これから始まるのは、一つの未来。
祝福と御都合に支配された、平和という言葉に最も近い、明日。
平穏と言える日々は存在しない。
ここに在るのは、大津名という名の都市を覆った、とある子供達のドタバタ喜劇。
今宵語るのはその第三話。
始まりを告げるのは、ただ常にこの一言。
「それでは、良い夜を」





スラップスティック・デイズ
第三話。もしくは騒動でも可。


作:滑稽










武道場から、天文部の部室へ向かう道すがら。
「…へえ。御父さんが親父達の同期なんだ」
「うん。パパがそう言ってた」
「あ、そう言えば名前もまだ聞いてなかったな」
「あ、そうだね。私の名前は星川美麗」
「星川…?ああ!ヨク小父さんの娘さんか」
自宅で飲み会をする時には、大抵良いワインを持って現れる人だ。
飲み会に子供同伴で来る事などなかったので、繋がらなかった。
成る程、よく見れば整った顔立ちなど、良い意味で受け継いだ所が沢山ある。
ただ。
「変な人だったでしょ?」
「え、いや、ははは」
…判っているらしい。
「まあね、私もたまにパパが変な人だって思う事あるもの」
「…一度ヨク小父さんとじっくり話をしてみたくなったな」
一体どんな生活をしているのだろうか。

部室前。少々待っていて、と一言断って、美麗が先に部室に入る。
「失礼しまーす」
「ん?星川くん?」
「あ、部長」
「僕は勧誘して来いって言ったよね?それなのにどうしたのさ」
「あ、あの」
「だから勧誘されて来たんだが」
高圧的な部長の物言いに、少々納まりがつかなくなって、部室に踏み込む。
「君は?」
「羽村シン。美麗さんに誘われてね。入部する事になった」
「え!?」
驚いたのは美麗である。シンは『話を聞く』としか言ってなかったのだから、それも当然だが。
「君が誰だか知らないが。我々の活動について少しでも理解しているのかね?」
「いや、全く。だがまあ、校舎裏でこんな美人に勧誘をさせる程、腕っ節の強い奴を求めているのは確かみたいだからな」
「…ふん」
ねめつけるような目つき。少なくとも、気分のいいものではない。
「取り敢えず厄介になる。掛け持ちだから、少々幽霊部員になるかもしれないが、宜しく頼むよ」
「掛け持ち?そんな甘い気持ちで出来る程ここの天文部は甘くないんだ」
「ふむ…なら、部長御自ら試してみるか?」
「…いいだろう」
と。
「失礼しまーす!今度この部にお世話になる事になりましたー!!」
入って来たのは、嫌になるほどよく知る声。
「あん?真言葉?」
「あらシン。アンタも勧誘されたの?」
「おう」
「…真言葉?シン?」
怪訝な表情をする美麗。
「ああ、美麗さん。こいつ百瀬真言葉って言います。ご存知でしょ?」
「え、じゃあパパの後輩さん?」
「後輩?…シン!誰よこの人」
「星川美麗さん。ヨクの小父さんのお嬢さんだってさ」
「…じゃ、じゃあ星川貿易の一人娘さん、ってこの人!?」
「は?何だそれ」
「知らないの!?星川貿易って言ったら大津名が世界に誇る大財閥じゃない!!」
「ふーん」
「ふーん、じゃないわよ、もう…」
「だって美麗さんの家は美麗さんの人間性と関係ねえじゃん」
「まあ、ね」
「あ、部長さんですか?これから宜しくお願いしますね」
にこやかに一礼する真言葉。それを胡散臭く一瞥して。
「百瀬…百瀬ねえ。OBOB…あ、あった」
部長は部員名簿を見る。
「ふむ…、君は百瀬先輩のご息女なんだね?」
「はい!」
「そうか」
それだけ告げる、部長。
「で、よ部長さん。とっとと実力判定して貰えないか?」
「ふん。いいだろう。その高慢な鼻っ柱叩き折ってやろう」
それはどっちだよ、と思ったのはシンだけではないだろう。


