さわらび

春になりました。
大君の死で悲嘆にくれていた宇治の山里にも、春の陽光がさしこんできました。
山寺の僧から中の君のもとに、初蕨が届けられ、それを匂宮からの便りよりもうれしく受け取ります。
大君の喪もあけた二月初旬、中の君は、京の二条院の匂宮邸へひきとられることになりました。
薫は、中の君の後見役として細かな心配りをしますが、一方では、中の君を匂宮に譲ったことに後悔の念を禁じえません。
大君を失った悲しさに身の置き所もない薫は、匂宮と中の君との幸せを願ってはいるものの、しだいに中の君に心が傾き、未練がましい思慕の情を断ち切れないのです。
中の君は、京へ上ることで浮き立つ女房たちをよそに、出家して宇治に残る女房の弁と別れを惜しみ、不安を抱きつつ上京します。

京の二条院に移った中の君に、匂宮はこまやかな愛情をしめしますが、一方で匂宮と六の君との結婚が、この月に予定されているのです。
  • 薫と大君、匂宮と中の君、の四角関係は、大君の死によって崩壊し、中の君をめぐっての危険な三角関係に陥ろうとしています。
    そして、そこから物語はまた新たな局面を迎えます。

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やどりぎ


帝(今上帝)は、最愛の娘「女二の宮」の将来を、薫に託そうと考えていました。帝の父朱雀帝が、娘の女三の宮を源氏の降嫁させたように・・・。
しかし、薫は気がすすみません。

一方夕霧は、娘の六の君の婿を匂宮に決め、匂宮もしぶしぶ承知します。中宮の口添えもあって、承知せざるを得なかったのです。
中の君の嘆きは深く、今更ながら父の遺戒に背いて京に出てきたことを悔やみ、亡き姉君の決して宇治から出ようとしなかった生き方を思うのでした。
そのころ、中の君は、すでに懐妊していたのです。
いまだに大君を慕う薫は、中の君を見舞い、彼女に大君の面影を感じ、心惹かれます。
しぶしぶ夕霧の婿となった匂宮ですが、六の君とあってみるとまんざらでもありません。
中の君を忘れないものの、しだいに夜離れを重ねるようになり、中の君の嘆きは日に日に深まるばかりです。
思い余った中の君は、薫に手紙を出し、宇治へ連れていって欲しいと頼みます。
中の君と会って話しをしているうちに、つのる思いを抑えかね、その袖をとらえて我が心を訴えるのでした。

帰ってきた匂宮は、中の君の衣に薫の芳香が移っていることをあやしみ、責めますが、彼女はなにもなかったように、匂宮をもてなします。
薫は、大君の供養に宇治の邸をなおし、そこに大君の人形(ひとかた)を作りたいと、中の君に願いでます。
薫の恋慕に悩むようになっていた中の君は、彼の接近を避けるべく、異母妹に亡き大君によく似た人がいると、「浮舟」の存在を告げます。
早速薫は宇治に出向き、弁の尼に浮舟への仲介をたのみます。
翌年二月、中の君が男児を出産、彼女は匂宮の妻として、だれからも重んじられるようになります。
同じ頃、女二の宮と結婚した薫は、帝の婿として世人からねたみを買うほど羨望されますが、当の本人の胸中は憂うつです。
大君を思うその心は、宇治の邸の造営にばかりに熱心なのです。
その後宇治におもむいた薫は、偶然初瀬詣でからの帰りの浮舟を垣間見ます。
それは、彼が探し求めていた、大君の面影を宿す、形代(身代わり)そのものでした。
  • 薫の、中の君への横恋慕から、危うい三角関係に陥ろうとするところで、「浮舟」という女性が登場するのです。
    彼女は、「八の宮」の娘であり、大君・中の君とは異母妹の関係にありますが、八の宮は、宮家の名誉を考えてか彼女を認知しませんでした。
    八の宮邸を追われた浮舟は、母とともに地方暮らしをしていました。

    かつて姉の大君が、自分に向けられた薫の愛を妹の中の君に向けようとした、その同じことを、こんどはその中の君が、薫の横恋慕を避けようと「浮舟」に向け、彼女の運命をも変えていってしまいます。
    なんとも皮肉な物語ではありませんか。


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あずまや


はからずも垣間見た浮舟に、大君の面影を感じた薫。
弁を通じて浮舟の母「中将の君」に意向を伝えますが、薫に憧れながらも、あまりの身分のちがいに思いためらっていました。
中将の君は、娘の浮舟を連れて「常陸の介」と再婚していますが、娘には八の宮との不幸な自らの轍をふませたくないと、結局身分相応の左近少将を婿に選びます。

浮舟の継父常陸の介は、莫大な財産家ですが、その成り上がり者ふうの教養の低さは、貴族的な感覚を持つ中将の君には、いかにも不釣合いでした。
その財力を目当てにした求婚者も多く、その中でとくに熱心だった左近少将を身分相応と考え婿にえらんだのです。

しかし、結婚の日も迫ってから、その左近少将は、浮舟が常陸の介の実子でないと知り、財力のある常陸の介の実子の婿になりたいと、浮舟の妹にあたる常陸の介の実の娘に急遽乗り換えてしまいます。
中将の君は、常陸の介との間に幾人かの子をなしていましたが、浮舟を溺愛しています。
浮舟のこの不運を嘆く母は、彼女を異母妹の中の君のもとに預けることにしました。
中の君の邸で、匂宮の優雅な容姿を見た中将の君は、その立派さに感動し、さらに匂宮が出掛けたあとやってきた薫を見て、その容姿の見事さに目が釘づけにされてしまいます。
浮舟をこのような人に嫁がせて、左近少将などを見返してやりたい・・・と思ったりもします。
中将の君が、中の君に浮舟の世話を頼んで帰ったあと、匂宮が浮舟を見出して中の君の異母妹とも知らずに強引に言い寄りますが、急に京からお呼びがかかって帰ることになり、その場は事無きをえます。
しかし事情を聞いてあわてた中将の君は、浮舟を引取って三条の小家に移してしまいました。
秋も深くなり、御堂も出来上がったので、薫は宇治を訪れます。
そして、浮舟への思いをかきたてられ、弁に仲立ちをたのみ、雨の夜自ら三条の隠れ家を訪れ、まだ明けきらぬ翌朝、浮舟を牛車に乗せて宇治に連れ出します。

薫が浮舟を宇治に連れ出しながらも、その心のうちには、亡き大君へのやり場のない想いがたえず漂い、それを悲しくかみしめるのでした。

<浮舟へ>