これから始まるのは、一つの未来。
祝福と御都合に支配された、平和という言葉に最も近い、明日。
平穏と言える日々は存在しない。
ここに在るのは、大津名という名の都市を覆った、とある子供達のドタバタ喜劇。
今宵語るのはその第二十二話。
始まりを告げるのは、ただ常にこの一言。
「それでは、良い夜を」





  スラップスティック・デイズ
            第二十二話。もしくは激闘でも可。


                               
滑稽





「こ、この曲は…」
「魔王。皆様方の間ではゲーテの作品を元にシューベルト氏が作曲されたものがよく知られているとは存じますが…」
と、真言葉の腕が更に苛烈に動く。
「私めは同じ題材でレーヴェ氏の作曲された作品が好みでして」
ぞわぞわと、真言葉の背後に何かが現れる。
「まあ、元々オペラとして存在しましたのを私めが編曲させていただいているのですが…ね」
それが徐々に形を為し―
「では、ご堪能あれ」
まさに世に言う魔王の姿となった。
振り抜かれる腕。
「きゃっ!?」
「キュイ!?」
美麗とイーちゃんが、跳ね飛ばされる。
「じ…実体!?」
「これこそが『音霊』の能力の極みで御座います。演じなさい真言葉。思う様に」
生き生きと動き出す魔王。
「ちぃ!?」
腕を振り回すだけだが、その威力は確かに凄まじい。
「無事?美麗さん」
「ええ、有難う。…イーちゃん?」
「キュイッ!!」
二人とも問題はないらしい。
「さ…て。どうしたらいいかしら」
「真言葉さんを奴がどうやって操っているか…だけど」
「糸がカモフラージュかもしれない、って事?」
「ええ。…兄は背中から取り憑かれてましたから」
「…取り敢えず斬り落としましょう。現状ヒントになるのはあの糸だけだし」
「イーちゃんっ!!ファング・オブ・スラッシュ!!」
と、美麗が間髪入れずにイーちゃんに指示を出し、
「キュイ!!」
飛び込んだイーちゃんの真空の刃が、真言葉の顔付近の糸を切り刻んだ。
「っ…」
がくん、と力の抜けたような真言葉の顔。
「やっぱり!!」
喜色を浮かべる二人。
「ええ、それは確かに正解で御座います。ですが」
刹那、マリオン・メイカーの糸が、突然爆ぜた。
「あああああああっ!!」
「な!?」
「ええ、刺さっておりますこの糸は私と離れると炸裂する仕様になっているのですよ」
にっこりと微笑む似非紳士。
「乙女の柔肌に傷をつけるのは、同じ乙女としてどうかと存じますが」
「つくづく…卑劣なっ…!!」
同じ男を想うライバルとして、いや同じ女性として。
彼女達には手出しする事が出来なかった。