校舎裏。
先程シンが美麗を助けた所である。
「さて…始めるか?部長さんよ」
「あー、ちょっと待ったぁ!!」
部長が答える前に、他から制止が入る。
見回すと、向こうから走ってくる三つの影。
「キララ先生?」
「おうシン!やっぱりこーなったな?」
「…判ってたなら最初のウチに止めてくれよ。つーか、部活は?」
「ん?剣道部が暇やったみたいなんで、お任せしてきた」
「…ちゃんと責任持てよ顧問…」
「あ、シン君、久しぶりー」
「あれ?いずみさん」
横に居たのは、キララと同様、彼がよく知る人物。
「シン君も天文部に入るの?」
「あ、うん。幽霊になっちゃいそうだけどね」
「それは仕方ないよ。シン君は桜水台の期待のホープだもんね」
にこにこと変わらぬ笑みを浮かべながら話しかけてくるいずみに、知らずこちらも笑顔になる。
「それでどーして山形君とシン君が立ち合う事になったのかな?」
「ああ、それは…」
「いやいや、幽霊部員になられるかもしれないとの事なので、取り敢えず彼の実力を僕が率先して判定させて頂こうかと思いまして」
「あ、そーなんだ」
こちらの発言を横から掻っ攫い、更に自分が良い人間である事をアピールする部長。
見回すと、成る程いずみ以外、キララも美麗も真言葉までもが苦い顔をしている。
(ま、いずみさんは基本的にいい人だからなあ)
疑うことなんてしないのだろう。それはいいのだが。
キララの後ろに、やはり苦い顔で立って居る少女。
「んでさ、キララ先生。…その人は?」
「矢垣しのぶ」
「ま、まあ観客の一人と思っておいてくれればええわ」
「しのぶ君?君、勧誘は」
「一人した」
指差す先には真言葉。
「まったく。無能力者の娘に生意気な男か。今年は凶作だね」
「なっ…!」
「てめえ…」
キララ達には聞こえない程度の呟き。聞こえたのはシンと真言葉と、美麗のみ。
そして。『無能者』と、シンにはそう聞こえた。
シン自身、真言葉の父壮一には実の息子のように可愛がられている。
百瀬一家は彼にとっても家族だ。
それを馬鹿にされた以上、もう黙っているつもりはない。
「星川君。彼に得物を」
「…シン君。はい」
「あ、どうも」
「「む…」」
部長と真言葉から声が漏れる。
「キララ先生」
「お?…お、おう!何や!?」
「混成でやっても…いいよな?」
底冷えするような冷たい声音で告げる、シン。
「あ、ああ。この際や。思う存分やってええで!!」
「りょーかい」
シンの怒りに満ちた視線が、部長を刺した。

「なあなあ、嬢の姉ちゃん」
「…なに?キララちゃん」
「どっちが勝つと思う?」
「シン君は二人に鍛えられていたんだよね?」
「せや」
「んー、でも、山形君も中々強いからねえ。私は山形君を推すよ」
「確かに山形は強い。でもな、世の中には上には上が居るねん」
「え?」
「どういう訳か知らんけどな。シンが怒っとるよ」
「…どうしたんだろうね?」
「さて…、でもまあ、姉ちゃんもしのぶも、よぉ見とき」
「…はい?」
「羽村亮と羽村マコトの遺伝的傑作。その天才を余す事なく知る事が出来るからな」

