はなちるさと

「葵」や「賢木」の巻での、緊迫した場面が続いたあとの、ほっと一息いれる巻です。
源氏物語の中で、最も短い巻のひとつです。




花散里
はなちるさと
亡き桐壷院の女御のひとりだった麗景殿女御の妹。家庭的な性格から、源氏の子「夕霧」や後に出てくる「玉鬘」の養母となって、のちのちまで長く源氏の世界に存在します。




まわりの人々が離れて行き、政治的にもどんどん窮地に追い込まれ、落ち込んでいた源氏は、ふと、かって一度関係があった、亡き桐壷院の女御の一人(麗景殿女御)の妹(花散里)のことを思い出します。

いつもの性格から、思い立ったらいてもたってもいられず、五月雨の晴れ間に会いにでかけました。
麗景殿女御や花散里と、昔話しに花を咲かせ、桐壷院を懐かしみ、心和むひとときをすごします。



・・・・・ほんの少し、雰囲気を。

・花散里を訪ねる部分

麗景殿と聞こえしは、宮たちもおはせず、院崩れさせたまひて後、いよいよあはれなる御ありさまを、ただこの大将殿の御心にもて隠されて、過ぐしたまふなるべし。 御妹の三の君、内裏わたりにてはかなうほのめきたまひしなごりの、例の御心なれば、さすがに忘れもはてたまはず、わざとももてなしたまはぬに、人の御心をのみ尽くしはてたまふべかめるをも、このごろ残ることなく思し乱るる世のあはれのくさはひには思ひ出でたまふには、忍びがたくて、五月雨の空めづらしく晴れたる雲間に渡りたまふ。

麗景殿とお呼びした方は、皇子、皇女もお持ちでなく、桐壷院が崩御になられてからは、前にも増しておいたわしいご境遇なのを、ただ源氏の大将殿の御庇護によって、お暮らしになっているようである。 その妹君の三の君と、かって宮中あたりでかりそめの逢瀬をもたれたご縁があって、源氏の君は例のご性分から、さすがにすっかり忘れておしまいになるではなく、といって表だった扱いもなさらないので、女君は心底から深くお悩みになられたようだが、このごろ源氏の君ご自身、世の中のことに何からなにまで心を悩まされ、その一つとしてこの女君のことを思い浮かべなさるにつけ、じっとしてはいられなくなって、五月雨の空が珍しくも晴れた、雲の絶え間にお出掛けになられる。

日本古典文学全集「源氏物語」(小学館)より



トップページへ。「 須磨 」へ。