しいがもと

匂宮は、薫から宇治の姫君たちの話しを聞いて以来、何とかして宇治にいきたいものと考えていました。
2月20日ごろ、匂宮は以前に願をかけたことのある長谷観音に参詣し、その帰途、宇治の八の宮の姫君たちと接触できるかも知れないという期待をもって、宇治の八の宮邸の対岸にある、夕霧の別荘に中宿りしました。
八の宮は、夕霧や子息たちが匂宮一行を歓待する物の音を、川波を隔てて聞くにつけ、昔の栄華をしのばずにはいられません。
八の宮は、このところ健康がすぐれず、死期の近いことを予感して婚期もすぎた姫君たちの処置を思いあぐねていました。
薫は、中納言となりますが、出生の秘密を知ってからもの思いはつのるばかりで、はかなく亡くなった実の父の罪ほろぼしのためにもと、出家の意を強くしています。
7月、久しぶりに宇治を訪れますと、待ち構えた八の宮は、姫君たちの行末を薫に託します。
死期を感じた八の宮は、姫君たちに、なまじ宇治の地を捨て京に出て、親の面目をつぶすような結婚などしてはならぬと戒めます。
人並み程度の結婚はしないほうがまし、という八の宮の親王としての自尊心から出た言葉ともとれますが、彼女たちにとっては、あまりにも厳しい言葉です。
それにしても、その前に行末を託した薫への依頼は、何なのでしょうか。結婚ではないとしたら、経済的援助なのか、精神的支えなのか、そのへんがはっきりしません。
八の宮は、そのまま山寺にこもり、8月20日ごろ不帰の客となります。
悲嘆にくれる姫君たちに、薫は何かと心遣いをし、匂宮からもたびたび弔問があり、忌が明けると、あちこちから求愛の手紙が届きます。
しかし父宮の遺言ともいえるあのことばと、思い出にすがる姫君たちは、これら高貴な人の求愛にも応じようとしません。
年末のある雪の日。再び宇治を訪れた薫は、胸中をそれとなく大君に訴えますが、話しをはずして取り合いません。そんな大君に、薫はかえって心ひかれていきます。
一方匂宮は、周囲から夕霧の娘六の宮との縁談を勧められますが、それには関心を示さず、宇治の姫君への思いを燃やし、薫に姫君との間を仲介してほしいとせがんでいます。
翌年の夏、宇治を訪れた薫は、喪服姿の姉妹を垣間見て、とりわけ大君への思慕の情を一層強めます。

物語は、匂宮も宇治への通い人となり、複雑な展開となります。


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あげまき


八月、八の宮の一周忌も近いころ、薫は宇治を訪れて大君に夜通し意中を訴えますが、大君は父宮の遺言を守って独身を押し通す決意を固めており、かえって大君の心を閉ざさせるのみでした。

大君は決して薫をいやというわけでも、きらいというわけでもありません。亡き父宮も信頼を寄せ、人柄も身分も申し分ない薫だけに、内心ゆれにゆれている大君ですが、姉として我が身のことはあきらめ、妹の幸せをかんがえよう、と妹の中の君を薫と結婚させようと考えています。
薫は再び宇治を訪れました。
女房たちは、薫が大君に惹かれていることを知り、「大君と薫」「中の君と匂宮」とが結ばれるのが最も幸せと望んでいます。
その夜、女房の弁は、薫を大君のもとへ導きます。
気配を察した大君は、中の君を残して、ひとり逃れ出てしまいます。
薫はむなしい思いで中の君と何事もなく語り明かすこととなります。