「じゃあ、始め―」
そう告げようとした部長の顔は、その直後に吹き飛ばされていた。
「ごっ!?」
シンの拳が、部長の顔面を殴りつけたのだ。
そして、それに反応できた者は、誰一人居なかった。
「くはっ…」
「こんなもんか」
「き…貴様っ!!」
部長の得物は斧だ。両手に持った手斧をかなりの回転で振り回すが、全く当たる気配がない。
「で?」
その要所要所の隙に拳を打ち込む。
「げっ、くそ、この!がっ!痛っ!や、やめっ…!」
制止も聞かず、かなりの速度で拳を打ち込み続ける。
部長の手が下がり、シンが打つのを止めた時には、部長の顔面は腫れ上がり、目も当てられないような状況になっていた。
「ぜひゅ…ぜひゅー…」
「さて、一つ聞きたいんだけどよ」
「な、なんでゃ」
既に呂律すらも怪しくなっている部長の顎を捕まえ、問う。
「何で美麗さんをあんな危ない所にやった?襲われるかもしれない、ってのは判っていただろうに」
「…」
視線を逸らす部長に、尚も追求する。
「どうせお前の指示なんだろ?」
「…」
「黙ってるなら、二度と人類の言語を吐けないようにしてやるが」
「わ、判った!言う、言うよ!!」
シンが部長を解放すると、部長は媚びるような目で見てきた。
言うからもう止めてくれ、とでも言いたげな。
「アイツが悪いんだ。…僕があれだけ言い寄っているのに、ずっと袖にして」
「ほう?」
「だから一計仕組んだのさ。一回犯っちまって、それをネタにゆすればさ。金持ちの、しかも顔のいい女を存分に楽しめるだろ?」
つくづく性根の腐った男だ。
「弱味さえ握ってしまえば後はどうにだって出来るんだ!な?判るだろ!?僕が悪いんじゃない!僕を無視し続けたコイツが悪いんだ!!」
「…サイッテェ」
真言葉の言葉がこっちにまで聞こえてくる。
「一々気に障る野郎だ。…まあいい」
と、苦い顔から一転厳しい顔をしているギャラリーの方を向き、
「判決は?」
と、一言。
「退学&女として拳10発」
「拳40発」
「美麗さんは?」
「…社会復帰できない位」
「おっけ。退学は先生達に任せるとして」
「任せておいて!仲間もきっちり処分するわ!!」
燃えているいずみ。怒りの形相がこの中では一番苛烈だ。
「んじゃ、そう言う訳でだ」
「殺すなや、シン。こんなのの命よりお前の人生の方が千倍大事なんやで」
「おーけーおーけー。取り敢えず死なない程度に彼岸の辺りを観光して来い!!」
「ひ、やめ―」

