これは、一つの未来への道程の一つ。 祝福と御都合に支配された、平和な日常に繋がる、幾重かの道。 今宵語るのは、その内の一つ。 始まりを告げるのは、ただ常にこの一言。 「それでは、良い夜を」 スラップスティック・デイズ プレストーリーVol.1 回想。もしくは家族愛でも可。 滑稽 ―なあ、姉ちゃん誰や? ―私の名はマコト。祁答院マコトだ。お前の母方の遠縁にあたる。 ―ふーん、そうなんか。それで?ママはどうしてん? ―急な仕事が入ったそうでな。私にお前を預けて行ったんだ。…覚えていないか? ―あ、そか。せやったな。悪かったな姉ちゃん。 ―いや、構わない。 ―何や、無愛想やなぁ。 「…コト、マコト…」 「ん?…んぅ…」 優しく体を揺すられ、目を覚ます。 声の主は確認するまでもない。私の最愛の男であり、夫だ。 「…もう朝ですか?」 「ああ。おはよう、マコト」 普段の私は亮とほぼ同時刻に目を覚ます。 今とて朝六時半。普通の大学生にしてみれば、充分早い時間だ。 とは言え、普段の起床が五時前だから、遅いと言えば遅いのだが。 亮も昨夜と同じ格好でベッドの中、きっと今しがた起きたのだろう。 …それにしても、懐かしい夢を見たものだ。 「…どうしたんだ?」 「夢を、見ました。…昔の夢です」 「昔、って事は、俺に会う前かい?」 「ええ。キララと会った頃の、キララと暮らした頃の夢です」 「そう言えばその頃の話は聞いた事がなかったな」 「同じような事の繰り返しでしたよ。指令を受けて、光狩を狩る。各地を転々として、変わり映えのしない毎日でした」 「それでもいいさ。覚えている事、話してくれないか?」 彼は最近投稿した小説で賞を取り、新進気鋭の小説家として認知され始めている。 こう言った事が何か役に立つのであれば、話すのもいいかもしれない。 両親には、反対された。 自分のした事は正しい事なのだから、何も気に病む事はないと。 それは同情であり罪悪感でしかないのだから、決して上手く行く筈がない、と。 果ては、家族を知らない娘が天涯孤独の子供に家族を与えられる訳がない、とまで。 自分達の事は棚に上げて、とくらいは言ってやりたかったが、祁答院の家名や能力の有無に拘るような人達だ。どうせ通じないと諦めた。 だが、だからこそなのかもしれない。 私が当時キララを引き取ると言ったのは、彼女に対する罪悪感や同情などより。 多分私は心の底で求めていたのだと思う。 温もりを与えてくれる「家族」を。 ―なぁ、マコトぉ。 ―何だ? ―マコトの仕事、なんて言うたっけ?カシャやっけ。 ―そうだ。 ―ウチも今から努力したらなれるかなぁ? ―なれる…かもしれないな。 ―ホント!? ―だが、あまり勧めないぞ。 ―なして? ―悲しいからさ。 ある日、キララが聞いてきた問い。 私は、キララが火者を志す事を快くは思わなかった。 挙句、思ってもみずに「悲しいから」と理由を答えてしまった。 当然だ。 どんな苦しみを味わうか。 どんな虚脱を感じるか。 それが判っていたからだ。 キララには問い返された。 「何故悲しいのにそんな仕事を続けているのか」と。 その時の私は答えなかった。否、答えられなかった。 だが、私は判っていたのだ。 背を預ける者が居ない事。待っていてくれる者が居ない事。それはとても孤独で、悲しい事なのだという事を。 ただ、認めていなかっただけで。 ―な、なんやマコトその怪我は!? ―心配ない。少し梃子摺っただけだ。ちゃんと血止めはしてある。 ―心配ない事あるか!! ―キララ? ―ほら、傷見せぇ!!…アカン、ほんまに応急処置しかしとらんやんか!!ったく…、少しは体の事も考えて仕事せなアカンやろ!? ―あ、ああ、済まん…。 ―えーと、包帯包帯、っと…。 ある日。光狩との戦闘に梃子摺った私は、怪我をして帰った。 キララに本気で怒鳴られたのはあれが最初だった。 不器用な手つきで巻いてくれた包帯が嬉しくて、少しだけ涙腺が緩んだのをよく覚えている。 思えば、あの日から私達は「家族」となれた。 そんな気がする。 ―何や?今度はどこ行くんや? ―ああ、東北だ。 ―東北かぁ…、どんな食いもんが美味いんやろな? ―…済まんな。 ―?何の話や? ―…いや、何でもないんだ。 ―変なマコトやな。 宿を引き払って次の町へ行く時。 決まってキララは明るかった。 この町で出来た友人とも別れなければならない。 悲しくない訳がないのだ。 だがキララは笑う。 私に必要以上の心配をかけない為に。 いつかキララが一所に落ち着いて生活を営める日が来るのだろうか。 いつからか、私の中ではそんな考えが渦巻いていた。 「共に暮らすようになって幾年か、そんな生活が続きました。そして私は大津名に派遣され―」 「俺達と出会った、か」 感慨深げな亮。 頷き、続ける。 「貴方は私に、先に進む勇気を呉れました。だからきっと、私達はここで幸せに暮らせているのだと思います」 「大袈裟だよ」 そう呟くと、照れて顔を背ける。 何となくその様子が可笑しくて、可愛らしくて。 私は後ろから夫に抱きついた。 「マコトォ…。ウチ…」 泣くキララ。 「あ、マコト!!あのなあのな…?」 笑うキララ。 「…ふん。マコトなんかもぉ知らん」 拗ねるキララ。 「マァコトォーーーッ!?」 怒るキララ。 思えば、火者となって大津名に来るまでの私の思い出の、その殆どにキララが居た。 不思議なものだ。 血の繋がる肉親である『祁答院』の者には殆ど「家族」を感じないのに、キララや亮にはとても濃い「家族」の絆を感じる。 それはとても大きな安らぎだ。 一度知っては、手放せない程の。 「この子も…」 と、そっと下腹を撫でた。 「生まれ、育ち、慈しみ、傷つき、大事な人を見つけ、その人と「家族」を紡ぎ、そして安らかに生きていくのですね…」 「そうだな…」 何もない天井を、二人、仰ぐ。 もうすぐ生まれてくるこの子に、私は母としてどれだけの愛情を注いでやれるだろう。 昔、キララを引き取った時に両親から言われた言葉が頭を過ぎる。 不安。 と。 見透かしたのか、亮は私の肩を抱いてこう言ってくれた。 「だからこそ、精一杯愛してやろう。この子が、俺とお前との子供で在る事を誇る事が出来るくらいに」 「…ええ」 不安が解けていくのが判る。 うん、大丈夫だ。 亮が居れば。 私は何も不安になる事はない。 何も恐れる必要はないのだ。 ―兄ちゃーん!!朝飯まだー!? 妹の声が聞こえた。 苦笑しながら起き上がる亮。 「さ、行こうか?」 差し出される手。 私はその手を― 「ええ」 しっかりと掴んだ。 Fin or to be continued to ssd… 後書き ども、滑稽です。 これは表題通りSSDの主人公であるシンの誕生直前の頃、マコトの回想と独白についての作品なのです…が。 微妙に回想が弱い気がしてならないような、練りきれていないような。 賛否あるとは思いますが、御容赦くださいませ。 取り敢えず。 今作を、とても大事な友人でもあるRO仲間、月球儀さんにキリ番記念作品として捧げます。 それでは、また次回の作品でお会いしましょう。 |
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