すえつむはな

見境もなく女に手をだす源氏に、作者の紫式部は、この巻でちょっといじわるをしたようです。
こんどの女性はとてつもなくユニーク。うまずらで、長くて真っ赤な鼻の想像を絶する醜女。なんとも残酷な巻です。
作者はこの女性を笑いものにしますが、源氏は純真なこの女性に同情してあとあとの生活の面倒を見ます。源氏の優しい一面がここでも登場します。




末摘花
すえつむはな
物語中随一の醜女。額が広く、たれた鼻は真っ赤。しかも胴長でやせ細っている。性格も古風で世間知らず。不憫さがつのり、終生源氏の庇護を受ける。



源氏は、死に追いやってしまった、あの夕顔が今だ忘れられません。
正妻「葵の上」とは相変わらずしっくりいかず、思いを寄せる藤壷の宮とはままならず。あの親しみやすいあどけなさがまたと得難いものに思われ、あのような人をまた見つけたいものだと、性懲りもなくあちこちに聞き耳を立てていました。

そんな折、ある女房から故常陸宮の忘れ形見の姫君が、琴を相手にひっそりとすごしていることを耳にします。
心ときめかした源氏は、早速女房をそそのかして、ひそかに姫君の琴を聞きに行きますが、そこでライバルの「頭の中将」とはちあわせし、競争心を煽られ、ますます熱をあげます。

ついには姫君との対面にこぎつけますが、姫君は世間慣れしていないのか、無口なのか、何を言っても応答がありません。初心なのだと自分を納得させながら、闇のなかで姫君の風貌がわからずじまいに思いをとげます。

しばらくして姫君のところを訪れた源氏は、雪明かりの中で見た姫君の容貌に驚きます。
予想以上に不器量で、目立ってたれた鼻の先が末摘花のように紅なのです。
あきれながらも不憫に思った源氏は、生活の世話をする決心をします。

一方、二条院に引き取られた若紫は、日ごとに美しさを増しています。
源氏は、この若紫と、鼻の赤い女の絵など描いて遊び興じています。

  • 源氏の優しい一面がよくでています。
    夕顔が忘れられず、空蝉や軒端の荻のことも折々思い出しています。そしてまた今回新たな女性のめんどうを見る事になります。
    源氏はどうも見た目や地位などよりもこのような健気で気の置けない女性を好むようです。


・・・・・ほんの少し、雰囲気を。

末摘花の醜き姿

まづ、居丈の高く、を背長に見えたまふに、さればよと、胸つぶれぬ。うちつぎて、あなかたはと見ゆるものは鼻なりけり。ふと目ぞとまる。普賢菩薩の乗物とおぼゆ。あさましう高うのびらかに、先の方すこし垂りて色づきたること、ことのほかにうたてあり。色は雪はづかしく白うて、さ青に、額つきこよなうはれたるに、なほ下がちなる面やうは、おほかたおどろおどろしう長きなるべし。痩せたまへること、いとほしげにさらぼひて、肩のほどなどは、いたげなるまで衣の上まで見ゆ。

まず第一に、座高が高く、胴長にお見えになるので、予想通り、と胸のつぶれるような思いであった。それのつづいて、なんと見苦しいと思われたものは鼻なのであった。思わずそこに目が止まる。普賢菩薩の乗り物だなと思われる。あきれるばかり高く伸びていて、先の方が少したれて赤く色づいているのが、とくにいやな感じである。顔の色は雪も顔負けするほど白くて、青みがかって、額の様子はこのうえもなく広いうえに、下半分も長い顔だちは、だいたい、おそろしく長いのであろう。痩せていらっしゃることは、おいたわしいほどに骨張っていて、肩の辺などは、衣の上からでも、痛々しいほどに見える。

日本古典文学全集「源氏物語」(小学館)より



トップページへ。「 紅葉賀 」へ。