天文部部長、山形馨一。
全治半年の重傷、ならびに桜水台学園退学処分。

ずたぼろになった部長を放置して、彼らが去ろうとした所。
「待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇっ!!」
怒涛の勢いで駆けて来た巨体が、その前に立ちはだかった。
「今度は何だよ…」
「ありゃ?ホノオやんか」
「あ、キ、キララ先生!?何でこんなトコに」
「あー、うん。なんつーか、野次馬や」
「そうですか。…おい!そこの!!」
と、指差す先にはやはりシン。
「…今日は厄日か。…ナニか用?」
「貴様だな!?今朝方公衆の面前にてキララ先生の名誉を貶めた大罪人は!?」
「…はぁ!?」
「聞けば空手部の新入部員だと言うではないか!例えキララ先生や他の部員を篭絡する事が出来たとしても、このオレ!空手部副部長の新開ホノオが許っ、さぁぁぁぁぁん!!」
「あのな、俺はキララ先生とは―」
「問答無用ーっ!!」
ドン!とかなりの勢いで踏み切ると。
「シンカイ・ドラマティック&ダイナミック・キィィィィィック!!」
ミサイルのようなドロップキックがシンを襲った。
「うぉ!!」
シンが避けると、そのままホノオは滑空して行き。
ズドォン!!と爆音を立てて校舎裏の樹木に突き刺さった。
ぐらぐらと、木が揺れる。
「なんつー非常識な…」
「く…、やるな。まさか親父直伝の技を避けるとは」
「やかましい。大体それのどこが空手だ」
「ふ。オレは元々プロレス志向だ!!」
「あれ?この学校にプロレス研なんてあったっけ?」
ふるふると、首を振る一同。
「あー、プロレス研がない所にキララ先生の格好良さを見て篭絡されて空手部か」
「そう!そして同時に天文部の部員でもあるぞ!」
「げっ!同輩かよ」
「おしゃべりはここまでだ!とぉ!!」
今度は一転、鋭い回し蹴りがシンを襲う。
「おお…っと!」
それを避け様カウンターで拳を叩き込むが、ホノオは微動だにしない。
「げっ」
「中々の威力だが温い温い!」
今度はラリアット。
避けて、一旦間合いを外す。
「これでも破壊力には自信があったんだけどな」
「はははははは!無駄無駄無駄ぁっ!」
「黙れ、っつーの」
何度となく拳を打ち込むが、それでも動じる気配はない。少々ショックだ。
ならば。
一気に間合いを開く。
「逃げる気か?逃がさんぞ!!」
と、再び凄まじい踏み切りでの跳躍。
「必殺!S・D・D・K!」
今度は短縮したらしい。
だが凄まじい速度で、揃えた足がシンに向かって飛んでくる。
「殺法・流水」
ほんのわずかだけ身を反らし、そしてその片足を持つ。
「うぉ!?」
後ろに向けられる凄まじい勢いを殺さずに、いなす。
自然、シンを中心にくるくると回転する構図が出来上がった。
「必殺、シンカイ(を)トルネード・スイング!!」
ぽい。
「うおおおおおおおっ!!」
投げ捨てた先は、先程の樹木。
ドシン!!と音を立て、盛大に揺れる。
「略してS・T・Sだな」
「く…いてて」
だが、ホノオは呻き声を上げながらも立ち上がった。頭から盛大に流血していたが、至って平気そうだ。
「なんつータフさだよおい…」
「これ程の実力を持っていたとは…見事だ!だが!オレも負ける訳にはいかんのだああああっ!!」
渾身の力を込めた咆哮。
ならば、応える。
それが、礼儀だ。
「烈障拳…」
呟いて、構える。
左半身を前に出し、右半身を後ろに反らす。
腰を落とし、左手は軽く突き出し、右腕はだらんと力なく落とす。
だが、右拳にだけは力を強く強く込めていく。
「アカン!シン!それは止めぇっ!!」
キララの制止が聞こえる。だが。
「おぉぉぉぉっ!!」
「七式―冥府―!!」
ドン。
シンの右拳が、突進して来たホノオの左肩を強く打った。
「がぅ!!」
もんどりうって、倒れるホノオ。
「ううううう…」
右腕で打たれた部位を押さえて、呻いている。
「シン!お前、なんちゅう技使うねん!!」
激昂するキララ。
「心配しなくても加減したって。それに、心臓なんか打つ訳ないだろ?」
「ん?」
ホノオが押さえているのは左腕だ。
「明日一日筋肉痛が残る程度。後遺症も残らないよ」
「そか…そんならええわな」
「ったく…。悪いけど今日はもう俺は帰るよ」
と、疲れたように呟いて、歩き出すシン。
「え?」
絶句していたギャラリーが復活した。
「ったく、厄日だ厄日」
「あ、ちょ、ちょっと待ってよシン!」
「え、あ、ええっ!?わ、私もっ!!」
慌てて追いかけてくる、真言葉と美麗。
「先生方、後は任せたよー」
「…判っとるわい!!」
キララの声に手を振って応えながら、シンは校舎裏から足早に去って行った。

これが、羽村シンの桜水台学園高校入学式の日の顛末である。


第四話。もしくは敵視でも可。
               に続く










後書き
どうも、滑稽です。
これで基本的なメインキャラは殆ど出た事になります。顔見せ篇、一応の終了ですね。
一応メインとなるオリジナルキャラの名前と、親について書いておきますと、
羽村シン(羽村亮、マコト(=旧姓祁答院)夫妻の一人息子)
百瀬真言葉(百瀬壮一、真言美(=旧姓三輪坂)夫妻の長女)
星川美麗(星川翼、瑞希夫妻の一人娘)
新開ホノオ(新開健人、レナ夫妻の長男(詳しくは新天地。もしくは出会いでも可。を参照してください))
石動縁(完全オリジナル)
となります。
今後オリキャラが増えるかどうかは判りませんが、ちょこちょこ親達もストーリーに関わってくる事になるでしょう。
楽しみにして下されば幸いです。
それでは、次回の作品でお会いしましょう。






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