薫は、大君が自分を受け入れないのは、自分がきらいだからではない、中の君を結婚させたいからだ、・・・中の君を匂宮と結婚させ、幸せになるのを見れば、安心して自分を許してくれるだろう・・・と考えます。
薫は、かねて中の君に関心をよせていた匂宮を宇治に導き、彼女のもとに忍ばせます。匂宮は、長い間の望みを遂げました。
しかし、そのことはかえって大君の態度を硬化させることとなってしまいます。
大君は、こうなった以上匂宮と中の君の結婚を正式なものとすべく、匂宮を迎える準備をします。
しかし、匂宮は今上帝の第三皇子。父帝や母中宮の目は厳しく、なんとか三日間は無理を押して中の君のもとへ通いますが、その後は足が遠のきがちとなります。
十月、匂宮は紅葉狩りを口実に宇治を訪れますが、母中宮が差し向けた御伴の人にかこまれ、中の君の邸を目の前にしても会うことさえできません。
京に帰ってからの匂宮は、中の君を思いながらも外出はさらに窮屈となり、宇治に通うことはままなりません。
中の君や大君には、それが誠意のない薄情と映るのは無理のないことでした。二人の落胆は大きく、それがもとで、大君は病に臥す身となってしまいます。
薫は、大君の病を聞き宇治を見舞いますが、その折り、大君は従者の口から匂宮と夕霧の娘(六の宮)との縁談が進んでいるとの話しを聞き、絶望します。
父宮の遺言に背いた自分を責めつつ、病勢もいちだんとつのっていきます。
その後宇治を見舞った薫は、そのまま宇治に滞留して大君の看病にあたりますが、もう彼女の命を引き止めることはできませんでした。
枕元で見守る薫に、大君は中の君の行末をたのみ、物の枯れるように息絶えました。
薫はそのまま喪にこもって49日の間大君を偲びます。
匂宮は、雪の中宇治を訪れますが、中の君は逢おうとはしません。
年の暮れ、匂宮は中の君を京の二条院に引取ろうと決意します。一方薫も、中の君の後見として世話をしようと決心します。それは亡き八の宮との約束であり、大君の遺言でもあるのです。
  • 宇治十帖で、「弁」という老女房が不気味な存在で登場し、多様な動きをしています。
    (もともと「弁」は、亡き柏木の乳母の子で、柏木の身近かに仕えていました)
    「橋姫」の巻では、薫に出生の秘密を告白し、この巻では、薫と大君の仲をとりもとうとしています。老女房のおせっかいとも思われますが、このあとの巻でも時々登場し、物語の人間関係をつなぐ重要な役割を負っています。

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さわらび


春になりました。
大君の死で悲嘆にくれていた宇治の山里にも、春の陽光がさしこんできました。
山寺の僧から中の君のもとに、初蕨が届けられ、それを匂宮からの便りよりもうれしく受け取ります。
大君の喪もあけた二月初旬、中の君は、京の二条院の匂宮邸へひきとられることになりました。
薫は、中の君の後見役として細かな心配りをしますが、一方では、中の君を匂宮に譲ったことに後悔の念を禁じえません。
大君を失った悲しさに身の置き所もない薫は、匂宮と中の君との幸せを願ってはいるものの、しだいに中の君に心が傾き、未練がましい思慕の情を断ち切れないのです。
中の君は、京へ上ることで浮き立つ女房たちをよそに、出家して宇治に残る女房の弁と別れを惜しみ、不安を抱きつつ上京します。

京の二条院に移った中の君に、匂宮はこまやかな愛情をしめしますが、一方で匂宮と六の君との結婚が、この月に予定されているのです。
  • 薫と大君、匂宮と中の君、の四角関係は、大君の死によって崩壊し、中の君をめぐっての危険な三角関係に陥ろうとしています。
    そして、そこから物語はまた新たな局面を迎えます。

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やどりぎ


帝(今上帝)は、最愛の娘「女二の宮」の将来を、薫に託そうと考えていました。帝の父朱雀帝が、娘の女三の宮を源氏の降嫁させたように・・・。
しかし、薫は気がすすみません。

一方夕霧は、娘の六の君の婿を匂宮に決め、匂宮もしぶしぶ承知します。中宮の口添えもあって、承知せざるを得なかったのです。
中の君の嘆きは深く、今更ながら父の遺戒に背いて京に出てきたことを悔やみ、亡き姉君の決して宇治から出ようとしなかった生き方を思うのでした。
そのころ、中の君は、すでに懐妊していたのです。
いまだに大君を慕う薫は、中の君を見舞い、彼女に大君の面影を感じ、心惹かれます。
しぶしぶ夕霧の婿となった匂宮ですが、六の君とあってみるとまんざらでもありません。
中の君を忘れないものの、しだいに夜離れを重ねるようになり、中の君の嘆きは日に日に深まるばかりです。
思い余った中の君は、薫に手紙を出し、宇治へ連れていって欲しいと頼みます。
中の君と会って話しをしているうちに、つのる思いを抑えかね、その袖をとらえて我が心を訴えるのでした。