「はぁぁぁっ!!」
アクロバティックに身を翻す壮一。
―天空跳び膝蹴り。
相手の体を踏み台にして大きく跳躍し、落下の勢いと体重を加味したものを一点、即ち膝に乗せて叩き込む。
初めて健人を叩き伏せた必殺技だ。
とまれ、膝の一撃で猿人の頭蓋やら急所やらを粉砕していく壮一だ。
しかもその勢いを借りて反動とし、地上に降りもせずに次の猿人に蹴りを浴びせる。
呆れた平衡感覚だが、それでも数は一向に減らない。
わらわらと群がってくる目を血走らせた猿人の数々。
その目的は言うまでもなく真言美への陵辱だろう。
それを一体一体真言美に触れさせる前に粉砕する壮一。
だが、壮一のその破壊行為もなお、あくまで前座に過ぎないのだ。
「此に産まれしは姿無き獣」
轟々、と真言美の手元に何かが現れる。
「喰らいしモノ、飲み干せしモノ。貪欲なりし墓穴よ…開け」
真言美の紡ぐ言霊がその『何か』に意味を与えていく。
「汝らの餌なるは蒼き夜の獣。吸い尽くし、食い尽くせ」
直後、壮一が着地した。最早彼の役目は終わったからだ。
そして―
「ドリームイーター!!」
ぐばぁん、と。
真言美の手元にあった『何か』が広がった。
凄まじいほどの勢いで風が吹き荒び。
―げぇっふ。
何か、満腹になったような音が響いた。
「な…!?」
「おお、すげえ」
そこからは、生存死亡の区別なく、全ての猿人が消え失せていた。
「さて、残りは貴女だけよね」
「あれに呑み込まれなかった、ってのは予想外だったけどな」
「く…」
と、媚濡裡が一瞬たじろぐ。
「殺った!」
その瞬間を見逃さなかったのは健人である。
その体格からは考えられない瞬発力で媚濡裡の後ろに回ると、その体を一気に羽交い絞めにした。
「これでこの前みたいに動く事は出来るまい!ホシッ!!」
「君にしてはいい選択だよ新開っ!!」
媚濡裡の眉間を狙い、斜め下から刃を突き出す翼。
新開も首を捻り、間違っても射線に入らないように工夫している。
「甘いわねぇ?」
が、やはり媚濡裡の体が掻き消えた。
「くっ…!」
空を切るサン・テグジュペリ。
その至近に現れる、媚濡裡。
「うふふ…」
「…くそ!またかっ!!」
「これじゃあ私は殺せないわよ?」
艶っぽく笑う媚濡裡に、壮一が冷ややかな声を上げた。
「…群れだ」
「!?」
驚愕したのは、誰あろう媚濡裡。
「極微細なアクイの集合体。奴等を意のままに操ったのも恐らくその一部を取り込ませたからだろ」
「む…?」
「掴まれたら結合を解けばいい。分離と合体を繰り返せる体質ってのも不思議だけどよ?相手はアクイだ。常識じゃ測れねぇ」
「な、何故…」
壮一は能力者の素養を持たない。そういう話を仕入れていたのだろう。
「何故かって?…真言美の術で背丈が変わったからな」
「まさか…!?一センチも変わっていないのにっ!」
その壮一に見破られた驚愕の所為か、暗にそれを認めたような発言をした事にも気付いていないようだ。
小さく吹き出す壮一に、自分の失策を悟る媚濡裡。
「くっ…無能力者の分際で!!」
「けっ。…能力がない俺が生き残る為には、観察力をつけるしかなかったんだ」
走り出す壮一。その手には一本の瓶が。
「そらよ」
おもむろに栓を開けると、その中身を思い切り媚濡裡に浴びせかけた。
「っ!?」
水のようだが、それにしてはてらついている。
媚濡裡も流石にこれ以上地金を晒すのは気がひけたのか、それを正面から受けた。
「…酸…?ではない…。これは…?」
独特の臭気。だが酸や毒の類ではないらしい。
「ローションの一種だ。燃え易いんで火炎瓶の材料に使ってたんだがよ」
「これが、どうしたのかしら?」
だが、それは言うまでもない事だろう。
真言美は既に詠唱を始めている。
「微細とは言っても、気体じゃあないなら。その微細なお体ごと吹っ飛んでくれ」
「ナパームっ!!」
真言美が炎の言霊を発動させる。
「ち!!」
反射的に分離し、掻き消える媚濡裡。だが。
炎が飛んだのは媚濡裡を逸れた、明後日の方向だった。
「予測しての先撃ちかしら?残念でした♪」
と、媚濡裡が三度現れる。
「そうでもない」
「負け惜しみね。結局あなたは無意味に液体をばら撒いただけ」
「ところでよ。一つ教えてくれや」
「何かしら?」
「お前達の細胞は、分離する毎に全く同じ場所に固着するのか?」
「いいえ。流石にそこまでは出来ないわね。…ま、それが判ったからどうした?って感じだけど」
「いや、それで安心した。ゴリポン」
「む?」
突然話を振られ、驚く健人。
壮一は媚濡裡に背を向け、真言美の方へ歩き出す。
その際の、一言。
「殴っても大丈夫、もう当たるぜ」
「!…うおおおおおおっ!!」
壮一の言葉を一瞬で理解した健人は、再びその瞬発力で媚濡裡の懐に飛び込んだ。
「はったりを…」
そう呟いて分離しようとした媚濡裡の鳩尾に、
ズドォン!!
だがミサイルでも直撃したかのような音を立てて、めり込む健人の拳。
「成る程。分離さえしなければこいつは一体で本体か」
「げぶ…!?」
くの字に折れたその体を、一気に放り投げる健人。
「…ホシ!今度はしくるなよっ!!」
「ああ!!」
ゆっくりと落下運動に入る媚濡裡。
それに追い縋るように、翼は。
「うおっしゃああああ!!」
健人の体を踏み台にして大きく跳んだ。
「い、いや…」
「サン・テグジュペリの突きを食らえぇぇぇぇぇっ!!」
ハリネズミとでも言えばいいだろうか。
無数の刺突が媚濡裡の体を穴だらけにする。
「星の王子様…なんてね?」
眉間に最後の一撃を突き込んで、翼はふわりと微笑んだ。
下降する間に少しずつ分解し、蒼い塵と散って行く媚濡裡。
翼が着地したのと同時に、最後の塊が塵となって消えた。
凍夜が終わる。
「終わった…んですね」
「…ああ。お前のお陰だ、モモ」
「け。背筋が痒くなるぜ」
健人の賛辞に、照れて顔を背ける壮一。
「まあ何が起きたのか、って種明かしもして欲しいところだけど。今は鏡花の所に急ごう」
「ああ、そうだな」
頷きあう四人。そしてそのまま彼等は走りだした。


