・・・。だからミサトさんのところにいそいで避難しなくちゃ」
 アスカのワンテンポ遅れた行動に不信に思いながらも、アスカを抱かかえたままヘリポートに向おうとする。
「ちょ、だ、ダメよ!今からアタシが使徒をやっつけるの!!」
「ダメだ、危ないよ、アスカちゃんになにかあったらどうするのさ!!」
「シ、シンジ・・・」
 すっかり保護者気分のシンジ。
 ただひたすらにアスカを心配し、アスカの安全を優先させようとする。
 アスカもちょっと前なら当然くってかかる場面だが、ひたむきに自分の心配をしてくれるシンジに胸がつまる。  
「うん、わかっ・・・って、ちがう〜!!シ、シンジ、ダメよ!こんな逃げるとこも隠れるところもない海のど真ん中じゃすぐにやられてしまうわ」
「じゃ、じゃあ、どうすれば・・・」
「決まってるでしょ、EVAに乗んのよアタシの弐号機に。そして、使徒を倒す!!」
「そ、そんな、危険だよ!」
「シンジ、心配してくれてアリガト。でも、あたしは使徒を倒すためにいままでがんばってきたの、それに・・・このままじゃシンジだって危ない・・・」
「アスカちゃん・・・」
  
 こんな小さい子ががんばっているのに僕は・・・(注 シンジ君はアスカが自分と同い年だという事をすっかり忘れています(笑))。
 くやしさと情けなさでいっぱいになるシンジ。
 今、シンジの中でなにかが変わった瞬間だった。   
 この時より脱線しがちだった運命という列車は大きな軋みをあげて予定路線を変更した。

「わかった・・・僕は何にもできないけどがんばって・・・それと気をつけてね」
 抱かかえたアスカをぎゅっと抱きしめる。
 アスカもアスカで自分を包むぬくもりに酔っていた。

 ああ〜なんかきもちいい・・・落ち着くわ〜・・・もうこいつはアタシのものよ〜〜。



 その時、遠く離れた某所。

「はっ!なにかイヤな感じ・・・心がざわざわする・・・なに?」  
 所属する組織内で趣味の読書にふけっていた少女は、突然立ち上がると部屋をうろうろする。
「心拍数が異常・・・何故私はこんなに不快感を感じるの?不快・・・そう私は怒っているのね」
 留守番をしていた少女は、乙女回路が作動して危機感をつのらせていた。



「えっ?ぼ、僕ものるの?」
「そうよ、特別に私の華麗な操縦をすぐそばで見せてあげるわ!」
 いざ弐号機へ、という時アスカは戻ろうとするシンジを引き止めた。
「で、でも僕が乗るとシンクロ率がおちるんじゃあ・・・?」
「いいから!シンジも乗るの〜!!」 

 ジタバタジタバタ。

 魂は肉体の付属物という言葉がある。
 体長とともに精神年齢もちぢんだのか、アスカのありようは完全な幼児、つまりダダッ子だった。
「わ、わかった、乗るよ、乗るから暴れないで!」 
 抱きかかえてるシンジにはたまったものではない。
 落とさないように必死だ。
「行くわよ!」

    
 エントリープラグに潜り込んだ二人は、早速問題にぶちあたる。
 操縦席が全然アスカのサイズにあってないのだ。
 実はドイツ支部、シンクロには問題がないことを確認だけして、アスカの新しいエントリープラグを予算の都合で本部に製作をおしつけていたのだ。
 パイロットも機体も取られたのだからしょうがないかもしれない。  
 シートに座り、懸命に腕を伸ばすのだが全然届かない。

 う・・・どうしよう、せっかくいいところ見せるチャンスなのにぃ!!

 その時ひょいとシンジがアスカを抱き上げた。  
「な、なに!?」
 またもや自分を優しく包む感触に、驚きとここちよさがアスカを襲う。
 シンジは自分が操縦席に座るとアスカをひざの上に乗せた。
「僕を通してアスカちゃんが動かして!!」
「え・・・うん、判った・・・」
 背中に感じる暖かい感触に、素直に従うアスカ。
 シンジの腕に手を重ねるとぼんやり弐号機にシンクロする。
 その瞬間、紅い機体の頭部にある四つのモノアイは眩い光を放った。
  
