桐壷帝が亡くなり、右大臣一家の思いのままに世の中になります。
こういった情勢の中では、敵方の源氏はよほど行動を慎まねばならないときなのですが、そこは大物というか、「花宴」の巻で出会った「朧月夜」とその後も密会を続けています。
この朧月夜は、敵方右大臣の娘というだけでなく、今や帝の妃なのです。相手が悪すぎました。
この密会がバレて、右大臣側の陰謀が進みます。・・・・・冬の時代の訪れです。

  • 「賢木」・・・父桐壷帝の死。藤壷の出家。朧月夜との密会発覚。
  • 「花散里」・・・花散里との出会い。小休止的な短い巻。


さかき

前の「葵」巻に続き、この巻も激動の巻です。
前の巻で、桐壷帝から朱雀帝の治世に変り、右大臣体制になりましたが、それでも桐壷院在世中は、左大臣や源氏の上にさほど大きな変革は生じていませんでした。
桐壷院の崩御により、ようやく右大臣の権勢は強固となります。

この巻では、2つの大きな山場があります。ひとつは、藤壷の出家。もうひとつは密会の露見です。
物語は、波乱含みで大きく展開していきます。




葵の上が亡くなって、今度こそは六条御息所が、源氏の正妻の座につくかと、世間が取り沙汰される中、六条御息所は、源氏との関係に見切りをつけ、娘と一緒に伊勢へ行くことを決心します。
源氏は名残惜しくて、御息所を訪ねます。葵の上の死にまつわる生霊の思い出も忘れ、しばし心をかよわせますが、御息所の心は変りません。
御息所が都を離れて行き、源氏はぼんやりと物思いにふける日を暮らします。
十月。桐壷院が重態におちいり、ついに翌月崩御されます。藤壷中宮は、49日の忌み明けに三条の宮に移り、すべては右大臣家の勢力下となります。
朧月夜は、源氏との仲が知られてしまったため、正式な入内ができず、それでも女官の最高位の尚侍(ないしのかみ)として朱雀帝に仕えています。
源氏はその朧月夜とふたたびあの弘徽殿の細殿で、ひそかに逢いますが、右大臣の人に見られてしまいます。
藤壷中宮は、我が子(東宮)の後見として、源氏を唯一のたよりとしながらも、その恋情に悩んでいました。
ある日、ふたたび源氏に言い寄られ、驚きと悲しみのあまり、発病してしまいます。
藤壷は、険悪な政情の中で源氏の恋情を避け、我が子の地位を守り通すには、出家するよりほかの生き方はないと決心し、出家してしまいます。
源氏は茫然自失し、立つことさえできないほど・・・。
新しい年を迎えても、右大臣家の権勢にくらべて源氏方の官位昇進等の沙汰もなく、わびしい日々が続きます。

その夏、朧月夜尚侍は、こりずにまた源氏と逢瀬を重ねるようになっていました。
そして、ある夜、はげしい雷雨にはばまれて、帰りわびれているところを、こんどは右大臣に見つけられてしまいます。万事休す。
皇太后となった弘徽殿大后は、積もり積もった怒りを爆発させ、源氏を陥れる好機と、策謀をめぐらしはじめます。・・・・・



・・・・・ほんの少し、雰囲気を。

・冒頭の部分

斎宮の御下り近うなりゆくままに、御息所もの心細く思ほす。やむごとなくわづらはしきものにおぼえたまへりし大殿の君も亡せたまひて後、さりともと、世人も聞こえあつかひ、宮の内にも心ときめきせしを、その後しもかき絶え、あさましき御もてなしを見たまふに、まことにうしと思す事ありけめと、知りはてたまひぬれば、よろづのあはれを思し棄てて、ひたみちに出で立ちたまふ。

斎宮の伊勢へお下りになる日が近づいてゆくにつれて、御息所はただわけもなく心細いお気持ちになられる。 身分高い本妻として、気がねにお感じになっておられた大殿の姫君もお亡くなりになってからは、「いくらなんでも今度こそはこのお方が」と、世間の人々も取り沙汰申し上げ、また野宮にお仕えする人々も期待に胸をはずませていたのに、あれから後はかえってふっつりとお見えにならず、源氏の君の冷たいなさりようをごらんになると、「あの方には、ほんとうに自分をいやだとおぼしめすことがあったにちがいない」と、何もかもすっかりおわかりになったので、いっさいの未練をお振り捨てになり、一途の思いでご出発になるのである。

日本古典文学全集「源氏物語」(小学館)より



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