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2006年 6月18日 猿ヶ石川支流

いつもの事だが、のんびり8時に家を出た。目指すは遠野、猿ヶ石水系上流の沢。2時間かけて懐かしい車止めに辿り着いた。もう10時だというのに、辺りは暗闇の世界だった。霧が光りを遮っていたのである。車を降りると、少し生暖かい霧が半袖の腕にまとわりつく。寒くは無いが、少し鳥肌が立つ。物の怪、魑魅魍魎が現れそうな気配に少し気後れしながらも、支度を始める。いつもは清々しく聞こえる鳥たちのさえずりも、今日ばかりは不気味に響く。

久しぶりで訪れた沢に降り立つと、以前と変わらぬ風景があった。ただ、違ったのは、沢の下流部でも岩魚を見かけたことだ。型は小さいが、泳ぐ姿がはっきりと見える。此処には数年通っていたが、こんな光景は初めてだ。

6寸前後と小さかったが、とにかく釣れる。あの薄気味悪さを忘れて、ひたすら竿を振った。餌切れを心配する程だった。この沢は一体どうなってしまったのだろう?ふと前後を見るとやはり、霧に包まれ、自分の周りしか見えない。タイムスリップしてしまったかのような感覚に襲われる。

沢の中に白い物が見えた。何だろう?近づいていくと、血の気が引いた。沢に沈んでいた白い物は、頭骨と背骨だけの白骨だった。頭骨の大きさからすると、子供ぐらいだった。最近、岩手の沢で亡くなった方の話が記憶に新しいだけに、どきりとした。そして、この気味悪い霧の暗闇の中での事である。パニックになりそうだった。勇気を出して、白骨を拾い上げようかと思ったが、何となく、拾い上げた瞬間に頭骨がこちらを向いて、襲って来そうな恐怖を覚え、ためらってしまった。

でも、よく見ると、頭骨に小さな角がある。なんだ、鹿の骨か・・・びっくりさせやがって・・・

霧も晴れ始め、沢は明るくなった。この沢はゴーロで、大きな石や岩が沢の中にも点在する。その大石の一つが黄色い飾りを付けていた。

なんだろう?

石のコケに根を生やした蝦夷蒲公英である。日本中を占領している西洋タンポポとは、色合いも形も違う、日本古来の蒲公英。此処には何度も訪れているはずなのに初めて見た。

すくっとのびた茎にしっかりと花を守る萼がある。強そうなその姿とは裏腹に、里では滅多に見かけなくなってしまった。

蒲公英との出会いを境に、霧はすっかり消えた。以前は竿を出さずに通り過ぎた淵に辿り着く。如何にもというところなのだが、いつもチビしかいないので、スルーポイントにしていた。しかし、今日は違った。型物が悠々と泳いでいた。
この沢は太古に戻ったのだろうか?チビしかいなかった処で、7寸クラスが釣れる。ということは、これから先の本命ポイントでは、尺も期待できるかもしれない!サイズも徐々に上がり、期待は膨らむ。そして、ついに強い引きが!今までで一番の引きだった。慎重に竿を操り、もう少しで魚が見えると言うところで、急に竿が軽くなった。目印がゆっくりと風にたなびく。しまった!バレたか!ん?目印が落ちて行く?何故だ?穂先に目をやると、穂先が無い!折れてしまったのだ。2M程先に折れた穂先が落ちていた。拾って糸をたぐると、岩魚はついていた。8寸程だった。おまえが竿を折る器か?(笑)それでも今日の釣りでは最大だ。これから本命ポイントに向かうというのに、ついてない。竿をよく見ると穂先が折れたのではなく、2番の継ぎ目で折れていた。穂先に貧乏簡単補修を施し、折れた2番に差し込んでみる。なんとか使えそうだ。
気を取り直して、いよいよ本命ポイントへ向かう。これから、8寸、9寸、尺、と上流に行く程、型が上がるはずだ。相変わらず岩魚は見えている。しかし・・・何かおかしい。見えるのだが、餌を入れると逃げてしまう。さっきまでは、何の疑いもなく食いついてきたのに・・・。なんの事はない。核心部から、前日のものと思われる足跡があちこちぺたりぺたり・・・。まあ、仕方がない。足跡が無くなる処まで行くか。
しかし、足跡はどこまでも続いていた。気がついたときには、もう1時を回っていた。腹が減ったのを我慢して、先へ進むが、足跡は消えない。もう、釣りは無理だな。お湯を沸かし、カップラーメンで昼飯とした。ラーメンをすすりながら、2週間前の新潟を思い出していた。ここも、簡単に来れるところじゃなきゃなぁ・・・。でも、そうすると、オレが来れないか(苦笑)

一服終え、沢を下り始めた。トレーニングのつもりで、休憩は少な目にし、汗をかく位のスピードで降りる。残り1/3程のところで、また、霧が立ちこめてきた。朧に見える水面には岩魚の姿があった。普通、帰りには姿を消しているはずなのに・・・霧に塗れた緑は怪しげな色合いだった。足下を注意しながら駆け下りる。そんな中でずっと気に掛かる事があった。誰かが見てるような気がしてならなかったのである。ふと対岸を見ると、一瞬足がすくんだ。2匹の緑色した猿がこちらを見ていた。だらしがなく仰向けになった猿と木の間から笑ってる猿。数秒して誰もいない沢で苦笑してしまった。

なんてオレは肝っ玉が小さいんだ!

正体は苔むした木の根だった。

まあ、猿ヶ石だから、猿ヶ木があってもおかしくはないか。

車止めに戻ると来たときと同じ霧の暗闇。

今日の不思議な出来事を思い出した。霧に包まれた沢は恐ろしかったが楽しかった。岩魚の姿も、白骨も、そして蝦夷蒲公英も・・・霧が晴れると現実の世界へ引き戻された。そして帰りでの緑猿・・・きっと此処は・・・

霧幻の森なのかもしれない。