■数年前■

*共倒れ*

私が歩む道を 壁が遮る時
私は ナイフを持って その壁を照らすから
邪魔をしないで 手を差し伸べないで
私は都合なんて良くない人間
食い尽くされるまえに 食い尽くすような女だから。


*粘土細工*

塊を積み上げて ちいさく千切って使いやすいようにして
色も沿えて 思い通りに細工する

あなたみたいね
私みたいね

許し合えるなら この手 洗って
染み付いたヨゴレを どうか引き剥がして。


*夏の来る前*

雨が 太陽
雲に薄明かり ささやいて
私は 少し汗ばむ両手を
光に翳す

唇が痛い
どうしてだろ
目の前には
いつもの道

忘れもしない
あの6月の日

あの日もこの道を
今よりもたどたどしく
歩いていたね…。


*松葉杖*

良いように利用する 頭をまわして どうすれば労わってもらえるか
考え抜いて そうやって生きてきた
それが 賢いことなんだと 思ってた
自分が 優しくされて 満たされるんだと信じてたから。

怪我をすると いじめっ子の男の子が 少し優しかったんだ
先生も ママも トモダチも みんな
「大丈夫?」
「うん 大丈夫」
ちょっぴりの優越感 バカね そんなもの。

私はいつも 怪我をして 病気でいなきゃならなくなった
リハビリも カウンセリングもないまま
どこかで 病んでれば。
虐げられるよりも 奇異の目のほうが マシだと
感じてしまった 幼心

手から離せなくなった松葉杖をついて
本当の病気が見えてきた今日になって
自分の愚かさに やっと
初めて
気がついた。

遅かったのカナ…。


*ボストンクーラー*

目を醒ます 檸檬の声がする
起きて 起きて 早くおいで。

薄明かり すべてが綺麗に見える色の灯り

目を もっと見開いて
足を引きずってでも 歩く そこへと向かうから
一雫 残しておいて。


*指揮者*

いつでもリズムをもぎ取って 果実をかじる 演奏者
あなたはいつでも 見守って
果実を 育てる ちいさな指揮者。


*Rain peep me*

足音じゃないよ 安心しなさい。
足跡もないよ ここまでは 来やしないから。
シトシトシト 音が昂ぶる 眠りが夢を呼ぶ
悪意 殺意 憎悪のなれの果てに 雨が笑う
私も笑う どこで笑う? この部屋の隅々 白い壁。
追いかけて来ないで
もう見ないで
いやよ もう その手はいやだ
雨は目 その手 そのヒゲ その髪 腰もお腹も 心臓の音も
想い出す。
私は今日も 見られてるんだ。


*ペーパーカッター*

なにしてるの?

そんなものじゃ

きれないものが多いよ。

届いた便りが あるいは黒なら

ちゃんとしたカッター

買ってあげるね。


*20*

躊躇い 届かない 止まることもない 消えることもない
あと いくつ寝れば 私は大人になるだろう

若かった なんて言ったって笑われるょ
若いんだからって 頑張れば たしなめられるょ

もう ね

20回も躊躇ったんだ

ううん

もっともっと 躊躇ったんだ

だから 育っていかなくちゃならない
腕に 残しても 意味なんて無いよ

次の春が来て
私は21の数字に 安堵したい。


*DEAD CAN DANCE*

手をつないで 輪を描いて
誰一人いない草原で 私は踊る
雛鳥の飢えた声を 雲間からの飛沫を 木漏れ日の憂いを
いつまでも 煮えたぎる この生溢れる片手に
死の残り香を。

踊りなさい 死を称え
悪魔が降り立つならば 剣を取り
自らの喉を突き刺すか
敵の心臓を切り裂くか
決めなくちゃならないのだから。

せめて 軽快な音楽を。
大声で歌を歌いましょう
琥珀色の美酒を 振りまきながら

いつまでも くだらない栄光に縋らずに
すべて忘れて灰になるまで 明日に抗えばいい。


*パレオ*

鮮やかな太陽が咲く
やわらかな 時を織りながら
キスをありがとう
花弁がすべて枯れ落ちるまでに
どれだけの愛が伝わるか 試してみるわ。


*BIRD CHERRY*

幼い心 さくらんぼ
うずくまり目を閉じて お祈り。
夕焼けの色 甘く香る。

あんなにも
強く願った憎しみの果てが
消えてしまうのなら
今日
ボクは大人になるよ。

誰にも守られないと誓うよ

だからお願い
最後の祈りを聞いて
どうか その子供を勝ち誇らせてあげて。


*漂白剤*

真っ白に染めて 真っ白 真っ白
フワフワ羽根の色
真っ白 真っ白 初雪の色
無理よ

一度汚れたものは
二度と白には還らない。

漂白剤を使って
死ぬだけよ。


*ナルキッソスの水仙*

幸せだね

私もあなたのように
美しかったなら。

私はニンフ
水鏡のあなたに嫉妬して
閉じ込めた。

世界よ
もっと もっと美しくなぁれ

この花さえ私の手にあれば
何も心配などいらないヮ


*ブーゲンビリア*

今年も季節がやってきたね
この街はね 蔦も這わない愚かな街よ?
ちいさな鉢植えの
ちいさな紅を見ると
触れてしまいたくなるの。

「大好きな貴方に」

情熱の裏に隠された
ささやかな意味を
知っていて。


*台風と散歩道*

雨が踊り狂う道を
ただ歩いてた10歳の頃
道行く人に
訝しげな目で見られても
ただ歩いてた

傘も差さず
風の音を聴いて
丸め込まれそうな力に
そのまま
散歩道を行く。

辿り着きたかったのは
その目。
いつだって…。






2002年6月の日記より抜粋+Sea-la