これから始まるのは、一つの未来。 祝福と御都合に支配された、平和という言葉に最も近い、明日。 平穏と言える日々は存在しない。 ここに在るのは、大津名という名の都市を覆った、とある子供達のドタバタ喜劇。 今宵語るのはその第十五話。 始まりを告げるのは、ただ常にこの一言。 「それでは、良い夜を」 スラップスティック・デイズ 第十五話。もしくは策謀でも可。 滑稽 これは天文部が試験によって活動を停滞させていた頃。 つまり、少し時間が前後することになるが。 「さて。俺達の目的はアクイの居場所を探る事だ。頼むぜ、鏡花」 「任せておきなさいって」 子供達だけに任せておけるほど、事態は簡単ではないらしい。 取り敢えず、ある程度は後ろから援護をしてやらなければと思う。 少なくともアクイはコウヤより性急だ。 特に目的が非常に断定的だから始末が悪い。 「ねえ先輩。アクイの居場所って言っても、あれだけの数じゃ特定出来ないんじゃないですか?」 「…探すのはある程度能力の高いアクイだ。コウヤやハイジと似た、ある程度自我の固まっている奴だと言ってもいい」 真言美に答えるのはマコト。 「嬢もキララも居ないが、それでも余程の事でもなければ大丈夫だろう」 現在ここに居るメンバーは、亮、マコト、鏡花、健人、翼、真言美、壮一の七人だ。 これにキララといずみの教師二人が含まれた時に、大津名の火者のレギュラーメンバーが揃う事になる。 亮達の後輩達を呼ぶと言う手もあるのだが、コウヤと戦った頃のメンバーに近い能力のある者、現在火者の活動が出来る程生活に余裕のある者、と区分けていくと結局このメンバーに落ち着くのだ。 「それじゃ、俺とマコト、新開さんと星川と鏡花、真言美ちゃんとモモの組み合わせで回ろう。見かけたら携帯で連絡を取る事。いいね?」 「おう」 「心配要らないよ。新開は暴走しないようにボクがちゃーんと見ておくから」 「俺は猪かなんかか!」 「違うのかい?」 「い、い、か、ら、い、く、わ、よ!?」 「壮一さん、頑張ろうね!」 「おう。あまり無理するなよ?」 「うん。大丈夫」 「よし、んじゃセンパイ。先行くぜ」 それぞれが違う方向へ歩いていく。 「さて。行こうか、マコト」 「…はい」 腕を組んで歩き出す二人。 …この二人だけは、どうも深夜のデートという雰囲気が抜けていないようだ。 「…お前が山形馨一か?」 「…何だ、アンタ」 「聞いているのは私だ」 「…そうだ」 「羽村シンに復讐したいか?」 「…!!アンタ…、何でソレを!!」 「したいのか?したくないのか」 「したいね。…奴と星川に地獄を見せてやりたい」 「ならばお前に力をやろう」 「…アンタ一体何者だ?」 「誰でもいいさ。お前と同じ目的を持つ者、とでも言えばいいかな」 「同じ?」 「お前は求めた。私はお前に与えよう」 「!?」 「憎悪と破壊と破滅の化身を!」 「…皆考える事は一緒か」 「だな」 二時間ほど経って。 元天文部の面々は、示し合わせたように一箇所に集結した。 即ち、かつてコウヤと呼ばれる光狩が根城としていた洋館である。 「どうする?」 「…入ってみよう。確認する価値はある筈だ」 亮を先頭に、建物へと入る。 と。 そこはやはりと言うか案の定と言うか。 狭間が展開されていた。 「ビンゴ!」 「まださ。もしかしたら罠かもしれない」 「ち…、お前はどうしてこう人の」 「しっ!」 マコトが口論を遮った。 突如空中に老人が現れたのだ。 「来たか…火者ども…」 「貴様は?」 「我が名は…夜訃羅…」 「貴様が黒幕か?」 「否…。我等が…盟主…覇芭鬼…は…ここには…無い…」 「ふむ。なら何故こんな所に狭間を作った?」 亮の問いに、老人はとても楽しそうに口許を歪めた。 「…戯れ…よ…」 「ほう?」 「…貴様等…ならば…我等を…探す…上で…必ず…ここに…来る。…それは…判って…いた…」 「成る程。俺達はまんまとお前の策にはまった、って事だな?」 「然り…。先ずは…貴様等の…力を…測らせて…貰おう…」 と、突如現れるアクイの群れ。 「ふん。この程度で俺達をどうにか出来ると思っているのか」 「何年経っても馬鹿だねぇ…」 翼のツッコミ。 「何ぃ!?」 「私達の力を測るって言ってたでしょ?」 鏡花も容赦ない。 「つまりこの後真打が現れる、って事ですねぇ?」 「気をつけろよ、真言美」 「来るぞ!!」 まさに雲霞の如く、アクイの群れが飛び掛ってきた。 「あ、あああああ…?」 頭の中を、何かが這い回る。 「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 何かが書き換えられていく感覚。 「俺は誰だ?おれはだれだ?オレハダレダ?チガウハイジマチガウチガウチガウチガウチガウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!」 大事なものが壊れていく。 残されているのはその残滓。 「オレハヤマガタケイイチダ…ハイジマナンカジャナイ…」 ささやかな抵抗も、磨り減り、消えた。 