よもぎう

源氏28〜29才。この巻は、うまずらで、長く真っ赤な鼻の、想像を絶する醜女として登場した、あの末摘花の後日譚です。
源氏が須磨に退去している間、生活の窮乏に耐えながらじっと彼との再会を待ち続けていた彼女に、再会した源氏が感動し、二条院に引き取って幸せに暮らすという暖かい物語です。



源氏が須磨に退去していたころ、末摘花の生活は悲惨を極めていました。
昔風の気性の彼女は、由緒ある宮家の誇りを持ち続けようと、庭の木や道具類を所望する者があっても、けっして手放そうとせず、邸は蓬(よもぎ)や葎(むぐら)のしげる狐のすみかにもなって、盗人さえもよりつかないような貧しさの中で、細々と暮らしていました。
末摘花の叔母は、かってこの宮家から軽んじられ恨んでいましたが、いまこそその報復をと、あれこれ意地悪をし、彼女のたった一人の相談相手であった女房の侍従までも自分のもとに引き取ってしまいます。
頼りにする使い人もいなくなり、荒れ果てた邸で、ひとしおもの寂しい冬を過ごしていました。
翌春、源氏は花散里を訪ねる道すがら、末摘花の邸のそばを通り掛かり、木立に見覚えのあるのを思い出し、蓬の露をわけて訪れます。
対面した彼女に、源氏は疎遠にした年月を悔いながら、これまでの労をねぎらい、今なお自分を信じて待ってくれていた彼女の心がいとおしく、この人を終生庇護してあげようと誓います。
源氏の心遣いで、邸内も修理され、生気を取り戻し、末摘花もやっと安らかな暮らしに戻ることができました。

のちに、末摘花は二条院に迎えられ、源氏の配慮のもと、幸せに過ごします。
  • このような、「貞淑な、待つ女」は、源氏ならずとも感動するのではないでしょうか。
    それにしても、彼女の生活の困窮ぶりや邸の荒廃ぶりは悲惨なまでに語られ、由緒ある宮家の姫君とはいえ、女一人で生きることの現実が、厳しくとらえられています。




・・・・・ほんの少し、雰囲気を。

・ 末摘花の邸わびしく雪に埋もれる

霜月ばかりになれば、雪霰がちにて、外には消ゆる間もあるを、朝日夕日をふせぐ蓬葎の陰に深う積もりて、越の白山思ひやらるる雪の中に、出で入る下人だになくて、つれづれとながめたまふ。はかなきことを聞こえ慰め、泣きみ笑ひみ紛らはしつる人さへなくて、夜も塵がましき御帳の中もかたはらさびしく、もの悲しく思さる。

十一月ごろになったので、とかく雪や霰がふりがちで、邸の外では消える折りもあるのに、ここでは朝日や夕日をさえぎる蓬や葎の陰に深く積もって、越の白山が思いやられる雪の中に、出入りする下人さえもなく、姫君はぼんやりともの思いに屈していらっしゃる。

日本古典文学全集「源氏物語」(小学館)より



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