帰ってきた匂宮は、中の君の衣に薫の芳香が移っていることをあやしみ、責めますが、彼女はなにもなかったように、匂宮をもてなします。
薫は、大君の供養に宇治の邸をなおし、そこに大君の人形(ひとかた)を作りたいと、中の君に願いでます。
薫の恋慕に悩むようになっていた中の君は、彼の接近を避けるべく、異母妹に亡き大君によく似た人がいると、「浮舟」の存在を告げます。
早速薫は宇治に出向き、弁の尼に浮舟への仲介をたのみます。
翌年二月、中の君が男児を出産、彼女は匂宮の妻として、だれからも重んじられるようになります。
同じ頃、女二の宮と結婚した薫は、帝の婿として世人からねたみを買うほど羨望されますが、当の本人の胸中は憂うつです。
大君を思うその心は、宇治の邸の造営にばかりに熱心なのです。
その後宇治におもむいた薫は、偶然初瀬詣でからの帰りの浮舟を垣間見ます。
それは、彼が探し求めていた、大君の面影を宿す、形代(身代わり)そのものでした。
  • 薫の、中の君への横恋慕から、危うい三角関係に陥ろうとするところで、「浮舟」という女性が登場するのです。
    彼女は、「八の宮」の娘であり、大君・中の君とは異母妹の関係にありますが、八の宮は、宮家の名誉を考えてか彼女を認知しませんでした。
    八の宮邸を追われた浮舟は、母とともに地方暮らしをしていました。

    かつて姉の大君が、自分に向けられた薫の愛を妹の中の君に向けようとした、その同じことを、こんどはその中の君が、薫の横恋慕を避けようと「浮舟」に向け、彼女の運命をも変えていってしまいます。
    なんとも皮肉な物語ではありませんか。


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あずまや


はからずも垣間見た浮舟に、大君の面影を感じた薫。
弁を通じて浮舟の母「中将の君」に意向を伝えますが、薫に憧れながらも、あまりの身分のちがいに思いためらっていました。
中将の君は、娘の浮舟を連れて「常陸の介」と再婚していますが、娘には八の宮との不幸な自らの轍をふませたくないと、結局身分相応の左近少将を婿に選びます。

浮舟の継父常陸の介は、莫大な財産家ですが、その成り上がり者ふうの教養の低さは、貴族的な感覚を持つ中将の君には、いかにも不釣合いでした。
その財力を目当てにした求婚者も多く、その中でとくに熱心だった左近少将を身分相応と考え婿にえらんだのです。

しかし、結婚の日も迫ってから、その左近少将は、浮舟が常陸の介の実子でないと知り、財力のある常陸の介の実子の婿になりたいと、浮舟の妹にあたる常陸の介の実の娘に急遽乗り換えてしまいます。
中将の君は、常陸の介との間に幾人かの子をなしていましたが、浮舟を溺愛しています。
浮舟のこの不運を嘆く母は、彼女を異母妹の中の君のもとに預けることにしました。
中の君の邸で、匂宮の優雅な容姿を見た中将の君は、その立派さに感動し、さらに匂宮が出掛けたあとやってきた薫を見て、その容姿の見事さに目が釘づけにされてしまいます。
浮舟をこのような人に嫁がせて、左近少将などを見返してやりたい・・・と思ったりもします。
中将の君が、中の君に浮舟の世話を頼んで帰ったあと、匂宮が浮舟を見出して中の君の異母妹とも知らずに強引に言い寄りますが、急に京からお呼びがかかって帰ることになり、その場は事無きをえます。
しかし事情を聞いてあわてた中将の君は、浮舟を引取って三条の小家に移してしまいました。
秋も深くなり、御堂も出来上がったので、薫は宇治を訪れます。
そして、浮舟への思いをかきたてられ、弁に仲立ちをたのみ、雨の夜自ら三条の隠れ家を訪れ、まだ明けきらぬ翌朝、浮舟を牛車に乗せて宇治に連れ出します。

薫が浮舟を宇治に連れ出しながらも、その心のうちには、亡き大君へのやり場のない想いがたえず漂い、それを悲しくかみしめるのでした。

<浮舟へ>