当の七荻探偵事務所ビルでは、巨大なアクイを三人の火者が圧倒していた。
だが。
「四十八翼よ、流星となれ!!」
いかに最大威力の攻撃を繰り出しても、そのあまりの大きさの所為で、思った以上に傷が浅くなってしまっている。
「…明らかに時間稼ぎね」
「嬢の繕いの能力、鏡花の覚り…。連中から見れば厄介極まりない能力だからな」
「しゃらくさいわね」
「まったくだ」
向こうの攻撃は先程から一発たりとも当たっていない。
余りにもあざとい向こうの目的に気分が悪くなる。
「臥待!!」
いずみが大きくアクイの腕を切り裂くが、その刃の長さでは肉をある程度削る事しか出来なかった。
「…く」
「闇雲に攻めても埒が明かないな。鏡花。ヤツの弱点はわかるか?」
「判るけど…どうするの?」
マコトはコートの内に手を突っ込んだ。
その意識が流れる方向を察して、鏡花が叫ぶ。
「マコト!それは駄目よ!」
「何がだ」
「だってそれ―」
青い顔をする鏡花の横で、マコトは手馴れた動きで『それ』を組み立てていく。
「切り札は土壇場で切るものだ」
「でも…!!」
その間も効かない攻撃を繰り広げていたいずみだが、こちらの騒ぎを察すると、間合いを外して戻って来た。
「マコト…それって!?」
「切り札だ」
表情を全く崩さず、組み立てた『それ』を右手に装着する。
「…いいの?マコト」
いずみが問う。
「ああ。奴を討ってシンを助けに行く」
「…わかったわ。奴の急所は心臓の下。鳩尾と心臓を線で結んだ中央辺りよ」
難しい顔で、鏡花もまた情報を伝える。
一つだけありがたい点を挙げるなら、大アクイがあくまで人型だった事だろうか。
「了解した」
マコトは大アクイに向かって走り出した。
「ヴォオオオオオオオオオオオ!!」
振り抜かれるその腕に飛び乗り、その勢いが0になった瞬間を見逃さずにその腕を駆け上る。
大アクイがもう一度腕を振り回そうとした時には、既にマコトはその肩の上。
そして追撃より速く、
「はっ」
気合とともに空に舞うと、
「凄雷穿っ!!」
その胸元に雷穿甲を叩きつけた。
起きたのは、圧倒的な大爆発。
その爆発はマコトの体とほぼ同じ程度の爆炎を放ち。
「ガ…ガァ…」
大アクイの上半身を大きく抉っていた。
真っ黒な煙が立ち上る。
「今だ!!」
落下しながらも、凛とした声。
その声に、鏡花が覚悟を決めて叫ぶ。
「百翼よ―」
チロの翼から払われた羽毛が無数の微細な光の塊となり―
「綺羅星となれっ!!」
その傷口に撃ち込まれた。
「まだ…っ!?」
「もう少しだ!!」
アクイの直ぐ側で傷口を見上げるマコトの声が飛ぶ。
「はぁーっ!!」
ばさ、と黒いマントをはためかせ、いずみが天を舞う。
「叢雲…!!」
露出した、青く輝く球体。
そのど真ん中を、界離の一閃が一気に斬り裂いた。
「ヴォ…オオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「夜に還りなさい…」
ふわ、と降り立ついずみの言葉に呼応したかのように、大アクイの体が崩れていく。
それと同時に狭間も崩壊し、普段通りの夜景が戻った。
「…よし、シンを探しに行こう」
立ち上がったマコトは、平然とそう告げた。
二人の返答を待たずに歩き出し、二人の横をさっと通り抜けようと―
「待ちなさい、マコト」
した所で、いずみが彼女を呼び止めた。
「何だ、嬢」
「見せなさい」
「…何をだ?」
「コートで隠してる右手!見せなさい!!」
がっ、と。
マコトの右腕をこちらに向けさせるいずみ。
「つ…」
少しだけ、表情を曇らせるマコト。
「…やっぱり、ね」
「ひどい…」
流血は、然程なかった。
だが、そこから漂ってくる焦げた臭気は、つまり腕の何割かが炭化している事を示していた。
あれだけの破壊効果をもたらしたのだ。衝撃だけで済むとは思っていなかったが、まさかこれ程だったとは。
「何で隠すのっ!!」
繕いの力をひたすらに高めながら、いずみは怒号を上げた。
「…済まない」
「謝らないで!!」
「…ああ」
「シンの事が大事なのは判るけど。シンが生還したって、アンタの腕が砕けたなんて聞いたら悲しむだけよ」
横合いから、鏡花。
「とにかく。普通の火傷程度に回復するまではここから動くのは認めないわよ」
「大丈夫だ、このくらい…!」
と、立ち上がろうとするマコトの眉根が寄った。
「駄目だって言ってるでしょう!子供みたいな事しないで!!」
「…」
「どっちにしろ今はヨク達を待たなきゃならないわ。判って、マコト」
「…ああ」
顔を伏せるマコトの表情は判らなかったが。
鏡花はマコトが歯を軋らせる音を確かに聞いた。


