・・・まずは、ザッとアウトラインを。

「源氏物語」は、日本文学の最高傑作といわれています。
瀬戸内寂聴さんは、わが国が世界に誇る最高の文化遺産、と表現しています。
紫式部によって書かれてからもう千年近い時間が経過しているはずですが、今にいたるまで読み続けられ、高い人気を保っているということは、そこに時代の隔たりを越えた人の心を捉える不思議な魅力があるからでしょう。
表紙を開いて、まず目次をのぞいて見ましょう。
「桐壷」「帚木」「空蝉」「夕顔」「若紫」「末摘花」「紅葉賀」「花宴」「葵」・・・・・・ なんとも雰囲気のある魅力的なタイトルとは思いませんか。いわゆる「字面(じずら)の良さ」。
「源氏物語」は、全部で54帖(巻)に及ぶ一大長編恋愛物語で、それぞれにこのようなタイトルがつけられています。
各巻は、源氏と女性たちとの出会いの場面を中心に描かれており、その出会いの場で、たがいに心の高まりを「歌」で表現し、その歌のやりとりから恋物語が進展していきます。
タイトルの多くは、ここで詠まれた歌の言葉の中からとられています。・・・魅力的なはずです。
私が「源氏物語」の門をたたいたのも、この字面の良いタイトルに魅かれたからでもあります。

物語は、光源氏の奔放な恋愛生活、女性遍歴を通し、地位、権力をかちえていく過程と、晩年にこれまでの罪の応報におののきながら、孤独でさびしい生活、そして出家、死・・・。さらには、光源氏の死後、その子孫の恋愛物語が、ハイレベルな平安貴族社会の中で華麗に描かれています。

恋と病と死、それに政治権力の争い、神仏の信仰等、今も昔も変わらない人間の営みがすべて盛り込まれており、それらが幾重にも変奏しからみあって進展していきます.


源氏物語の中には、次の4つの物語が盛り込まれ、絡み合って構成されている、と思います。

1.「源氏の一生とその恋愛物語」
  • 源氏の誕生から死までの波瀾万丈の人生と、源氏にかかわった人々の運命が描かれています。
  • 美男子で、頭がすばらしく良く、その一方で常軌を逸したプレーボーイ。
    若いころは、継母(藤壷の宮)と密通して子供を作り、兄の妃との密会がばれて都落ちの憂き目にあう。40をこえてから若くて分別のない姪の皇女(女三の宮)と結婚して自ら落とし穴にはまってしまう。その皇女を青年柏木に寝取られ、その遺児を我が子として腕に抱いて涙する源氏・・・。最愛の妻「紫の上」の死で、源氏の人生は終焉を迎える。
  • 源氏の行動は、不倫あり、レイプあり、拉致あり・・・・と、なんでもありの、かなりきわどいものですが、物語では、セックス描写などの直接描写はなく、ごく自然に、サラッと表現されています。
    このへんが、今の「失楽園」と違うところで、小学生も読める所以です。
    もっとも、これが現代流に濃密に描かれていたら、作者も読者も、とてもこの長丁場は持たなかったでしょう。
  • 源氏は、このように、相手かまわず手当たりしだいに女性に手をつけますが、一度手をつけた女性は、最後までキチッと面倒を見ます。
    これが普通のプレーボーイと違うところで、憎めないところでもあります。
2.「源氏をとりまく女性の物語」
  • 源氏物語は、源氏が主役とは言うものの、私はむしろ、源氏は狂言まわしであって、本当の主役は、源氏に愛された女性たちではないかと見ています。
    それだけ、登場する女性たちは、印象的で、魅力的で、それぞれに重要な役割を演じています。
  • その中でも、特に印象的な女性をひとことで。

