入内の日程も決まり、玉鬘物語もこれで決着かと思いきや、玉鬘の周辺に意外な展開があり、物語は新たな局面を迎えます。
なんと黒髭大将が強引に玉鬘をものにしてしまいます。
掌中の珠を奪われた源氏のショックは大変なもの。親子の対面をさせた内大臣にも合わせる顔もありません。

それにしても、髭黒大将という男、家柄はいいものの、名前で想像する限り、無骨で決して美男子ではないと思いますが、なんでいくつかの選択肢のなかから、黒髭だったのでしょうか・・・。
  • 「藤袴」・・・玉鬘の真相を知った、夕霧と柏木のとまどい
  • 「真木柱」・・・髭黒大将と玉鬘の結婚。髭黒と北の方そして娘「真木柱」との別れ


ふじばかま

尚侍としての出仕を前に、玉鬘は思案にくれています。
入内したとしても、宮中で姉の弘徽殿女御や源氏の娘分の秋好中宮との関係を思うと・・・・。まして養父の源氏も実父の内大臣も、心置きなく相談できるという人ではない。なにかと苦労の絶えない日々を送ることになるのではないだろうか、と。
いまいち気がすすみません。
玉鬘と兄妹でないと知った夕霧は、あらためて彼女に心を動かします。
ある日、源氏の使者として玉鬘を訪れた夕霧は、持ってきた蘭の花に託して我が想いを切々と訴えます。(巻名の藤袴は、この蘭の名をとったもの)
一方柏木も、玉鬘が実の妹と知ってとまどっています。
そして、求婚者の一人髭黒大将は、内大臣に玉鬘をものにしようと強く働きかけています。
人それぞれ、心をめぐらす中で、玉鬘の入内の準備はどんどん進められ、その日程が10月に決まりました。
求婚者たちは、その前にものにしようと、あせりはじめ、思い思いの歌を寄せています。
その歌に、玉鬘は蛍兵部卿宮にだけ返歌を与えるのです。

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まきばしら

はたして玉鬘の行方は・・・。
そのまますんなり尚侍として入内するのか、玉鬘からの返歌をもらった蛍兵部卿宮か、内大臣の後ろ盾を得る黒髭大将か、はてまた相変わらず中年の恋と分別のはざまでゆれている源氏が動き出すか・・・。
ところが、この巻では、すでに玉鬘は黒髭大将の手に落ちています。それも前後情景描写は一切ありません。「えっ」と驚いて、どこか読みそこねたかと、前の巻を読み返すほどです。

源氏物語には、このような飛躍する部分や、かんじんなシーンの描写がぬけている部分がところどころあります。
このあたりが源氏物語を難解にしているところかも知れませんが、あるいは、作者がわざと穴をあけ、どうぞご自由に想像してくださいという作戦なのか。
(田辺聖子訳の新源氏物語では、この髭黒大将が玉鬘をものにしたシーンを興味深くふくらませて埋めています。)
というわけで、髭黒大将が玉鬘を手中にしました。
心外な、宿世の悲しさをかみしめる玉鬘ですが、当の髭黒大将のよろこびはたとえようもないほどです。
一方源氏は、事の成り行きに困惑しながらも、仕方なくこの結婚をみとめます。髭黒大将から再三働きかけられていた内大臣は、内心ほっとしています。
冷泉帝も、玉鬘を入内させたかったため口惜しがりましたが、玉鬘は後宮への入内ではないので、予定通り尚侍として参内することになりました。
髭黒大将は、彼女の出仕には反対でしたが、源氏から引き離すチャンスと思って承知し、邸を改築して、新しい妻を迎える準備にとりかかっていました。
しかし、髭黒にはれっきとした妻がいるのです。その妻(北の方)は、式部卿宮の長女で、紫の上とは異母姉にあたります。
美しい人ですが、近年物の怪に煩い、病み疲れていました。
髭黒と玉鬘の一件を知った式部卿宮は、怒って北の方を自邸に引取ろうとします。髭黒は病妻をあわれと思い、妻を説得しようとしますが、心の隔たりは深まるばかりです。
ある雪の夜、玉鬘のもとへ出掛ける夫の世話をしていた北の方は、突然錯乱し、薫物の灰を夫に浴びせかけます。
破局は決定的でした。平静をとりもどした北の方は、嘆きながら里の式部卿宮のもとに帰ろうと決心します。
髭黒の娘「真木柱」も、母と共に泣く泣く去っていきました。
この事件は、源氏と式部卿宮家との確執となり、玉鬘を悩ませます。
新年になりました。玉鬘の参内は、源氏、内大臣、髭黒大将の後見により、盛大に行われました。
その後も、蛍兵部卿宮は密かに恋文を送り、冷泉帝も玉鬘に心を寄せていて、髭黒は心の休まるひまがありません。
ついにその不安を抑えきれず、強引に玉鬘を自邸に連れ帰ってしまいました。
髭黒の邸の北の方となった玉鬘は、髭黒の子供たちからも慕われ、やがて髭黒との間に男児が誕生、髭黒の念願はかなうのでした。

玉鬘は、しぶしぶ髭黒のもとに嫁いだものの、その後髭黒は、太政大臣にまで昇りつめ、仲むつまじく円満にくらすことになります。まずはめでたしめでたし。

「玉鬘」の巻から、この「真木柱」の巻までで、いわゆる「玉鬘十帖」が終わります。

  • それにしても、髭黒大将に玉鬘略奪という思い切った行動をとらせた裏には、内大臣の黒いかげがあったように感じられます。
    内大臣は、実の娘の玉鬘が源氏の養女として尚侍となり、それによって源氏の勢力が増大するのをおそれていたのではないでしょうか。
    源氏と内大臣は、永遠のライバルなのです。


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