終わりから始めよう

1章


「ぷろろーぐ」



作:HIRO





 暖かいぬくもりを感じ、うっすらと瞼をあける。
 優しく流れる風の音色で、桃色に染めた枝が微かに踊るその隙間。白く輝く太陽が枝枝の間から覗いている。重なる葉っぱからこぼれる鳥達の会話。
 まるでピクニックにでも来ているかのような気分だ。
「ふ・・・あ〜〜〜ああ・・・」
 思わず漏れた欠伸が、覚めかけた意識を再び闇の中へと押し戻す。

 闇は冷たい。自分はおそらく、そのことを誰よりも知っていると思う。しかし、今感じる闇はどこまでも暖かいものだった。

「そういえば・・・あの時もこうしていたっけなあ・・・」
 どこか懐かしさを感じる風をうけて、過ぎていった日々が浮かび上がる。


『おはよう・・・カイト君』

 澄み渡る青空の下、ちょっと困った笑みを浮かべて話し掛けてきた少女がいた。この舞鶴学園に入学してから三度目の春のことだった。あの時もおせっかいな幼馴染が呼びに来るまで、こうしてまどろんでいた。
 それから最初の冒険で初めての、いや二度目の決意を胸に刻んで歩き出した自分。
 過ぎ行く日々の中で迎えた再会と出会いと・・・会合の人達。

 小さな頃から共にいたお節介で泣き虫で、強く優しい幼馴染。
 眠り続ける自分を笑い、立ち上がらせた意外に熱い親友。
 自分の脳裏に沈んでいた、金色のきらめきを纏った人とエルフをあわせもつ女の子。
 どこか抜けてて、それでも人がもつ優しさを見失わないエルフの娘。  
 強く真っ直ぐで、だけど脆い寂しがりやの少女。
 そして、自分にどこまでも優しかった二人の兄妹。

 それからの日々は本当に本当に楽しかった、毎日が輝いていた。俺達はいつも笑い、少し泣いて短い時間を走っていった。だから俺達は大切なものを失わなかった。
 だからこそ俺は大事な人達を失った。
 出会った時から、触れ合う日々を選んだ時から約束されていた戦い。互いの大事なものをかけて刃を交えた俺達は、それでも出会いを否定しなかった。

『ここは私達が描き、望んでいた世界なのだな・・・』
『本当に強くなられたのですね・・・』
『さあ・・・行くがいい、己の道を信じて!』
『私は・・・幸せでした・・・』

 二人は指導していた時のように優しく笑って、俺の背中を押した。貴方の選び掴み取った道は決して間違っていないと。
 そして迎える運命の時。


 不意にこみあげたものに、右手を強く意識する。その手にあるのは一本の剣。
 なにもかもが消えていった二人が残していったもの。古代、神々が人と共にいた時代からあるという一本の刃。
 最後の戦いの後、僅かに意識を戻したその強靭な精神力で自分に託した想いの欠片。

 御神刀『富嶽』。

 それを強く握り締め、口に出す。

「甲斐那さん、刹那さん・・・俺・・・」

 瞼に浮ぶ二人の影。

「俺・・・」


 自分の中に生きていると信ずる二人に語りかける。閉じた瞼から、いつしかこぼれる雫。


 その二人は・・・







「留年しちゃったよ・・・・・・」

 スススとどこかとおおくにいってしまった。


 そう。
 いくら現実逃避しようが、冷たくのしかかる『留年』の二文字。英雄だろうが、魔王を倒した勇者だろうが、無敵の強さを持とうが、学生は学生。
 ダンジョンの奥深く時間がうつろう闇の中、過ぎていった時はすでに出席日数ぎりぎりだった俺にとどめをさした。結局、後半の授業に出席できなかった俺は・・・舞鶴学園四度目の春が決定していた。
 現実世界であれから5年。
 本来なら退学しててもおかしくない俺は、いろいろな事情が重なり再びここにいる。二度目の、三年生として・・・。

「ああ・・・今日は暖かいなあ・・・」
 優しい陽だまりの中、太陽の暖かい日差しとは別に、俺の頬には別の温かいものがるるるーと流れていくのを感じていた。



 PS.その1

 不貞寝していた俺は、今。
 さらなる答えを求めて、己の中に住むあの兄弟を捜している。

 瞼を閉じていても感じる視線の数々。
  
「ちょっと、泣いてるわよ?」
「なんか嫌な夢でもみているのかな?震えている・・・」
「まだ時間は大丈夫ですけど・・・起こしますか?」
「そうだねえ、決めてもらわなきゃいけないこともあるし」

 最後の一人の言葉に、高まる緊張の気配。
 既に殺気の域まで跳ね上がっていた俺の周りは、不自然なほど静かだ。鳥の鳴き声すらまったく聞こえない。


 カイトさんガンバ。


 静かな闇の中、刹那さんの何の助けにもならない励ましが聞こえたような気がした。

「じゃ、そーいうことだから、早く眼をおあけなさい。ば・カ・イ・ト・君♪」



 竜庭さんに感化されて始めたぱすてるSSです。
 ヒロイン未定のまま(全員?(笑))迷宮に一人取り残されたという設定で始まってます。その他細かい部分は、竜庭さんのご好意で設定をお借りしています。
 無論竜庭さんにの足元にもおよばない話ですが、少しでも楽しんでもらえたら幸いです。






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