「ちいいっ…!向こうも拙いか!!」
「落ち着けホノオ!まずはこの化け物どもをどうにかしなければっ…!!」
「くっそ…!!」
呻くホノオと、言いながらも焦りを隠せないしのぶ。
「キララ流星パーンチ!!」
「げふー♪」
ミディと死闘を繰り広げているのはキララだ。
その間、二人は周囲に沸いた人形達の駆逐を担当していた。
「ええい、鬱陶しい!!」
「はっはっはっはっは!僕を殺すのは大変だよぉ?」
「こっのーーーーーっ!!」
ミディは避けない。
ただ攻撃を受け、壊れ、復元するのみだ。
その際にも攻撃を繰り出して来るのだから、始末に負えない。
「ちぃぃ!!」
だが。
「これで、どないやぁぁっ!!」
ぐしゃあっ!!
「はっはっは!無駄だよ、オバサン」
そんな言葉を漏らしながらの八度目の全壊を見届けたキララの元に、ホノオとしのぶが走ってきた。
「先生!大丈夫ですか!?」
「うちは大丈夫や。…お前達は?」
「どうってことありません。動きが鈍いからこちらの被害は少ないですから」
「それより先生がっ!!」
「ウチか?」
二人が心配する様子に、キララはふっ、と笑みを漏らした。
「心配してくれたんかぁ。嬉しいなぁ」
せやけどな、と前置きして。
「こんな出来損ないのアクイ如き、次は二度と復帰でけんように叩き潰したるわ」
「へぇ?剛毅だねぇ」
ミディが復元を済ませ、へらへらと笑う。
「あかんで、実際」
こきこき、と関節を鳴らしながら、キララも笑う。
「お前はウチに壊されすぎた」
「なんだと?」
「お前の本体は極微小なアクイの塊。ほいでそん体はマリオン・メイカー謹製の人形やな?」
「へぇ」
「復元のスピードも大したもんやったけど、ほんの少しだけ復元を急いだ所があったけんな」
「お見事」
いとも簡単に、アクイはそれを認めた。
「で、その塊とやらは見つかったのかい?」
「見つからんな。ウチには見切れん程ホントにちっさいんやろ」
少なくとも、正体がばれた割にはへらへらとしている。
という事は、判ったからといって直ぐに死ぬとは思っていないのだろう。
「せ、先生?」
「お前を殺すんやったら、ウチの姉貴か百瀬のねーちゃん、亮兄ちゃんやナルシーあたりが適任や」
「ほう?」
「せやけど、ウチかてお前を殺す方法はあるねんぞ」
刹那。その姿が掻き消えた。
「殺法・御影!!」
現れたのはミディの背後。
「良く見とき、二人とも!!」
大地を強く踏みしめ、
「能力の有無が火者の強さを形作る訳やないっ!!」
ごぎん、と。
ひどく鈍い音。
「烈障拳・一式―鬼穿―!」
左貫手による刺突が、ミディの両肩口を一瞬で貫き。
「二式―竜尾―!」
鞭のようにしならせた右の蹴りがミディの両脚をへし折る。
「三式―虎屠―!」
首を右腕で包んで極め、左肘でミディの頭蓋を打つ。
「四式―砕転―!」
そして首を抱え、受身を取らせないように投げ落とす。
砕いた箇所が砕けて跳ね飛ぶ。
「五式―割槍―!」
まるで一点を貫くかのような踵落しが、残った体を粉々に打ち砕く。
「六式…」
右の手を大きく開き、観察する目付きでその部品を見遣るキララが―
「そこやぁ!―破衝―!!」
