書評

工藤美代子著 「マッカーサー伝説」

恒文社 定価 1900円+税


日本の書評には三タイプある。
1、 仲間ぼめして貸しをつくる。
2、 大いにほめ、少し問題点を指摘し、大筋で販促に協力する。
3、「勉強になった」と強調して自分の無知をさらす
 私は、キャリアと知名度の高い筆者に敬意を表し、(3)で行こうと本書を手にした。
 
「日本人はいまだにマッカーサーの呪縛から解き放たれていない」。これが著者の執筆動機である。ならばこそ、数々のマック伝説が検証され、彼の実像が明らかにされることを期待した。それが、ノンフィクションの魅力なのだから。

 著者はもちろんそれを承知し、彼が強度の「マザコン」だったことを指摘し、また彼が使ったホテルのスィートルームにこだわりの照準を当てる。南太平洋での戦闘の最中も、彼が妻子を連れて陣頭指揮をしたのがマニラホテルのスィートというのは興味深い事実だ。ならば徹底的にこだわってほしかった。
 
たとえば、日本が降伏し、マックが厚木に着いて最初の夜を過ごしたのが横浜のホテル・ニューグランドのスィートだった事実を、著者はなぜ無視したのだろう。またマックの死後、36年間にわたって妻のジーンが独り住んだNYのウォルドフ・アストリア・ホテルのスィートの部屋代は総額いくらで、誰が払ったのだろう?  マックが残した資産を知る上でも、興味深い問題ではないか。
 
「天皇は、戦前戦中は軍部の傀儡、戦後はマッカーサーの傀儡」という貴重な問題提起の一文は光る。だが、押しなべて、あれこれ触れながら、「深めて」いない。私にとって、本書は新しい事実や資料の発見もなく、新解釈もないまま、ついに「伝説の復唱」に終っている。

 著者は事実より創作へ転向したいのだろうか。「・・・という思いが一瞬マッカーサーの脳裏をかすめた」と書く時、その根拠や出典を書かねば小説である。「ワシントンでもマッカーサーをもうひと働きさせようという腹づもりだった」など、誰の「腹」なのか言及すべきだろう。マック一家が帰国する飛行場を羽田ではなく「厚木」にしているが、いくら「アイ・シャル・リターン」の男でも誤りだ。このような作品が天下の「日本経済新聞」に連載され、誤りが正されないままハードカバーの本になり、「伝説の真相に迫る戦後史屈指のノンフィクション大作」と帯で賞賛されている。間違いなく、活字は頽廃しつつある。

 こうして書きながら、私は著者に不可能を要求している思いになってきた。実は「マッカーサーの呪縛」などという手垢まみれの発想では、この男の本質には迫れない。本当は「日本の男たちは彼にキンタマを抜かれた」と言うべきだ。その屈辱と痛みは、とうてい女性には書けないシロモノかもしれない。

(この書評は、某雑誌に寄稿したが、掲載不可となった)