月刊「現代」2001年 7月号書評
植垣康博著 「連合赤軍27年目の証言」
彩流社、定価1800円+税
評者 石井信平
「連合赤軍事件」の死者、および著者には申し訳ないが、本書を読んで私は何度も笑ってしまった。逮捕時23歳、出所時
50歳の著者が語る27年の時間は、決して空白ではなかった。
まず笑ったのは、出所後はじめて銀行口座を作りに行く話だ。何しろ殺人・爆弾製造・連続銀行強盗で捕まった著者である。今まで銀行に入ったのは「強盗」目的だけ。いきなりカウンターの上に飛び乗って「静かにしろ!」と怒鳴りそうな「自分」を語る著者のキャラクターが、まず笑える。
次に何といっても可笑しいのは刑務所内の現実である。甲府刑務所で彼に振り当てられた労務は、一着40万円のミンクコート作り。この超ブルジュア的労働はまことに微妙な美的センスを要する。毛皮の裁断、縫い合わせのワザは最高の職人芸と呼びたいが、実に、彼に支払われた作業賞与金は一ヶ月五一二円!
裁判所の判決による刑事罰に加えて、刑務所には、囚人を人間とみなさない、笑いたくなるような無数の規則と懲罰が蜘蛛の巣状に張り巡らされている。この施設は法律が及ばないところで「官」が威張るという点で究極の「行政モデル」ではないか。本書はそれを示唆する。
その極限が死刑囚への扱いである。彼は、なお獄中にいる坂口弘、永田洋子死刑囚に対して、対立と恩讐を越えて再審協力の手を伸ばそうとしている。
笑うより驚いたのは、著者の刑務所内の「多忙」ぶりである。簿記の一級検定に挑戦し、墨絵クラブで活動し、けた外れによく勉強する。思考の及ぶ所は連合赤軍事件の総括はもちろん、量子力学や現代数学におけるベルヌーイ数と超越関数との関係など、その知的好奇心は銀河系宇宙の果てまで及ぶ。もともと物理学専攻だった。英文の学術書「素粒子物理学における場の理論」が差し入れられた時の、彼の率直な喜びは胸を打つ。
30年も聞いたことのないシューベルトへの熱い憧憬。マルクスの著書に加えて、特に熱心に読んだのが日本史だった。その過程で、彼が「一番すごいと思った」のは江戸の版元、蔦屋重三郎との出会いだった。彼がいなければ馬琴も写楽も歌麿も現れなかったほどの、一種の「革命家」だった。かつて自分が追いかけ見失った流れ星はいずこにありや。獄中の27年間は、著者にとって「革命」を深化させる時間だった。
所期の勉強課題をこなし切る前に、著者は刑務所を「リストラされ」て出所した。そして、「出てみてこれほどひどいと思わなかった」のが政治の総保守化であり、「思想から文化から何もかも解体しちゃった」娑婆の現実に、彼は言う。「今こそ革命を真剣に、真面目に考えるべきなんじゃないか」。
ここだけは、私は笑うことが出来なかった。