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山遊雑記 |
職人釣り師の話 「監督さん、釣りすんのけ?」 「ええ、まぁ・・・」 2002年の夏の事だった。オレは、現場の移動で自分の車に頑固そうな職人さんを乗せた時の事だった。仕事上の立場はオレが上だが、一回りも上の歳の方だ。オレの車のダッシュボードにふざけて貼った『元祖イワナ師』のステッカーを見て声をかけたらしい。 「フライが?」 「いえ。餌釣りっすけど・・・」 オレが餌釣りと知って、安心したのか、なめらかに語りだした。 「うん、おれはよ〜、どうも毛針ってのが好きになれねぇんだよなぁ。毛針っつうのは、偽モンだべ?魚釣る事には変わりはねぇけどよ、やっぱり毛針は好きになれねぇんだよなぁ」 「・・・ハァ・・・」 オレはこの職人さんの言ってる意味を把握しきれず、曖昧に返事をするしかなかった。 「なんぼ釣る事に変わりはねぇったってよ〜、喰った瞬間、『あっ!偽物だ!』って魚だって思うと想うんだよな。最後に偽物でだまされて釣られて往生したんじゃ、なんぼ魚だってかわいそうじゃねぇか?その点、餌ならよう、そりゃ、釣る事にはかわりねぇけどよ、なんぼか、餌をよう、くちゅくちゅって喰って、味わってから往生するんだからよ、・・・なんとなくそんな気がすんだよなぁ。最後にうめぇもんに食い付いて、それで往生するなら諦めもつくんじゃねぇがなぁ。オレの勝手な考えだけどよ。はっはっは!」 今時は、毛鉤だろうが餌釣りだろうが、リリースが当たり前で往生させる事は少ないと言おうと思ったが止めた。往生云々じゃなくて、この人は釣りに関して、己の哲学を持っていると感じたからだ。それ以上に人生経験に基づくしっかりとした価値観、人生観があり、釣りとシンクロさせて、オレに話しているような気さえした。 |