 −アラアラ、アスカちゃんたらシンジ君にすっかりメロメロね。・・・の言った通りにしてよかったわ〜。シンジ君もいい子だし、これなら安心ね。さってと!−
 
 輸送艦を飛び出し空中を漂う弐号機。
 機体が出すフィールドは重力を遮断し、大空に立つ。

「すごい力を感じる、これが弐号機・・・」

 シンジは自分の乗る機体と全く違った力を感じる弐号機にただただ感心する。
 さすが新型だなあと。
 アスカも今までと違う一体感と無限に湧き上がるような力にびっくりしていた。今まで、こんな動きもATフィールドもしたことがない。
 ピー!と警告を発っして、めぐるましくカウントが減っていた残存電力カウンターは全ての数字が”8”となる。

「そ、そんな電源まで・・・いったいどうなっているの!?」
 とりあえずコレが弐号機の力と信じてるシンジは、周囲をチェックする。
「いた!12時の方向に使徒を確認!アスカちゃん!」
「ねえ、シンジ!弐号機が変なの!」      
 もはや使徒のことも忘れ、パニック状態のアスカ。長年連れ添った機体が突如異状な状態におちいったのだから無理もない。
「今はそれより使徒を倒さなきゃ!」
 ぎゅっとアスカを抱きかかえる。
 シンジの真剣な瞳に加え、自分を力強く包む暖かい感触。
 混乱の極みにあったアスカは天国状態にシフトチェンジ。うっとりと体をあずけ、シンジに見入る。
「いまだ!」
「うん・・・」
 ポワワン状態のアスカをよそに、重ねられた手はシンジの意思を正確に弐号機に伝える。


 戦闘は一瞬。
 護衛艦隊の人間は見た。
 海から飛び出したガギエルの真下から、輝くナイフが体を真っ二つに切り裂いていくのを。
 そして気付かなかった。
 コアと呼ばれる赤い珠から、光が弐号機に吸収されるように消えたことを。
 海を揺るがす大きな爆発の後、青い空から紅い戦士は舞い降りた。  
 呆気にとられていた軍人達がその衝撃に状況を飲み込む。
 船から湧き上がる歓声がシンジ達を包みこんだ。

「みんな喜んでるよ、アスカちゃんのおかげだって。ありがとうって!」
 言葉は通じなくても声や、足元に群れる人々の顔は輝いている。
 シンジは自分の目の前に座る少女を覗き込んだ。

 少女は思う。
 当然だ。自分が命を救ったのだから。自分のような選ばれた人間を褒め称えるのは当たり前のことだ。
 でも。

 敬礼をするもの、帽子を宙に投げるもの、手を振るもの。

 なぜこんなに嬉しいのだろう。なぜこんなにも、こんなにも胸を熱くするのだろう。
 アスカは少年を見上げる。
 シンジは嬉しそうに見つめ返す。優しく、暖かく。
 それはいつか忘れていた懐かしい誰かを思い出して。

「う、うう・・・・・くっ・・・・・・シンジ、シンジ〜〜〜!!」

 我慢できずに泣いた。
 泣かないと決めたあの日を思って。
 こんなに優しい世界を感じて。
 自分の背中を、髪をそっとなでる少年に感謝して。

 思いっきり泣いた。


「なんだよ、お嬢ちゃん達おりてこねえなあ」
「おい、誰か通信してみろよ。なんかトラブルがあったかもしれねえ」
「おう」
「ところでよ、初め見た時はおっかねえと思ったけどよお・・・」
「ああ、なんかなあ・・・」
「そういやあ、よく見ると・・・」
 軍人達は子供達を思い、そして自分達を守ったモノを見上げる。
 膝をついてる紅い機体は、どこか優しく見えた。 



 空母「おーばー・ざ・れいんぼー」

 通路をひたすら走る一組の男女。
「こらーー、加持ぃーー!!アンタいったいなにやったのよ!!」
「俺のせいじゃない!あの艦長が、のうわ!!」
 銃声と共に頭上を通過する銃弾。
「まてぇぇ!その首を神にささげてくれるうぅぅぅ!!」
「「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」」    
 おにごっこはまだ続いていた。


 <糸売>


「次回予告」
 新しい少女。新しい生活。
 それは少年に自信と自身を取り戻させる。
 そして水面下で起こる少女達の戦い。
 それは何を生むのか。
 それは少年に何をもたらすのか。
 新世紀エヴァンゲリオン、次回「新しい同居人」

 まったくの嘘ですから信じないで下さい。(^^;)


 これは以前連載を考えていた作品ですが、似たような作品を見かけ、発表を迷っているうちにお蔵行きになったものです。
 あとレイもちびっちゃくなって、シンジが面倒見ていくほのぼのとしたものを考えていました。






[Central]