    源氏を産むだけにだけ登場したような「桐壷の更衣」

    不義の子を帝にまで育て、たくましく生きた「藤壷の宮}

    正妻ながら、不幸せな結婚生活だった「葵の上」

    源氏から逃げたはじめての女「空蝉」

    源氏と会ったがために、物の怪にとりつかれ死んでしまう「夕顔」

    物の怪となって源氏を苦しめる、愛人「六条の御息所」

    物語中、随一の醜女「末摘花」

    密会が源氏失脚の発端になった「朧月夜」

    家庭的な雰囲気で愛された「花散里」

    物語のヒロイン。まさに良妻賢母「紫の上」

    いいところのお嬢様的性格が災いした「女三の宮」

    シンデレラ的物語を展開する「明石の君」と「玉鬘」

    物語の最後に登場して、謎の香りを秘めて幕を閉じる「浮舟」


3.「帝位継承と政治の物語」
  • 男女の色恋、結婚、出産、病、死・・・といったストーリーのベースには、たえずドロドロとした帝位継承の争いが横たわっていて、これが物語を重厚で大きいものにしています。
  • 約80年におよぶストーリの中で、四代の帝が登場し、その帝位継承が物語の重要なテーマとなっています。
    順に「桐壷帝」、「朱雀帝」、「冷泉帝」、「今上帝」。
4.「出家の物語」
  • 源氏とかかわった女性の大半は、出家しています。それも若いみそらで。なぜなのでしょうか。
  • 瀬戸内寂聴さんは、あるテレビ番組のインタビューで、ご自身が出家して源氏の読み方が、目からうろこが落ちたように大きく変わった。源氏物語は、出家の物語です、と言っておられました。
    出家した瞬間、女の心の丈がすっと高くなるのを感じる・・・というのです。
    たしかに、一夫多妻という男上位の社会で、女性が受ける苦悩から救われる唯一の道が出家であるというのもわかるような気もしますが、今から考えると、あまりにも不条理に思えます。

    この「入門」が完成したら、もう一度、瀬戸内源氏を読み返してみようと思う。


それでは、物語の全体像を整理してみましょう。

物語では、一部、二部、三部のようには分けられていませんが、通説では次のように分けて考えられています。

第一部

光源氏
栄華の
前半生







「桐壷」から「花散里」までの十一帖
物語は、源氏の母「桐壷更衣」の病と死という何か予言的内容で始まり、光源氏と継母「藤壷の宮」との密通や幾多の女性遍歴を重ねていく姿が語られます。
正妻「葵の上」や「空蝉」「夕顔」「六条御息所」「紫の上」「末摘花」「朧月夜」「花散里」などの女性との多彩な恋に情熱を燃やす、源氏青春の物語です。
「須磨」から「乙女」までの十帖
源氏の政敵である右大臣家の娘「朧月夜」との密会が露見し、須磨に流されざるを得なくなった源氏。その須磨でのさびしい生活と「明石の君」との出会い。そして帰京した源氏が昇進栄華の道を歩んでいく姿が語られます。
「玉鬘」から「藤裏葉」までの十二帖
源氏は、大邸宅六条院を造営し、内部を四つに区切って四季の庵を配し、それぞれに愛妾を住まわせ、自らは准太上天皇となり、栄華を極めていきます。
夕顔の忘れ形見「玉鬘」が登場し、シンデレラ的物語を展開します。
第二部

苦悩の
晩年

「若菜上」から「幻」までの八帖
第一部の源氏の栄華の世界が一転して崩壊し、若き日の過失から来る罪の応報におののく晩年の生活が描かれています。
源氏の異母兄「朱雀院」の病から始まり、その病が思わぬ方向へと物語を展開します。
その朱雀帝の娘「女三の宮」と結婚して自ら落とし穴にはまってしまいます。
女三の宮と柏木の密通、柏木の死などの劇的事件が展開され、「紫の上」の死で、源氏の人生の終焉を迎えます。

第三部

宇治の
物語

「匂宮」から「夢浮橋」までの十三帖
このうち「匂宮」から「竹河」の三帖は、後半十帖への橋渡し的巻で、「橋姫」以降の十帖は、一般に「宇治十帖」と呼ばれています。
光源氏亡き後、宇治に舞台をうつし、不義の子「薫」や「匂宮」と女性たちをめぐる恋愛物語が展開されます。
最後に「浮舟」という女性が登場し、謎の香りを秘めたまま、あっけない幕切れとなります。

  • 以前から、45帖以降の、源氏なきあとの物語「宇治十帖」は、作者別人説が言われているようですが、文部省統計数理研究所から、名詞・助動詞の使用頻度をコンピューターで分析し、あきらかに差があるという分析結果が公表されました。
    これですぐに別人説という結論は出せないとしているが、これほどまでに源氏物語は、専門家の間で興味津々。(1998年4月9日、NHKテレビニュースより)
    我々素人も、負けずに少しでもついていこうではありませんか。



「源氏物語」は、あくまでフィクションで、光源氏という実在の人物はいません。しかし、あたかも現実の歴史小説のような迫力で伝わってきます。


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