治療の開始
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●解離性同一性障害の医原性創出あるいは医原性悪化 →→この障害の治療を始めた治療者がもっとも一般的に抱く懸念。 患者の交代人格を認知し 直接働きかけることによって解離性同一性障害を 医原性に創り出すのではないか。解離過程を悪化させる可能性はないのか。という疑問です。 通常、この疑問が現れるのは ■初めて交代人格に正面切って出会った後 ■交代人格たちが患者の人生に深く関わってきていて、 また今後も同じ役割を務めていくと「治療者」が充分に知る以前 ■治療者は他の診断名で、すでに患者を治療していたのに交代人格には全然会った事がなかった場合 である。 最初の交代人格の出会いから 数回のセッションのうちに10以上の交代人格を発見することもある。 ?交代人格はどこから来たのか? ?解離性同一性障害と診断を下したことと、患者の「被暗示性」がどういう役割を果たして こういう一見「新たな」交代人格たちが創り出されたのか? 治療者が以上のような疑問を持つのも もっともな事だと言われています。 臨床家なら別の診断名で患者を治療していても、患者の内部に生じた 気分・知覚・行動の激しい変化に気づいている。 典型的な場合、こういう急激な変化は「分裂(splitting)」などのボーダーライン力動によるものとされ はっきり、それと分かる 交代人格の顕在化は起こらない。 ところが解離性同一性障害と診断した後になると、交代人格が明瞭になり、 以前には現れていなかった 主人格との差異を主張するようになる。 以上のようなことが起こると 交代人格を医原性に誘発したのではないか?という懸念が増大する。 診断後に交代人格の分化が明瞭になることは 二つの相補的な過程によって説明できるようです。 1:交代人格が「存在を公表」して、主人格のふりをしなくなることによって真実を語る場が出来るから。 解離性同一性障害の診断は 多くの場合、解離性同一性障害者にとっては解放で、
(特に交代人格は)生き方として偽装や隠蔽を実行してきたからだと言われます。 そして 交代人格の中には主人格からの分離を強く望み始めます。 2:交代人格の違いを、治療者が「見分ける」ことが可能になってくるから。 解離性同一性障害を治療することになると その結果 治療者が患者を見る見方が変わる。
「新しい」交代人格(今まで区別することなく出会っていたものを含む)の急激な出現や 交代人格が結晶化して独立した存在となることは 大抵の治療者に 「交代人格を医原的に誘発したのは自分ではないか」という考えを抱かせる原因となる。 けれど そういった疑問も 交代人格と治療者の間でのコンタクトが進み 交代人格がその人格独自の歴史をもっていることなどを知っていけば 無意味なものだと分かってくるものであると言われます。 治療初期にはかけ出しの臨床家さんたちのほとんどがそう思い悩むとのこと。 |