僅かな動きを見逃さなかったキララの掌打が、その部品を強く打った。
が。
「惜しいね♪」
ミディは再び復元を果たした。
「残念だったね。少し気をつければ少しくらい復元の順序をずらすのは造作もないんだよ?」
「さよか…」
ふう、と大きく息をつくキララ。
それを諦観と見たミディは、嫌な笑みを浮かべてこう告げた。
「これで君の手も打ち止めだろ?楽しかったけど…そろそろ死んでもらうよ」
「せやろな。ろくに手出しをせんかったのは、こっちの足掻くんを見て楽しみたかったからやと…思っとったわ」
「その通りさ。君にはもう飽きた。あとは君の教え子の二人に…!?」
と、ミディの言葉が止んだ。
「な…何をした!?」
「お前のはあくまで『復元』であって再生ではない、ちゅう事や」
びきびき、と。
「どれだけ粉微塵にしてもまったく同じ要素に『復元』しよる。つまり…」
ミディの体が軋み、少しずつ破砕していく。
「あ…ああああ…」
「そこに毒を混ぜりゃあ、復元した後に全部行き渡る」
六回も繰り返したのは破壊によるカムフラージュも含めたからだ。
「烈障拳。これは拳や脚による単なる破壊とはちゃう。振動によって全身へと破壊効果を浸透させる技なんや」
突然その周囲が破砕すれば、その部位を切り捨てる可能性もあったからだ。
「気付かんかったやろ?せやから効果が本体に行き渡るまで判らんかった筈や」
「ぐ…ああっ!!」
ぼろぼろと体を壊しながら、転げまわるミディに冷たい視線を注ぐ。
「最早何したかて無駄や。お前の本体は烈障拳の毒に完全に侵されとるわ」
「ぁああぁぁぁああぁ…!!」
「殺法『烈障拳』―黄泉路巡り―。迷わず逝きや」
最期の抵抗は、キララに抱きつこうとする動き。
だが、それすらも届く事無く―
「…お見事です、先生」
アクイ・ミディは微塵の粉と崩れて消えた。
「次や」
その視線は、未だ数多く蠢く人形の群れへ。
「先生。ここはあの二人と合流してあちらを先に打倒するべきだと思いますが」
と、しのぶが自分の考えを告げるが、キララは首を横に振った。
「…ええか?ウチらがここを棄てたら結局こいつらは縁達を襲う」
「はい」
「雑魚百体と大将格一匹。分けとるからこそまだ戦端は壊れとらんねん。一緒やったら一気に押し潰されてまうわ」
「…はい」
「ウチかてあっちが心配や。せやから―」
再び御影で人形達の中央に到達すると、
「とっととこいつら駆逐するでぇ!ついて来いや!ホノオ!しのぶっ!!」
「「はいっ!!」」


第二十三話。もしくは決着でも可。
                に続く









後書き
ども、滑稽です。
これにてアクイの半分が駆逐されました。
残るはヒロインズの相手するアクイ『マリオン・メイカー』。
亮が相手をしているアクイの参謀『夜訃羅』。
そしてシンと激闘を繰り広げているアクイの盟主『覇芭鬼』。
次回にはこれも終結し、その次には第一部も完結します。
いい加減に決着をつけないと『スラップスティック』の名が泣いてしまいますので。
では、また次回。






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