はなのえん
源氏物語に登場する女性の中でも、人気の高い「朧月夜の君」が登場します。

二つの「花の宴」での源氏との出会いと再会。新しい時代の到来の予感、藤壷への思い、苛立ちが、この禁断の恋に火をつけ、これがのちの源氏失脚の発端になろうとは・・・。



朧月夜の君
おぼろづきよ
右大臣の六女。弘徽殿女御の妹。朱雀帝の女御としての入内が決まっていたが、源氏との密会により内侍(ないしのかみ)として、朱雀帝の寵愛を受ける。しかし源氏が忘れられず、その後も密会が続く。



翌年の2月、宮中の紫宸殿で催された桜の宴でも、源氏の舞と詩が人々を驚嘆させます。それにつけても、藤壷中宮は複雑な思いをかみしめていました。
夜更けて宴が終わり、源氏は、酔いのまぎれに藤壷の辺りをどうにも押さえがたい思いでうかがい歩きますが、入り込む隙もありません。向かいの弘徽殿の細殿に行ってみるとたまたま戸口が開いており、そこから忍び入ります。

そこで若い女性と運命の出会いをします。女はびっくりしておびえた様子を見せますが、相手が源氏と知って拒みもせず、ものやわらかに接してきます。
あわただしく一夜をあかし、その場は、この女が誰であるかわからないまま、互いに扇をとりかえて別れますが、後になって、あの女はもしや兄の朱雀帝に入内することになっている右大臣の姫君「朧月夜の君」ではないだろうかと思いをめぐらします。
当日、源氏は若紫を訪れ、日に日に成長していく姿に満足します。一方、正妻葵の上は相変わらずの様子です。
四月の朱雀帝への入内を控え、朧月夜の君は、源氏とのあの夜の逢瀬に、人知れず思いみだれていました。源氏の方も、政敵でもある右大臣の姫ゆえ、かかわりを持つ事をためらっていました。

たまたま右大臣家で、「藤の宴」が催され、招かれて大臣邸へおもむいた源氏は、酔いにまぎれてこのあいだの扇の主をさがしていると、几帳の陰からため息がもれ、その手をとらえます。
それはまぎれもなく「朧月夜の君」、あの女でした。
  • 前巻の「紅葉賀」の舞は、帝の父の御賀の宴でしたが、この巻の「花の宴」は、ひとつは、即位の日が近い兄朱雀帝のための「桜の花の宴」であり、もうひとつは、右大臣家主催の「藤の花の宴」です。
    従って、紅葉賀の舞よりいまいち力が入らなかったようです。そのもの足りない思いが、朧月夜の君との禁断の恋につながっていったのでしょうか。

  • 「朧月夜の君」は、源氏物語に出てくる女性たちの中でも、とりわけ人気が高いようです。
    私の勝手な想像によると、情熱的、官能的、積極的、グラマーでどこか高貴な雰囲気を持つ、現代のキャリアウーマンタイプ・・・といった感じです。男性にとっても、興味ある女性かも知れません。


・・・・・ほんの少し、雰囲気を。

・宴後、藤壷辺りをうかがい歩く

夜いたう更けてなむ、事はてける。上達部おのおのあかれ、后、春宮かへらせたまひぬれば、のどかになりぬるに、月いと明かうさし出でてをかしきを、源氏の君酔ひ心地に、見すぐしがたくおぼえたまひければ、上の人々もうち休みて、かやうに思ひかけぬほどに、もしさりぬべき隙もやあると、藤壷わたりを、わりなう忍びてうかがひありけど、語らふべき戸口も鎖してければ、うち嘆きて、なほあらじに、弘徽殿の細殿立ち寄りたまへれば、三の口開きたり。

夜がすっかり更けてから、ようやく宴は終わったのであった。上達部がそれぞれ退散して、后や東宮もお帰りになってしまわれたので、閑散となったところに、月がまことに明るくさし出てきて風情をそえるので、源氏の君は、酔い心地で、見過ごしがたいお気持ちになられて、帝にお付きの女官たちもいまは休息していて、このような思いがけぬ機会に、ひょっとしたら、具合のよい隙もあろうかと思って、藤壷の辺をどうにもおさえがたい思いでこっそりとうかがい歩くが、手引きを頼みこめそうな人のいる戸口もぴたりと閉ざしているので、ため息をついて、それでもこのままではあきらめられないという気がして、弘徽殿の細殿にお立ち寄りになると、三の口が開いている。

日本古典文学全集「源氏物語」(小学館)より



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