まつかぜ

澪標の巻で、明石の君は偶然住吉詣での源氏と再会しますが、身分の差をあらためて認識して、物思いを重ねる日々が続き、そのまま2年の歳月がすぎていました。
源氏からの再三のすすめに、ようやく上京を決意するものの、途中の大堰の山荘への転居という妥協策で実現します。
しかし、京に近くなったものの紫の上の嫉妬もあって、源氏との逢瀬はままならず、明石の君のきびしい忍従がつづきます。



二条の東院が落成しました。西の対に花散里を迎え入れ、東の対には明石の君を移らせ、北の対には今まで関係のあった女君を、寝殿は源氏自らの住居にと、計画をたてていました。
しかし源氏の度重なるすすめにも、わが身の程を自覚する明石の君は、なかなか決心がつきません。ただ、姫の将来を考えると心は揺らぎます。
親の明石入道夫妻も、思案のすえ曾祖父の山荘が大堰川のほとりにあるのを思い出し、それを修理してとりあえず娘を住まわせることにしました。
源氏の催促で、明石の君は、母尼と姫を伴って大堰へ移ります。
明石での父入道との別れは、悲しく哀切を極めます。
源氏が大堰を訪れることは、なかなか思うにまかせません。京に近いところまで来ながら、明石の君はかえってわびしい日々を送らねばなりませんでした。
ようやく紫の上をなだめ、他の用事にかこつけて大堰に赴いたのは、もう秋の終わりに近くなっていました。
はじめて見る姫は、予想以上のかわいらしさ。源氏は、この娘を二条院に引き取って育てようと考えはじめます。
明石の君や母の尼君とも再会して昔をしのびますが、二条院へといざなう源氏に、明石の君はなを応じようとしません。
明石の君に心を残しながら帰京した源氏は、紫の上の機嫌を取り結ぶべく、姫の成長を打ち明け、幼い姫を二条院に迎えて育てたいと相談します。
心中おだやかでない紫の上でしたが、子供好きなことから、姫の親代わりとなって世話をすることを承諾します。源氏はほっとします。
その後も、源氏の大堰通いは容易でなく、御堂の念仏にかこつけて、月に2度ほどの訪れがやっとです。
やむをえないことと、あきらめてはいるものの、明石の君の物思いは、まさるのみでした。

  • 思うにまかせぬ源氏との逢瀬に、じっとがまんの明石の君ですが、その一方で運命は、自然と良い方良い方へと展開していくようです。
    源氏物語は、じっとがまんが、いいようです。



・・・・・ほんの少し、雰囲気を。

・ 源氏、姫君の引取りを紫の上に相談する部分

さし寄りたまひて、「まことは、らうたげなるものを見しかば、契り浅くも見えぬを、さりとてものめかさむほども憚り多かるに、思ひなむわづらひぬる。同じ心に思ひめぐらして、御心に思ひ定めたまへ。いかがすべき。ここにてはぐくみたまひてんや。蛭の子が齢にもなりにけるを。罪なきさまなるを思ひ棄てがたうこそ。いはけなげなる下つかたも、紛らはさむなど思ふを、めざましと思さずはひき結ひたまへかし」と聞こえたまふ。

そばにそっとお寄りになって、「じつを申しますと、かわいらしい娘ができたのですから、前世の因縁も浅くは思えないのですが、そうかといって一人前に扱おうにも気兼ねが多いので、思案にあまってしまいました。わたしといっしょにいろいろ考えて、あなたのお考えできめて下さい。どうしたらよいでしょう。ここで育てるわけにはいきませんか。蛭の子の年にもなってしまったのですが。べつに罪もない様子なのも見捨てかねるのです。幼げな腰のあたりもなんとか人目につかないようにしょうなどど思うのですが、もし失礼だとお思いにならないのでしたら腰結いの役をつとめてやってくださいよ」と申し上げなさる。

日本古典文学全集「源氏物語」(小学館)より



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