「く…」 そして、残ったのは。 「くく…くくくくくくく…」 笑い声を上げる、山形馨一であったもの。 「そう、俺ハ…。ハムラを憎み、恨み、嫉み、その全テを奪ウ為に在ル」 その目は暗く濁り、既に正気を保っていない。 「待ってやがレ、羽村ぁ…。俺サマがテメえらの大事なものヲ一つずツ壊シて行ってヤるからナぁ?」 そこに在るのは、狂気によって生み出された一つのアクイだった。 「Yah,Yafura!中々楽しそうなPartyじゃないか!?」 「…Kid…か」 山のように襲い来るアクイの大群。 それを半ば排除しつくした頃、ふと子供の辺りに響いた。 「あれ?Hunter君は居ないのかい?」 老人の横に現れたのは、少年。 「…ガキ?」 「見た目に騙されるなよ新開さん。…あれは強いぜ?」 「ああ、判ってるさ」 「ではボクも参加させてもらおうかな」 「好きに…しろ」 「Thanks♪Heyheyhey everyone!!My name is K.i.d!Killing-insane-drunker,Kid!Nice to meet you♪」 「『殺人狂」とでも訳せばいいのかい?」 「何とでも呼んでくれていいよ?じゃ、始め―」 Kidが喋りきる前に、Kidは縦一文字の真っ二つに斬り割られた。 「口上が長い」 背後から剣を振り抜いた、亮。 「…ほう…?人間の…割に…容赦が…ない」 「だねぇ。ボクもびっくりだよ♪」 「!?」 真っ二つになった筈のKidの声に、全員が体を強張らせる。 「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!」 むくりと起き上がった二つの肉塊が、まるで巻き戻しのように再生していく。 「ち…、こいつも規格外か」 健人の言葉。 「も?」 「ああ。この前ちょっとな…」 「話は後だよ新開、亮!!」 「判ってる」 みちり、と。 最後にひどく嫌な音をさせて、最後の再生を終わらせるKid。 「いいね、楽しいね!!Ah、でもボクはHunter君と先約があるから、これ以上すり減らす訳にはいかないんだ」 「…すり減らす?…!…成る程、ね」 鏡花が眼光鋭く何事か呟いていたが、それを聞きとがめた者は誰一人居なかった。 「悪いねYafura!ボクはここでGood-byeするよ!!」 そう言い様、狭間から掻き消えるKid。 「…相も…変わらず…勝手な…奴だ…」 少しだけ愉快そうに夜訃羅は呟いた。 「うっしゃ!残りはテメェだけだ!!」 と、夜訃羅に詰め寄る壮一。 壮一のバットが夜訃羅の体を叩いた瞬間。 「ふ…」 バットは手応えなく空を切り、夜訃羅はまるで意に介す様子もなくそこに浮いていた。 「…幻影?」 「…どうかしら。アイツそのものから思考が流れてきてるのよね…」 「おいおい、それじゃなんで手応えがないんだよ!?」 鏡花の言に噛み付く壮一。 「判らないわ。アイツ…その事だけは巧妙に思考を操作してる」 「ち…」 「ふん。実体が希薄な光狩やアクイなど珍しくもない」 少しだけ弱気を見せた壮一を叱咤するマコト。 と、夜訃羅は今度こそその老いた顔に良く判る笑みを貼り付け、こう告げてきた。 「…貴様等の…強さ…、しかと…理解…した」 「この程度で判ったつもりになられては困るんだけどね」 翼の言。だが夜訃羅は表情を変える事なくこう告げた。 「並の…同胞では…貴様等には…勝てん。それが…判った…だけでも…収穫よ…」 夜訃羅の姿が揺らぎ始める。どうやらこのまま消えるつもりらしい。 「お前達にシンを殺させはしない。その前に俺達の手でお前達を滅ぼす。覚悟しておくがいいさ」 「無駄…だ。既に…種は…蒔かれている…」 「何?」 「…羽村…シンを…殺す…。その為の…術を…選ぶような…愚は…犯さん…」 「まあ、勝手に策を講じればいい」 「…何?」 先ほど亮が言ったのと同じ言葉を吐く夜訃羅。 「シンは俺の息子だ。お前等の姑息な姦計に手もなく嵌まるほどお人好しでも惰弱でもない」 「…ならば…その時に…絶望し…後悔するが…いい…」 今度こそその姿を消す、夜訃羅。 同時に狭間も消え、廃墟と化した洋館へとその様相を戻す。 「亮?」 狭間が消えてからも、険しい目で虚空を見詰める夫に心配そうな声をかけるマコト。 「…ああ、マコト。帰ろう。ここにはもう何もない」 その声に、亮は表情を普段のものへ戻してからそちらを向いた。 だが、視線を交わらせたマコトは一人察していた。 大事なものを傷つけようとする夜訃羅への、明確な殺意を抱いた亮の眼光に。 第十六話。もしくは誘拐でも可。 に続く 後書き ども、滑稽です。 親父達の影がどうも薄かったので、いっそ若手をみんな欠席させてみました。 次回はちゃんとシン君達が出ますので、お許しください>< その分次回からはまた微妙に親父達の影が薄くなってしまいますが。 …両方を上手に立たせるのは今の僕の実力では無理です…。御容赦を。 では、次の作品でお会いしましょう。 |
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