或る夜の話:百瀬壮一の場合

                               滑稽




「じゃ、今日も頑張ろーね壮一君!!」
「お、おぅ。ま、真言美も無理すんじゃねーぞ」
「うん!」
嬉しそうだな、やっぱり。
俺はまだまだ照れてんだけどな。
く、今更ながら悪ぶっていた自分が恨めしいぜ。


呼び名がモモちゃんから壮一君に変わったのは付き合い出してからだ。
たまに百瀬君、て呼ばれた事はあったけど、いつの間にかモモちゃんの方が気に入っていたから不思議だ。
まあアイツだからなんだろうな。
気がついたらいつも気に掛けていた。
俺自身はいつもいずみさんを見ているつもりだったのに。
だからだと思う。
センパイといずみさんがくっついた事を、当然の事だって受け入れられたのは。
まあ、いずみさんの相手がゴリポンだったら絶対に納得しなかったと思うけどな。
センパイは凄え。
何が、って聞かれても上手くは答えられねえけど、とにかく凄え。
面と向かっては言えねえけど、憧れる部分は沢山あるしな。
それは俺だけじゃなかった。ゴリポンだってきっと一目以上置いていた筈だ。
センパイを好きになったのだっていずみさんだけじゃない。姉ちゃんもアネゴも、それにアイツだってセンパイに惹かれていた。
その気になったら全員落としてたんじゃねえのか、なんて考えた事もある。
結局センパイはいずみさんを選んで、いずみさんはセンパイを選んだ。
俺は思ったほど失恋、ってのを実感する事もなかったけれど、アイツは結構参っていたみたいだな。
だからかも知れねえ。
こんな関係になるまで時間がかかったのは。
俺がアイツに惚れている、って決定的に思い知らされたのは、あの夜の後。新学期になってからだった。
始業式の日にアイツから挨拶された時の俺は、きっと面白いくらいうろたえてたに違いねえ。
だけど、告白したのは学年が上がってから。
センパイへの失恋の傷が癒えたのか、測りかねていたからな。
そんな所に付け込むような真似は嫌だった。
ま、理由はそれだけじゃねえな。
…何より、姉ちゃんのあの圧力に負けたんだ。
―ねえ壮一?アタシさ、孤独を楽しむ趣味ってないの。言ってる意味、判るわよねぇ?
…つくづく女帝だよ、姉ちゃん。


「カラミティ!!」
アイツの放った術が、辺りに居た全ての光狩を薙ぎ払った。
やっぱり羨ましいな。
「終わったねぇ、壮一君!」
能力がある、ってのは。
火炎瓶やバットで誤魔化したって、どうしたって埋められない差はある。
幾ら力を込めたって、ゴリポンの威力には勝てねえし。
幾ら手数を出したって、センパイの前じゃかすりもしねえ。
アイツにしたってそうだ。腕っ節ならアイツに勝てるけど、凍夜の中じゃ吹っ飛ばされてそれで終わりだ。
…いや、ゴリポンには勝てるかもしれない。
ただ、センパイは無理だ。
不意打ちすら出来やしねえんだからな。
アネゴは「能力が火者の全てじゃない」って言っていた。
後で聞いたが、アネゴも俺と同じで能力を持っていないんだとか。
だけど、例え全く同じ、能力に関係ない状況だったとしても、センパイにだけは勝てる気がしねえ。
あのコウヤって光狩にトドメ刺した時のセンパイは、何か違ってた。
そうアネゴに言ったら、「奴は、別だ」とか何とか。
…身も蓋もねえよ、アネゴ。


センパイといずみさんは今頃どの辺りに居るんだろうか。
かまいたちを蹴り倒した時、ふとそんな事が気になった。
姉ちゃんは後輩どもの訓練の為に旧校舎の方に潜ってて、俺達とセンパイ達は神社の中、同じ頼光洞に潜ってる。
「ねえ、壮一君。先輩達今頃どの辺りに居るのかな?」
何だ。アイツも同じ事を考えていたんだな。
「さぁな?だけど俺達よりかなり先に行ってる事は確かだろ」
「そうだねぇ…。やっぱり先輩達みたいなベストカップルにはなれないね」
「はぁ!?」
ベストカップルなのは認める。あんな凄まじいカップルは世の中にはそういない。
だけど、何故それを比較するんだ?
「だって凄いじゃない!私生活でも戦いでもお互いがお互いを頼れるなんて、とても憧れちゃうカップルだよ!?」
「…まあ、それは判るけどな」
だからあの二人は規格外なんだ、っつーのに。
まあその理由は判っているんだ。
「…俺にはセンパイみたいな能力はねえからな。どうしても足手まといになっちまう。お前に護られても護ってやる事は出来ねえ」
「…」
「最初の時には偉そうに言ってたけどよ、やっぱりこうやって長く戦ってるとよく判ってくるぜ。俺がどれだけ弱いか、ってな」
「あ……」
やばい。泣きそうだ。俺を傷つけたって思ってるみたいだな。
フォローしねえと。
「だから…そうだな。センパイじゃねえけど、俺達は俺達のペースでやって行けりゃあいいんじゃねえか?」
我ながらクサイ台詞を吐いてるもんだ。
ただこれが俺の自己弁護じゃなかったらもう少しサマになるんだけどよ。
「そもそも人の付き合いなんて、比較するもんじゃねえだろ?俺達は俺達でセンパイ達に負けてない、って思えればいいだろうよ」
「壮一君!」
うぉ…っと。
抱きついてきた。
「…ゴメンね壮一君。傷つけちゃったね」
「…いや、ンな事はねえよ」
う。柔らけえ。
落ち着け。落ち着け俺。
コイツを抱いたのは一度や二度じゃねえだろう?
…う、思い出したら反応してきた。
落ち着け、落ち着くんだ俺。
こんな所でケダモノみたいにしちゃいけねえ。
こんな所で…。
「ねえ、壮一君?」
うっ!
ちょ、ちょっと待て!
この声の出し方は…!
「な、何だ?」
「ねえ。誰も見てないよ?」
「お、おぅ、そうだな?」
「ねぇ…」
う、そ、その目つきは…。
…いいのか?
「…うん」
心を読むな!姉ちゃんに似てきたぞ最近…!
「そんな事…ないもん」
だから読むな…って!
ふ、服を脱ぐな!
「いや?」
い、いや、嫌じゃない、嫌じゃないけど…。
「ね…して?」
……センパイ。俺は我慢したよな?人間の尊厳を護ったよな?

もう暴走してもいいよな!?

「真言美っ!」
「あっ…!」


…嗚呼。ヤっちまった。
うー、まさか狭間でヤるなんて…。
「ね、壮一君。…興奮したね?」
「…そだな」
否定できん…。普段より三割増しで燃えた…。
自己嫌悪しちまうぜ…。
「ね、またシようね?」
「…そだな」
…え!?
「ま、また!?」
「そ、またシようね♪」
「お、おう…」
やべえ。
癖になっちまったらどうしよう…。








後書き

どうも、滑稽です。
或る夜の話、モモ&真言美バージョンです。
これは亮&いずみバージョンの方(そちらが先なので表記はないですが)にて鏡花が話していた「狭間でシちゃった」話です(爆)
竜園投稿の中では初の二部作となりましたこの作品。…どうなんでしょう?
では、次の作品でお会いしましょう。






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