ゆうがお

源氏のラブハントはますます旺盛です。
この巻までにすでに正妻「葵の上」のほかに、藤壷の宮、六条の御息所、空蝉、軒端の荻という女性と関係を持っています。藤壷の宮との関係は、文中にははっきり出てきませんが、帚木の巻でそれらしきを暗示する部分があります。
六条御息所との関係も、この巻の冒頭ではじめて出てきます。それもほんの一行足らずですまされています。
(この藤壷の宮、六条の御息所とのくだりは、田辺聖子の「新源氏物語」では順序を変え、内容をふくらませて描かれています。)
この巻では、あらたに夕顔という女性と出会います。夕顔は、帚木の巻で頭の中将が打明けた女性です。
源氏は、身分の低いこの女性にすっかり惚れこみます。これまでの相手の女性は、そろって身分が高く、年上でプライドが高く、気疲れがしていました。それにくらべ夕顔は無邪気で初々しく、ひたすら源氏に身を任せ頼り切って従います。
しかし、この夕顔は突然「物の怪」にとりつかれ、あっけなく死んでしまいます。
あまりのはかない命の夕顔と源氏の一途な純愛・・・・・。全編のなかでも、印象にのこる巻です。




夕顔
ゆうがお
頭の中将の愛人。女の子を設けるが、正妻の脅迫から、頭の中将にも告げずに女の子を連れて身を隠してしまいます。
六条の御息所
ろくじょうみやすどころ
桐壷帝の弟宮の后で、身分の高い教養豊かな女性。しかし不幸にして未亡人となり、源氏の愛人となり、第二の妻という位置にあった。源氏より7才年上。
「物の怪」と化して恋敵に取り憑き責め、さいなむ。




源氏が六条の御息所のところへ、おしのびで通っていた17才の夏のこと。
六条への忍びの途中、尼になって思い病に臥している乳母の見舞いに立ち寄った源氏は、そこで、隣家から若い女性達が外を覗いているのが目に止まります。
そこの板塀には見たこともない白い蔓草の花が咲いていました。
その花が縁で源氏はその家に住む女主人(夕顔)を知ることとなります。

当時源氏は、正妻の葵の上や六条御息所との関係に熱がさめており、思いを尽くす藤壷の宮とはなかなか会うことが出来ず、また空蝉にも逃げられて、悶々とした日を送っていました。
乳母の子に手引きしてもらい、身分を隠して夕顔の家に通いはじめ、だんだん心を奪われていきます。
ある8月の十五夜の明け方、源氏は夕顔とお供2〜3名をつれ、ある帝室の某院へ出かけました。
人気もなく、荒れ果てた庭や邸に女はおびえながらも、はじめて名前を打明けた源氏に素直に打ち解け、源氏もますます心を奪われます。
その夜、少し寝入った源氏の夢枕に美女があらわれ、「私を愛さないで、こんな平凡な人を愛するなんてあまりにひどい、恨めしい方」などといって横にいる夕顔に手をかけようとしています。
驚いて目を覚ますと、灯りも消え、夕顔は、おびえながらあっというまに息絶えてしまいました。

夕顔の死に、源氏はなすすべもなく、ただ泣き悲しむばかりで、これまでの恋愛漁りの報いではと、責任を感じます。
それでもなんとか夕顔を東山の寺に葬りますが、その帰り道、心乱れた源氏は、加茂川堤に来て落馬してしまいます。それきり床につき、重い容体がしばらく続きます。
病気も回復したころ、近くの者から、夕顔は帚木の巻で頭の中将が打明けた女で、幼い女の子がいると知らされます。
源氏はこの夕顔の形見の女の子を探し出して育てたいと考えます。

秋もすぎ、空蝉が夫と任地へ下り、軒端の荻も結婚し、心許せる女性が次々と源氏から去っていきました。

冷たい時雨が降る初冬になり、源氏はしみじみ、人目を忍ぶ恋の悲しさ、苦しさを思うのでした。

  • 現代の男性に、源氏物語にでてくる女性のうち、誰が好きかと聞くと、大半の人が「夕顔」と答えるそうです。
    反対に、嫌いなのは「六条の御息所」だそうです。
    今も昔も、男性は素直でおとなしい女性を好むのでしょうか。


・・・・・ほんの少し、雰囲気を。

物の怪、夕顔にせまる部分

宵過ぐるほど、すこし寝入りたまへるに、御枕上にいとをかしげなる女いて、「おのが、いとめでたしと見たてまつるをば、尋ね思ほさで、かくことなることなき人を率ておはして、時めかしたまふこそ、いとめざましくつらけり」とて、この御かたはらの人をかき起こさむとすと見たまふ。物に襲はるる心地して、おどろきたまへれば、灯も消えにけり。うたて思さるれば、太刀を引き抜きて、うち置きたまひて、右近を起こしたまふ。

宵を過ぎるころ、少しとろとろとなさっていると、枕元にたいへん美しい様子の女がすわって、「わが身が、まことめでたき夫とお慕い申しているのに、お訪ねくださらず、かように別段のこともない女をお連れなされて、ご寵愛になるとは、ほんとの心外で、つらいことだと思います。」と言って、君のおそばの人をつかまえて、引き起こそうとする、と夢をごらんになる。物におそわれるような気持ちがして、はっと目をお覚ましになると、灯も消えてしまっていた。気味悪くお感じになるので、太刀を引き抜いてそばにお置きになって、右近を起こしになる。

日本古典文学全集「源氏物語」(小学館)より



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