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2003年5月25日

「このまま、土左衛門になるのか・・・」
オレは一瞬覚悟を決めた
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おれは、今日、あまりにも暇なので、昼から、気になってる沢の探検に行くことにした。本流の右岸側に差してる沢で、地図上でしか確認してない。なにせ、その沢に行く道が無いのである。本流から川通しで下って確かめるしかない。

様子を見るだけなので、ザックも必要無かったが、ザックが無いと何かしっくりこない。カメラと遅い昼飯を入れて、去年、友人達とキャンプした地点から本流を左岸目指して渡渉した。川幅は30M程あるが一番深いところでも、膝ほどである。注意すれば、なんて事はない。目指す沢の出会いはここから、下流500m程下である。途中の深場や、急流を眺めながら、本流の左岸を歩いて行く。河原が無くなったところで、浅い流れを見極めて、今度は右岸側に渡渉する。                    
辿り着いた沢は予想以上に細かった。がっかりである。地図上では、流程は長そうだったのだが・・・。まあ、兎に角、行ってみれば楽園があるかもしれない。ということで、進んだが、流れは、この時期にしては、寂しい位細く、おそらく夏には枯れてしまうのではと、思うほどだった。
昔の姿を想像しつつ、イワナの棲めそうなところでは無いのを確認し沢を下る。
まあ、いいや、気になって事が一つ解消されたワケだから。

沢の出会いに戻り、また、来た道を戻る。渡渉点に辿り着き、難なく、左岸に渉る。暫く歩いて、キャンプ地が見えた。なにやら、河原で複数の人影が見える。どうやら、夕方のバーベキューをやりにきた家族らしい。ここから、オレの運命が弄ばれることになる・・・

<雪解け頃の本流、今は、ここまでの水量はないが・・・>
<運命のダダダダーン! その1>
ここで、シャイなオレは、迷ってしまった。オレがキャンプ地から渡渉してきた地点は、まさしく、あの家族がバーベキューの準備をしているところである。あそこしか、浅い所は無いのである。しかし、あの家族の真ん前に姿を現すことをためらってしまった。というか、万が一、コケたら、どうしようもなくカッコわりぃと、不安になったのである。(苦笑)

<運命のダダダダーン! その2>
オレが今いる場所は、流れが丁度左にカーブするところで、カーブしたところは、当然、深い。そのアタマで渉れば良いと判断した。もし、深ければ、引き返して、ハジを忍んで、あの家族の前に現れよう。

そうして、30Mの未知の渡渉に踏み切った。最初から、膝ほどの深さだったが、今のオレにはどおってことない。しかし、そのまま進むと、膝上になってしまった。

基本的に、膝上の渡渉はしないことにしてるのだが、既に、2/3を渉っていた。そして、急に深くなり、股下までになったとき、はっきり言って「ヤバイ、戻ろうか?」と考えた。立っているのやっとである。しかし、右岸まであと、5Mのところだった。2,3M先には底石が見えた。オレは、本能に逆らって、(且つ、”7割の教え”にも逆らって!)渉る決心をした。自分を過信したのである・・・・。

<運命のダダダダーン! その3>
次の一歩を踏み出した瞬間、バランスを崩し、流れに飲み込まれてしまった。それでも、その瞬間は「やっちまったぜ、泳いじゃった(苦笑)」ぐらいの気持だった。

しかし、体勢を立て直そうにも、何ともならないのである。緩い流れと思ったが、流されて、初めて極めて早い流れだった事を実感する。次の瞬間、オレは青くなった。偶然にも体が垂直になったのだが、足が川底に達しないのである。

自慢では無いが、泳ぎは「後楽園スイミングスクール中級」脱会の腕前である。つまりプールで25M泳ぐのがやっとの人間だ。

足がつかないと、パニックなのである。必死で岸壁に取り付こうと思うも、触ったと思った瞬間、遠くに流されているのである。手足をバタバタさせながら、木の枝めがけて、手を伸ばすも、かするだけ。そして、流れはもがくオレをからかうように、岸壁から遠ざけた。

<運命のダダダダーン! その4>
波にもまれながら、はっきり、死を覚悟した。無駄にもがくの止めた。
「このまま、土左衛門になるのか・・・オレ、死ぬのかな?きっとこうやって、みんな、死ぬんだよな・・こんなんで、死ぬのかよ!!やだなぁ・・・死にたくねぇなぁ!」

しかし、ふと、我に返った。なんで、オレ浮いてるの?泳げないのに???
そう、ザックが浮き袋代わりになっていたのである。

<運命のダダダダーン! その5>
安物ザック故、肩ベルトしかない。それが幸いした。胴で固定するベルトは無い。つまり、オレの後ろで、肩だけを持ち上げるように、浮いていたのである。そして、中身が何も無いことも幸いした。もし、胴で固定するベルトがあり、それを締めていたら、オレは、うつぶせになり、とっくに土左衛門になってたはずだ。

それに、気が付き、オレは正気を取り戻した。
「このまま、流れに任せれば、さっき渉った浅瀬に着く。その時まで我慢だ!」
ザックは、別に防水では無いが、この流れなら、あと数秒もすれば、渡渉した地点に流れつくはずだ。足を下流に向け、事態に備えた。予想通り、流れは緩くなり、無事立ち上がる事ができた。

流された所から、200M程下流である。あっという間であったが、意識の中では、何時間も経った様な気がする。兎に角、ザックのおかげで、九死に一生を得たと言っても、過言では無いだろう。

また、左岸側に渉り、何事も無かった様に200M歩いていく。そして、バーベキューの親子がオレに気が付いた。どうやら、オレが泳いだことは知らなかった様だ。内心、もしかして一部始終を見ていて、パトやら、救急車が来てたらどうしようかと思ったが(苦笑)


オレは、帰りの車の中から、この本流が注ぐダム湖で、遊んでいるウォーターバイクやら、ウインドセーラー達を眺めながら、もしかしたら、あいつらが、オレの亡骸を見つけるはずだったのかもな・・・と、一人苦笑いした。
家に帰ってから、命を救ってくれたザックをきれいにしてあげたのは、言うまでも無いことである。

兎に角、過信は禁物だ。例え、浅瀬に辿り着いたとしても、下手すれば、そのままごろごろと転がされ、すぐ次の深場へ流されていたはずである。そして、その先、急流になっていることも知っている。ザックも次第に浸水し・・・そう考えると、今思い出してもぞっとする。

初めて、死の恐怖を味わったこの体験を生涯忘れる事は無いだろう。

(完)